ゲームに賭けてきたからこそ見せたい意地がある 業界からはみ出たおっさんたちは「モンケン」で何を壊すのか:インタビュー
インタビュアーは「モンケン」プロジェクトに30万円を出資した、「ゲームのちからで世界を変えよう会議」代表・Noah氏でお送りします。
インディーズゲーム「モンケン」の制作プロジェクトが、クラウドファンディングサイト「CAMPFIRE」で、目標金額の200万円を超えて成功した。モンケンとは、「あさま山荘事件」をモチーフにしたアクションゲーム。クレーン車に吊るした鉄球(モンケン)で建物を破壊し、ランダムに出現するテロリストを倒して人質の救出を目指す。PC・スマートフォン・タッチデバイス向けのソフトとして、今夏のリリースを予定している。
プロジェクトの主要メンバーは、メディアコンテンツ研究家・黒川文雄氏(@ku6kawa230)、ゲーム作家・飯田和敏氏(@iidakazutoshi)、ブレインストーム代表・中村隆之氏(@nakataka)、ゲームグラフィックデザイナー・納口龍司氏(@Luc_Leon_Lecoq)の4人。いずれも商業ゲームの業界で活躍してきた人物だが、このたび、大手資本に頼らない“インディーズ”というジャンルで、フリーカルチャーの精神に基づいたゲーム作りに挑戦している。
注目ポイントの1つは、完成した作品を、クリエイティブ・コモンズ(CC)ライセンスで無料提供すること。ソースコードや素材も公開し、一定の条件を満たせば改良や二次創作を全面的に認めるという。もう1つは、クラウドファンディングで支援者を募ったこと。これにより200万円の資金を集めたほか、ゲーム作りを共に体験するコミュニティが形成されつつある。
支援者は現時点で約160人。金額は500円から30万円と複数のコースがあり、中には上限の30万円を選択した支援者もいる。それが「ゲームのちからで世界を変えよう会議」だ。同団体は「誰もがゲームをつくり、誰でも楽しめる世界をつくる」ことをミッションの1つとしており、継続的な開発を支える資金面のインフラとして、クラウドファンディングに注目。モンケンが成功事例となることで、ゲームにおけるクラウドファンディングの活用が盛り上がることを期待しているという。
今回、「ゲームのちからで世界を変えよう会議」の代表・Noah氏(@powerofgamesorg)が、モンケン制作メンバーの黒川氏、飯田氏と対面し、気になるポイントを直接質問するシーンに同行取材した。「200万円の使い道」や「モンケンとは改めて何なのか」など、詳しく語ってもらった。
200万円の使い道
―― 目標金額を200万円にした理由を教えてください。
黒川 理由は2つあります。1つは日本のクラウドファンディングにおける支援金額の上限を考えました。現在の最高額は映画「ハーブ&ドロシー2」が集めた1460万円、CAMPFIREでは「福島からチェルノブイリへ!」の609万円です。こうした中で、ゲーム関連のプロジェクトでは最大で200万円だろうと思いました。もう1つは、メンバーの中にプログラマーがいないことです。あてはあったのですが「無料で関わるにはリスクがあり、コンテンツのクオリティもコミットできない」と一度断られてしまいました。そこで、プログラマーにはお金を払おうと決めたのです。ゲーム開発の相場では、プログラマーは1カ月80〜100万円。少なくとも2カ月間はコミットしてもらいたくて、友情価格で多少安くなるかなと。これに開発ツールの経費、そして限界値を考えて200万円を算出しました。
―― そもそも200万円でゲームは作れるのでしょうか。
黒川 現実的には「CAMPFIREのポータル手数料(20%)」「支援者へのお礼グッズ費用」があるため、制作に使えるのは残り6割程度。先ほどの話で言えば、オンラインゲーム運営に1カ月30万〜60万円、デザイナーに60万〜80万円など、ゲーム作りにはお金がかかります。もし、モンケンを会社単位のプロジェクトでやったなら2000〜3000万円の制作予算だったと思います。その規模でいえば10分の1程度。単純に“200万円だけ”で作ることは不可能です。主要メンバーは持ち出しで活動しています。
―― なるほど。では、支援金はプログラマーの人件費がメインなんですね。
黒川 その予定です。現時点では払おうと思ってます。ただ、そういう話をしていたらプログラマーも「空いている時間はモンケンにあてるし、謝礼もいらない」と言ってくれて……。
飯田 もし、プログラマーが無報酬で良いとなったら、リソースの分配はまた考え直します。ひとまず、目標の金額が集まると一息つけます。
―― “インディーズゲーム”の制作で支援を集めることに議論があるようですが。
飯田 “商業ゲームの世界”と“インディーズゲームの世界”という2つの立場があるんです。それで、商業からしたら200万円で制作なんてできっこないし、インディーズにしてみれば200万円をもらって作るゲームは「ちょっと違うのではないか」となる。それぞれ違和感を持つのは理解できます。結果的に、僕らはどちらからもはみだしてしまった。でも、いろいろな存在があってもいいですよね。
黒川 昨秋、東京ロケテゲームショウに実験的に参加したところ、ユビキタスエンターテインメントの清水亮さんに「プロたちがインディーズのゲームイベントに出展するのは大人気ない」と皮肉を言われました(笑)。モンケンには批判を含めさまざまな意見が寄せられていますが、そうした関わりからコミュニティができていっています。
モンケンとは
―― モンケンの説明をあらためてお願いします。支援側もゲーム自体についてはよく分かっていない部分があります。
飯田 確かに、分かりにくいかもしれません。これまではどんなゲームか把握したうえで購入するスタイルだった。でも、モンケンの開発は現在進行形でまだ完成していません。僕たちが面白そうだと思うポイントはいくつかあるのですが、クリエイターとプレイヤーでは感じるポイントに差があります。そのことが実感として、クラウドファンディングをやる過程で分かってきました。だからこそ、皆さんと交流してコミュニケーションを活性化させたいと思っています。
―― ゲームには「聞いて納得、見て納得、やって納得」の3段階があると思います。実際にできていないとイメージが難しいですね。
黒川 プレイ画面の写真やタイトルから「良ゲーかクソゲー」の判断はしづらいですよね。かつて広報をやっていたのでよく分かります。そのなかには、「ダメかと思っていたらすごかった」事例もありました。例えば、映画に関わっていた頃に出会った「マッドマックス」。監督(ジョージ・ミラー)と主演俳優(メル・ギブソン)は当時無名で、プロットも明らかにB級。さらに、日本だけビジュアルポスターを変えたような映画が、あれだけヒットするとは全く予想できませんでした。面白いか否かは結局、世間に問うまでわかりません。一方で、人気クリエイターにはかつての「信用」があります。モンケンは実績のあるプロが集まっていて、僕らは面白いと確信している。そこを信じてもらいたい。
どんなゲーム内容?
―― 攻略要素や難易度はどのような感じですか?
飯田 今まさに制作途中です。操作感覚としては、大きなけん玉を振り回すのに近いと思います。「Angry birds」には、少なくない影響を受けています。クレーンを操作して、鉄球をコントロールしながらビルを破壊していく。動画や写真では分かりにくいかもしれないけれど、プレイしてみると奥が深い。けん玉のようにそうそう思い通りにいかない分、トリッキーなことができると快感が生まれます。例えば、うまく操ると鉄球が回転しだして破壊力が増えるんです。これは「大車輪」という技名にしようなど、作りながら面白さを発見しています。
―― プレイのキモは破壊することにあるのでしょうか
黒川 そうですね。先の東京ロケテゲームショウでは、6歳くらいの子供が夢中になって遊んでくれました。やはり、破壊のカタルシスはシンプルで面白いらしく、自信になりました。
飯田 あとは努力した末に生まれる達成感です。困難なものをマスターしていく過程は面白いんです。「昨日はここまでしかできなかったけど、今日はいけそうな気がする。でも、ダメだった。よし、明日こそは」――これがEpic Win(壮大な勝利)に繋がります。今のゲームのトレンドはそうではなく、イージーモードが主流です。それでいいのかと疑問に思っていたら、ついには、ガチャという偶然だけを楽しむ世界に突入していました。それはエクストリームな進化かもしれないけれど、ゲームの幅が狭まってしまいます。モンケンでは、シューティングやアクションに回帰するとは言えませんが、フィジックスに回帰したいと思っています。
―― モンケンというプロジェクトでないとダメなものは何かありますか。
黒川 個人的なことになるんですが、自分が徐々に人生のクロージングにかかっている中で、やってみたかったことをやろうと思いました。その時、12歳で体験した「あさま山荘事件」が頭に浮かんだんです。警官隊が建物の周囲を取り囲み、クレーンで鉄球をぶつける作戦が考案される。今振り返っても衝撃的です。こうした出来事をゲームという文法で表現すると、どうなるのか。新しい見方が生まれ、世界に広がっていくのではないでしょうか。
飯田 モンケンの話を聞いた時、「きた!」と思いました。本当にあったことをゲームとして体験することは、別の種類の“歴史の記述方法”になる。これは、「ディシプリン*帝国の誕生」を作りながら薄々気付いていたことでもありますが、特に意識するようになりました。それにしても、黒川さんといえば、エンターテインメント業界でさまざまな偉業を達成してきたグランドスラマー(各業種を制覇)ですよ。そんな方が、セールスポイントを尋ねられた時に、迂回して自分の記憶にあったものがでてきてしまう。昔、自分が体験した何だか分からなかった光景を残したいと言う。その姿には惹かれます。正直なところ、主要メンバーはアツくなりすぎて、一言で支援を求める言葉を発信できていません。僕らもルーキーじゃないから、そうした言葉が求められていることは分かるし、言うこともできるんです。けれども、自分たちの人生に関わる問題として考えれば考えるほど、迂遠な言い方をすることが誠実になってしまうんです。
―― 人生に関わる問題とは。
飯田 黒川さんは僕よりおよそ10歳上で、ゲーム業界で「誰が〇〇(ゲーム)を作った」ということをきちんと言ってきた人です。そういうアプローチは引き抜き防止に反する“掟破り”だったんです。でも、そのおかげで僕らの世代は飯野賢治さんたちを含めて、自分たちがクリエイターだと宣言しながら、ゲームの領域を拡張していけたという実感があります。その先輩がそろそろ手仕舞いだと言った時に、やっぱり10年後の自分にも終わりがくるんだと初めて分かった。だから今、黒川さんと一心同体になってやることは、次の自分たちの10年を変えていくだろうなという気持ちがあります。
今後の方向性
―― 個人的にはモンケンは純然としたサービス・ビジネスよりアートに近いかもしれないと思っています。そんなアートも受け手に感じてもらいたいことがあると思います。そこで、モンケンが目指すものを聞かせて下さい。
飯田 ドミニク・チェンさん(クリエイティブ・コモンズ・ジャパン理事)や津田大介さんと話すなかで、他の分野ではフリーカルチャーが進んでいると痛感しました。そうじゃないとデジタル時代のコンテンツとして生き残れない。だけど、ゲームの世界だけが遅れているんです。誰もやろうとしていないし、クリエイティブ・コモンズもほとんど認知されていない。そういった意識を変化させたいと思っています。これはそう感じている人がやるしかなく、だからまずはクリエイティブ・コモンズのゲーム作品をきちんと作りたいと思いました。
黒川 ソースコードはオープンにする予定です。誰でも自由にゲーム作りに参加してほしいですね。新しいステージの追加は大歓迎! 終わりがないゲームになったらいいなと思っています。
クラウドファンディングを採用したこと
―― クラウドファンディングで重視したことは何ですか。
飯田 このプロジェクトは、新しいゲーム作りについて本気で向きあって共にワクワクできる“僕らの仲間探し”でもあるんです。クリエイター / ユーザーといった区分けなしに、モンケンという共通項によって「一緒にこの夏を面白おかしくすごしてみない?」というノリです。
黒川 ファンディングで関わったメンバー全員で1つの体験を共有できるんです。ゲーム作りでそれができるのは面白いですね。ゲームのプレイはもちろん、この参加する行為自体も楽しんでほしい。
―― クラウドファンディングには寄付型や購入型などの種類があり、モンケンは購入型だと思っています。実は“モンケンというゲームの制作から参加する”体験を売っている。ゲームの制作体験としてなら1万円でもあまり高くないと思います。
飯田 そうかもしれません。ただ、1つ感じていることに、ゲーム好きな人たちはどこか受動的というか、面白いことが落ちていかなというスタンスが多いんです。皮膚感覚として、例えば津田大介さんや東浩紀さんのフォロワーは積極的なんですよ。もちろん今まで培ってきた読者との関係があってこそですが、例えばチェルノブイリの取材プロジェクトに600万円集まる。確かに大義はあるし、僕も読みたい。それでも、ゲーム好きクラスタとして負けていていいのかという思いがあります。ゲームのような「無用のもの」に価値を感じ、人生を賭けてきたからこそ見せたい意地があるんです。
―― 最後に、クラウドファンディングをやってみた感想をお願いします。後発に期待することなどもあれば。
黒川 お金集めをして達成しないのもプレッシャーだし、達成した時はそれで大きな責任が生まれるので、プレッシャーは常時あります。今は生活の200%をこのプロジェクトに注いでいます。
飯田 濃い日々をすごしています。日本のゲーム関係者で一番濃い日々になっているのではないでしょうか。E3に行くより大変です。今後のアドバイスとしては「広報係はいたほうが良い」ということです。
後記
プロジェクトの主要メンバーは現在、Twitter・ニコニコ生放送などで情報を頻繁に発信しており、活動の軌跡はさまざまなシーンで確認できる。
とりわけ、飯田氏によるGoole Driveを活用した「モンケン自由帳」は興味深い試みだ。突発的に複数ユーザーで共有ドキュメントを編集するもので、リアルタイムに情報を追加・削除できるため、謎の一体感が味わえる。まさに「みんなでゲーム作りを楽しむ」ことを実行中だ。大きな目標であった資金調達も達成するなど、クラウドファンディングによるゲーム事例として、広く参照されることは間違いない。
残すところは、出来上がったゲームが面白いかどうか。シンプルに考えると、ここが極めて大きなポイントとなる。もし“神ゲー”ならそれこそ歴史に残ることが決定する。「ゲームの力で世界を変えよう会議」も、「資金調達の成功はあくまで第1ラウンドに過ぎない」というスタンスだった。そして、面白いゲームになることを願いつつ、支援団体として、資金集めに必要な施策・推移金額などの情報公開、ゲーム作りのプロが持つノウハウの伝授を期待していた。
今後、果たしてどうなるのか。なお、モンケンの制作プロジェクトは6月21日の午前0時まで支援を募集している。1万円以上の支援から、Facebook上の限定コミュニティ、開発ミーティング(月1回)の参加権などが付く。
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