インタビュー

学校で使うフォントは読みやすい“だけではいけない理由” モリサワに聞く「フォントのユニバーサルデザイン」(2)

教育現場におけるフォントの役割とは?

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 より多くの人に使いやすいカタチを目指すユニバーサルデザイン。その考え方は文字の世界にも広まっており、国内のフォントメーカー各社は「ユニバーサルデザインフォント(UDフォント)」を手掛けています。

 書体を変えても、言葉の意味は同じ。ですが、“見え方”が変わると、言葉の在り方はどれくらい変わるものなのでしょうか。大手フォントメーカー・モリサワに取材し、日本初という教育現場での利用を想定した「UDデジタル教科書体」の開発者・高田氏、営業・盛田氏、瀬良氏らに話を伺いました。

教育現場の文字は“読みやすいだけ”では使えない

―― 現時点で国内初の教科書向けユニバーサルデザイン書体「UDデジタル教科書体」。どのようなきっかけで開発したのでしょうか?

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 高田氏:前回もお話しましたが、国内で最初のUDフォントは家電メーカーと共同開発されたもので、その後、各社からもフォントメーカーやタイプデザイナーの考えで高齢者の読みやすさに配慮した書体が次々と発表されました。

 私もメンバーたちと試行錯誤しながらデザインしていたのですが、次第に「自分たちの考えだけで見やすくなった、ユニバーサルデザインに対応したなんて言っていいのかな」と悩むようになり、慶應義塾大学の中野泰志先生に話を伺うことにしました。ロービジョン(※)研究の第一人者といわれ、子どもの教育支援などを行っている方です。

※ロービジョン(弱視):視力はあるが、非常に低い状態などを指す

 先生に開発中の書体を見せたら「この工夫は良い」「ここは改善の余地がある」という風にアレコレ教えてもらえるのでは、と安易に考えていたのですが……そういうことは全く言ってくれなくて(笑)。

 代わりに「あなた達は見えているし、僕も見えている。何が良いか悪いかは一概には言えないから、まずはロービジョンの人たちが何に困っているのか、現場を見て理解してください」と、特別支援学校や拡大教科書(※)の制作現場などに連れて行ってくれました。

※拡大教科書:教科書の文字やイラストを拡大したり、書体を変えたり、図版の色やコントラストをはっきりさせたりし、弱視の子どもたちにも見やすくしたもの。2008年、「教科書バリアフリー法」の成立により、教科書メーカーは拡大教科書を発行する努力義務を負うことに。高田氏によると、かつてはボランティアが制作していて、全国規模の組織が形成されていたという。

 当事者の子どもたちが紙に顔を近づけて一生懸命読んでいる姿を目の当たりにし、先生方や支援者の方にヒアリングする機会を得たのですが、その中で指摘されたのが「あなた達が作ったUDフォントは確かに読みやすい。でも、学校現場では使えない」ということでした。

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―― 読みやすいだけではいけないんですか?

 ロービジョンなどの場合、線に強弱のある教科書体よりもゴシック体や丸ゴシック体のように、線の太さが一定で、エレメントがシンプルな書体の方が読みやすいといわれていました。ただ、ゴシック体などの印刷書体の場合、手書きの教科書体とは字形が異なることがあります。

 例えば、「山」の2画目は「縦→横」と連続で書きますが、ゴシック体では縦線が下に突き出ていて別の画であるかのように見えます。また、令和の「令」は、印刷書体と手書きの書体では字形が大きく違います。こんな理由からUDデジタル教科書体には「手の動きを重視した自然な形状で、かつ学びの現場に適したデザインにする」というコンセプトが加わりました。

―― 書き順ってそんなに重要なんですか?

 画数、書き順自体が重要というよりは、「障害の有無にかかわらず、同じ環境で学べるように」ということです。他の子たちが手書き書体の教科書体で文字を習っていて、同じクラスでロービジョンの子どもが画数や書き方が異なるゴシック体で学んでいたら、混乱するでしょう?

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 ロービジョンの子が学習に使う「拡大教科書」を作っているボランティアの方々は“職人”でしたよ。教科書メーカーによって使用している教科書体の形状が微妙に違うのですが、それに合わせて、メーカー別の資料を作って「漢字のここは付く/離す」「突き出る/突き出ない」など書き分けていました。

 私が「そんな小さな違いは、どちらでもよいんですよ」と言っても、「自分たちの書いた文字で学んだ子どもたちが漢字テストなどで×をもらったら申し訳ないから」と。

 現実問題として、学校では「本当は間違いではない漢字の書き方でも、教科書の文字と違うから不正解にされる」という場合もありましたから。ボランティアの方々はそのような事情も考慮した拡大教科書を作っていたんです。

―― 教育現場で使われるものだけに「読みやすさ」だけでなく「学びやすさ」も大切、と。

 UDデジタル教科書体の開発にあたっては、まず各社の教科書体を調査して、「どこが出っ張っているか」「どこが離れているか」など、小さな違いを一文字一文字リサーチして字形のルールを決めていきました。

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 例えば、「口」の右下部分は、縦線と横線のどちらが出るか。書写では横線が出るように教えますが、漢字テストではどちらも〇にすべき小さな違いです。「口」は「言」「右」「古」「味」のように他の漢字にも含まれていて、反対に縦線が出ていることもあるんですよ。

 同じパーツなのに漢字によって形がちがうと、こだわりが強い特性のある子どもはパニックになってしまう場合もあると聞いています。UDデジタル教科書体では、同じパーツはどの部分で使われても同じ形状になるようにデザインしました。「口」の右下でいうと、必ず横線が出るように統一しているんです。

(続く→英語教育には「読む用フォント」「書く用フォント」が必要?

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