アニメ化された『ナナマルサンバツ』は『ヒカルの碁』とどこが違うのか? 業界初の「競技クイズアニメ」に見る、“普及までの距離感”(3/3 ページ)

» 2017年08月08日 11時00分 公開
[伊沢拓司ねとらぼ]
前のページへ 1|2|3       

テレビクイズの役割は?

 もう1つ、クイズにはアドバンテージがあるといえるかもしれない。それは、ゴールデンタイムでのクイズ番組である。特に昨今では「Qさま!!」や「ネプリーグ」「東大王」などの番組に競技クイズを経たクイズ王が出演することも増えてきた。他の文化系競技に比べて、クイズというものはより汎用性が高く、それ故ゴールデンタイムに常に存在し続けている。この点もかなり特殊といえよう。芸能人がみんなで集まって囲碁やったり、そこに囲碁の名人が混ざったりはしないのである。

 ただ、これがクイズという競技そのものに与える効果は、少なくとも『ナナマルサンバツ』より低いのではないかと僕は見ている。他の文化系競技は、バラエティの枠ではなくニュースの枠でその競技自体が取り上げられる。囲碁や将棋はもちろん、年始に行われる競技かるた「名人位・クイーン位決定戦」も一般の報道番組で取り上げられることが多い。クイズではまずありえないことだ。

 しかも、われわれクイズ王がゴールデンのバラエティで行うクイズは、競技クイズに近いものであっても、それそのものではない。ルールが可変的であるがゆえに、競技クイズそのもののルールを扱わずともクイズ王たちのキャラクターを演出可能であり、競技クイズの競技的な要素はテレビ的でないために省かれがちなのである。

 もちろん、クイズ王たちの実力やキャラクターを売りに、人物への興味から競技クイズへと誘導することはできるだろう。テレビでの活躍を夢見てクイズの世界に飛び込んだ人間も実際のところ少なくない。

 ただ、テレビの中でのクイズは「魔術」なのだ。クイズ王は、努力の過程が明かされない知識の集合体として、いわば手品師のように扱われる。間接的に競技クイズに入ってくる人がいたとしても、競技クイズという文化そのものの普及にはならない。人数が増えることで文化自体の普及を図るというのは非常に長い道のりだ。囲碁とはこういうもの、将棋とはこういうもの、という「なんとなくの構図」が明らかであることこそが、文化自体が認知されるために必要なように感じる。その点では、クイズ王の出演するゴールデンのクイズ番組より、クイズの世界全体を描く『ナナマルサンバツ』のほうが正しい伝え方のできる媒体なのである。

「超短期的ナナマルサンバツ難民」をどうすべきか、正直教えて欲しい

 さてさて、ここまで見てきたように、競技クイズはその構造上、アニメ媒体で人を引きつけるパワーに秀でているが、そこから現実の競技までの距離感が遠い、という問題を抱えている。では、どのように解決していくのが良いのだろうか。

 ……分かったら、苦労しないのである。なんせ構造上の問題なんだもの。すれちがい対戦のように競技クイズを進めていくことはできない。

 デッカい期待の中にはいるのだ。ここ10年で早押しボタンのレンタルや問題のネット通販、初心者向けイベント急増など、状況は急速に良くなってきた。人口も増え、新興の高校クイズ研も増え続けている。このまま伸び続ければ何か突破口が開けそうな予感はある。でも、何も具体的ではない。

 『ナナマルサンバツ』が掘り出した、競技クイズがメディア化されることによって、視聴者も巻き込める一体型エンターテインメントとなるという要素はかなり強いとも思う(ここホント大事)。しかし、そこからどう広げていくかというところに大きな問題を抱えている

 これらの問題は、一朝一夕に解決できるものではない。ある程度人海戦術的な要素が必要になってくるし、お金もたくさん必要だ。競技クイズへのアクセシビリティを瞬時に上げるというのは、現状では無理だろう。少なくとも僕はお手上げである。

 本来ならば、僕のような人間こそ「今、クイズが熱い!」などとのたまって大声で競技クイズを喧伝(けんでん)すべきなのだ、とも思う。初心者の壁を打ち破り入ってくる人も多くいるだろうから、多少の成果はあるはずだ。それが功を奏し、人数ばかり増えてクイズ文化そのものがある程度変遷してしまっても、現状のメンバーが納得するならそれはそれでいいかなとも思っている。

 とはいえ、まずは問題点の洗い出しを行い、現状を見つめることも大事だ。少なくともクイズ的な視座のみから全てを解決しようとするのではなく、現状を外部に訴え、外からのいいアイデアを参考にすることこそが今必要なことなのだと、僕は思う。僕にはクリティカルな解決策を思い付きませんでした〜、ともいえる。

 現状の良い面を訴えるならば、少なくとも初心者向けのクイズイベントは増えていて、ネットで検索すればいろいろと引っ掛かるわけだし、ネットクイズの活動もいくつかあるので、現状クイズを始めたい人はそのあたりが良い入り口なのではないかと思う。これだけは書いとかなきゃ。

 『ナナマルサンバツ』のアニメ化は非常にポジティブなでき事であり、かつクイズの持つエンタテイメントとしての可能性を大いに示してくれた。しかしそれは同時に、現状の競技クイズというものの限界性をも浮き彫りにしたのだ。まだ、発展途上だ。未来がある。

 多くのクイズプレイヤーが、クイズは将棋や囲碁、かるたと並び立つ競技ではない、と考えるだろう。競技としての性質が大きく異なるからだ。しかし、それらから学ぶべき面もまた多々ある。この連載も含めて競技クイズについて広く知ってもらい、他の競技に詳しい人から広く知恵を集めることもまたわれわれのすべきことだ。10年後、「全ては『ナナマルサンバツ』から始まった」なんてコラムを、書けたらいいなぁ。

制作協力

QuizKnock


前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2406/16/news001.jpg 「値段を三度見くらいした」 ハードオフに38万5000円で売っていた“予想外の商品”に思わず目を疑う
  2. /nl/articles/2405/19/news005.jpg 「思わず笑った」 ハードオフに4万4000円で売られていた“まさかのフィギュア”に仰天 「玄関に置いときたい」
  3. /nl/articles/2406/16/news017.jpg 2歳娘とかくれんぼ中のパパ、「もういいよー」が聞こえず目を開けると…… まさかの光景に「かわいすぎ!!」「永遠に始まらないww」
  4. /nl/articles/2406/15/news022.jpg 「絶対当たったわこれ」→「は?」 ガリガリ君の棒に書かれていた“衝撃の文章”に「そうはならんやろ」
  5. /nl/articles/2406/15/news025.jpg 【今日の計算】「50×50+50」を計算せよ
  6. /nl/articles/2406/16/news044.jpg 掃除中のママ、物音に振り返った瞬間…… 息子の“やばすぎる”行動に絶望 「もう笑うしかない」「まじこれ世界共通」【米】
  7. /nl/articles/2406/14/news136.jpg 家でポン・デ・リングを作ったら悲劇が…… まさかの姿に変身したドーナツに「爆笑した」「エンターテイナー」 3年後、再挑戦したのか聞いてみた
  8. /nl/articles/2406/16/news049.jpg 「天才見つけた」 ご飯の粗熱をすぐ取りたい→“予想外すぎる方法”を編み出した人に仰天 「効率良いな」
  9. /nl/articles/2406/16/news039.jpg 「こんなことになるのか」 ドラゴンフルーツ、白い服は控えたほうがいい理由 「翌日のトイレもなかなかです」
  10. /nl/articles/2406/15/news008.jpg 「え?」 “ごみだらけの道”を掃除したら…… あらわになった“まさかの正体”に世界中が驚き 「信じられない」【海外】
先週の総合アクセスTOP10
  1. 「虎に翼」、共演俳優がプライベートで旅行へ “決別中”の2人に「ドラマではあまり見ることが出来ない全力笑顔」
  2. 「ハードオフには何でもある」 → 4万4000円で売られていた“とんでもないモノ”に「これは草www」「見てるだけでワクワクする」
  3. 釣りから帰宅、持ち帰った謎の“ニュルニュル”を水槽に入れてたら…… いつの間にか誕生した意外な生き物に「すごおー」「どこまで育つかな!?」
  4. 「この家おかしい」と投稿された“家の図面”が111万表示 本当ならばおそろしい“状態”に「パッと見だと気付けない」「なにこれ……」
  5. 「さざれ石に苔のむすまで」何日かかる? 毎日欠かさず水やりし続けてまもなく1年、チャレンジの結果に「わびさび」「継続は力」
  6. 朝ドラとは雰囲気違う! 「虎に翼」留学生演じた俳優、おなかの脇がチラ見えな夏らしいショットに反響「とてもきれい」
  7. フードコートでふざけたパパ、1歳娘に怒られる→8年後の“再現”が1185万再生 笑えるのに涙が出る光景に「大きくなった!」「泣ける」
  8. 1歳妹「ん」だけで19歳兄をこきつかい…… 「あれで分かるにいに凄い」「ツンデレ可愛い」マイペースな妹にほんろうされる姿が280万再生
  9. 「ベランダは不要」の考えを激変させた“神建築”が200万表示 夢のような光景に「こんな家に帰りたい」「うっとり」
  10. 三重県沖であがった“巨大マンボウ”に漁港騒然…… 人間とサイズ比較した驚愕の光景に「でっか!!」「口から何か出てますね」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 「今までなんで使わなかったのか」 ワークマンの「アルミ帽子」が暑さ対策に最強だった 「めっちゃ涼しー」
  2. 「現場を知らなすぎ」 政府広報が投稿「令和の給食」写真に批判続出…… 識者が指摘した“学校給食の問題点”
  3. 市役所で手続き中、急に笑い出した職員→何かと思って横を見たら…… 同情せざるを得ない衝撃の光景に「私でも笑ってしまう」「こんなん見たら仕事できない」
  4. 「思わず笑った」 ハードオフに4万4000円で売られていた“まさかのフィギュア”に仰天 「玄関に置いときたい」
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 「二度と酒飲まん」 酔った勢いで通販で購入 → 後日届いた“予想外”の商品に「これ売ってるんだwww」
  7. 幼稚園の「名札」を社会人が大量購入→その理由は…… 斜め上のキュートな活用術に「超ナイスアイデア」「こういうの大好きだ!」
  8. 釣れたキジハタを1年飼ってみると…… 飼い主も驚きの姿に「もはや、魚じゃない」「もう家族やね」と反響
  9. JR東のネット銀行「JRE BANK」、申し込み殺到でメール遅延、初日分の申込受付を終了
  10. サーティワンが“よくばりフェス”の「カップの品切れ」謝罪…… 連日大人気で「予想を大幅に上回る販売」