「君の名は。」「おそ松さん」「文スト」……アニメの“予告編”ってどうやって作られてるの? ディレクターに聞いてきた(1/3 ページ)
予告編制作の裏側。
「君の名は。」「おそ松さん」「正解するカド」「文豪ストレイドッグス」「楽園追放」……これらのヒット作にはある共通点があります。それは“予告編”。一見スタッフも制作スタジオもバラバラですが、予告編を手掛けているのは全て“10GAUGE(テンゲージ)”。東京都世田谷区にある、スタッフ数10人に満たない少数精鋭の映像スタジオです。
テレビアニメは毎クール50本以上の新作が放送されます。訓練されたアニメファンでも、これだけの物量を全てチェックするのは至難の業。本当は本編を見てどの作品を視聴するか決めたくても、時間の都合上予告編の内容を元にふるいにかける人も少なくないのではないでしょうか。供給過多な状況において、作り手側もいかに作品を埋もれさせないかに苦心します。本編に一瞬でも触れてもらえるかどうかが、既に大きな勝負なのです。
そんなアニメ界で常に“目立つ”予告編を作り続ける10GAUGEとはどんなスタジオなのか? また知られざる予告編づくりの裏側とは? 同社の代表で、映像ディレクターでもある依田伸隆さんにたっぷりとお話を聞きました。
スケジュールは激シビア
―― 10GAUGEでは1クールに何本くらい案件を抱えているんですか?
依田:前に数えてみたら16本もあって我ながら青ざめました。テレビだけではなく映画やOVA的なものも含むので一概にはいえませんが。
―― すごい数ですね。作業は何人で行っているのでしょうか。
依田:6人です。でもそれはプロデューサー1人とイラストレーター1人を含めた数なので、映像特化のスタッフは僕を入れて4人ですね。タイトルによっては全員野球になりますが、「このタイトルはこの2人で」とか、「このタイトルは自分1人でできるな」とか、案件によって戦力を割り振っています。僕は主に編集やディレクションを担当しています。
―― テレビアニメはだいたい1話3カ月前後で作られるイメージがありますが、予告編のスケジュール感はどういったものなのでしょうか。
依田:スケジュールは結構“激シビア”です(笑)。短いときだと2〜3日ということもあります。相談自体は早めに来るんですよ。4月放送開始であれば、遅くとも年明けごろまでにはお話が来ます。いったん打ち合わせはするんですが、そこで大抵の場合「実際、素材ができてないんです」という話になります。
完成した絵がなくても、絵コンテは先行して上がってくるので、それを元に「先行カット」を決めていきます。監督やプロデューサーとも相談しつつ、予告編やPVに盛り込みたいカットを「これ先に作業してください」と、優先的に作業してもらうんですね。絵だけでなく音も間に合ってなかったりするので、それもこちらで作って、一度コンテ撮(※コンテの状態で作る仮の映像)で仮組みを行うんです。
―― 音まで10GAUGEで付けるんですか?
依田:僕はもともと音楽もやっていたので、そこまでやれるのがうちの強みでもあります。主題歌など既にできている曲があればいいんですが、ない場合は一度こちらで作っちゃいますね。それがそのまま放送されてしまうこともあったりします。
コンテ撮を作るのは、「こういうことがやりたいんです」という骨組みを作って、相手のスタジオに納得してもらうためです。相手からしてみても、「だから僕らは急がなければいけないんだな」というのがはっきりするので、動きやすくなります。とはいえコンテ撮までは先にできますが、そこから期間が開いて、本番の絵やCGで作業ができるのはそれこそ放送直前の1週間程度だったりします。
―― 他に予告編を作るに当たって特殊な工程はあったりしますか。
依田:セリフの先行収録は意外と知られてないかもしれません。お話が来た時点でコンテや作画がまだでも、シナリオは最後までできていることが多いんです。一度シナリオを読ませていただき、そこからセリフを抜き出すんですが、欲しいセリフはまだアフレコされていないことも多い。そこで目当てのセリフだけを先行収録することがあります。
例えば7話に良い感じのセリフがあれば、まだ声優さんは1話のアフレコも済んでないのに、先に7話のセリフを読んでもらいます。どのセリフを選ぶかは、その都度監督やプロデューサーと相談です。
コンペになった「君の名は。」の予告編
―― 具体的な作品についても伺わせてください。「君の名は。」の予告編はどういった経緯でご担当されたのでしょうか。こちらはテレビではなく劇場作品なので、スケジュールはもう少し余裕がありそうですね。
依田:そうですね。実は「君の名は。」の前に、劇場版「Wake Up, Girls!」の予告編で東宝さんとご一緒していて、そのご縁でお声がけいただきました。最初にプロデューサーの川村元気さんに「これは20億円以上を狙ってる大作なので、それに見合うPVがほしい」と脅されまして(笑)。分かりましたと、お受けしました。
そのときに言われたのは、「これは『映画』として推したい」ということでした。“キャラ”や“萌え”推しで、「アニメ」として押し出す方法もあるけど、今回はアニメファンに限定しない広い間口に向けたものが欲しいと。
―― 特報は新海監督によるもので、依田さんは映画公開直前の予告を手掛けているんですよね。新海さんの編集は叙情的なのに対して、依田さん版はぐいぐい盛り上げていく印象を受けました。
依田:「君の名は。」では予告を2本手掛けていまして、2本目の「予告2」はいろいろあって思い入れ深いです。僕の予告と新海監督が作った予告が東宝内でコンペになったんですよ。僕も新海さんのファンなので「絶対新海さんに作らせた方が良いよ!」と思ったんだけど(笑)。
―― ただでさえ20億のプレッシャーがあるのに(笑)。
依田: 「PV2」では最初に1テイク提出し、その後東宝さんとディスカッションを重ねつつ20テイク以上作り、結局最初のテイクが採用になりました。いろんな可能性を模索した上で、ちゃぶ台を返してでも1テイク目を選べる東宝さんすごいなと思いましたね。
そこからさらに新海監督から「申し訳ないですが、イメージとちょっと違うので自分にも作らせてほしい」という要望が出まして、それで新海さん版の予告と、僕が作ったテイク1に最新の絵を加えた修正版が委員会内でコンペになりました。結果的に僕のが選ばれましたが、言うまでもなく新海さんはPVを作る天才なので、こちらも作っていて生きた心地はしませんでしたね(笑)。
―― 新海監督がLINE LIVEの特番で、本予告を見て「勉強になった」とおっしゃっていましたよ。「自分の作品の予告は自分が一番上手に作れると思っていたのに」と。
依田:いやあ恐縮です。本編を作っていると、予告編が本編の内容に引っ張られる部分は出てくると思うんですよ。細かいところだと、例えば「この時点では三葉は髪を切っていないので、ここの画は時系列順で長髪にしたい」とか。でも本編と切り離して見たときに、絵につながりとしての気持ちよさがあれば、時系列って案外気にならなかったりするんです。第三者が編集すると、映像を良くも悪くも客観的に切れてしまうんです。
―― 予告編では「入れ替わってる!?」など、キャッチーなワードも印象的でした。
依田:「入れ替わってる!?」「イケメン男子にしてください!」とかは100%使うので、絶対最初に抜き出しておくやつです。声を張ってるシーンやテンションの上がるセリフは予告編内でも“きっかけ”になるので。あと僕はよく、「雨」「叫び」「走り」など、一度要素レベルで映像を抜き出します。そこから再構築をしていく。ただし本編を分断してしまうので、どこまで踏み込めるかは毎回試行錯誤です。やりすぎるとちょっとそれは……となってしまいますから。
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