「笹塚は何も無い」とは言わせない 地元店主らが支えるUstream番組「笹塚テレビ」

渋谷区笹塚の魅力を届けるUstream配信「笹塚テレビ」は、地元を活気づけたいと願う住民の“笹塚愛”が支えている。配信スタジオはボウリング場に手作りした。

» 2011年07月15日 14時24分 公開
[笹山美波,ITmedia]
※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
画像 毎月第3月曜日の午後10時から配信している

 「笹塚って何があるの?」――東京都渋谷区笹塚に住む人は長年この質問に悩まされてきたと、笹塚十号坂商店街組合の深野重人理事は語る。浅草の浅草寺、上野の上野動物園のように、誰にでも分かりやすい名物はない。だからと言って、「笹塚は何も無い」と思われるのがコンプレックスだったという。

 「こんなに便利でいい街、ほかにはないですよ」と、深野理事はアピールする。新宿駅までは京王線で5分あまり。若者に人気の下北沢駅や買い物客でにぎわう中野駅も近い。さらに「意外とテレビや雑誌に取り上げられてる良いお店もいっぱいあるんです」と続ける。

 一目で分かる名物がなくても、街の魅力を伝えるにはどうすればいいか。深野さんが目を付けたのはUstreamだ。それ以前はTwitterで笹塚の情報を発信していたが、Ustreamであればテキストより臨場感が伝わりやすく、伝達スピードも早いと考え、今年3月に月1の1時間番組「笹塚テレビ」を始めた。

全くの素人が手作りのスタジオから届ける

画像 リリー・フランキーさんの映画「東京タワー」の舞台にもなっているボウリング場「笹塚ボウル」に配信スタジオを手作りした

 笹塚テレビは街の飲食店や笹塚の有名人をトーク形式で紹介する。6月22日の放送では、地元のケーキ屋「スイーツハウス」で1日1600個を売り上げる人気のメロンパンを食べてリポートしたり、笹塚出身の“車椅子レーサー”長屋宏和さんにインタビューしたりした。

 司会は酒屋「升本屋」の3代目主人・梅田知行さんとヘアサロン「Beauty House HARU」オーナーのHARUさん、プロデューサーは深野さん、ディレクターは笹塚ボウルの財津宜史専務、アシスタントは建築事務所「eastA」を営む金成伸也さんが担当している。

 配信は、ボウリング場「笹塚ボウル」内の手作りスタジオから。撮影のたびに、笹塚ボウルに併設するカフェのテーブルをいくつもつなぎあわせ、その上に機材をセットする。笹塚ボウルとの仕切りを設けていないため、ボウリング客が間違えて入ってきてしまうこともあるそうだ。

画像 5人の“素人”で挑戦中! 前列右が深野さん

 メンバーは仕事の合間などにボランティアで協力している。撮影機材は財津さんがもともと所有していたものだが、番組制作に関しては皆が素人だったという。「どうすればもっと面白くなりますかね? 意見いただけませんか?」――取材中、記者に企画書を見せてくれた深野さんの番組を盛り上げようとする姿勢が印象的だ。

 放送直前はピリリと緊張感が張り詰める。深野さんが作った台本と企画書で、時間ギリギリまで入念に打ち合わせをする。音声と映像のチェックにも余念が無い。だが番組が始まると雰囲気は一転し、終始笑いが絶えないアットホームな空気が生まれていく。

 少したどたどしさの残るトークに和やかな笑いが起きたり、裏方の深野さんや財津さんが「僕も意見言ってもいい?」と途中からマイクを持って登場したりする。皆が笹塚のことを語りたくてたまらない様子で、トークが何度も脱線するため、終了予定時間をオーバーすることも。記者が取材で訪れた時には40分も番組が長引いた。

 放送終了後はメンバー同士が「お疲れ様」と握手を交わし、互いの成果をねぎらう。番組を無事終えられた喜びと安心が混じったような何とも言えない笑顔で、「来月も頑張りましょう」と励まし合う姿に、「笹塚テレビ」にかける熱意が感じられた。

「笹塚テレビ」は“笹塚愛”が支えていた

画像 笹塚について情報発信するTwitter「@jyugozaka」も、深野さんが昨年3月に始めた

 「笹塚の人はとにかくフレンドリー」と、5人は口をそろえて話す。6つもある商店街を中心に栄えた街ということもあって、店と客の関係を越えた住人同士の交流が活発という。笹塚テレビのメンバーも、笹塚ボウルやなじみのレストランを開放し、誰でも参加可能な飲み会を月に1度は開いているそうだ。

 しかし深野さんは「いつかは笹塚の街も“シャッター商店街"のようになってしまうのでは」と心配している。コンビニやネットショッピングの台頭で、昔ながらの交流が少なくなり、街の活気が無くなるのを懸念している。「大好きな笹塚の街を残したい。自分たちがやれることをしたい」――昨年から駅前の再開発が始まったことも、その思いに拍車をかけた。

 自分たちがやれることは「笹塚って何があるの?」という疑問を解消することだと考えた深野さん。UstreamやTwitterを使って笹塚の文化や情報を発信することで「笹塚がこんなに良い街だと分かれば、もっと活気づくはず」と考えている。

画像 「UstreamやTwitterを始めた当初は街の人の理解が得られなかったが、今ではみんな喜んで協力してくれる」と深野さん

 笹塚テレビの目標は、笹塚をよく知らない人が番組で紹介したお店に行ったり、実際に住んだり、出店したりするきっかけを作ること。「Ustreamなら笹塚の人の良さも含めて“ありのまま”を動画で配信できる。そうすればもっと街の魅力が伝わると思うんです」

 「これからも笹塚の“どローカル”な情報を伝えるという番組の軸だけは変えない」つもりだ。現在の平均視聴者数は30人ほどとそれほど多くはないが、「番組内の企画で見せ方を工夫して、多くの人に楽しんでもらえるようにしていきたい」と意気込む。具体的には、番組内で地元住人によるのど自慢大会を開催したり、地元の女性がざっくばらんに語る「女子会」をしたりすることを計画している。

 笹塚テレビだけでなく、笹塚十号坂商店街組合の理事もボランティアで引き受けている深野さん。どうしてそこまで笹塚のために頑張れるのだろうか。「笹塚愛でしょうね。無償の愛みたいなものです。生まれも育ちも笹塚なので、誰よりも笹塚が好きなんですよ」――照れくさそうな笑顔が印象的だった。

関連キーワード

Ustream | テレビ | 東京 | Twitter | 手作り | 商店街 | 渋谷


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2501/28/news155.jpg がん闘病の森永卓郎、容態急変後にモルヒネ投与で“結構厳しい状況” スタジオ出られず弱々しい声で「そう長く持たないかもしれない」「本格的に転移が始まったよう」
  2. /nl/articles/2501/27/news037.jpg スーパーで買った半玉キャベツの芯を植え、5カ月育てたら…… 農家も驚く想像以上の結末が1300万再生「凄い」「感動した」
  3. /nl/articles/2501/26/news053.jpg 「立体的に円柱を描きなさい」→中1の“斜め上の解答”に反響「この発想は天才」「先生の優しさも感じます」 投稿者に話を聞いた
  4. /nl/articles/2501/28/news070.jpg サザエやカキの貝殻を“最強の土”に埋めて、10カ月後…… 驚きの検証結果に「びっくりです」「すごいですね!」
  5. /nl/articles/2501/29/news086.jpg 鮮魚店で売れ残ったタコを水槽に入れたら、数週間後まさかの展開が…… 胸を打つ光景に「目が腫れるくらい泣いてます」
  6. /nl/articles/2501/27/news095.jpg 「別人?」「お母さん泣くね」 母の紹介で美容院に来た男子高校生がイメチェン…… 超さわやかな髪型に称賛の声【男性イメチェン記事5選】
  7. /nl/articles/2501/28/news123.jpg “港区大好き”元有名グループアイドル、仕事ゼロの不人気メン→20歳上男性と結婚で“セレブ妻”転身! 家賃170万円のマンション暮らしに「生きてる世界違う」
  8. /nl/articles/2501/28/news080.jpg 共通テスト当日の息子に普段通り接しようとして―― “予想外すぎる母のLINE”に爆笑の声 「声出た!! 笑」「おもろすぎ」
  9. /nl/articles/2501/23/news050.jpg 風呂に入ろうとしたら…… 子どもから“超高難易度ミッション”が課されていた父に笑いと同情 「父さんはどのようにしてこのお風呂に入るのか」
  10. /nl/articles/2501/28/news034.jpg 大人なら5秒で解きたい!「9+0÷2−3」の答えは?【算数クイズ】
先週の総合アクセスTOP10
  1. 風呂に入ろうとしたら…… 子どもから“超高難易度ミッション”が課されていた父に笑いと同情 「父さんはどのようにしてこのお風呂に入るのか」
  2. DIYで室温が約10℃変わった「トイレの寒さ対策」が310万再生 コスパ最強のアイデアへ「天才!」「これすごくいい」
  3. 岡田紗佳、生配信での発言を謝罪 「とても不快」「暴言だと思う」「残念すぎ」と物議
  4. スーパーで買った半玉キャベツの芯を植え、5カ月育てたら…… 農家も驚く想像以上の結末が1300万再生「凄い」「感動した」
  5. 東京藝大卒業生が油性マジックでサンタを描いたら? 10分で完成したとんでもない力作に「脱帽です」「本当にすごい人」
  6. 定年退職の日、妻に感謝のライン → 返ってきた“言葉”が約200万表示 大反響から7カ月たった“現在の生活”を聞いた
  7. 【ヤフオク】“3万円”で購入した100枚の着物帯 →現役着付師が開封すると…… “まさかの中身”に驚き
  8. 「立体的に円柱を描きなさい」→中1の“斜め上の解答”に反響「この発想は天才」「先生の優しさも感じます」 投稿者に話を聞いた
  9. 「すんごい笑った」 “干支を覚えにくい原因”を視覚化したイラストが勢いありすぎで1700万表示の人気 「確かにリズム全然違う!」
  10. 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
先月の総合アクセスTOP10
  1. ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
  2. パパに抱っこされている娘→11年後…… 同じ場所&ポーズで撮影した“現在の姿”が「泣ける」「すてき」と反響
  3. 東京美容外科、“不適切投稿”した院長の「解任」を発表 「組織体制の強化に努めてまいる所存」
  4. ズカズカ家に入ってきたぼっちの子猫→妙になれなれしいので、風呂に入れてみると…… 思わず腰を抜かす事態に「たまらんw」「この子は賢い」
  5. 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
  6. イモトアヤコ、購入した“圧倒的人気車”が思わぬ勘違いを招く スーパーで「後ろから警備員さんが」
  7. 「何があった」 絵師が“大学4年間の成長過程”公開→たどり着いた“まさかの境地”に「ぶっ飛ばしてて草」
  8. フォークに“毛糸”を巻き付けていくと…… 冬にピッタリなアイテムが完成 「とってもかわいい!」と200万再生【海外】
  9. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  10. 鮮魚スーパーで特価品になっていたイセエビを連れ帰り、水槽に入れたら…… 想定外の結果と2日後の光景に「泣けます」「おもしろすぎ」