なぜAmazon.co.jpには「どうしようもないレビュー」がついてしまうのか?
星井七億の連載コラム「ネットは1日25時間」。そのレビューは「あなた自身への評価」かも。
星井七億です。ねとらぼに載せたコラムがきっかけでTOKYO FMのラジオ番組に生出演させていただいたのですが、ラジオ出演も三回目とはいえ当日は緊張でノドがカラッカラになるわ、早口で舌がこんがらがるわ、頭の中がテンパるわで大変な状況でした。出演依頼お待ちしております
さて以前、僕がAmazon.co.jp(以下、Amazon)で自作の電子書籍を販売した際、カスタマーレビューに「この書籍の表紙画像は無断盗用であると画像の作者が言っていた」という旨のコメントが添えられた☆1つレビューが付いていたことがあります。
問題の画像はフリー画像素材サイトから正規の手段で手に入れ、規約の範囲内で利用したものであるため、当然ながらこれはいわれのない誹謗(ひぼう)中傷に値します。画像の作者の方とじかに連絡を取って確認をしていただいても、やはり画像の手続きや利用法には何の問題もなかったため、Amazonのカスタマーサービスにその旨の一切を伝えたうえでレビューの削除申請を出しました。
ところがAmazonからの返信によると「カスタマーレビューのガイドラインに抵触していない」「当サイトではすべてのレビューを事実に基づいて投稿されていると信頼している」との理由で僕の削除申請は一蹴されたようで、「一度カスタマーレビューに書かれてしまったのならば、裏付けの取れた事実より名誉を傷つける事実誤認のほうが信頼性は強い」というAmazonの姿勢に、僕は開いた口がふさがらなかったわけです。
また他にも、とある在日韓国人の女性ライターが出版した書籍には、Amazonのカスタマーレビューに書籍の内容とは関係のない、著者に関するデマや誹謗中傷が多く書き込まれ、出版社が削除申請を出したという事例も存在します(関連記事)。こういったAmazonのレビューに関する悩ましい案件は枚挙に暇がありません。
誰でも自由に商品を評価・公開できるという便利さの一方で、レビューとはとても言いがたい書き込みや適切に運用されない形式だけのガイドラインなど、Amazonのレビューが多くの問題を抱えていることもまた事実です。
どうしようもないレビューの種類について
Amazonのレビューには、どうしてこんなものを書き込んでしまうのか、この人はこれを書き込んでどうしたいのかと思うようなレビューも少なくありません。例えば、商品にヒビが入っていた、箱がゆがんでいたなど、商品の仕様ではなく梱包(こんぽう)・運送上で発生した問題の責任を、商品の質に転嫁してレビューに☆1つを付けるといったものは、比較的よくみかけるタイプのポンコツレビューなのですが、大抵「商品が良かっただけに残念です」の言葉が添えられているのが残念です。
また「自分には難しくて扱い方(意味)が分からなかった」「誤って別の種類を買ってしまった」など、販売した側からすれば「知らんがな」と言いたくなるような理由で低い評価を付けるレビュアーもおり、これらのガッカリな例をあげればきりがありません。
販売側がどれだけ誠心誠意、技術や時間を込めて上質な物を作っても、自分たちとは関わりのない部分で悪し様に書かれてしまうのはやりきれない話ではあるのですが、こういったささやかな案件の場合、ネット上での評価として定着してしまうには大きくても、多大な時間や労力を割いて薄い望みを託しレビューを削除させるにはあまりに小さなケースであり、まるで手の届かないところを蚊に刺されたようないらだちがあります。
また先述の僕や在日韓国人の女性ライターが受けた件のように、商品への評価以外を邪な目的を念頭に置いたレビューもあり、それは純粋に相手の名誉を傷つけたい、セールスの足を引っ張りたいなどといったものが多く、もはやレビューと呼ぶことすらできないケースも珍しくありません。
例えばスキャンダルを起こした芸能人の商品に、人格をおとしめたりスキャンダルを糾弾する目的で、商品とは全く無関係な内容の悪辣(あくらつ)なレビューが付くことがあります。無論そのレビューにはレビューとしての価値は一銭もないので、その評価は購入する際の参考にする必要など全く無いのですが、残念なことにそうとは思わない購入者も少なくないのです。
どうしようもないレビューは低評価のみならず、高評価のレビューにも存在しています。Amazonの運用変更で今はもうなくなったものの、以前は発売前の商品にレビューを付けることができたために、コンテンツや作者、企業のファンが「期待を込めて☆5つです!」と満点を付けることができました。高評価が付く分には販売側としてうれしいのかもしれませんが、コンテンツの信頼性に関わってくるという面ではやはり看過できるものではないでしょう。ファンの視点から見ても、長期的に自分の好きなものの信頼を損なったり、期待外れだったときのダメージの大きさがあったりと得することはありません。
ひどいレビューをつけないために、つけられたときのために
Amazonにひどいレビューが付いてしまう理由を大ざっぱにわけてしまうと、「勘違い」「逆ギレ」「私怨」「攻撃」「商売戦略」に分類されます。レビューを付ける前に一度、自分の言葉がどこかに分類されないかをいま一度考えてみるのがいい……と言ったところで、ひどいレビューを付けてしまう人は故意であったり天然であったりで、それを自制させるということはほぼ不可能に近いでしょう。
また自分の持つレビューの価値についても、「自分の評価など影響なんてないだろうから好きにつけたっていいだろう」と思う人もいれば、「いまどきネットの評判はバカにできないのだから自分の言葉にも影響力があるはず」と思う人もいて、その内情はさまざまです。
ただ言えるのは、「レビュー」そのものは自由ではあっても、「レビューの場」というのは自由ではありません。適切に運用されないことがあってもそれなりのルールやガイドラインがあり、たとえそれらに抵触しなくても「これは書いてはいけないだろう」という、ひとりの大人として暗黙の了解が当たり前に存在します。褒めるにしてもけなすにしても、自分がどのような言葉を持つのか。どのような目的を持つのか。自分が付けるレビューと向き合うということは、自分をレビューするようなものだと考えてみるのもいいかもしれません。
そしていつか自分が、Amazonでひどいレビューを付けられてしまう立場になったとき、どこまでを「これも評価のひとつなのだ」と見逃し、どこまでを「これはルールを破った不条理な言葉だ」と考えるのか。そのボーダーはコンテンツを発信する側によってさまざまですが、いずれにせよこれは見逃せないと思ったときは、ダメ元でも逐一Amazonに訴えてみるのがいいでしょう。
そして誰もが楽しくコンテンツを手に入れたり提供できたりする場であるためにも、Amazonにはもっと厳格かつ適切なガイドラインの運用を望みます。
低評価のレビューは案外役に立つ
何かを買おうとすればそのコンテンツの評価や反応を簡単にチェックできる時代。便利であることは変わりないのですが、誰もが自由に好き勝手書ける分、どういうレビューを信頼するか、信頼できるレビューを見つける方法を自分の中に設けられるか、それとも他人の評価など一切参考にせず自分の勘や知識だけで物を選ぶ覚悟を決めるのか。レビューに対するリテラシーが要求されるようになります。今回こそあくまでAmazonカスタマーレビューに限定した話をしているものの、当然ながら実際にはそれ以外のサービスなどにも波及するテーマです。
レビューの海をかきわけて信頼性のある情報を手に入れる手段。その方法のひとつとして僕の場合、購入を検討していたものに低評価が多い、もしくは極端に評価が分かれている場合、低い評価を付けているレビューのほうをチェックし、そのレビューに正当性や説得力のあるコメントが添えられているかを確認します。もちろん、レビューの正当性や説得力を判断する基準にはある程度、僕の中の思想や嗜好の影響はあるのですが、僕の考え方や好き嫌いと真っ向に反する理由で評価が低いなら、それは僕にとって都合のいい商品ということであり、購入するにあたって何の問題もありません。
僕は「人間は他人へのネガティブな情報を書き込むときほど感情的になるので、論理的・倫理的に破綻しているレビューは低評価のほうに集中する」という傾向を確信しています。その傾向の中において「なぜこの商品は質が低いのか」を丁寧かつ詳細に記したレビューならばそれだけでコンテンツの質に対し一定の説得力が担保されていてそのまま地雷を踏まずにすむための有益な情報となるので、低評価のレビューというのは高評価のレビューよりも参考になる面が多いのです。また、どうしようもない理由で低評価が付いているものは、割と信頼できるものが多いという僕の勝手な印象もあります。
これはあくまで僕のやっている方法に過ぎず、レビューというものにどう付き合っていくのか、その方法はやはりおのおのの経験を持ってつかんでいくしかありません。これからはAmazonで商品を購入する際にもいつもよりちょっと視点を尖らせてレビューを読み込んでみるのも楽しいかもしれませんね。
また今回の記事とは全く関係ありませんが、僕の単著「もしも矢沢永吉が『桃太郎』を朗読したら」はAmazonにてそれなりに好評発売中です。
プロフィール
85年生まれのブロガー。2012年にブログ「ナナオクプリーズ」を開設。おとぎ話などをパロディ化した芸能系のネタや風刺色の強いネタがさまざまなメディアで紹介されて話題となる。
2015年に初の著書「もしも矢沢永吉が『桃太郎』を朗読したら」を刊行。ライターとしても活動中。
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