第37回 インタフェースがない「Zero UI」とは何か:“ウェアラブル”の今
IoTと呼ばれる「モノのインターネット」の世界では、画面やダイヤルといったユーザーインタフェース(UI)をスマートフォンによって代替する動きが広がっている。ウェアラブルデバイスやスマートウォッチも、こうしたUIを代替する役割を果たすようになると面白そうだ。
「Zero UI」という言葉をご存じだろうか。
米国サンフランシスコで2015年6月23日から25日に開催された「O'Reilly Solid Conference」で、Fjordのアンディ・グッドマン(Andy Goodman)氏が指摘した言葉だ。このイベントは、IoT時代のソフトウェア、ハードウェアに焦点を当てた催しだ。ここでグッドマン氏が語ったのは「デバイスにインタフェースがないこと」だった。
今回は、このZero UIという言葉を枕に、これからのデバイスについて考えつつ、ウェアラブルの位置づけを探っていこう。
IoT時代とは、「インタフェースがないデバイス」の時代
Zero UIという言葉は非常に分かりやすい。意味するところは必ずしも新しいものではなく、これまでのように人が操作するインタフェースではなく、アンビエント、マルチモーダルなどと呼ばれ研究されてきた分野だ。
しかし昨今の、モノのインターネットの普及は、研究されてきた分野を一気に身近なものにすることが予測され、実際にその現象はすでに起き始めている。
例えば、Amazonの声やウィンクで操作するデバイス「Echo」は、最も新しい例と言える。円筒形のデバイスに話しかけることで操作でき、情報や音楽、オーディオブック、天気、交通情報やスポーツ情報などを、全方位に向けられたスピーカーで再生する。部屋の遠くから声をかけても、きちんと動作するようだ。
また、Googleが買収したNest Labの学習するサーモスタット「Nest Thermostat」や、煙探知アラーム「Nest Protect」もこの部類に入る。もっとも、Thermostatには、鮮やかなカラー表示のディスプレイとiPodさながらのホイールインタフェースが用意されているが、基本的にはただ設置しておくだけでその役割を果たしてくれる「操作しないデバイス」だ。
これらのデバイスは、基本的には直接手で操作することはなく、視覚を使わないで操作する、あるいは全く操作しないデバイスで、Zero UIの最たる例だ。
スマートフォンとは異なる操作と、スマートフォンによるアシスト
iPhoneが登場した2007年以降は、タッチインタフェース全盛の時代となった。画面表示を自由に変えて、バーチャルなボタンやツマミを用意したり、画面全体をスクロールするなどして、操作を行う。デザインがそのままインタフェースになる、物理的な制約を取り払ったものといえる。
操作から物理的な制約を取り払う方向での発展は、カメラを使ったジェスチャーのように空間での動作を入力とするものや、デバイスそのものを動かして操作するものなどが挙げられる。
MicrosoftのXboxで利用される「Kinect」や、任天堂の「Wiiリモコン」など、ゲームの世界ではこうした身体的な操作をかなり早い段階から実現している。ゲームの場合は画面の中のキャラクターなどを操作するために用いるが、操作そのものには画面が必要なくなっていく。これも、Zero UIの特徴と言える。
そのため、小さかったり、手が届かなかったりして人が操作するタッチインタフェースが用意できないIoTデバイスはネガティブではなく、むしろ積極的に画面なしの操作を取り入れている世界もあるのだ。
その一方で、前述のAmazon EchoやNest Labの製品、あるいはフィリップスのLED電球「hue」は、モバイルアプリが用意されており、本体を直接操作しなくても、そのデバイスをコントロールしたり、状況を把握することができる。
タッチインタフェースのデバイスはスマートフォンに集約してアプリを用意しておけば、製品そのものは限りなくシンプルにすることができる。IoTによってハードウェア開発のハードルが大きく下がる1つの理由は、スマートフォンによるインタフーイスのアシストがあるからだ。
さらに推し進めて、「操作しない」世界
さて、Zero UIをさらに進めていくと、「操作しない」という世界へと進んでいく。専用アプリすら操作せず、目的を果たすことができるかどうか、という話だ。
デバイス間の連携は、個別のデバイスの操作を省くことができる。例えば、前述のAmazon Echoは、フィリップスのhueのコントロールに対応している。部屋の向こうから、「リビングの電気をつけて」と話しかけると、いう通りになるということだ。
また、Nestが最近リリースした「Nest Cam」は、同社が買収した「Dropcam」のリメイクだが、カメラの画像をセンサーのように利用し、映像の指定した範囲で動くものを感知したら通知を送る機能がある。
例えば家の入り口にカメラを向けておけば、誰かが玄関に来たら、旅行中でも知ることができるのだ。これは手動で映像の範囲を指定することになるが、「条件」をあらかじめ決めておくだけで、毎回の特別な操作は必要ない。
条件の設定で最も身近なものは、アラームの設定だ。これは時刻になったら鳴動する、という非常に簡単な条件を「プログラム」しているのだ。また、日没時、あるいは気温が何℃以下になったら、など暦や環境に応じた設定もできる。
さらに、この条件そのものを学習してくれるとどうだろう。Nestのサーモスタットは、外出、帰宅のパターンを学習して、省エネと快適な室温を両立してくれる。人工知能やパターン学習による動作は、もはや人の操作よりも効率的で便利なものになっていく。
Zero UIとの架け橋になるウェアラブル
さて、ここまでIoT時代とインタフェースについてひもといてきたが、我々が身に付けるようになったウェアラブルデバイスはどうだろう。
例えばJawboneの活動量計「UP3」などの製品は、基本的に腕に巻くなど身に着けて生活し、スマートフォンにデータを送り込みつつ、たまに充電するだけ。限りなくUIがないウェアラブルデバイスだ。もちろんスマートフォンのアプリで、集めたデータを分析したり共有できる仕組みだ。
これらに対して「Apple Watch」や「Android Wear」などのスマートウォッチは、タッチディスプレイを備え、スマートフォンで学んだ操作方法を生かして使うことができる。
「時計」も操作なしで時間が知れ、着けていることでファッションという価値を持つ、非常にZero UI的なデバイスだったが、スマートウォッチはそこにUIを加えてしまった。
故に、スマートフォンがIoTデバイスからUIを取り除けたように、スマートウォッチも、他の身の回りのもののUIや操作を削減する役割を果たしてくれるようになると面白いのではないだろうか。
あまりまだ体験できる例はないが、例えばApple Watchで利用できるApple Payは、手首をかざすだけで決済できるため、ポケットからiPhoneを取り出したり、財布を取り出しさらにカードを選んで渡すという動作がなくなった。
またApple Watchは、Apple TVのリモコンとして重宝するように、小さいながらタッチディスプレイがあるため、Zero UI化された他のデバイスのリモコンとして、iPhoneよりもさらにふさわしいはずだ。
スマートウォッチがZero UI的になるには、音声認識や、今その瞬間の行動分析などを磨いていく必要があるが、周囲のZero UI化の促進は、スマートフォンよりも効果的に作用するかもしれない。
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