人間VSコンピュータオセロ 衝撃の6戦全敗から20年、元世界チャンピオン村上健さんに聞いた「負けた後に見えてきたもの」(1/3 ページ)
20年前。歴史を変えたAIとの戦いに、1人の日本人チャンピオンが挑んでいた。
2017年、人間は2つの知的ゲームでコンピュータに決定的な敗北を喫しました。
囲碁の世界レーティング1位の柯潔(カ・ケツ)九段が、米Google傘下DeepMindの囲碁AI「AlphaGo」との3番勝負で3戦全敗(関連記事)。
さらに将棋の佐藤天彦名人が、第2期電王戦二番勝負で将棋AI「PONANZA(ポナンザ)」に、先手番・後手番ともに敗れました(関連記事)。
急激に進歩するAIにより生活が激変するといわれる21世紀。2045年、あるいはそれを上回る速度で、人間の知能をAIが決定的に上回る「シンギュラリティ」が来るともいわれ、人間の存在価値すら問われ始めている昨今において、衝撃的な出来事でした。
そのちょうど20年前の1997年。囲碁と将棋のように、人間にとって非常にポピュラーな知的ゲーム2つで人間が敗れた、歴史的な年がありました。
チェスで伝説的世界チャンピオンだったガルリ・カスパロフ氏が、IBMが開発したAIの「ディープ・ブルー」に2勝3敗1分けで敗退。
そしてもう1つがオセロ。当時の世界チャンピオンだった日本人の村上健(たけし)氏が、NEC北米研究所によって作られた「ロジステロ」に6連敗で敗れました。
「コンピュータが人間を凌駕する」瞬間をいち早く、最も間近で迎えていたオセロ元王者・村上さん。彼に話を聞けば、そう遠くない将来に来るかもしれない「コンピュータが人間を上回った世界」でどう生きるかのヒントがあるはず。それを教わりに、ロジステロと戦った村上さんにお話を伺いました。(聞き手:辰井裕紀、杉本吏)
日本オセロ連盟の最高段位である“九段”を持つ村上さんは、現在52歳にして「パリオープン」「品川シーサイドオープン」などの公式戦を連続優勝し、レーティングで今もベスト10に入る、現役バリバリの世界的強豪です。普段は麻布学園で英語教諭として勤務。日本最強の高校オセロ部の顧問でもあります。
今も昔も「オセロ最強国」の日本
――そもそも、オセロはどれくらいの人がプレイしているのでしょうか?
オセロ人口は世界で約6000万人ほどいるとされます。あくまで参考の数ですが、囲碁や将棋をしのぐとも。
――日本は強豪国と聞きます。
「世界オセロ選手権」の40回の歴史のうち、29回は日本人が優勝しています。外国人が優勝したのは残りの11回のみです。団体戦に至っては、日本が昨年まで12年連続で優勝しているんです。
ですが現世界チャンピオンはタイ人の方ですし、ヨーロッパにも強い選手はいます。ただ強い人の絶対数では日本が圧倒的なので、団体戦では特に日本が強いですね。
オセロ高段者の実力
――高段者はどれくらい強いのですか?
九段を持っている人なら、石が一色になる「全消し(パーフェクト勝ち)」は4〜5級相手までだったらできる可能性は十分です。下手したら初段ぐらいの人でも、ちょっとミスすると、高段者に全消しされます。
「ルールを知っている」ぐらいだと、ほぼ100%全消しされるでしょう。基礎的な戦略を学んだ人じゃないと、パーフェクトを逃れるのは難しいです。
――ちなみにアタック25の出演者のパネルの取り方を見て、「なんでここ?」とフラストレーションがたまったりはしませんか?
オセロ選手はみんなそう思っていますね……(笑)。長年の経験があるので、もっと良い手がパッと見えますよ。
コンピュータオセロ黎明期
――最初にコンピュータオセロに触れたのはいつごろですか?
私が大学生ぐらいのころで、ツクダが出していたオセロ専用機「コンピュータオセロ M-2」です。ただ、さすがにそんなに強くありませんでした。なので、「どうやってパーフェクトを取るか」という遊び方を高段者たちはしていましたよ。
- 参考リンク:COMPUTER Othello M-II(80年代Cafe)
――1980年に、当時の世界チャンピオン井上博さんが、コンピュータとの6番勝負で1敗していますね。
井上さんが負けたときは話題にはなりましたが、あくまで「うっかりミスで負けた」と受け止められ、「コンピュータはまだまだ……」と思われていました。
――ファミコンソフトとして、1986年にカワダから「オセロ」が発売されました。強さはいかがでしたか?
かなり強くなっていて、初段程度のレベルでした。もうこの時点で、油断して打っていてうっかりミスなどすると高段者でも負けてしまうことがありましたよ。
オセラーの目の色を変えた「森田オセロ」
――はじめてコンピュータの強さを皆が認識した機会はいつだったのでしょうか?
1982年の「新宿オセロ順位戦」という、日本トップレベルのオセラーが集まった大会です。全日本選手権の2位と3位も参加し、後の世界チャンピオンになった選手もいた大会に、「森田オセロ」(※)というソフトがゲスト参加しました。
※森田オセロ:「森田将棋」などでも知られる著名なゲームプログラマー・森田和郎氏が開発したコンピュータオセロソフト。
森田オセロは、当時ASCIIが開催していたコンピュータオセロの大会「マイクロオセロリーグ」を優勝した最強ソフトです。そして人間の強豪相手に6戦全勝で優勝という恐ろしい成績を残したのです。
そこでみんなの見方が劇的に変わりました。実際に対戦してみて「すごく強いな」と。ただここから人間側も対策をして、次の試合では5勝1敗、その次は3勝3敗と森田オセロは成績を落としていきましたが。
しかしその頃から、オセロ選手は強い危機感を持ち始めました。
オセロは「囲碁や将棋と比べると単純なゲーム」という誤解をずっと受けてきましたが、実際にはそんなことはまったくありません。確かにゲームの持つ総変化数(※)だけで見れば、囲碁や将棋ほどではないのですが、そもそも「人間には絶対に経験し尽くすことのできない広さ」という意味では、その比較は意味がないんです。
※総変化数:そのゲームで出現し得る盤上の変化手順の総数。おおよそオセロは10の60乗、チェスは120乗、将棋は220乗、囲碁は360乗とされている。
例えばあるオセロ選手が一日に100試合オセロをするとします。それを毎日繰り返すと1年で3万6500局。それを100年続けたら365万局。大変な数の試合ですが、実は10の7乗にも満たない。オセロの総変化数(10の60乗。概算)がいかに膨大かが分かるでしょう。
ゲームの広がりはもちろんのこと、その難解性においてもオセロは決して囲碁・将棋に引けを取りません。一手ごとに盤上の石の配置が大きく変わるため、数手先の局面を読むのは高段者でも至難の業です(編注:詳しくは後述)。他の盤上ゲームに決して劣らない複雑性と面白さを持っているのに、コンピュータとやって負けてしまうと「やっぱりオセロは単純だな」とさげすまれてしまうのが怖かった。
着実に強くなるコンピュータを見て、オセロの将来に不安を感じる選手も多かったです。
AI研究者からの「半ば侮辱的な挑発」
――本格的な人工知能ソフトと戦うきっかけは何でしたか?
あるAI研究者による「オセロの選手たちは敗北の可能性を察知してコンピュータの挑戦を全て拒否している」という記事が欧米のコンピュータ雑誌に載ったのです。1993年の5月、私は記事を見て怒りました。
そういう挑戦を私は受けていなかったし、何人かの日本人チャンピオンに問い合わせても誰もそのような挑戦を受けていなかった。これはひどいということで、反論の手紙を送りました。「日本人を人間に含めないあなたの態度を不愉快に思った。私はいつでも誰の挑戦でも受ける用意がある」と少し皮肉も込めて書き添えました。
すると、その記事を書いた教授から手紙が返ってきました。「あなたの勇気に敬意を表する」と始まっていますが、「アフリカのとある部族がハイジャンプで3メートル飛べると主張しているのに似ている。彼がオリンピックに来て、実際にその技を見せない限り、それが不可能だと周りの人が判断しても責められないだろう」ともありました。
おそらくこの教授は、世界選手権で日本人が圧倒的な成績を残していることすら知らなかったのでしょう。欧米の選手何人かにコンピュータとの対戦を持ちかけて、断られたあとに記事を書いたのではと思っています。
そして彼の作っているAIと戦おうという話になりましたが、それは諸事情で立ち消えになってしまいました。
期せずして実現した「人類VSコンピュータ」世紀の一戦
――そこからロジステロとの戦いへ、どうつながっていったのですか?
1995年、ロジステロの製作者であるマイケル・ブロ博士から「あなたは今でもコンピュータとやる気はあるか?」という問い合わせが来ました。
当時私は五段でしたが、勝ちまくっていておそらく世界トップクラスの実力がありました。私はOKし、翌1996年に「来年(1997年)の8月に人間VSコンピュータをやろう」と対戦が決定。
そのあと私が1996年の11月の世界選手権で初優勝したのですが、ブロさんは喜んでくれました。それもそのはず、当初は「いち強豪オセロ選手」と「いち強豪オセロソフト」の戦いでしたが、期せずして「世界チャンピオンVSコンピュータ」の世紀の一戦が実現することになったのですから。
さらに、1997年5月にディープ・ブルーがカスパロフ氏を破ったことでAIへの関心が高まり、オセロにおける戦いも飛躍的に大きな注目を集めることになったのです。
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