謎多き集団「ヴァイキング」に女性戦士の存在が確認される
女性ヴァイキング戦士の伝承は事実をもとにしていたのかも?
ヴァイキングといえば、9世紀から11世紀にかけてヨーロッパの人々を脅かし続けた海賊集団、として知られているところでしょう。戦場で活躍する戦士、特に海賊ともなれば男所帯を想像しがちですが、ストックホルム大学などが、スウェーデン南東部で1880年に発見された上級ヴァイキング戦士の遺骨をあらためて調査したところ、埋葬された人物が女性であったことが新たに判明し、大きな話題となっています。
このお墓は10世紀半ばにヴァイキング村に作られたもので、中からは遺骨とともに剣、斧、弓矢、盾、2匹の馬の骨、ゲームと駒のセットなどが発見されています。
これら副葬品の数々はヴァイキングの戦士の墓に共通するもので、特にゲームの駒は「優れた戦術家と認められた、リーダー的存在の優秀な戦士の墓にしか入れられない」という点から、ヴァイキング上級戦士の墓であることは発見直後から判明していました。
そのため、この墓は「裕福なヴァイキング上級戦士の理想的な墓」として知られており、長年に渡って調査と研究が続けられていました。そして今回、発見当時には難しかったDNA鑑定があらためて行われたことで「埋葬された人物が、実は女性であった」という新たな事実が判明したのです。
もともとヴァイキングの登場する伝承では、「ヴァイキングの戦士は男性だけではなかった」ということが示唆されています。例えば10世紀アイルランドの文献には「女戦士インゲン・ルーア(赤い娘)が、ヴァイキングの船団をアイルランドへと導いた」という伝説が記されてるのです。
また13世紀アイスランドの英雄物語『ヴォルスンガ・サガ』に収録されている、数々のヴァイキングの物語には「男性戦士と共に戦う、盾を持った乙女」がたびたび登場しています。
すなわち、今回における「ヴァイキングの上級指揮官であった女性戦士の発見」によって、これら物語が神話的脚色ではなく、事実をもとに書かれたもの、という可能性が出てくるのです。
ヴァイキングとは
ヴァイキングとは、8世紀〜11世紀の西ヨーロッパを中心に活動していた武装集団を指す言葉です。現在では昨今の創作作品から「角の付いたヘルメットを被り、斧を振るって戦う凶悪かつ野蛮で粗暴な海賊団」というイメージが非常に強いのですが、実際には「必要とあらば戦闘および侵略・略奪も辞さないが、基本的には船での交易と商業を生業とする、商人であり農民であり漁民」です。
彼らは数多くの国との交易を行っていたためか、非常に卓越した知識と技術を持っていました。ヴァイキングの地理学や航海術などの知識、製鉄などの工業技術は、活躍時期となる8〜10世紀のヨーロッパ諸国を凌駕(りょうが)するものでした。
またヴァイキングは冒険者・開拓者でもあり、その卓越した技術の数々によって、北は北極海、南は地中海、東はカスピ海、西は遥か海の向こうにある北アメリカ大陸のニューファンドランド島にまで到達し、一部を植民地としています。
ただしヴァイキングに「文字で記録を残す」という習慣はなく、かつ活動時期が8〜11世紀と非常に短かかった上、さらに遅くとも15世紀までに「ヴァイキング」と呼ばれたすべての人々が地域に溶け込み、消えてしまっているのです。
さらに悪いことに、11世紀にはヴァイキングの文化がキリスト教に取り込まれてしまったため、「ヴァイキング自身によって書かれた資料や、キリスト教の影響を受けていないヴァイキングの文化や歴史について書かれた資料」はほとんど残されていません。
そのためヴァイキングの文化や歴史には今でも謎が多く、現在でも研究が続けられているのです。
(たけしな竜美)
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