第37回 インタフェースがない「Zero UI」とは何か“ウェアラブル”の今

IoTと呼ばれる「モノのインターネット」の世界では、画面やダイヤルといったユーザーインタフェース(UI)をスマートフォンによって代替する動きが広がっている。ウェアラブルデバイスやスマートウォッチも、こうしたUIを代替する役割を果たすようになると面白そうだ。

» 2015年07月12日 08時00分 公開
[松村太郎ITmedia]
※本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
Amazon Echo Amazon Echo

 「Zero UI」という言葉をご存じだろうか。

 米国サンフランシスコで2015年6月23日から25日に開催された「O'Reilly Solid Conference」で、Fjordのアンディ・グッドマン(Andy Goodman)氏が指摘した言葉だ。このイベントは、IoT時代のソフトウェア、ハードウェアに焦点を当てた催しだ。ここでグッドマン氏が語ったのは「デバイスにインタフェースがないこと」だった。

 今回は、このZero UIという言葉を枕に、これからのデバイスについて考えつつ、ウェアラブルの位置づけを探っていこう。

IoT時代とは、「インタフェースがないデバイス」の時代

 Zero UIという言葉は非常に分かりやすい。意味するところは必ずしも新しいものではなく、これまでのように人が操作するインタフェースではなく、アンビエント、マルチモーダルなどと呼ばれ研究されてきた分野だ。

 しかし昨今の、モノのインターネットの普及は、研究されてきた分野を一気に身近なものにすることが予測され、実際にその現象はすでに起き始めている。

 例えば、Amazonの声やウィンクで操作するデバイス「Echo」は、最も新しい例と言える。円筒形のデバイスに話しかけることで操作でき、情報や音楽、オーディオブック、天気、交通情報やスポーツ情報などを、全方位に向けられたスピーカーで再生する。部屋の遠くから声をかけても、きちんと動作するようだ。

Amazon Echo Amazon Echo

 また、Googleが買収したNest Labの学習するサーモスタット「Nest Thermostat」や、煙探知アラーム「Nest Protect」もこの部類に入る。もっとも、Thermostatには、鮮やかなカラー表示のディスプレイとiPodさながらのホイールインタフェースが用意されているが、基本的にはただ設置しておくだけでその役割を果たしてくれる「操作しないデバイス」だ。

Nest Thermostat Nest Thermostat
Nest Protect Nest Protect
Nest Protectのデモ映像

 これらのデバイスは、基本的には直接手で操作することはなく、視覚を使わないで操作する、あるいは全く操作しないデバイスで、Zero UIの最たる例だ。

スマートフォンとは異なる操作と、スマートフォンによるアシスト

 iPhoneが登場した2007年以降は、タッチインタフェース全盛の時代となった。画面表示を自由に変えて、バーチャルなボタンやツマミを用意したり、画面全体をスクロールするなどして、操作を行う。デザインがそのままインタフェースになる、物理的な制約を取り払ったものといえる。

 操作から物理的な制約を取り払う方向での発展は、カメラを使ったジェスチャーのように空間での動作を入力とするものや、デバイスそのものを動かして操作するものなどが挙げられる。

 MicrosoftのXboxで利用される「Kinect」や、任天堂の「Wiiリモコン」など、ゲームの世界ではこうした身体的な操作をかなり早い段階から実現している。ゲームの場合は画面の中のキャラクターなどを操作するために用いるが、操作そのものには画面が必要なくなっていく。これも、Zero UIの特徴と言える。

 そのため、小さかったり、手が届かなかったりして人が操作するタッチインタフェースが用意できないIoTデバイスはネガティブではなく、むしろ積極的に画面なしの操作を取り入れている世界もあるのだ。

 その一方で、前述のAmazon EchoやNest Labの製品、あるいはフィリップスのLED電球「hue」は、モバイルアプリが用意されており、本体を直接操作しなくても、そのデバイスをコントロールしたり、状況を把握することができる。

 タッチインタフェースのデバイスはスマートフォンに集約してアプリを用意しておけば、製品そのものは限りなくシンプルにすることができる。IoTによってハードウェア開発のハードルが大きく下がる1つの理由は、スマートフォンによるインタフーイスのアシストがあるからだ。

さらに推し進めて、「操作しない」世界

 さて、Zero UIをさらに進めていくと、「操作しない」という世界へと進んでいく。専用アプリすら操作せず、目的を果たすことができるかどうか、という話だ。

 デバイス間の連携は、個別のデバイスの操作を省くことができる。例えば、前述のAmazon Echoは、フィリップスのhueのコントロールに対応している。部屋の向こうから、「リビングの電気をつけて」と話しかけると、いう通りになるということだ。

 また、Nestが最近リリースした「Nest Cam」は、同社が買収した「Dropcam」のリメイクだが、カメラの画像をセンサーのように利用し、映像の指定した範囲で動くものを感知したら通知を送る機能がある。

 例えば家の入り口にカメラを向けておけば、誰かが玄関に来たら、旅行中でも知ることができるのだ。これは手動で映像の範囲を指定することになるが、「条件」をあらかじめ決めておくだけで、毎回の特別な操作は必要ない。

 条件の設定で最も身近なものは、アラームの設定だ。これは時刻になったら鳴動する、という非常に簡単な条件を「プログラム」しているのだ。また、日没時、あるいは気温が何℃以下になったら、など暦や環境に応じた設定もできる。

 さらに、この条件そのものを学習してくれるとどうだろう。Nestのサーモスタットは、外出、帰宅のパターンを学習して、省エネと快適な室温を両立してくれる。人工知能やパターン学習による動作は、もはや人の操作よりも効率的で便利なものになっていく。

Zero UIとの架け橋になるウェアラブル

 さて、ここまでIoT時代とインタフェースについてひもといてきたが、我々が身に付けるようになったウェアラブルデバイスはどうだろう。

 例えばJawboneの活動量計「UP3」などの製品は、基本的に腕に巻くなど身に着けて生活し、スマートフォンにデータを送り込みつつ、たまに充電するだけ。限りなくUIがないウェアラブルデバイスだ。もちろんスマートフォンのアプリで、集めたデータを分析したり共有できる仕組みだ。

 これらに対して「Apple Watch」や「Android Wear」などのスマートウォッチは、タッチディスプレイを備え、スマートフォンで学んだ操作方法を生かして使うことができる。

 「時計」も操作なしで時間が知れ、着けていることでファッションという価値を持つ、非常にZero UI的なデバイスだったが、スマートウォッチはそこにUIを加えてしまった。

 故に、スマートフォンがIoTデバイスからUIを取り除けたように、スマートウォッチも、他の身の回りのもののUIや操作を削減する役割を果たしてくれるようになると面白いのではないだろうか。

 あまりまだ体験できる例はないが、例えばApple Watchで利用できるApple Payは、手首をかざすだけで決済できるため、ポケットからiPhoneを取り出したり、財布を取り出しさらにカードを選んで渡すという動作がなくなった。

 またApple Watchは、Apple TVのリモコンとして重宝するように、小さいながらタッチディスプレイがあるため、Zero UI化された他のデバイスのリモコンとして、iPhoneよりもさらにふさわしいはずだ。

 スマートウォッチがZero UI的になるには、音声認識や、今その瞬間の行動分析などを磨いていく必要があるが、周囲のZero UI化の促進は、スマートフォンよりも効果的に作用するかもしれない。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2412/22/news047.jpg 刺しゅう糸を20時間編んで、完成したのは…… ふんわり繊細な“芸術品”へ「ときめきやばい」「美しすぎる!」
  2. /nl/articles/2412/18/news207.jpg 「理解できない」 大谷翔平と真美子さんの“スキンシップ”に海外驚き 「文化は100%違う」「伝説だわ」【大谷翔平激動の2024年 現地では「プレー以外のふるまい」も話題に】
  3. /nl/articles/2412/21/news040.jpg 友達が描いた“すっぴんで麺啜ってる私の油絵"が1000万表示 普段とのギャップに「全力の悪意と全力の愛情を感じる」
  4. /nl/articles/2412/22/news034.jpg 後輩が入手した50円玉→よく見ると…… “衝撃価値”の不良品硬貨が1000万表示 「コインショップへ持っていけ!」
  5. /nl/articles/2412/21/news019.jpg 毛糸6色を使って、編んでいくと…… 初心者でも超簡単にできる“おしゃれアイテム”が「とっても可愛い」「どっぷりハマってしまいました」
  6. /nl/articles/2412/22/news036.jpg 「これは家宝級」 リサイクルショップで買った3000円家具→“まさかの企業”が作っていた「幻の品」で大仰天
  7. /nl/articles/2412/21/news023.jpg 「人のような寝方……」 “猫とは思えぬ姿”で和室に寝っ転がる姿が377万表示の人気 「見ろのヴィーナス」
  8. /nl/articles/2412/15/news031.jpg ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
  9. /nl/articles/2412/17/news042.jpg 山奥で数十年放置された“コケと泥だらけ”の水槽→丹念に掃除したら…… スッキリよみがえった姿に「いや〜凄い凄い」と210万再生
  10. /nl/articles/2412/22/news020.jpg 余りがちなクリアファイルをリメイクしたら…… 暮らしや旅先で必ず役に立つアイテムに大変身「目からウロコ」「使いやすそう!」
先週の総合アクセスTOP10
  1. ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
  2. ズカズカ家に入ってきたぼっちの子猫→妙になれなれしいので、風呂に入れてみると…… 思わず腰を抜かす事態に「たまらんw」「この子は賢い」
  3. フォークに“毛糸”を巻き付けていくと…… 冬にピッタリなアイテムが完成 「とってもかわいい!」と200万再生【海外】
  4. 鮮魚スーパーで特価品になっていたイセエビを連れ帰り、水槽に入れたら…… 想定外の結果と2日後の光景に「泣けます」「おもしろすぎ」
  5. 「申し訳なく思っております」 ミスド「個体差ディグダ」が空前の大ヒットも…… 運営が“謝罪”した理由
  6. 「タダでもいいレベル」 ハードオフで1100円で売られていた“まさかのジャンク品”→修理すると…… 執念の復活劇に「すごすぎる」
  7. 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
  8. ある日、猫一家が「あの〜」とわが家にやって来て…… 人生が大きく変わる衝撃の出会い→心あたたまる急展開に「声出た笑」「こりゃたまんない」
  9. 友人のため、職人が本気を出すと…… 廃材で作ったとは思えない“見事な完成品”に「本当に美しい」「言葉が出ません」【英】
  10. セレーナ・ゴメス、婚約発表 左手薬指に大きなダイヤの指輪 恋人との2ショットで「2人ともおめでとう!」「泣いている」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  2. 「絶句」 ユニクロ新作バッグに“色移り”の報告続出…… 運営が謝罪、即販売停止に 「とてもショック」
  3. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  4. アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
  5. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  6. 「やはり……」 MVP受賞の大谷翔平、会見中の“仕草”に心配の声も 「真美子さんの視線」「動かしてない」
  7. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  8. 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
  9. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  10. 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」