わたしは暴れん坊ガキでした――松本零士トークショー全掲載:ニコニコ超会議(2/5 ページ)
向谷 でもその、松本少年から見て、SLの時代から日本の鉄道も進化していきますよね。少年から青年になって(いく過程で)鉄道を見てきて、何かこう、まあ日本の成長も感じたと思うんですけど、鉄道車両の変遷を見て何か感じたことはありますか?
松本 やっぱりその、電化されましてね。ディーゼルが先。ディーゼル車が走ってそれから電化されて、新幹線になった。技術の進歩としては当然の成り行きなんです。思ってたとおり。思っていたその通りになりました。その当時もロボットをいっぱい描いてましたからね。
向谷 ああ、それを聞きたかったんですけど、将来のSLを描くときに「当然こうなるんじゃないか」という風に考えて描くんですか?
松本 そうです。999は地球上からそのまま走って行って宇宙に飛び出していって、月、火星という。宇宙列車だけがまだ完成してない。
向谷 999みたいな形ではちょっと無理ですよね。
松本 おそらく将来は反重力装置というか。いまもあの、重力エレベーターというものを開発してますんでね。ですからいずれ、地球に、東京駅から乗ったらそのまま月まで、火星までいける時代が将来必ずきます。これはもう、断言してもいい。簡単に行けるようになるでしょう。
向谷 じゃああの、国内の鉄道に目を移してですね、例えばこの、リニア新幹線という、あれはどうですか。
松本 小倉駅にもリニアなんかが入ってます。実はあの、その時の建設のトップはわたしの同級生です。同級生に言ったんですよ。「お前なんでリニアの駅作らないんだ。新幹線を作って」と言ったわけです。しばらくしたら同級生から電話があって「松本、突っ込んだぞ」という。予算が決まったんです。いま駅前にブロンズ像と、駅の裏側にマンガミュージアムを建設中で。ブロンズ像が建ってる場所が駅の裏側なんですけど、小学生の頃、学校の帰りに野球をやってた草むらだったんです。
向谷 ずいぶん開発されちゃいましたけどね。ホテルも建ってるし。
松本 あそこが広っぱで野球をやってる。裸足で走ってると「ぐにゃ」っと生暖かいものを踏みつけるわけですね。そしたらアメリカ兵がいるわけです。アメリカ兵が真っ昼間から女性とがんばってるわけですね。その上を踏み越えて走るわけです。「オー、ソーリー」というと向こうもにやっと笑ってね。怪奇な、信じられない世の中ですよね。(わたしが)過ごした終戦直後ってのは。はい。
向谷 そうするといま、リニアってのが出てきましたけど、新幹線もどんどんと形が変わっていくじゃないですか。九州なんかも九州新幹線ができるし。ああいう進化の過程はどうですか。
松本 やはりあの、速度の問題で。脱線転覆という問題があるので、レールの本数も変わるんじゃないかと思いますね。
向谷 レールが2本じゃなくなる?
松本 なくなります。それからレールそのものが消える日が来る。それは車も同じです。この前東京モーターショーの時に、絵を12カ月に分けて描いたけど、車両をひっくるめて浮いて走ってるんです。そうするとでこぼこも何も干渉しないんです。山道でもスムーズに走れる。そういう時代がもうすぐ来る。だからわたしは、いつレールが消えるか、いつ自動車から車輪が消えるかということを楽しみにしてるんです。
向谷 なるほど。そうすると列車も、雰囲気的には999みたいに浮いていくような形に。
松本 いくような形になるでしょうね。当然の成り行きです。
向谷 松本先生のファンの方から見れば当たり前なのかもしれませんけど、そういった列車をモチーフにした、999のようなものに、必ずメーテルが出てきたり、鉄郎が出てきたり、そういうキャラクターが出てくるじゃないですか。あの辺のからみ方というのは……。
松本 あれは、わたし自身が列車に乗ってきましたから。帰りの切符を持たずに。
向谷 片道切符でね。
松本 そうです。そして大阪のおじさんが前に座っておるわけです。「お前どこに行く」と言うから「東京へ行きます」と言ったら(小指を立てて)「これはおるか」と言うわけです。
向谷 何歳の時ですかそれ。
松本 18になるときです。
向谷 18歳の時。
松本 早生まれですから。「おまえこれはおるか」というから「いやまだあの、僕は卒業したばっかりで、お金もないからおりません」と。「ああ、そうか」と話をしていて、その人は大阪駅で降りたんです。したらコンコンと(窓を)叩くから「なんでしょう?」と言ったら「すぐでけまっせ」って言って降りてったんです。そういう風に、大人がね、すごく優しい時代だったんです。こちらにいる若い夫婦は鉄工所をやっていてうまくいったと。新婚旅行に行ってないからいまから行くんだと。だから祝いにこれ飲んでくれと。コップいっぱいのウイスキーを渡されるわけですよ。こっちはお酒は、小学生の頃から。九州ですからね、小学生の時から先生に飲まされるんです。飲まされるったらおかしいですけど。先生のお宅へ行くとね、ドン、と杯が出てくる。で、たじろいでると「おいの杯ば、受けられんとか!」。それで杯受け取ってなみなみとつがれて、たじろいでると「貴様、それでも男か!」と来るわけ。男かって言われたら九州男児たるもの飲まんわけにはいかないわけ。そういうわけで酒には慣れて、わたしはあの、酒の強さは無限大です。水を飲んでるのと同じなんです、酒は。普段は飲みませんけどね。でも東京行きの汽車の中で、ウイスキーをコップいっぱいもらったら飲むわけにいかない、顔真っ赤になるし。で、(その人が)ほかを向いているときに窓からぱっと捨てるわけ。そしたら「もう一杯!」(笑)。
向谷 飲みっぷりがいいですねと言われてどんどんつがれちゃうんでしょうね(笑)
松本 そう。でも楽しい、お互いにそうやって数杯を楽しみあう、いい時代です。わたしは、実はその前の年に東京に行ってるんです。修学旅行で。高校2年の時に。3年になりますと進学の問題がありますから、修学旅行はできない。
向谷 でもその修学旅行でも24時間かかるわけですよね。
松本 かかります。積み立てがあるんですね。修学旅行の。途中貨車に乗ったり、いろいろなことをしながら行った。
向谷 旅行なのに貨車に乗せられちゃうんですか?
松本 それで、泊まったのが本郷3丁目の、(東京大学の)赤門の前の旅館に泊まったんです。そしたら東京来て下宿したのも本郷3丁目。東京駅に出てきて、学童社っていう、「漫画少年」という新人の登竜門となった本、これに高校1年の時から入賞していたから、特別待遇ですね。だから修学旅行に来て、原稿料を稼いで帰った、快挙な新人だったわけです。
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