たーのしー! 知能の低下と上昇を招くアニメ「けものフレンズ」の怖さと心地よさあのキャラに花束を

欠落する語彙、そして退廃的すぎる世界観。

» 2017年02月10日 08時30分 公開
[たまごまごねとらぼ]
※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

画像 公式ページトップより。キュートでポジティブなサーバルちゃん

 「すごーい!」「たーのしー!」

 Twitterやニコニコ、各種掲示板が侵食されました。「けものフレンズ」に。

 事情が分からない人からみたら、朝起きた時にタイムラインが「すごーい!」に染まっている様子は、ちょっとしたホラーです。


「けものフレンズ」とは何か?


画像 公式ページトップより。手前右からサーバルちゃん、フェネックちゃん、アライさん、後ろはフンボルトペンギン、ジェンツーペンギン、ロイヤルペンギン、コウテイペンギン、イワトビペンギン

 深夜アニメ「けものフレンズ」。ヒト化した動物たちと出会った主人公が、みんなと仲良くジャパリパークを楽しく巡る大冒険物語3Dアニメです。

 以上です。本来は。これ以上でもこれ以下でもないはず、なんです。

 「けものフレンズ」自体は、メディアミックスプロジェクトでした。最初はネクソンのソーシャルゲーム、キャラクターコンセプトデザインは「ケロロ軍曹」の吉崎観音でした。

 2015年3月16日スタートのこの「新感覚動物RPG」、昨年3月31日から完全無料化。そして2016年12月14日にサービス終了しました。なぜアニメをやる直前に終わったのかは、不明。

 他にはKADOKAWAからコミック版も出ています。不思議な現象で女の子になった動物が暮らす「ジャパリパーク」で、飼育員として菜々が奮闘する話。アニメとはつながっていません。

 アニメ版は非常にゆるーいノリの作りで、早朝や夕方のキッズ枠でやっていてもおかしくないくらいにソフトな、優しい世界です。

 しかし、この作品大きな2つの爆弾を抱えていました。

 ひとつは、異常なまでに欠落した語彙(ごい)。もうひとつは退廃的すぎる世界観です。


消滅していく言葉

 物語は、名無しの迷子がサバンナで目覚めたことからはじまります。ここがどこなのか、自分がなんなのか、全く覚えていない。サーバルキャットのサーバルちゃんは、かばんを持っているのを見て、「かばんちゃん」と名付けます。2人はかばんちゃんが何者なのかを調べるため、「図書館」への旅に向かうのでした。

 このサーバルちゃんのメンタルが、ものすごく強い。

 「すごーい!」「おもしろーい!」「たーのしー!」「大丈夫ー!」

 目に入るモノすべて(家とか木とか穴とかでも)「すごーい!」。どんなこと(滑るとか走るとか)でも「たーのしー!」。

 他のフレンズ(ヒト化した動物たち)も、思考レベルは動物なので、ほとんどセリフは変わりません。「すごーい!」。彼女たち、本気で「すごい」と思っていて、比喩や形容をせずただただ「すごい!」と口から出る。フレンズたちは基本的に超絶前向きなので、この「すごーい!」は聞いていて多幸感を産みます。

 サーバルちゃんは、相手をおとしめることは決してしない。絶対全員を肯定する。何かができなくても、それぞれ他の何かができる。自分ができないことを見たら「すごーい!」って言う。なかなか褒められない社会で、褒められる状況を見られるのはとても心地よい。サーバルちゃん、ありがとう。



 「みんなちがって、みんないい」金子みすゞ精神が満ちると、こうなるんだなあ。いやどうかな?


フレンズ・オブ・ザ・デッド



 あまりにもいろんなキャラが、複雑な思考を一切せずに「褒める」。ひたすら純粋な「すごーい!」は、脳に染み渡って行きます。これがネットにおいてのフレンズ化を招きました。

(関連・すごーい! 「けものフレンズ」の主題歌がフレンズ爆増によりiTunesで総合3位に ねとらぼ

 加えて「あなたは○○なフレンズなんだね!」というフレーズも大人気に。

 そもそもこのフレーズ、作中にないです。「ご注文はうさぎですか?」で「あぁ^〜心がぴょんぴょんするんじゃぁ^〜」というセリフが流行りましたが、そんなの誰も言っていないのと同じです。ネットスラングとしての使いやすさ、という意味では「ガルパンはいいぞ」の亜種かも。

 「知能指数が下がる」と話題のフレンズ化。会話が全部「すごーい!」「そうなんだー!」で成立しちゃう。しかもなんか平和になる。単語ひとつで完成する、統制の取れた疑似ユートピア。






 「ご注文はうさぎですか?」や「きんいろモザイク」の、合法ドラッグ感と非常に似ています。しかしこの2つは、箱庭の外側から、キャラクターたちを愛でてうっとりする方に近い。作品そのものが柔らかく完成されているからです。

 しかし「けものフレンズ」は、完全に作品の中に入り込んでフレンズ化するか、割り切ってネタとして波に乗り切るか。あるいは大分離れた位置から俯瞰して現象と作品を考察するかになりやすい。

 内容に不安要素が、あまりにも多いからです。ごちうさ的に安らぐには、ちょっと裏が黒すぎる。


主人公「かばんちゃん」とは何者?


画像 公式ページキャラ紹介より。唯一ゲームにもコミックにも出てこない謎の存在、かばんちゃん

 主人公のかばんちゃんの存在は、1話からどうにも妙でした。いったん整理します。

  • 自分が何なのか理解出来ていない(人間という言葉を知らないし、人間かどうかも現時点では不明)
  • 知能が他のフレンズに比べてずば抜けて高い。また手が器用
  • ジャパリパークにいるBOSS(LuckyBeast)と呼ばれるロボットが、唯一話しかけてくれる
  • 性別不明
  • かぶっている帽子はゲーム版のガイド・ミライと同じで、声優さんも同じ。2枚だった羽根が1枚になっていて、ボロボロに
  • 持ち物はかばんだけだが、これも何なのかはっきりしない
  • 扉のある家が好き(他のフレンズはあけっぴろげ)
  • かわいい



画像 公式ページストーリー紹介より。目印になるのは、かばんと帽子と、知性です

 物語が進むにつれてほのめかされ度合いが増しているのが「フレンズはもともと動物であり、習性を持ったままヒト化している」という点。

 かばんちゃんは、その中に含まれていない。サンドスター(砂の星)で産まれた、とサーバルちゃんは言っていますが、これも詳細不明。

 異物なのです。フレンズたちが幸せに暮らす「ジャパリパーク」において、全く戦う能力がなく、移動手段も持っておらず、けれど飛び抜けて知恵と知識に長けている。なんのフレンズか、誰も知らない。

 かばんちゃんの存在、物語においてあまりにも危うい。加えて2話め以降、エンディングで廃墟の写真が使われたことで、この世界のディストピア感が一気に増しました。しかも終了したソシャゲのアニメで、です。



けものフレンズ考察班

 「けものフレンズ」の「すごーい!」のノリと真逆に、Twitterの「#けものフレンズ考察班」がものすごい勢いで知識を総動員しはじめました。いくつか特徴的な説を拾ってみます。


画像 公式ページストーリー紹介より。なにげに恐ろしい要素満載だった4話ツチノコさん回

・人類絶滅後の世界説

 4話目でツチノコさんが「あいつ絶滅していなかったのか」と言っているため、かばんちゃんは残されたごくわずかな人間の1人、またはタイムリープしてきた存在の可能性大。廃墟化したアトラクションの出入り口が溶岩で塞がれている。人間絶滅どころか、もっと大きな天変地異があったのかも?


・ジャパリパークは人間向けに作られた廃墟説


画像 公式ページストーリー紹介より。高山にはロープウェイとカフェがありますが、完全に人の来ない場所として廃墟化していました

 BOSS(LuckyBeast)が、仮に人間であるかばんちゃんだけを認識して動いているとしたら、ジャパリパークは人間が作ったもので、現在は廃墟。彼女たちがたどり着いたカフェ(なおゲームでは拠点の一つ。アニメでは珍しく太陽電池で、無人のまま施設は生きていた)や園内バスやゲートは、当時使われていたもの。人間向け案内図も残っているが、フレンズのサーバルちゃんはふたを開けて取り出すことが出来ないため、人間専用のモノの様子。


・イントロダクションの謎



「この世界のどこかにつくられた超巨大総合動物園「ジャパリパーク」。そこでは神秘の物質「サンドスター」の力で、動物たちが次々とヒトの姿をした「アニマルガール」へと変身――! 訪れた人々と賑やかに楽しむようになりました。しかし、時は流れ……。」


 「訪れた人々と賑やかに楽しんでいる」痕跡がどこにもない。「時は流れ」とあるがどのくらい流れたのかは明記されていない。動物からフレンズに変化するのは、トキなどのセリフから確定。


・ジャパリまんとジャパリコイン

 元はゲーム内での回復アイテム。アニメではフレンズが食べている。これによってどうやら肉食獣が草食獣を食べなくて良くなっているようだが、サーバルちゃんは習性として「狩りごっこ」をしている。アルパカが草を食べず、草むしりをしているあたりからも、食生活は全般的に変わっている様子。4話ではツチノコがジャパリコインを見つけている。アイテム交換用のコインで、サーバルちゃんがこれを知らないとなると流通そのものがストップしているため、ジャパリパークが一切機能していないことになる。ジャパリまんが買えない。



・死と繁殖の考え方

 動かないバスを見て「死んじゃったの?」というセリフがあるので、一応この世界でも死ぬらしい。サーバルちゃんたちが不老不死なわけではないっぽい。セルリアン(ゲームにも出てくる正体不明の青い敵)にフレンズは食べられちゃうことがあるらしい(1話)。フレンズは基本女の子の姿。もしメスしかいないとしたら、繁殖のしようがない。一方でBOSSが「オス」の存在の話はしているので、見た目女の子なだけ(アニマルガールだけど)かもしれないが、そもそも群れが存在せず、個体しかいない。


・フレンズ以外の動物

 鳴き声や足跡など、ジャパリパークにはフレンズ以外の動物もいるもよう。これはコミック版でチンアナゴがフレンズ化していないので、可能性は高い。




 どこまで深読みになるのかとんとわからない。少なくとも「ただの楽園」設定ではなさそう。「ハカセ」と「図書館」の存在が明らかになったとき、大きく概要が見えてくるかもしれません。見えないかもしれません。

 アニメを見ていて不安になる心は、「すごーい!」で埋めるか、考察で埋めよう。かばんちゃん、このあとセルリアン倒す武器とか作り出したらどうしよう。ぼくは怖いよ。



たまごまご


関連キーワード

アニメ | かわいい | 面白い | 擬人化


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2407/24/news014.jpg 庭で見つけた“変なイモムシ”を8カ月育てたら…… とんでもない生物の誕生に「神秘的」「思った以上に可愛い」
  2. /nl/articles/2407/25/news017.jpg 「これが生えたら庭終了」 プロも降参する“何をやっても全部ムダな最恐雑草”の正体が400万再生「ほんとこれ厄介」「土ごと変えないと不可能」
  3. /nl/articles/2407/26/news151.jpg イトーヨーカドー春日部店が閉店へ 「クレヨンしんちゃん」に登場するスーパーのモデル 「残念」「寂しい」惜しむ声
  4. /nl/articles/2407/25/news012.jpg 夜、山中の側溝をのぞいてみたら…… 思わず声がもれる“あらぬ生物”の姿に「ヤバいw」「生で見てみたい」
  5. /nl/articles/2407/25/news007.jpg 水槽の中で卵を発見→慎重に見守って1カ月後…… 小さな命の誕生に飼い主も視聴者もメロメロ「まじで可愛すぎるほんとに可愛い」
  6. /nl/articles/2407/25/news138.jpg 「お父さんはママのオタクだった」 母親が「元・おニャン子」のタレント、アイドルとオタクが“つながっちゃいけない理由”を問いかける
  7. /nl/articles/2407/25/news050.jpg 「立体的に円柱を描きなさい」 中1の“斜め上の解答”に「この発想は天才」「先生の優しさも感じます」
  8. /nl/articles/2401/26/news015.jpg スーパーで買ったレモンの種が1年後…… まさかの結果が635万再生「さっそくやってみます」「すごーい!」「手品みたい」
  9. /nl/articles/2407/26/news119.jpg 工藤静香、15歳の愛犬が天国へ 感謝の言葉つづるも……「泣いてばかり」「心が追いつかない」と悲痛な思い
  10. /nl/articles/2407/26/news008.jpg 外国人が来日して“3年後”…… マクドナルドの“オーダーの変化”に「胃袋が日本人のそれなんよw」とツッコミ
先週の総合アクセスTOP10
  1. プロが本気で“アンパンマンの塗り絵”をしたら…… 衝撃の仕上がりが360万再生「凄すぎて笑うしかないww」「チーズが、、、」
  2. 6年間外につながれっぱなしだったワンコ、保護準備をするため帰ろうとすると…… 思いが伝わるラストに涙が止まらない
  3. 「お釣りで新紙幣来た!!!!!と思ったら……」 “まさかの正体”に「吹き出してしまった」「逆に……」
  4. 赤いカブトムシを7年間、厳選交配し続けたら…… 爆誕した“ウルトラレッド”の姿に「フェラーリみたい」「カッコ良すぎる」
  5. ダイソーで買った330円の「石」を磨いたら……? 吸い込まれそうな美しさが40万回表示の人気 「夏休みの自由研究にもいいのでは?」
  6. 「これ最初に考えた人、まじ天才」 ダイソーグッズの“じゃない”使い方が「目から鱗すぎ」と反響
  7. もう笑うしかない Windowsのブルースクリーン多発でオフィス中“真っ青”になった海外の光景がもはや楽しそう
  8. アジサイを挿し木から育て、4年後…… 息を飲む圧巻の花付きに「何回見ても素晴らしい」「こんな風に育ててみたい!」
  9. スズメの首は、実は……? 「心臓止まりそうでした」「これは……びっくり!」“真実の姿”に驚愕の声
  10. 【今日の計算】「8×8÷8÷8」を計算せよ
先月の総合アクセスTOP10
  1. 18÷0=? 小3の算数プリントが不可解な出題で物議「割れませんよね?」「“答えなし”では?」
  2. 日本人ならなぜかスラスラ読めてしまう字が“300万再生超え” 「輪ゴム」みたいなのに「カメラが引いたら一気に分かる」と感動の声
  3. 「最初から最後まで全ての瞬間がアウト」 Mrs. GREEN APPLE、コカ・コーラとのタイアップ曲に物議 「誰かこれを止める人いなかったのか」
  4. 「値段を三度見くらいした」 ハードオフに38万5000円で売っていた“予想外の商品”に思わず目を疑う
  5. 「思わず笑った」 ハードオフに4万4000円で売られていた“まさかのフィギュア”に仰天 「玄関に置いときたい」
  6. かわいすぎる卓球女子の最新ショットが730万回表示の大反響 「だれや……この透明感あふれる卓球天使は」「AIじゃん」
  7. 「これはさすがに……」 キャッシュレス推進“ピクトグラム”コンクールに疑問の声相次ぐ…… 主催者の見解は
  8. 天皇皇后両陛下の英国訪問、カミラ王妃の“日本製バッグ”に注目 皇后陛下が贈ったもの
  9. 「この家おかしい」と投稿された“家の図面”が111万表示 本当ならばおそろしい“状態”に「パッと見だと気付けない」「なにこれ……」
  10. 和菓子屋の店主、バイトに難題“はさみ菊”を切らせてみたら…… 282万表示を集めた衝撃のセンスに「すごすぎんか」「天才!?」