子どもたちの“科学の芽”を見つけるきっかけになりたい 番組プロデューサーに聞く大人にも人気の「夏休み子ども科学電話相談」の作り方(2/2 ページ)

» 2017年08月23日 17時45分 公開
[正しい倫理子ねとらぼ]
前のページへ 1|2       

―― まさに「聞き継いでいける番組」なんですね。大人も子どもも楽しめるというのは、簡単に見えてすごく重要なことだなと思います。ところで、今お話にも出てきましたが、相談内容の決定から実際に放送で採用されるまでのプロセスを教えていただいてもいいでしょうか。

佐久間P 募集にはメールと当日の電話という2つの方法があります。まずはメールで来た情報を集めて、その日出演する先生ごとに分類します。あまりにも先生の範ちゅう外の内容だとお答えできない場合もあるので、確認をとって先生が「回答できる」とした質問をまとめていきます。

 それと同時に電話がひっきりなしに鳴りますので、そこからの情報もあげて先生たちが答えられるものを蓄積していって……電話や放送中に寄せられるメールでの質問に関しては、先生が質問に答えている間に答えていない先生たちが自分が答えられそうなものをチョイスすることもあります。

 また、当日の電話の人はつながれば番組に出てもらえる可能性が高いんですけど、メール応募の人はメールを出したことを忘れるということが少なくないですね。単純に電話に出ないとか、これから家族でドライブなので難しいとか。10件断られて11件目でやっとつながるということもざらにあるので、根気よく電話をしています。面白い質問や、これは先生に当てたら楽しいだろうなという質問を、ディレクターとプロデューサー、デスクが一緒になって厳選しています。


夏休み子ども科学電話相談インタビュー 質問受付メモ。気になるチェック項目が並んでいる

―― 放送の裏ではリアルタイムでいろんなスタッフが動いているんですね。やっぱりディレクターさんの間でも、「小林先生とこの子をバトルさせてみたい」というような思惑が動いていたりするわけですか。

佐久間P あ、それはもちろんあります。これはこの先生にぶつけたら面白いんじゃないか、みたいなこともディレクターが考えながらやってますね。先生方が専門家にもかかわらず子どもの質問に悶えながら必死に答えようとする部分も番組の醍醐味だと思います。

―― どこまで分かっているのか分からない子どもVS.研究者というすごくスリリングな構図だなと思います。

佐久間P そうですね、「これ分かる?」って3つぐらい言葉の意味を理解しているか尋ねて、全部わかんないって言われた時のあの先生の絶望感もまた……。

―― 味わい深いですよね。

佐久間P 「空気って分かる?」に分かんないって言われちゃったこともありました……。すごく苦しみながら答えていましたね。あとはこう、「椅子に座ってる時にその椅子を持ち上げようとしてもできないのはなぜだ!」という質問とか……大人は考えないですよね?

―― そんな角度で考えたことなかった! という質問がいろんな角度から投げられてくるのが面白いところですね。ちなみに、質問に対する回答を得たあとに追加で質問する子がたまにいますが、あれはOKなんですか?

佐久間P あれは放送に出ている事なので答えるしかないんです……。他のジャンルにまたがった質問の場合は、担当の先生が他の先生に振ることもありましたね。まあ答えられない部分も出てきてしまうかもしれませんが、それぞれの先生に自身の専門分野から答えられることを自由に言って頂いているので、子どもたちにはそこも楽しみつつ納得してもらえればいいなと思っています。

―― 鳥の先生と恐竜の先生と植物の先生に同時に質問できる機会って、どんな人でもめったにないチャンスですよね。ちなみに、ぶっちゃけ何歳まで質問できるんですか?

佐久間P 中3です

―― あーーーー。(やはり記者では質問できないか……)高校生から質問が来ることもあるんですか。

佐久間P 高校生とかは基本的にごめんなさいしちゃってると思います。

―― 来ることには来るんですか?

佐久間P それで言うと大人からも来ます

―― あ……。

佐久間P こう……電話なので、相手が見えないじゃないですか。確実に大人だと分かる声で中学生だって言い張る人も、中にはいます……。その人を取り上げてしまうと子ども達の質問が一つ取り上げられなくなるので、何とか何人かのフィルターを通すことで見抜くようにして、「子どもたちの質問だけを出す」という方針を強く持って行っています。今年で言うと4歳から中3までの質問を取り上げました。最年少については、会話ができれば何歳からでも大丈夫です。

夏休み子ども科学電話相談インタビュー NHK「夏休み子ども科学電話相談」公式サイト。こちらでも質問を募集している(8月23日現在)

―― 子どもたちを対象にしていながらも大人にも受けているのがこの番組のすごいところだと思うんですが、ネット上での反応についてはいかがですか。

佐久間P 「ここに食らいついたか!」という感じですね(笑)。こちらの意図しないところですごく盛り上がったりしているのが面白いです。

 未就学児の子が住んでいる県を聞かれたときの珍回答「名古屋県」は、Twitterのトレンドランキングに上がっていました。お子さんの名前がトレンド入りしたこともあります。

―― 確かに、ネット上で心もとない返事をしているお子さんの名前を挙げて「◯◯ちゃん頑張れ!」と応援するツイートはよく見かけましたね。

佐久間P あとは、子どものすごく本質的な質問に大人が反応しているんだと思います。例えば「AIは善と悪が分かるんですか」という質問に対して、ロボットの高橋先生が「じゃあ君は善と悪が分かるんですか?」と質問を返していたんです。それから、善と悪っていうのは絶対的に決められたものではなくて、AIも人間がその時々で善と思ったものを想像しながらやっている、けれどもそれが正しいかは分からないし変化するものなんだよ、というお話があり、ネットでも話題になっていました。

―― 善と悪の問題だったらロボットの先生に限らない質問というか、哲学分野の問題でもありそうな感じがしますね。ちなみに私は文系なんですが、「夏休み子ども人文科学電話相談」は作っていただけないんでしょうか……?

佐久間P えーとですねえ…………これは番組側じゃなくて私の考えで、ちなみに私も文系なんですけれども、……人文系は答えが果てしなく存在しますよね……。「分かりましたか」「分かりました」で丸をつけて次の人に行く、というフォーマットで演出しているので、難しいかもしれないなと言う気はします。「分かりません」では終われないので。

―― 確かに、「分かりませんでした」で電話を切られたらもやもやしますね。逆に、難しい質問をしすぎていくら説明しても分からなかった子もいるんですか。

佐久間P 私が来てからはありませんでしたが、かつてはいたと思います。ただ大人の空気を察した子どもが分かっていない様子なのに「分かりました」と答えているように聞こえるシーンもありまして、番組としてダメでしょうとお叱りを受けたこともありました。……収集つかない時ってありますよね。


夏休み子ども科学電話相談インタビュー 子どもたちの電話に対応するスタッフさんたち

―― 佐久間さんが一番印象に残ってらっしゃる質問はありますか。

佐久間P さっきのAIについての質問も好きなんですが、「鳥の祖先は爬虫類と聞いているが、鳥はなぜ別の種類に分かれたの」という質問に対して、川上先生がいろいろ説明した上で本当のところは分からないんだと話した後に「世の中なんでも分かると思ったら大間違いだ! ということを覚えておいてください」とおっしゃっていたのが印象的でしたね。先生が子どもに教えるのではなく、あくまで対等に渡り合おうとしている姿勢が見えたのがいいなあと思いました。

―― 子ども科学電話相談は「対話」なんですね。番組制作にあたって、出演される先生たちにはどのような方針でお願いしているんですか。

佐久間P とにかく、子どもたちにとって分かりやすい言葉でご説明くださいということを強くお願いしています。本当に分かりやすい言葉でというのは重ね重ねお願いしているんですが、やはり普段は大量の専門用語を使って研究されている先生ばかりなので、毎回苦しまれてますね……。番組の趣旨については、やはり先生方には「将来的に自分の後輩になるかもしれない子たちに興味を深めてもらいたい」という気持ちがとても強くおありなので、科学者として意義のある番組だと思っていただけているようです。

―― 未来の後進を育てるという意味でも大事な番組なんですね。ちなみに、小林先生に「北海道大学に来なさい」といわれて実際に北海道大学に行った人はいるんですか?

佐久間P いやー……まだ…………いないと思いますね……。ただやっぱり、恐竜で食べていくと言うのはすごく難しいことですよね。恐竜が大好きで一生懸命調べてくる子どもたちと話をして、なんとか次の自分の研究をバトンタッチできる人が育ってほしいという先生の思いもあるのではと感じます。

―― 収録の合間に先生方はどんなお話をされてるんでしょうか?

佐久間P 質問の話、あとは質問から派生した最近の研究の話をされていました。ご自身の研究内容に関するレジュメを他の先生に配ってらっしゃる先生もいましたね。

―― ある種の学際的な場にもなっているんですね。取り上げたくても取り上げられなかった質問はありますか。

佐久間P 当日がだめでも、先生が「ぜひこれは放送で答えたい!」という質問は、次の機会に持ち越すようにしています。今も前半のストックで後半に持ち越している質問がいくつかありますね。

―― おお、それは楽しみですね! 8月24日から放送の後半戦が始まりますが、展望や注目ポイントを教えてください。

佐久間P 前半戦は夏休みが始まったばかりの時期に放送していましたが、後半戦で質問してくれる子どもたちは、この夏休みにせいいっぱい遊び科学に触れ、日常の中でたくさんの新しい疑問が出てきているはずだと思います。ぜひその疑問を後半戦にぶつけて欲しいです。

 番組を作っている側も、毎回本当に子どもたちの質問に驚かされます。先生方の答えの中身も面白いですし、答えようとしている先生方の思いや苦しみを感じながら放送してますので、そういったところを一緒に共有して、ネットでも楽しんでいただけたらいいなと思っています。


夏休み子ども科学電話相談インタビュー インタビュー時の様子

―― ありがとうございます! 後半も、知的なスリルにハラハラしながら楽しもうと思います。

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2411/21/news027.jpg 大きくなったらかっこいいシェパードになると思っていたら…… 予想を上回るビフォーアフターに大反響!→さらに1年半後の今は? 飼い主に聞いた
  2. /nl/articles/2411/20/news049.jpg 高校生の時に出会った2人→つらい闘病生活を経て、10年後…… 山あり谷ありを乗り越えた“現在の姿”が話題
  3. /nl/articles/2411/20/news222.jpg ディズニーシーのお菓子が「異様に美味しい」→実は……“驚愕の事実”に9.6万いいね 「納得した」「これはガチ」
  4. /nl/articles/2411/20/news027.jpg 「こんなことが出来るのか」ハードオフの中古電子辞書Linux化 → “阿部寛のホームページ”にアクセス その表示速度は……「電子辞書にLinuxはロマンある」
  5. /nl/articles/2411/20/news054.jpg 「防音室を買ったVTuberの末路」 本格的な防音室を導入したら居住空間がとんでもないことになった新人VTuberにその後を聞いた
  6. /nl/articles/2411/20/news050.jpg プロが教える「PCをオフにする時はシャットダウンとスリープ、どっちがいいの?」 理想の選択肢は意外にも…… 「有益な情報ありがとう」「感動しました
  7. /nl/articles/2411/21/news083.jpg 間寛平、33年間乗り続ける“希少な国産愛車”を披露 大の車好きで「スカイラインGT-R R34」も所有
  8. /nl/articles/2411/21/news085.jpg 「もしかしてネタバレ?」 “timeleszオーディション”候補者がテレビ局を退社 ディズニーの“船長”としても話題
  9. /nl/articles/2411/18/news107.jpg 走行中の車から同じ速さで後方へ飛び降りると? 体を張った実験に反響「問題文が現実世界で実行」【海外】
  10. /nl/articles/2411/21/news018.jpg グルーミングが出来ない生まれたての子猫、とんでもない体勢になり…… 想像以上のへたくそっぷりに「どこにも届いてないww」「反則級」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  2. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  3. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  4. まるで星空……!! ダイソーの糸を組み合わせ、ひたすら編む→完成したウットリするほど美しい模様に「キュンキュンきます」「夜雪にも見える」
  5. 妻が“13歳下&身長137センチ”で「警察から職質」 年齢差&身長差がすごい夫婦、苦悩を明かす
  6. 人生初の彼女は58歳で「両親より年上」 “33歳差カップル”が強烈なインパクトで話題 “古風を極めた”新居も公開
  7. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. 互いの「素顔を知ったのは交際1ケ月後」 “聖飢魔IIの熱狂的ファン夫婦”の妻の悩み→「総額396万円分の……」
  9. ユニクロが教える“これからの季節に持っておきたい”1枚に「これ、3枚色違いで買いました!」「今年も色違い買い足します!」と反響
  10. 中央道から「宇宙戦艦ヤマト」が見える! 驚きの写真がSNSで注目集める 「結構でかい」「どう見てもヤマト」 撮影者の心境を聞いた
先月の総合アクセスTOP10
  1. 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
  2. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  3. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  4. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
  7. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  8. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  9. 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
  10. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた