子どもたちの“科学の芽”を見つけるきっかけになりたい 番組プロデューサーに聞く大人にも人気の「夏休み子ども科学電話相談」の作り方(1/2 ページ)

放送時間中、約1000件のアクセスがあり、その中から実際に番組で取り上げられるのは25から30件という狭き門。後半戦を前に“対話”でなりたつ番組の魅力とその意義を聞く。

» 2017年08月23日 17時45分 公開
[正しい倫理子ねとらぼ]

 夏真っ盛り、外ではセミがわんさか鳴いていますが、ねとらぼ読者の皆さんはいかがお過ごしでしょうか?

 夏といえば夏休み、夏休みと言えば「夏休み子ども科学電話相談」。7月24日から8月4日まで放送されていた前半が終了し(公式サイトで一部視聴可能)、8月24日からは後半がスタートします。子どもたちが研究者を相手に素朴な疑問をぶつける名物番組の裏側を、チーフプロデューサーの佐久間知樹さんにあれこれうかがってきました。

夏休み子ども科学電話相談インタビュー 佐久間知樹チーフ・プロデューサー。平成5年NHK入局。2017年6月から現職。これまでラジオディレクターとして、「渋谷アニメランド」「渋マガZ」、ツイッター連動の「つぶや句575」など、若者向けのラジオ番組の開発等に取り組む。現在は、「すっぴん!」を中心に、主にラジオ第1で午前中に放送している番組のプロデューサーを担当

―― 「夏休み子ども科学電話相談」、毎回ワクワクしながら聞いております。この番組は1984年に始まったそうですが、どういう経緯があったんでしょうか。

佐久間P もともと「夏休み子ども科学電話相談」の時間帯には長年、大人向けの番組を放送しているんです。ただ、夏休みの午前中は子どもたちに聞いてもらえる時間帯ですから、その時間に何か子どもたちが楽しめる番組はないのか……と考えていたようです。ちょうどその頃はつくば万博が企画されるなど、国内で科学への関心が高まっていた時期だったこともあり、この番組が立ち上がったと聞いています。

―― 時代の空気を反映して生まれた番組だったんですね。 当時はどういうジャンルの先生がいらっしゃったんですか?

佐久間P ジャンルは当初より昆虫、植物、動物、科学ですとか、子どもたちが親しみやすいように設定したジャンルに分かれていました。この分野は今も続いています。今年で言うとロボットや天気・気象ジャンルが新しくスタートしました。

―― 2017年からロボットの先生が追加されたのは、ロボットに関する質問の要望が多かったからですか?

佐久間P (ジャンル追加の)要望を事前に募集することはやっていないのですが、社会の関心をくんで検討しました。やはり今はAIにたくさんの注目が集まっているので。

―― 相談内容には例年変化はありますか。

佐久間P 基本的に本質は変わらないと言うか、実はそれほど大きな変化はありません。いつの時代も子どもたちが思う素朴で本質をつくような質問が繰り出されている、という印象があります。期間中に何度か同じような質問が出てくることもありますね。

―― 新しい先生をお呼びする場合はどうやって決めているんでしょうか。

佐久間P ケースバイケースですが、やはり著書です。ユニークな発想の本。例えば鳥の質問を担当されている川上先生は、『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』(新潮社)をスタッフが読ませていただいて今回出演を打診することになりました。専門的な内容を子どもたちに分かりやすく伝えるのはとても難しいと思うんですが、そういったことが得意な、ユーモアのある先生を探しています。


※川上和人先生……森林総合研究所主任研究員。回答は必ず「こんにちは〜川上で〜す!」というひときわ元気なあいさつから始まる。子どもを褒めまくる。

―― 今後新設されるかもしれないジャンルはありますか。

佐久間P 難しいですね……。さきほどお答えした通り、古典的な質問が毎年来る、ということが多いので、毎回ジャンルを変えて新しい先生を入れていくことはそんなに考えていないんです。番組が終わった後に検証して、これまでのジャンルに収まりきらない質問が多く来ている、ということであればまた考えたいと思いますが。

 先生も毎年最新の研究情報をもとに回答しているので、同じ質問でも10年、20年前の答えと今の答えは違っているはずなんですよね。だからこそ同じ質問が毎年来ても古臭くならないんです。

―― 全体的に、ゴリラが人気だなという印象があったんですけれども……。

佐久間P 「なんでゴリラはうんちを投げるんですか」という質問ですね。

―― 小菅先生の名回答「うんちを汚いと思っているのは人間だけ。先生も自分のうんちをいとおしく思う」が印象深いです。


※小菅正夫先生……札幌市円山動物園参与。柔道にまい進しすぎたせいで腕が太くなり、牛の肛門に腕が入りきらなかったので牛の獣医師になることを諦めていたところ、「小菅、象の尻は牛よりでかいぞ」といわれて動物園の獣医師になったという経歴を持つ。「小菅正夫」で画像検索をすると先生の腕のたくましさを実感できるぞ!

佐久間P 小菅先生はご自身の経験から回答してくださいましたが、実はそもそもゴリラにうんちを投げる習性はなく、動物園で人間の反応を見て楽しむためのひまつぶしだとのことでした。自分の動物園のゴリラにはうんちを投げる習慣がなかったのに、他の動物園からうんちを投げるゴリラがやってきたら投げていなかったゴリラたちもうんちを投げ始めたそうです。そういう、聞いてみないと想像もできないような答えは大人も楽しめますし、この番組がネットでもウケている理由の一つだと思います。


夏休み子ども科学電話相談インタビュー スタジオ内の様子

―― 確かに、大人だからこそ何となく勝手な想像で片付けてしまった問題を子どもの目線から掘り返して楽しめるのが新鮮でした。特に人気のあるジャンルはありますか。

佐久間P やはり恐竜ですね……。

―― ダイナソー小林先生ですか!


※小林快次先生……北海道大学総合博物館准教授。通称ダイナソー小林先生。恐竜大好きキッズの質問に対し、逆にキッズの知識を試す質問を投げることで有名である。海外で発掘を行っていることが多く、発掘現場であるアラスカから夏休み子ども科学電話相談のためだけに帰国した。なお、アラスカではグリズリー対策としてショットガンを持って行ったが、ショットガンケースの鍵を置いてきてしまったので使い物にならなかったとのこと。

佐久間P はい。小林先生は恐竜キッズにとってはもはや神様のような存在なので、先生と話せるだけでもうれしいと思うんです。先生に挑む子どもたちの様子からは、本当に恐竜が好きで勉強しているんだなということが伝わってきます。

―― 小林先生だけちょっとカラーが違うというか、子どもは必死に食らいついて質問をし、小林先生もそれを試すというような、知的なバトルが繰り広げられていたなと思いました。あの「北海道大学に来なさい」がいつ出てくるのかも楽しみにして聞いていました(笑)。


※「北海道大学に来なさい」……小林先生が見どころのある恐竜好きの子どもを自身の所属する北海道大学に誘うときのセリフ。

佐久間P 恐竜に興味がない人たちにとっては何を言っているかちんぷんかんぷんな内容ですが、その「理解できなさ」も楽しめると思います。

―― アナウンサーの方も復唱できない難しい恐竜の名前も登場しましたね。

佐久間P アナウンサーは、どうしても専門用語が出てきてしまう時や話の展開が少し難しい時に、もう一歩かみ砕いてお話するという立場で関わっています。先生たちにはできる限りやさしく話していただくようにお願いしているんですが、それでも恐竜は呪文のような言葉の連発ですので、「分からない」こと自体も含めて楽しんでいますね。

―― 「分からないということを楽しむ」というのはとても大事なことですね。ちょっと前の子ども科学電話相談は、先生に対して知識を披露したいというタイプのお子さんが多かったといううわさを聞いたことがあるんですが、本当なんでしょうか?

佐久間P それは今もあると思います(笑)。それが顕著に出ているのが恐竜、あとはカブトムシ・クワガタですね。自分が知っていることを先生にぶつけてみたいという子は少なくないです。昆虫で言うと、「世界で一番強いカブトムシは何ですか」というカブトムシ好きからの質問は、具体的な種の名前を挙げて「こういう理由でこのカブトムシが強いと思う」と自分なりの見解を話していました。「ハリガネムシはどうやってカマキリを操るんですか」という質問は、ハリガネムシがカマキリの中にいて、自分が生きるためにカマキリを操っている……という知識を先生にぶつけた上で回答を要求している、チャレンジングな問いでしたね。子どもの側からも先生を試す、そういったシーンもあると思います。……でもやっぱりその視点で行くと、一番は恐竜ですね。

―― ひしひしと伝わってきます(笑)。「子ども科学電話相談」は長年継続している番組ですが、続けることに関して意義や重要視していることはありますか。

佐久間P 意義の一つは、番組が科学に少しでも興味を持ってもらえるきっかけになっているのではないか、という点です。

 放送の30分ぐらい前から電話受付が始まるんですけれども、放送時間中大体1000件前後のアクセスがあって、そのうち3人の電話係で受けられる電話は大体100から150ぐらい。その中から実際に採用されて放送されるのは25から30ぐらいなんです。それほどの数、子どもたちからの需要があり続けるということは、この番組の継続の一つの原動力になっていると思います。また、過去にこの番組を聞いていた人の中で実際に科学者になっている方に出会えたときは、この番組には意義があるんだなと実感しました。子どもが科学の芽を見つけるきっかけになっているところが継続の大きな理由かもしれません。

―― それは素晴らしいお話ですね! 科学で道が開けた人たちが確実にいるんですね。

佐久間P それは確実にいると思います。実際に科学者になった方には、夏休み子ども科学電話相談を紹介するプレ番組ご出演いただきました。子ども科学電話相談を聞いて育った方が自分の子どもたちにも聞かせるなど、リスナーが世代をつないで番組に接触してくれているのがすごくありがたいなと思います。

夏休み子ども科学電話相談インタビュー

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2502/01/news016.jpg 消波ブロックの隙間にカニカゴを仕掛けたら…… 「うそでしょ!」“想像を絶する結果”に大興奮「見てて声出た」
  2. /nl/articles/2501/31/news050.jpg 「許されると思ってんの?」 スマホのアラームを設定→翌朝…… “絶望の通知内容”が430万表示 「ほんとこれ」
  3. /nl/articles/2502/02/news005.jpg 「正直破格です」 成城石井の元店長が辞めてからも買い続ける“名品”がリピ必至 「ヨダレが出そう」
  4. /nl/articles/2501/31/news013.jpg これは“1秒”で解きたい! 「8×2×0÷4」の答えは? 【算数クイズ】
  5. /nl/articles/2502/01/news047.jpg 【編み物】彼氏のために、緑と黄緑の毛糸を正方形に編んでつなげると…… 圧巻のおしゃれな大作完成に「息をのむほどすばらしいよ」
  6. /nl/articles/2502/02/news069.jpg 「レベル間違えてる」 イオンの“1944円恵方巻”、衝撃ビジュアルにネット大騒然 「なにこれ」「本気かよ」
  7. /nl/articles/2502/02/news038.jpg 100均ビーズをどんどんテグスに通していくと…… うっとり見入る完成品に世界が注目「これは傑作」「どれも可愛いいい!」
  8. /nl/articles/2502/02/news003.jpg 「こんなお母さんになりたい」 北海道で暮らす67歳女性の“手作り料理”がすてき 「参考にしたい」「ぱぱっと作ってみな美味しそう」
  9. /nl/articles/2502/02/news027.jpg 「この子はきっと豆柴サイズ」と言われた子柴犬、4年後の姿が大きな話題に…… それから約1年たった“現在の様子”を聞いた
  10. /nl/articles/2501/30/news003.jpg 親の反対を押し切り、17歳で同棲を開始→それから13年後…… 若くしてママとなった女性の“現在”が話題
先週の総合アクセスTOP10
  1. 風呂に入ろうとしたら…… 子どもから“超高難易度ミッション”が課されていた父に笑いと同情 「父さんはどのようにしてこのお風呂に入るのか」
  2. DIYで室温が約10℃変わった「トイレの寒さ対策」が310万再生 コスパ最強のアイデアへ「天才!」「これすごくいい」
  3. 岡田紗佳、生配信での発言を謝罪 「とても不快」「暴言だと思う」「残念すぎ」と物議
  4. スーパーで買った半玉キャベツの芯を植え、5カ月育てたら…… 農家も驚く想像以上の結末が1300万再生「凄い」「感動した」
  5. 東京藝大卒業生が油性マジックでサンタを描いたら? 10分で完成したとんでもない力作に「脱帽です」「本当にすごい人」
  6. 定年退職の日、妻に感謝のライン → 返ってきた“言葉”が約200万表示 大反響から7カ月たった“現在の生活”を聞いた
  7. 【ヤフオク】“3万円”で購入した100枚の着物帯 →現役着付師が開封すると…… “まさかの中身”に驚き
  8. 「立体的に円柱を描きなさい」→中1の“斜め上の解答”に反響「この発想は天才」「先生の優しさも感じます」 投稿者に話を聞いた
  9. 「すんごい笑った」 “干支を覚えにくい原因”を視覚化したイラストが勢いありすぎで1700万表示の人気 「確かにリズム全然違う!」
  10. 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
先月の総合アクセスTOP10
  1. ドブで捕獲したザリガニを“清らかな天然水”で2週間育てたら…… 「こりゃすごい」興味深い結末が195万再生「初めて見た」
  2. 「配慮が足りない」 映画の入場特典で「おみくじ」配布→“大凶”も…… 指摘受け配給元謝罪「深くお詫び」
  3. 母「昔は何十人もの男性の誘いを断った」→娘は疑っていたが…… 当時の“モテ必至の姿”が1170万再生「なんてこった!」【海外】
  4. 風呂に入ろうとしたら…… 子どもから“超高難易度ミッション”が課されていた父に笑いと同情 「父さんはどのようにしてこのお風呂に入るのか」
  5. 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
  6. 市役所で手続き中、急に笑い出した職員→何かと思って横を見たら…… 衝撃の光景が340万表示 飼い主にその後を聞いた
  7. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. DIYで室温が約10℃変わった「トイレの寒さ対策」が310万再生 コスパ最強のアイデアへ「天才!」「これすごくいい」
  9. 「こんなおばあちゃん憧れ」 80代女性が1週間分の晩ご飯を作り置き “まねしたくなるレシピ”に感嘆「同じものを繰り返していたので助かる」
  10. 岡田紗佳、生配信での発言を謝罪 「とても不快」「暴言だと思う」「残念すぎ」と物議