共に電王戦出場、世界最強の“同僚”――コンピュータ将棋ソフト開発者 一丸貴則さん・山本一成さん(前編)(2/4 ページ)
小学校・中学校と運動部に所属したこともあり、高校入学後は文化的なことも始めてみようと将棋部に入部する。しかし部員数の減少で「すぐ廃部になった」。この頃からぼんやりとコンピュータ関連の何かに携わってみたいという気持ちがあり、2年生の進路選択時には理系の道へ進む。そのまま地元の大学に進学し、プログラミングをやっていた友人の影響でまずは「はさみ将棋」※のプログラムを作ってみた。完成したときはうれしかったが、ここから「本将棋」(通常の将棋)のプログラムに進むのは相当大変そうだなと感じた。
「すべてがソフト開発を中心に回っていた」
大学院でニューラルネットや機械学習といった分野を扱う研究室に所属してからは、本格的にコンピュータ将棋ソフトの研究開発に取り組み始める。2010年、世界コンピュータ将棋選手権に出場するに当たって付けたソフト名は「ツツカナ」。時計の長針と短針をつなぐパーツである「筒カナ」に由来し、辞書をめくりながら純粋に音の響きだけで決めた。
大学院卒業後は就職はせず、実家でツツカナの開発に明け暮れた。自動車運転免許を取ったり、部屋で時折ギターを弾いてみたりと、“時間があるときにしかできないこと”も試してみたが、「基本的にはずっとツツカナ作ってました」。
近年のコンピュータ将棋ソフトでは、人間のプロ棋士が残した膨大な棋譜をソフト自身に解析させて強くしていくアプローチ「機械学習」が用いられている。当時の一丸さんもツツカナに機械学習を繰り返し行わせていたが、一度学習を始めると1〜2日という長い解析時間がかかり、その間できることも少ないため、学習させている間は暇を持て余すことになる。
「でも一度学習が終われば、今度は山ほどやることが出てくるんですよ。テストしたり棋譜を検査したり」。少しでも効率的に開発を進めるため、ツツカナが学習している間に睡眠を取り、学習が終わる頃にちょうど目が覚めるように日々のリズムを調節した。生活のすべてがソフト開発を中心に回っていた。
電王戦出場がきっかけでスカウト
コンピュータ将棋のナンバー1を決める大会「世界コンピュータ将棋選手権」では、2回目の出場となる2011年に新人賞、2012年には決勝3位と徐々に関係者筋にその実力を知られていく。しかし一丸さん自身は変わらず無職のまま開発を続けていた。大きな転機が訪れたのは、初めてプロ棋士と対戦した昨年の「第2回将棋電王戦」(記事後編にて詳述)でのこと。
Ponanzaの開発者・山本さんの応援で会場を訪れていたHEROZの林隆弘社長に声を掛けられ、ほどなくして同社への参加の誘いを受けた。当初は迷っていたという一丸さんだが、林社長はその後も何度も熱心に声を掛け続け、ついに一丸さんは就職を決意。入社日は奇しくも、2014年1月3日(=イチマルサン)だったという。
現在は会社での仕事を終えた後、自宅でツツカナの改良を続ける日々だ。開発にかけられる時間は日によって異なるが、1時間ほどで終えることもあれば、日が替わるまで4〜5時間ほど続けることもある。コンピュータ将棋を作るのは「おもしろいからこんなにずっと続いている」。当面は世界コンピュータ将棋選手権での優勝が目標だ。
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