ファンの期待に応えるための「Kickstarter」という選択 『リトルウィッチアカデミア2』のスタジオトリガー ロングインタビュー[3/3]
「YouTubeで1話目を公開して、続きをクラウドファンディングで」はアニメ業界で定着するか?――「リトルウィッチアカデミア」のスタジオトリガーが語る。
――『リトルウィッチアカデミア』が外国のファンからも熱狂的に迎えられたはなぜだと思いますか。
大塚 あとから考えると、絵柄だったり、ストーリーだったりといくつか思い当たることもあります。けれど結局のところ、ターゲットを決めて作品を作るような手法はとっていないので、その点を分析することにあまり意味は無いのかなとも思います。ヒットを追いかけても仕方がないかな、と。ファンから期待を頂いている、ならばそれに応えましょう、それくらいで良いと思うんです。マーケティング調査をして、ターゲットを決めて、アニメを作るというやり方もあり、それを否定するつもりは全くありません。ただ、スタジオ・トリガーとしてはそのやり方を用いません。お客様に喜んでもらうことは大前提として、それ以上に自分たちが心から面白いと思える、魂のこもったアニメを作っていこうという考え方が根底にあります。だからこそ、マーケットの違いを気にして、日本向け・外国向けといった分け方のアニメを作るつもりもありません。
――結果として、50万ドル近い金額がすでに集まっております。先ほど『リトルウィッチアカデミア』よりも長いアニメを『2』では実現されたいとおっしゃられていましたが、現状の支援金は十分といえる金額になりそうですか。
大塚 『リトルウィッチアカデミア』を制作した際は、アニメミライ(文化庁若手アニメーター等人材育成事業)から約3800万円の資金援助をいただきました。金額で言えば、今回ファンの方々からご支援いただく金額は前回を上回るものになっていますので、非常にありがたく思っています。ただ、ご支援いただいた人たちへのお返しも含め、集まった支援金をすべて制作費として使えるわけではありません。すでに我々で確保している制作費も合わせて、『リトルウィッチアカデミア』と同レベルの予算になるのではないかと思っています。ですので、なんとか自腹を切らなくても大丈夫そうです。
――今回のトリガーの成功事例を受けて、YouTubeで自社のアニメの1話目を公開して、2話目以降をクラウドファンディングで集めるようなモデルが、アニメ業界で定着すると思いますか。
大塚 正直なところ、難しいのではないかと思います。やってみたからこそ言えることなのですが、クラウドファウンディングを利用することはそれほど簡単な試みではありませんでした。弊社には、英語に堪能な舘本がいてくれたからこそ、「Kickstarter」の担当者や外国のファンとのコミュケーションをとることができましたが、トリガーと同規模のアニメ制作会社でそういったケースは稀だと思います。会社が大きくなったらなったで、社内で「Kickstarter」のような挑戦的な試みは決済がなかなか通らず、話がまとまらない場合が増えてくるのではないかと思います。そういうアニメ業界の実情を踏まえると、いきなり今回のような取り組みが普及するかといえば疑問ですね。ただ、もし『2』が完成し、ファンの期待に堪えられる作品となり、本当の意味で成功をおさめることができたとしたら、別の会社が「それなら自分のところも挑戦してみよう」と思ってもらえるのではないかなと思います。
舛本 大塚とよく話をしていたのですが、ファンに向けてダイレクトに作品を提供したい、と思っていたんです。今回の「Kickstarter」の試みでは正にそれができるので、非常に楽しみなのですが、同時に不安な部分もあります。当たり前のことですが、お客様に満足いただく作品を作らなくてはいけない、ということが今まで以上に要求されるんです。作品を見ていただき、DVDやBlu-rayを買ってもらうというビジネスの構造上、今までももちろんお客様の期待に応える作品は要求されていたのですが、間にアニメの配給会社が入ることによって、その基本的なことがぼやかされていたと思うんです。通常ならアニメの制作費は、アニメ制作会社と配給会社との間でプロジェクトの予算として決まります。ただ今回は仕組みが全く違い、いただいた予算はそのままファンの方からの期待値なんです。例えるなら、僕らは大道芸人になったようなものです。目の前を通る方たちに面白い作品を提供し、直接その代償をいただく。アニメを作るということは変わらなくとも、そのステージが根本的に違う、そう感じます。
大塚 振り返ると『リトルウィッチアカデミア』という作品がすでにあったことが大きな財産になっているなと感じます。YouTubeで公開した当初から、作品に関してお金を払いたいという声はいただいていました。そういう声に後押しをされたからこそ、「Kickstarter」に辿りつけたのだと思います。また、「これでこの物語は終わりです」と完結させた『天元突破グレンラガン』のような作品とは違い、『リトルウィッチアカデミア』は作り終えてからもできれば続編を作りたいと思っていた作品でした。今回の目標額達成で、続編に漕ぎ着けたのは大変嬉しいのですが、その分プレッシャーも感じています。作画に関しては不安はありません。ストーリーが肝になります。できれば1作目である『リトルウィッチアカデミア』を『2』では超えたいですが、それは並大抵なことではありません。
舛本 いただいた期待値が膨らめば膨らむほど、嬉しい半面、そのプレッシャーも感じます。もちろん、大前提として非常にありがたいという気持ちがあって、ですけどね。
――ひとりのファンとして気持ちをお伝えさせていただくなら、今回の支援金の多くには「面白い作品をつくってくれてありがとう」という感謝の気持ちが多く含まれていると思います。だからこそ、『2』もトリガーとして魂のこもった作品になるのなら、どんな作品でもファンは納得してくれるのでは、と思います。
大塚 企画を立ち上げる時、いつも「あ、これでいける! 」という感覚になる瞬間があるんです。ただ『2』は先にも申したとおり、シナリオにも取りかかっていないので、その「いける! 」という瞬間をつかむまでは苦しいんだろうと思います。ファンの方々からは、『キルラキル』の制作が終わり次第『2』にとりかかる、くらいのスケジュールとしてご期待いただいていると思うので、なんとかそれまでには『2』を物語として完成させたいですね。
――『2』が成功した暁には、『3』の制作、ということもありえるのでしょうか。
大塚 あり得ると思います。『2』は40分のアニメーションを想定しているのですが、その時間の中で描ききれる物語でもないので、機会をいただけるのなら再度続編に挑戦したいと思います。吉成監督も、主役のアッコだけでなく、登場するそれぞれのキャラクターにスポットを当てていくようにしたいと望んでいます。そういう点では次の40分でも全然時間は足りませんね。ただ、先ばかりを見据えてもしかたがないので、ひとまずは『キルラキル』と『2』をベストな形で完成させることを考えます。
――その流れでTVアニメでいうところの26話まで完成させられたら良いですね。
大塚 それだと何十年もかかっちゃいますからね(笑)。それこそ寅さんみたいになっちゃうなぁ。
舛本 寅さんになれるんだったら、なっちゃいましょうよ! 「毎年、劇場版30分アニ
メをやります!」みたいな感じで(笑)。
舘本 でも実際、それだけ長く続けば、アニメ制作のひとつのプラットフォームになることが出来ると思うので、続けられるならできる限り続けたいですね。
大塚 作品によって向き不向きもあります。現状のTVアニメシリーズが、じゃあ全部クラウドファンディングでやるようになるか、と言ったら全くそうは思いません。TVアニメにはTVアニメの良いところがあるし、劇場版にも同じ事が言えます。ただ、いままでのやり方では、形にならなかった作品たちが新たにクラウドファンディングというシステムを通して、作品として世にでていくことも今後は十分にありえるんだろうな、と思います。その多様性こそ、歓迎すべきことだと思います。
――リニューアルされたトリガーのホームページに、クラウドファンディングの欄がしっかりとあったので、今後もいろいろな試みをされるんだろうなと期待しております。
大塚 機会があれば、挑戦させていただきたいと思います。ただ、結果を出さずに、いくつもの作品に手を出す訳にはいかないので、まずは『2』をしっかりと完成させてからの話ですね。
――全世界のファンが『2』の完成を待ち望んでいますので、ぜひともよろしくお願いいたします。
大塚 ファンの方々からいただいた期待に添えるよう、一同がんばりますので、今秋の『キルラキル』、そして『リトルウィッチアカデミア2』をお待ちください。よろしくお願いいたします。
英文:Answering Fans’ Wishes with Kickstarter: Studio Trigger (“Little Witch Academia 2”) Interview [3/3]
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