埋立地から発掘された神ゲーの臭いをみんなで嗅ぐ 「低評価ゲームに愛を注ぐ男」のイベントは愛と狂気に満ちていた:モバクソ畑でつかまえて
9月18日、ロフトプラスワン WESTで行われた『ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム』出版記念イベントの様子をレポートします。
未来のゲームを想像でレビューするという、赤野工作さん(@KgPravda)による異色SF小説『ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム』の発売記念イベントが、去る9月18日、大阪のロフトプラスワン WESTで行われました。
同作はもともと、KADOKAWAの小説投稿サイト「カクヨム」で連載されていた1話完結型のオムニバス小説(関連記事)。著者の赤野工作さんは、ゲーム好きの間では有名な“低評価ゲーム”マニアとして知られ、以前からTwitterやニコニコ生放送などを通じて、世界中の低評価ゲームを遊んではレビューする――といった活動を行っていました。「ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム」にも数々の(架空の)低評価ゲームが登場しますが、同作はまさにそういった赤野さんの日々の活動から生まれた作品とも言えます。
イベントではそんな赤野さんによる「低評価ゲームコレクション」紹介をはじめ、赤野さんが低評価ゲームに興味を持つようになったきっかけや、「中国で最も有名な低評価ゲーム」を買い付けに中国まで足を運んだ話など、低評価ゲーム愛にあふれたエピソードが次々と披露されました。レポートは、モバクソゲーサークル「それいゆ」発起人の「怪しい隣人」(@BlackHandMaiden)さんでお送りします。
ライター:怪しい隣人
出来の良くないソーシャルゲームを勝手に「モバクソゲー」と名付けて収集、記録、紹介しています。モバクソ死亡リストは500件を超えました。年々ソーシャルゲームが複雑になり、ダメさを判定するのに時間がかかるのが最近の悩みです。本業はインフラエンジニア。そのためソーシャルゲームの臨時メンテは祭り半分胃痛半分な気分です。
「ああ播磨灘」から低評価ゲームの魅力にハマる
2017年9月18日、台風一過でちょっと落ち着いた大阪宗右衛門町。その一角にあるイベントスペース「ロフトプラスワン WEST」で、書籍『ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム』の出版記念イベント「〜2XXX年より、ゲーム愛をこめて。〜」が開催され、地の利(関西在住)を生かして参加してまいりました。
『ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム』について簡単に紹介いたしますと「未来に生きる作者が、過去低評価を受けたゲームが本来どういうものであったかをブログ形式で語っていく」という一種のSF小説……と見せかけて、実は「今後出てくるであろう低評価ゲームの再評価を前もってしておく」という狙いもあるという、ある意味狂気に満ちた作品でもあります。小説投稿サイト「カクヨム」で現在も連載中なので、興味のある方はぜひご一読ください。
出演者は、作者の赤野工作さん。普段は模範的工作員同志という名前で低評価ゲームの実況配信をしており、そちらの名義でご存じの方も多いのではないでしょうか。実際会場もほとんどそうでした。司会はライターの「SSDM」さんこと渡邉卓也さん(※)。
実は私、赤野氏とはちょっとしたご縁がございます。昔「美少女競泳メドレーバトル」というゲームがあまりにひどいのでぜひ皆やってくれと宣伝していたのですが、赤野氏がゲームを実況配信するためにメーカーに許可を取った際、メーカーの人が教えてくれたものすごいネタバレをなぜか私に共有してくれたのが、いろいろとやりとりをするようになったきっかけでした。「あなたには知る権利があると思いますので」と伝えられたその情報に「俺にはねえよそんな権利!」とモニターの前でもん絶したのを思い出します。
……話がそれました。イベントはいくつかのコーナーに別れていましたので、それぞれ印象的だったところをご紹介します。
まずは赤野工作氏ご本人について。会場ではやはり、赤野氏がそもそも低評価ゲームの再評価を始めるきっかけとなった「ああ播磨灘」(※)のお話が紹介されました。
幼少のころ、父親が買ってきてくれた「播磨灘」を楽しく遊んでいた赤野氏。しかし成長してから世間での「播磨灘」の評価を知り、「自分が楽しく遊んでいた作品が否定された」とショックを受けたのが今の活動につながっているとのこと。そもそも父上は赤野氏がゲームに詰まって助けを求めても「頑張れ」しか言わない人で、今でもゲームの楽しさが分からないと「自分の頑張りが足りない」と思ってしまうのはそのせいではないかと自己分析していました。
ソ連最後の家庭用ゲーム機に、CD-i版「ゼルダ」……
続けて、その趣味がさらに高じて生まれたコレクションを紹介。クソゲーオブザイヤー(※1)で取り上げられたクソゲーの数々はもちろん、ソビエト連邦最後の家庭用ゲーム機「ビデオスポルト3」、3DOのお色気ゲー「配管工はタイをつけない」、開発会社が水害にあって未完成でリリースされたエロゲー「夢の坂」、暗黒のトライフォースことCD-i(※2)用「ゼルダの伝説」、埋立地から発掘された(※3)「E.T.」――と、ここまでくると貴重品以前に何がなんだか分かりません。これらを終始「皆さんご存じだと思いますが」という枕ことばを付けながら解説していくのが大変印象的でした。全然存じません!!
なお「E.T.」については「ゴミ捨て場の臭いがするのをぜひ体感してほしい」ということで、休憩時間に「観客皆が臭い嗅ぐために並ぶ」「司会の渡邉さんがケースに入ったE.T.を持って巡回する」という正気を疑うような展開もありました。
「フォークロア・オブ・ノスタルジア」のモデルになったゲーム
休憩を挟んで、後半ではそれらのコレクションをどうやって手に入れたかという、赤野氏の旅行記の紹介に。中でも会場を沸かせたのが、「中国で最も有名な低評価ゲーム」こと「血獅」の話題でした。
赤野氏は散々な苦労をした揚げ句、中国で代理人まで立ててようやくこのゲームの正規版を手に入れたのですが、なんとその後「その『血獅』は初期版ではない。もっと低評価な初期版が存在する」という衝撃の情報を得たとのこと。旅の終わりがまた新たな旅の始まりになるドラマチックな展開。こんな体験もまた、「ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム」の物語づくりに生かされているのだろうか、と思わされますね!
話題はさらに「ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム」の創作秘話へと続いていきます。「『聖剣伝説4』は一体いつ出るのかと待ちわびている」という担当編集の話から始まり、各話で扱っているゲームのタイトル名にはちゃんと意味があること、ゲームを一緒にプレイしてくれるアンドロイド「Acacia」は、対戦相手がいないゲームのマッチング待ちに思い付いたこと……などなど。
いずれもなるほどとうなずく話ばかりだったのですが、何より印象深かったのは、「フォークロア・オブ・ノスタルジア」(※)というゲームのエピソードについて。
以前からどのエピソードにもだいたい元ネタがあると聞いていて、これは一体何のソーシャルゲームだろうとずっと考えていたのですが、今回なんと「セブンズストーリー」が元ネタであるといわれて驚きました。
このエピソードは「高齢者向けに懐かしのソシャゲを再現したがなぜそれが低評価だったのか」というお話なのですが、それゆえに赤野氏が「老人ホームで遊びたいゲームだから」という理由でこのゲーム(セブンズストーリー)を選んだのはある意味納得でした。旧「セブンズストーリー」には、そう言われるとうなずいてしまう、何とも言えない温かさがあったのです。
帰宅後に同エピソードを再読したのですが、クリスマスの夜に休みもせずゲームを修正している描写が実に「セブンズストーリー」の開発らしいとあらためて納得させられました。なお会場で赤野氏が「セブンズストーリープレイしてる人!」と声を上げてもあまり手が上がらず、思わず「せめてダウンロードだけでもお願いします!」と叫んでいたのはわたくしでございます。
薄れつつある「物語と現実の差」
イベントの最後は、事前にネットで募集していた「わたしの考えるゲームの未来」というお題の紹介になったのですが、投稿の中に「未来だと思われているけど既に近いものが実現しているゲーム」があったのが印象的だったと赤野氏。
例えば「うんこをスキャンして競う健康ゲーム」という投稿、実はこれは既に「うんこれ」というゲームが既に存在していたりします。
他にも近い技術が既に実現しているものがけっこうあったりして、本当に物語と現実の差がだんだん薄れていっているのだなあ、と感じました。そういう意味では「今後出てくるであろう低評価ゲームの再評価を前もってしておく」という工作氏の目標も、あながち夢ではないに違いない――とキレイに締めたいなと思ったのですが、最後に「エブリパーティ」(※)大会の募集で締め、という何もかもが台無しなエンディングを迎えてしまいました。ですがこのカオスもまた赤野氏らしいかなと思います。あらためて、楽しいイベントをありがとうございました。
本当はもっともっと細かく語りたいのですが、現時点で既に結構な分量を超過してしまっております。他の愉快なエピソードは、次回「ああ播磨灘対戦大会」が行われた際にでもまた語らせていただければと思います。
その他、会場に置かれていた低評価ゲームの数々
(怪しい隣人)
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