「君の名は。」「おそ松さん」「文スト」……アニメの“予告編”ってどうやって作られてるの? ディレクターに聞いてきた(1/3 ページ)

予告編制作の裏側。

» 2017年11月25日 12時00分 公開
[福田瑠千代ねとらぼ]

 「君の名は。」「おそ松さん」「正解するカド」「文豪ストレイドッグス」「楽園追放」……これらのヒット作にはある共通点があります。それは“予告編”。一見スタッフも制作スタジオもバラバラですが、予告編を手掛けているのは全て“10GAUGE(テンゲージ)”。東京都世田谷区にある、スタッフ数10人に満たない少数精鋭の映像スタジオです。

10GAUGEによる予告編

 テレビアニメは毎クール50本以上の新作が放送されます。訓練されたアニメファンでも、これだけの物量を全てチェックするのは至難の業。本当は本編を見てどの作品を視聴するか決めたくても、時間の都合上予告編の内容を元にふるいにかける人も少なくないのではないでしょうか。供給過多な状況において、作り手側もいかに作品を埋もれさせないかに苦心します。本編に一瞬でも触れてもらえるかどうかが、既に大きな勝負なのです。

 そんなアニメ界で常に“目立つ”予告編を作り続ける10GAUGEとはどんなスタジオなのか? また知られざる予告編づくりの裏側とは? 同社の代表で、映像ディレクターでもある依田伸隆さんにたっぷりとお話を聞きました。


「君の名は。」「おそ松さん」「文スト」……アニメの“予告編”ってどうやって作られてるの? ディレクターに聞いてきた 依田伸隆さん。10GAUGE代表で、自ら予告編を制作するディレクターでもある

スケジュールは激シビア

―― 10GAUGEでは1クールに何本くらい案件を抱えているんですか?

依田:前に数えてみたら16本もあって我ながら青ざめました。テレビだけではなく映画やOVA的なものも含むので一概にはいえませんが。

―― すごい数ですね。作業は何人で行っているのでしょうか。

依田:6人です。でもそれはプロデューサー1人とイラストレーター1人を含めた数なので、映像特化のスタッフは僕を入れて4人ですね。タイトルによっては全員野球になりますが、「このタイトルはこの2人で」とか、「このタイトルは自分1人でできるな」とか、案件によって戦力を割り振っています。僕は主に編集やディレクションを担当しています。


「君の名は。」「おそ松さん」「文スト」……アニメの“予告編”ってどうやって作られてるの? ディレクターに聞いてきた

―― テレビアニメはだいたい1話3カ月前後で作られるイメージがありますが、予告編のスケジュール感はどういったものなのでしょうか。

依田:スケジュールは結構“激シビア”です(笑)。短いときだと2〜3日ということもあります。相談自体は早めに来るんですよ。4月放送開始であれば、遅くとも年明けごろまでにはお話が来ます。いったん打ち合わせはするんですが、そこで大抵の場合「実際、素材ができてないんです」という話になります。

 完成した絵がなくても、絵コンテは先行して上がってくるので、それを元に「先行カット」を決めていきます。監督やプロデューサーとも相談しつつ、予告編やPVに盛り込みたいカットを「これ先に作業してください」と、優先的に作業してもらうんですね。絵だけでなく音も間に合ってなかったりするので、それもこちらで作って、一度コンテ撮(※コンテの状態で作る仮の映像)で仮組みを行うんです。

―― 音まで10GAUGEで付けるんですか?

依田:僕はもともと音楽もやっていたので、そこまでやれるのがうちの強みでもあります。主題歌など既にできている曲があればいいんですが、ない場合は一度こちらで作っちゃいますね。それがそのまま放送されてしまうこともあったりします。

 コンテ撮を作るのは、「こういうことがやりたいんです」という骨組みを作って、相手のスタジオに納得してもらうためです。相手からしてみても、「だから僕らは急がなければいけないんだな」というのがはっきりするので、動きやすくなります。とはいえコンテ撮までは先にできますが、そこから期間が開いて、本番の絵やCGで作業ができるのはそれこそ放送直前の1週間程度だったりします。


「君の名は。」「おそ松さん」「文スト」……アニメの“予告編”ってどうやって作られてるの? ディレクターに聞いてきた 依田さんの作業部屋には楽器がずらり
「君の名は。」「おそ松さん」「文スト」……アニメの“予告編”ってどうやって作られてるの? ディレクターに聞いてきた クローゼットを改造した簡易のレコーディングスペースも

―― 他に予告編を作るに当たって特殊な工程はあったりしますか。

依田:セリフの先行収録は意外と知られてないかもしれません。お話が来た時点でコンテや作画がまだでも、シナリオは最後までできていることが多いんです。一度シナリオを読ませていただき、そこからセリフを抜き出すんですが、欲しいセリフはまだアフレコされていないことも多い。そこで目当てのセリフだけを先行収録することがあります。

 例えば7話に良い感じのセリフがあれば、まだ声優さんは1話のアフレコも済んでないのに、先に7話のセリフを読んでもらいます。どのセリフを選ぶかは、その都度監督やプロデューサーと相談です。


コンペになった「君の名は。」の予告編

―― 具体的な作品についても伺わせてください。「君の名は。」の予告編はどういった経緯でご担当されたのでしょうか。こちらはテレビではなく劇場作品なので、スケジュールはもう少し余裕がありそうですね。

依田:そうですね。実は「君の名は。」の前に、劇場版「Wake Up, Girls!」の予告編で東宝さんとご一緒していて、そのご縁でお声がけいただきました。最初にプロデューサーの川村元気さんに「これは20億円以上を狙ってる大作なので、それに見合うPVがほしい」と脅されまして(笑)。分かりましたと、お受けしました。

 そのときに言われたのは、「これは『映画』として推したい」ということでした。“キャラ”や“萌え”推しで、「アニメ」として押し出す方法もあるけど、今回はアニメファンに限定しない広い間口に向けたものが欲しいと。

―― 特報は新海監督によるもので、依田さんは映画公開直前の予告を手掛けているんですよね。新海さんの編集は叙情的なのに対して、依田さん版はぐいぐい盛り上げていく印象を受けました。

依田:「君の名は。」では予告を2本手掛けていまして、2本目の「予告2」はいろいろあって思い入れ深いです。僕の予告と新海監督が作った予告が東宝内でコンペになったんですよ。僕も新海さんのファンなので「絶対新海さんに作らせた方が良いよ!」と思ったんだけど(笑)。


新海誠監督による特報映像。記事冒頭や以下に掲載した依田さん版と比較するとおもしろい
依田さんによる、新海監督版の予告とコンペになったという「予告2」

―― ただでさえ20億のプレッシャーがあるのに(笑)。

依田: 「PV2」では最初に1テイク提出し、その後東宝さんとディスカッションを重ねつつ20テイク以上作り、結局最初のテイクが採用になりました。いろんな可能性を模索した上で、ちゃぶ台を返してでも1テイク目を選べる東宝さんすごいなと思いましたね。

 そこからさらに新海監督から「申し訳ないですが、イメージとちょっと違うので自分にも作らせてほしい」という要望が出まして、それで新海さん版の予告と、僕が作ったテイク1に最新の絵を加えた修正版が委員会内でコンペになりました。結果的に僕のが選ばれましたが、言うまでもなく新海さんはPVを作る天才なので、こちらも作っていて生きた心地はしませんでしたね(笑)。


「君の名は。」「おそ松さん」「文スト」……アニメの“予告編”ってどうやって作られてるの? ディレクターに聞いてきた

―― 新海監督がLINE LIVEの特番で、本予告を見て「勉強になった」とおっしゃっていましたよ。「自分の作品の予告は自分が一番上手に作れると思っていたのに」と。

依田:いやあ恐縮です。本編を作っていると、予告編が本編の内容に引っ張られる部分は出てくると思うんですよ。細かいところだと、例えば「この時点では三葉は髪を切っていないので、ここの画は時系列順で長髪にしたい」とか。でも本編と切り離して見たときに、絵につながりとしての気持ちよさがあれば、時系列って案外気にならなかったりするんです。第三者が編集すると、映像を良くも悪くも客観的に切れてしまうんです。

―― 予告編では「入れ替わってる!?」など、キャッチーなワードも印象的でした。

依田:「入れ替わってる!?」「イケメン男子にしてください!」とかは100%使うので、絶対最初に抜き出しておくやつです。声を張ってるシーンやテンションの上がるセリフは予告編内でも“きっかけ”になるので。あと僕はよく、「雨」「叫び」「走り」など、一度要素レベルで映像を抜き出します。そこから再構築をしていく。ただし本編を分断してしまうので、どこまで踏み込めるかは毎回試行錯誤です。やりすぎるとちょっとそれは……となってしまいますから。

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2411/08/news177.jpg イモト、突然「今日まさかの納車です」と“圧倒的人気車”を購入 こだわりのオプションも披露し光岡自動車からの乗り換えを明かす
  2. /nl/articles/2411/06/news180.jpg 「むりだろww」「笑いました」 ニトリでソファ購入 → 愛車の前でぼうぜん…… “まさかの悲劇”が1000万表示
  3. /nl/articles/2411/07/news182.jpg 「デコピンの写真ください」→ドジャースが無言の“神対応” 「真美子さんに抱っこされてる」「かわいすぎ」
  4. /nl/articles/2411/07/news163.jpg 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」
  5. /nl/articles/2411/05/news138.jpg 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  6. /nl/articles/2411/08/news132.jpg peco、息子の近影を公開「すごーくりゅうちぇるに見えます!」「パパに似てる〜」 息子のスクールランチも色とりどりでおいしそう
  7. /nl/articles/2411/08/news143.jpg 高嶋ちさ子、3000万円超の“超高級外車”ゲットにドヤ顔も! 笑い止まらずハンドル握り「Woohoo!!!」
  8. /nl/articles/2411/07/news029.jpg 50代主婦が5日間、ひたすら草抜き&庭木の剪定→たった一人でやり遂げたとは思えないビフォーアフターに称賛の嵐 「尊敬する」「本当に脱帽です」
  9. /nl/articles/2411/08/news025.jpg 「そうはならんやろ」クルマ修理会社の壁を見ると…… まさかの“シュールすぎるイラスト”に9万いいね 「よすぎる」「天才か」
  10. /nl/articles/2411/08/news111.jpg 2人組ガールズユニット、突然の脱退を発表 マネージャー「本人の意思ではない」 母親とする人物からの脱退理由と経緯説明が物議
先週の総合アクセスTOP10
  1. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  2. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  3. 結婚相手を連れてくる妹に「他の人に会わせられない」と言われた兄、プロがイメチェンしたら…… 「鈴木亮平さんに見えた」大変身に驚がく
  4. 「2007年に紅白出場」 38歳になった“グラビア界の黒船”が1年ぶりに近影公開→驚きの声続々
  5. 「クソビビったwww」 ハードオフに38万5000円で売っていた「衝撃的な商品」が90万表示 「売った人突き止めたい」
  6. 夫婦喧嘩した翌朝の弁当を夫が作ったら…… “森”すぎるビジュアルに「インパクトすごい」「最高に笑いました」の声
  7. 約9万円の「高級激レアガンプラ」を10時間かけて制作→完成品に「家宝だ」「めっちゃくちゃにかっこいい!!」
  8. 天皇皇后両陛下主催の園遊会、“お土産”に注目 ジョージア大使「大好物です」「娘たちからも大好評」
  9. 「庶民的すぎる」「明日買おう」 大谷翔平の妻・真美子さんが客席で食べていた? 「のど飴」が話題に
  10. 事故で重体の人気日本人TikToker、1カ月の意識不明と家族ケア経て逝去……“旅立ち直前に会った”親友は「励ましに来てくれてたのかな」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
  2. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  3. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  4. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
  7. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  8. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  9. 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
  10. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた