100年前とは思えない豪華さ クラシカルな客船の数々をフルカラーで楽しめる同人誌『ビジュアルで見る客船の和風インテリア』:元司書みさきの同人誌レビューノート
和風テイストを盛り込んだ内装がすてき。
暑かった日差しが少し影を潜め、そうすると窓の外を見上げてどこか遠くへ出掛けようかな、なんて気持ちも湧いてきます。ご近所を歩いてみる散策から、飛行機に乗って海外旅行まで、移動にはさまざまな手段がありますが、今回のご本は船、その中でもクラシカルな客船についての同人誌です。
今回紹介する同人誌
『ビジュアルで見る客船の和風インテリア~日本趣味から現代日本様式へ~』A4 20ページ 表紙・本文カラー
著者:葉ノ瀬
個人コレクションで見る100年前の客船インテリア
こちらのご本には船の絵葉書やパンフレットなどの図版、約55点が掲載されています。波に浮かぶ悠々とした姿や、やわらかそうなソファがずらりと並んだ客室など、いろいろな船のきらびやかな様子を見ることができますが、実はこれらは主に1900年代の初めの頃に運行していた船たちなのだそうです。
作者さんは元々、戦前に大型客船として作られた橿原丸と出雲丸についての同人誌を制作しておられ、今回はその過程で収集したご自身が所有する資料からの図版を、客船の和風インテリアというテーマでまとめられています。
洗練された豪華さを乗せた姿にうっとり
ページをめくると、1900年のはじまりから1920年、1930年…とおおまかな年代ごとの見出しがあり、大きく載せられた絵葉書などに解説が添えられています。海原を渡る立派な船体、その中は凝った窓枠や天井で飾られ、中には暖炉やプールまで設えられた船まであるではないですか。これが100年前の海の上を走っていたなんて、と意外に思うほどの洗練されたきらびやかな世界です。そしてそれが四角い絵葉書に収まっているのは繊細で、小さな絵画のようにさえ思えます。
ご本はA4の大きなサイズで、そこにリズムよくぜいたくに図版が配置されていて、細部をじっくり眺めたり、隣の図版と見比べたりしやすいシンプルさです。本文もフルカラーなので、セピア色やあせたようなやわらかな色味を楽しめ、うっとりとそのクラシカルな雰囲気に浸れます。
途切れた美しさを伝える記録
客室には椅子やテーブルなど西洋風のしつらえがあちこちに見えますが、そこに和風の作りが混ざっていくのを追うのがこのご本のテーマです。ソファの布地に和の文様をあしらったり、階段の踊り場に欄間のような彫り物が飾られたり、さまざまな和風テイストがやがて伝統的な表現だけでなく、すっきりとより近代的なデザインとしてインテリアに溶け込んでいく様子が、図版を追うだけでも伝わってくるようです。
しかし、そうやって進化した先に、第二次世界大戦が待っています。船も有事の際には空母など軍用になるのを前提に作られることもあったそうです。遠洋航路が休航していき、優美な客船でいられなくなっていく未来になってしまうことは、ご本ではあまり多くは語られません。けれど、過去を断片からたどり、華麗なコレクションとして丁寧にまとめられたことで、この洗練された美しさがなぜ途切れてしまったのかに思いをはせるきっかけを紙面から受け取れました。大きく、優美な船。その華麗さを楽しむのと同時に、時代がどのように変わってきたのかにも思いを巡らせるご本でした。
今週の余談
100年前って実はそんなに遠くない気がしてきました。その100年にたくさんの出来事、たくさんの暮らしが詰まってますね。
みさき紹介文
公共図書館、専門図書館に勤務していた元司書。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。
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