なぜアニメの放送は“落ちる”のか 放送が落ちる理由や待遇問題について現役アニメーター・制作進行に聞いた(1/2 ページ)
アニメーターからの見方、制作進行からの見方、双方を取材しました。
2016年10月期のアニメ作品数本で、制作が放送に間に合わないという問題が起こっています(関連記事)。今回は多数のアニメ作品で作画監督を務めている現役アニメーターと、複数の制作進行さんに「現場の生の声」を聞き、なぜアニメの放送が落ちてしまうのか、今後どうすれば日本が誇るアニメコンテンツの未来と制作者を守れるのかを考えます。
なぜアニメの放送が間に合わないのか
インタビューのオファーを快く了承してくださったのは、アニメ「テニスの王子様」や「BLOOD+」などの作品で総作画監督を務めている石井明治さん。業界歴は30年を超えており、アニメ業界で知らぬ者はいないといわれるアニメーターです。
そして今回は制作側からも意見もお伺いするため、業界歴10年の制作進行さん(匿名希望)も取材に同席してくださいました。
――早速ですが、アニメの放送はなぜ落ちてしまうのでしょうか
石井:あくまで個人的な意見ですが、アニメの制作工程が増えて複雑化していることが原因の一つだと思います。僕がアニメに携わり始めたときはもっと工程がシンプルだったんですよね。
制作進行(以下、進行):そうですね。
石井:今は作業とチェックの工程がすごく増えているので、どこかで詰まってしまうと、全体的なスケジュールが遅れてしまうということが起きてしまいます。こうした遅れは放送を落とすということに直結するのではないかと思います。
――なぜ制作工程が増えてしまったのでしょうか
石井:まず作品に求められるクオリティーのハードルが上がってきたということがあります。アニメ技術の進歩とともに、世界観の統一やキャラクターのビジュアルや芝居(動き)、メカニックやエフェクト、背景の密度や色味、アフターエフェクトに至るまでクオリティーが求められるものがどんどん増えています。そうすると工程を細分化するしかなくなってしまいます。
進行:そうですね。
石井:あと最近の作品は声優さんのスケジュールの関係もあって、アフレコ(声優さんが作品に声を吹き込む作業)や音響まわりの作業が放映よりもかなり前倒しで組まれていることが主流なんです。ですから、アフレコに間に合わせるためにカッティング(一度ラフな芝居が確認できるものを作る作業)を作ってから、放送用完成品をもう一度作るということになっています。
進行:つまり撮影を2回やるということですよね。
石井:そうです。すると2度手間のような状況になってしまいますし、これが予算が多く必要となる要因の1つではないかとも思います。
――制作工程が増えると具体的にはどのようなことが起きるのでしょうか
進行:昔のアニメ制作のスケジュールで行くと、1回で済む撮影が2回に増えたことで、当然時間もかかりますし、1話あたり50万円程度の予算が上増しで必要となりました。余談ですが、2005年〜2010年頃までは「撮影を2回やる」ということを前提として単価をお支払いしていたスタジオもいくつかあったので、「単価がいい」と優秀な方が集まって作品を作っていたという時代でした。しかし今はそういったスタジオも歯止めが利かなくなって、単価が下がってきています。
石井:とにかくアニメって無駄が多いんです。その無駄、特に撮影の工程などが減らせれば、負担も少なくなり、アニメーターに支払われる単価も上がるのかもしれませんね。
――今期のアニメ作品でも放送を落とすということが続発していますが、具体的にはどういうことが原因として考えられますか
石井:いくつかのケースが考えられますね。まずはそもそもスケジュールがない作品の場合です。作業に入ること自体が遅れていることもありますし、シナリオやコンテが遅れる場合もあります。
進行:そうした場合は、きちんと絵を描く時間が取れなくなってしまいますよね。
石井:基本的にアニメーターも演出も同時に複数の仕事を抱えているのが常なんです。ですから、他の仕事との兼ね合いでなかなか手が付けられないという状況もあり得ます。その結果スケジュールが大幅に押してしまい、クオリティーが上がらない場合もあります。
進行:あとは下請け会社に制作を丸投げしてしまって「予想していたクオリティーを大きく下回ったものが返ってくる」というケースもありますよね。
石井:今だと1クール13話の作品が主流です。大きな会社であれば全て自社で制作することが可能ですが、大抵の場合は下請け会社にお願いするというところが多いです。もちろん下請け会社がちゃんと作品を作ってくれれば問題はないわけですが、下請け会社がまた別の制作会社(孫請け)にお願いするような場合もあります。ちゃんと作品の内容を把握していないような会社だったり、例えば人材が集められなかったりした場合にはクオリティー面で問題が出てくることがあります。こうなるとクライアントから納品拒否を受けるという場合もありますね。
進行:これは元請け会社が下請け会社に対して「このクオリティーであれば受け取ることはできません」とするケースですね。この後、もちろん直しの依頼が元請け会社から下請け会社に入る訳ですが、間に合わなければ物理的に落ちます。
石井:もちろんクライアントが直せというものは、直すしかないですから時間のある限り直しますが、こうしたことが積み重なるとスケジュールも予算も食ってしまうわけです。
――なるほど。アニメの放送を落とすというのは、どなたが決定するのでしょうか
進行:監督からプロデューサーに「求めるクオリティーまで上がらないので、放送することはできません」というケースもありますし、プロデューサーから監督に「落としましょう」と提案するケースもありますが、一次決定するのはプロデューサーです。
石井:そうですね。
進行:制作プロデューサーの判断が下ったら現場の意見を聞きます。その後、現在多くなってきている「製作委員会(局や制作会社、版元などで「製作委員会」を組織し、委員会が一括して制作の責任を負うことで、リスクや利益を分配しあう形式が主流)」に承認を仰ぎ、承認が取れれば放送に穴をあけてしまう形となるため、放送局のプロデューサーに相談に行きます。そこから最終的に、総集編を作るのか、話数を前倒しにするのか、特別番組を作るのかという検討に入る、という流れになると思います。
――放送を落とした場合、どのようなペナルティーが科されるのでしょうか。別のアニメ関係者に取材したところ、「主要局の場合は制作会社が倒産に追い込まれるレベルの違約金が発生する」との話もあるのですが
進行:確かにそのような形ですね。ただ責任の所在がどこにあるかによるとは思います。
石井:でも、これだけ放送を落としてしまう番組があるということは、そこまでペナルティーが厳しくないのかもしれないと考えてしまいますね。
進行:局からのペナルティーは結局、「製作委員会」として納品する以上は「製作委員会」に科されるので、利益と同じように痛みも分散するわけです。ただし、製作委員会方式を取らない場合は、当然のことですが制作会社に全ての責任が来てしまいます。
――アニメーターが責任を追及されることはないのですか
石井:アニメーターを含めクリエイターというのは、最善のものを上げるということで頑張っているので「こだわって良いものにしよう」とした結果、アニメーターがスケジュールを押してしまうということはあります。しかし度合いの問題はあるとは思いますが、基本的にアニメーターが責任を追及されるということはありませんね。
進行:根本的にアニメーターに責任を追及したとしても、怒らせてはいけないですね。仕事を上げてくれなくなってしまいますから(笑)。あと余談ですが、アニメーターへのお仕事の発注は口約束ですることが多いんですよ。ですから、アニメーターと制作進行の関係はある種裏切りの連鎖みたいなところもあるのですが、最終的には人と人との信頼関係で成立しています。
――アニメーターはどういう方が多いのでしょうか
石井:仕事熱心で真面目な方が多いのですが、こだわりすぎると他が見えなくなってしまったり、力の入れ方が偏ってしまったりする方が多いかもしれません。あとモチベーションに左右される傾向もあるかもしれませんね。
進行:本当に純粋な方が多い印象です。自分のやりたいことに忠実というか。
石井:やっぱり描きたいものを描きたいように描けるのがアニメーターの幸せなのかなと思います。全ての方がそうではないかもしれませんが、お金で動くというよりは自分のやりたいことをやらせてくれるなら動く、という方が多いのではないかと思います。
――スケジュールのお話も出ましたが、具体的にはどれぐらいギリギリまで作っているのでしょうか
石井:デジタルに移行してからは放映ギリギリまで引っ張るケースが増えてきましたね。
進行:デジタルだと引っ張っても間に合ってしまう、できてしまうことが多いのでどうしても引っ張ってしまうんですよね。
――放送を落とすと決定したときのスタッフの動きはどうなるのでしょうか
進行:僕は放送を落とした作品に関わったことはありませんが、もし総集編を作るということになるのだったら、まだ上がっていないシナリオなどで内容を詰めるという作業になっていくと思います。深夜枠の場合は、落ちた放送回を翌週分に回して2本立てにしてもらうということもあり得ますね。
アニメーターの待遇が悪い、は本当?
――アニメーターの待遇が悪いというようなことがネット上で騒がれているのですが、アニメーターである石井さんご自身はどう感じておられますか
石井:特に新人さんの場合は、アニメの仕事を一般的な会社員やアルバイトと比較するとかなり差があると思います。例えばコンビニのアルバイトだったら1時間働けば千円近くもらえますけれども、アニメの動画の単価は今1枚200円〜250円くらいですから、1日動画を10枚やったとしたら2000円くらいです。原画の場合は1日2、3カット描く必要があります。ただ、漫画家や音楽家がいきなり生計を立てられないケースが多いことと同じで、アニメーターもクリエイターに近い仕事だと思うので、一般のお仕事に当てはめて比較するというのは難しいと思います。本当にアニメーター自身がどう捉えるかですね。
――今年ある制作会社のアニメーターのお給料が少なすぎるなどと話題になり、制作会社が世間を騒がせたと謝罪することとなりました。しかし他のアニメ関係者に取材したところ、「話題となった制作会社は新人教育にも力を入れていて、かなりホワイトよりの会社なのではないか」という話があったのですが、お二人はどういう印象ですか
石井:話題になった制作会社に関して言えば、県からも補助金が出て、寮も作っている会社さんで、すごく頑張っていらっしゃるなという印象です。僕個人もちゃんとした会社だと思っているし、あまり不当なことはしないと思うんですけれどもね。社長さんもとても良い方ですよ。
進行:僕も同じ見解ですね。
石井:この会社に関しての詳しいことは分かりませんが、アニメーターという職業柄、能力によって報酬に差が出るということは仕方がないのかなという気はします。もちろん固定給で安定した生活を保障するということも大切ですが、やはり頑張っている、能力のある方が評価をしてもらえるところがこの業界のいいところであって、悪いところでもあるのはないかと。
――今回話題となった制作会社では動画マンを3年続けて、原画マンにステップアップしなければ毎月のお給料から机代が差し引かれるシステムになっていたというのですが、どう思われますか
石井:まず動画というセクションは、アニメにおいてなくてはならないセクションです。もちろん動画から入って原画にステップアップする方が多いのですが、必ずしも原画にあがらなくてはいけないというわけではないんです。
進行:動画を経験してから原画に行ったけれど、やはり動画の方が良いと戻る方もいらっしゃいますからね。
石井:動画で力を発揮する人もいますし、そこは本当に適性なんですよね。ただ会社がどういう人材を求めているかによるので、そこのところは何とも言い難いですよね。
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