早押しクイズの微分学 〜4文字でボタンを押す「最速の押し」が「最速ではなくなる」理由〜(3/3 ページ)
「お」を聞かないことで、先ほど切り捨てた「今にも○○」という口語表現は当然カットできなくなる。
パッと思い付くものでは、「今にも何かが成し遂げられそうな状態のことを、ある時間の単位を使った言い回しでなんという?」→「秒読み」などが可能性として生じるだろう。しかも「いまに/」で押して「も」が聞こえてしまった場合、「今にも」だけでは正解にたどり着けない。
また、「今に〜」で始まるフレーズ表現が他にもあるかもしれない。他のフレーズと比較してみた時、やはり「今に王になるように」の知名度、出題したときの面白さに軍配が上がるだろう(相撲だけに)。しかしながらそれは絶対的ではない。「今に『お』」まで聞けた状態とその後が分からない状態ではかなり絞り込みに差が出てくるだろう。
このような点から見ても、一文字ポイントを早めるだけで状況が全く変わってくる。一度開発された「ここで押せる」は、なかなか前に進まないだろう。
一方で、そのような良質な「ここで押せる」は皆に知れ渡るスピードもまた早い。大会でその押しが披露されたり、SNSなどで面白いゾスラとして広まったりすることで、「ここで押せる」の体得者が増えていくのだ。
するとどうだろう、最適化されたポイントであったはずの「ここで押せる」は、競合他社多数のレッドオーシャンとなり、そこで押してもランプを点けられる可能性は下がっていく。ここにおいて、「いまにお」で押していては最速たりえなくなるのだ。
とはいえ、前に述べたように「いまにお/」よりスラッシュを早めるのは危険な行為だ。研究され尽くしたポイントであるからしてここから先に進むとぐっとリスクは上がってくるだろう。
でも、僕は最速のポイントが早まると思う。「いまに/」で押して「佐渡ヶ嶽部屋」で正解が取れる様子を見た人のなかで、次に同じ出題がされたとき同じところで押そう、と思う人は少なくないだろう。知識上位のプレイヤーは押しのリスクなども考えて避けるかもしれないが、知識で劣るプレイヤーはスピード勝負に勝たなければリードが見えてこないので、この押しを実践する――いや実践せざるをえないはずだ。
競技クイズにおいては一問の問題で早押しランプを点けられるのは一人であり、すなわち最速を取れない限りそれは最適ではないのだ。ボタンを押された瞬間、押し負けた全てのプレイヤーはその問題に対するコミット権を失う。まずはボタンをつけること、これがクイズの基本だ。
このようにして、スピードに賭けているプレイヤーがこの押しをしだすと、それが広まりスタンダードとなっていく。確率的に分がいいとまでいえない状況だとしても、その動きは止められないだろう。「いまに」で始まる定番問題が新たに誕生しない限り(そしてそれは今のところ存在しないので)、「ここで押せる」のその先がジリジリと開拓されていくのだ。
つまり、研究による最適点は、それが生み出された瞬間から徐々に腐敗を始める。共通認識になればなるほど、ランプを点けるための意識は前のめりになっていくのだ。
こうして、早押しクイズ最適化問題の微分はうまくいかない。数学で言うところの病的関数のように、連続的であるにもかかわらずどこが明確に極値になるか分からず、それゆえにスラッシュは最適化できない。ある段階で「ここが最適」という共通認識が生まれると、実際の勝負ではそのポイントに先んじなければいけなくなるため自ら最適ではなくなるのだ。
まとめ
今回の結論はズバリ「最適最速の押しは、それ自体が広まることによって最適最速ではなくなる」である。あくまで理論上ではあるが、競技クイズのもつ性質により、最適は長くは存在し得ないのだ。
もちろん、これは半分以上おとぎ話で、現実的に起こっているかどうかは分からない。あくまで仮説だ。
でも、複数回出題される問題に対してこのようなアプローチが可能であることは事実であり、ミクロな面に注目するとクイズとはかくも奥深いものなのか、ということが感じられるであろう。この最適スラッシュの自己崩壊が果たしてクイズという競技の成立に悪い影響を及ぼすのか、それともさらなる戦術進化を生むのか、結果は分からないからこそ思考実験自体が大事だ。
クイズというのは、ただ問題を出して答えて、を繰り返す単調な競技ではない。クイズ文化という大きな枠組みの中で、潮流が生まれ、戦術が伝播(でんぱ)することで競技クイズそのものが変容していく、非常に社会的な営みなのだ。
嗚呼奥深きクイズの世界。前回の連載でも書いたが、「しょせんクイズ」と思わずに他の文化系競技に対して「こっちも負けるか」の精神で高めていく価値のあるものだと、僕は思う。そのためにも、まずはこの連載で少しでも競技クイズ世界の最先端をお見せできれば、と思っています。
- 連載:「クイズ王イザワの『分からないこともあります』」過去記事一覧
関連記事
- 「16×4は?」「68−4だから64」 小学1年生の掛け算の計算方法が斬新だと話題に
発想が見事。 - 「カニミソ」はカニの何なのか?
カニミソって何だ? 脳ミソか? 僕は何を食べようとしているのだ? - 漢字の「一」「二」「三」の次がいきなり「四」になるのはなぜなのか?
なんで横棒4本じゃないの? - Suicaはなぜ「充電なし」でいつまでも使えるのか?
よくよく考えてみると。 - 「甲子園の土、その後どうしてますか?」 元甲子園球児たちに聞いてみた
あの「奇跡のバックホーム」の走者だった方にもお話を伺いました。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
-
「理解できない」 大谷翔平と真美子さんの“スキンシップ”に海外驚き 「文化は100%違う」「伝説だわ」
-
「絶句」 ユニクロ新作バッグに“色移り”の報告続出…… 運営が謝罪、即販売停止に 「とてもショック」
-
「最高の人間」 大谷翔平が現地で“神対応”見せる 写真家の投稿に反響…… 「息子はまだ信じられないみたい」
-
「やはり……」 MVP受賞の大谷翔平、会見中の“仕草”に心配の声も 「真美子さんの視線」「動かしてない」
-
「中学生で妊娠」した“14歳の母”、「相手は逃げ腰」妊娠発覚からの経緯を赤裸々告白 母親の“意外な反応”も明かす
-
百均で多肉植物を購入→半年以上放置してしまったが…… 驚きの結果に「すごーい!」「品種は何ですか!?」
-
「ハリー・ポッター」の“レプリカ剣”を回収 銃刀法違反の可能性か…… 運営謝罪「申し訳ございません」
-
日本に1店舗のみの“完璧なマクドナルド”が778万表示の話題 地元民も「そんなすごい店やったんか…」「たまに使ってるけどそんなすげぇとこだったのね」
-
辻希美の高2長女、「明日皆さんにご報告があります」 16歳最後の日の意味深投稿に注目集まる
-
「これを見て退団するとは……」 楽天・田中将大、最後に見せた“衝撃の姿”にファン複雑 「ほんと辛い」
- 「絶句」 ユニクロ新作バッグに“色移り”の報告続出…… 運営が謝罪、即販売停止に 「とてもショック」
- 「やはり……」 MVP受賞の大谷翔平、会見中の“仕草”に心配の声も 「真美子さんの視線」「動かしてない」
- 猫だと思って保護→2年後…… すっかり“別の生き物”に成長した元ボス猫に「フォルムが本当に可愛い」「抱きしめたい」
- 「理解できない」 大谷翔平と真美子さんの“スキンシップ”に海外驚き 「文化は100%違う」「伝説だわ」
- 大きくなったらかっこいいシェパードになると思っていたら…… 予想を上回るビフォーアフターに大反響!→さらに1年半後の今は? 飼い主に聞いた
- 「大物すぎ」「うそだろ」 活動中だった“美少女新人VTuber”の「衝撃的な正体」が判明 「想像の斜め上を行く正体」
- 川で拾った普通の石ころ→磨いたら……? まさかの“正体”にびっくり「間違いなく価値がある」「別の惑星を見ているよう」【米】
- 大谷翔平と真美子さん、「まさかの服装」に注目 愛犬デコピンも大谷家全員で“歩く広告塔”ぶり発揮か
- 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
- 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
- 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
- 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
- フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
- 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
- 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
- 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
- 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
- ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
- 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
- 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた