Twitterで10億人を襲ったサメ映画「シャークネード」を一挙に振り返る
今月はサメ強化月間。
たった一度の放送でツイッターのタイムラインを文字通り”押し流した”映画を知っているか? ――シャークネードだ。当初のタイトルでは誰一人キャストが集まらず、「DARK SKIES」としてキャストを集め、撮影開始後に本タイトルを明かした映画を知っているか? ――シャークネードだ。
「Glee」のメインキャスト、コリー・モンティスが死の直前に言及した映画を知っているか? ――シャークネードだ。それでは、現アメリカ大統領ドナルド・トランプがその出馬前、大統領役を快諾した映画を知っているだろうか? ――もちろん、それはシャークネードだ。
サメを巻き込んだ竜巻がロサンゼルス、ニューヨーク、イギリス、日本、ひいてはスペースシャトルを襲う空前絶後のパニック・アクション、「シャークネード」シリーズ第5作「シャークネード5 ワールド・タイフーン」がついに日本で公開される。……とはいえもちろん、劇場公開の予定はない。
日本最速公開は11月11日のニコニコ生放送、次いで11月20日に映画専門チャンネル・ムービープラスの「アサイラム・アワー」にて放送され、12月2日、晴れてDVDリリースとなる。製作はパロディ映画メーカー・アサイラム社、日本での配給は数多のアレな映画を日本に撒き散らし続けているアルバトロス・フィルムだ。
DVDの発売を祝し、「シャークネード1〜5」のシリーズ全作品のレビューを3度にわたりお届けする。ネタバレも全開だ。前作までの内容を忘れていても大丈夫、全ての準備を万端に、新作に備えよ、センタ・パラタス!
SNSを文字通り押し流した第1作「シャークネード サメ台風」
海辺でライフガードをしながらバーを営むフィン・シェパードは元サーフィンのワールド・チャンピオン。馴染みの客・ジョージの自慢話と自分に好意を持つ若い店員・ノヴァのちょっかいも聞き飽きながら、今でも別れた妻と子供のことが気がかりだ。
そんな中サーフモービルを運転する馴染みのバズがサメに足を噛まれ負傷。続き沿岸に巨大な嵐が到来。大量の海水を巻きあげた嵐――と飛来するサメたちが店のガラスを突き破り、フィンたちを襲う! 次々犠牲となるビーチの水着観光客!
バズ、ノヴァ、ジョージとともに命からがら車に乗り込んだ一行はこのままでは嵐が収まらないと予想。フィンの元妻・エイプリルと娘・クラウディアの住むロサンゼルスの内陸へ向かう。すでに辺りは浸水しており、道路はサメで溢れているというのに事態を把握しておらず、更に新しい男・コリンを家に招いていたエイプリルはフィンを追い返そうとするが、プールに降ってきていたサメが窓を突き破りコリンを一口で殺してしまう。
脱出した一行は航空学校に通う息子・マットと合流し、竜巻に爆弾を投下して消滅させる作戦を練る。マットとノヴァの乗るヘリが次々とシャークネードを消滅させていくが、最後の一本を消す前に爆弾の在庫が尽きてしまい、風に煽られ落下したノヴァはサメの餌食に。
ここで緊急時にとバズの用意していた「Bプラン」が始動――さらなる巨大爆弾を積み込んだ車を突っ込ませ爆破! 竜巻が消滅し、空からは支えを失った無数のサメたちが落下し始める。
チェーンソーを手にサメの口に飛び込んだフィンは、サメの体内からノヴァを救出。フィンは子どもたちと血まみれのハグを、そしてエイプリルと血まみれのキスを交わし、ボロボロになったロサンゼルスを見渡し一言、「なんて日だ」。ここまでざっくり1時間半、一体何を見せられたのかわからないままの視聴者を横目に爆音で流れ始めるテーマソングは、その名も「The Ballad Of SHARKNADO」!
本作はとにかく無茶苦茶で愛おしい、B級ディザスター・ムービーだ。アサイラム社が今までやってきたこと、作ってきたものとほとんど変わりはない。米国の初回放送時には出演者・スタッフ・監督・脚本の誰一人が成功を確信しておらず、それぞれの家族からツイッターを見せられて「一体何が起こっているんだ!?」と困惑。
分速5000ツイートをアベレージに叩き出した同作は翌朝のモーニング・ショー(朝の情報番組)を席巻し、再放送のたびに文字通りSNSをサメの嵐に叩き込んだ。これはとにかくバカでキュートにフルスロットルのノンストップ・アクションを続ける作品がSNSの「みんなで同じ作品を実況する」という行為にピッタリハマった、ということだろう。
結果シャークネードはアサイラム史上屈指の大成功を収め、それで得た利益は「アンドロイドコップ」「バトル・オブ・アトランティス」といった今まで通りの映画に投入された。どのような映画かはお察し願いたい。
しかしシャークネード続編への期待は止まず、それはアサイラムのスタッフに対して大きなプレッシャーとなった。製作することは決定していたが、初回と違い今回は手の内を明かしてしまっている。テレビをつけたら空から降ってくるサメをチェーンソーでなぎ倒す男が写っていた、という勝ちの状況は作れない。今度は誰もが最初から「空から降ってくるサメ」を待ち構えているのだ。前作の衝撃は超えなければならない!
製作側には勝算があった。「これだけ話題になったのだ、ツイートしてくれたセレブたちに片っ端から声をかけて続編に出てもらおう!」。オリヴァー・ワイルド、エリザベス・バンクス、ミア・ファロー、パットン・オズワルト、レディー・ガガ、ウィリアム・シャトナー……、全員に断られた。誰一人オファーを受けなかった。セレブはサメに食われてくれない。
しかし町中で撮影を行うたび、どこから来たのかシャークネード・ファンたちが集まり、フィンを、エイプリルを、現場を見に来てくれた。彼らが映り込まないようにカメラの構図を変更したほどだ。更には幸運なことに前作のキャストはほぼ続投、更に新規キャラクターのキャスティングも順調に進んだ――少なくとも、タイトルを隠してオファーするような状態にはならずに済んだのだ。
しかし撮影終盤、スタッフの前に壁が立ちふさがる。どうしても撮りたいシーンができたのに、予算が足りない! クソ映画に使いすぎた! そこでプロデューサーは起死回生の手に打って出た。クラウドファンディングでファンから資金を募ったのだ。
こうして撮影されたのが、竜巻の中に飲み込まれたフィンがチェーンソーを手にサメを切り刻む作中屈指の空中アクションシーン。無事に5万ドルを集め――そのうち1万ドルは一個人の手によるものである――映画は完成。
2014年7月、Syfyはディスカバリーチャンネルの長寿番組、「SHARK WEEK」にかけた「シャークネード・ウィーク」と称して1週間サメ映画を流し続けた。「メガシャークvsメカシャーク」「シャークトパスvsプテラクーダ」が披露されたのもこのタイミングだが、視聴者が求めたのはやはりシャークネードの新作だった。
期待を遥かに超えてきた「シャークネード:カテゴリー2」
「シャークネード:カテゴリー2」。エイプリルは『 HOW TO SURVBIVE A SHARKNADO(いかにしてシャークネードを生き延びるか)』と題した本を出版、そのサイン会、およびフィンの妹夫婦との食事会のためニューヨークへ向かっていた。やけに揺れる飛行機の中で一人落ち着きのないフィン。ふと気になって覗き込んだ窓から見えるのは飛行機の尾翼に迫る怪しい影……サメだ! ニューヨークにもシャークネードが迫っている!
サメに襲われた飛行機をフィンが不時着させている間にエイプリルは左腕をサメに食いちぎられてしまう。フィンはエイプリルを入院させ、野球場にて甥、義理の弟で元悪友・マーティンとその友達、そして元カノのスカイと合流。
巨大竜巻は自由の女神を破壊し、サメを町中に撒き散らし、あげくのはてに竜巻同士が合体しさらなる巨大竜巻へと変化。前作同様爆弾を投げ込むもビクともしないばかりか、逆に炎に包まれたサメが降り注ぎより深刻な事態に。「嵐もサメもニューヨークじゃタフだ」って、そんなもんでいいのか?
炎がだめなら冷凍だ、とエンパイアステートビルに貯蔵されたフロンを利用し竜巻を凍らせることに。その前にニューヨーカーたちの前での演説も忘れちゃいけない。「みんなでサメをぶっ殺せ!」の掛け声のもと、それぞれの車から武器を取り出すニューヨーカーたち。農具、チェーンソー、火炎放射器、明らかな密輸ライフルを手に空から降る一億のサメとの大激闘が繰り広げられる。そこに病院から抜け出していたエイプリルも合流。無くした片腕に回転ノコギリを装着し、空から降るサメを切り刻む!
先述の空中戦、そしてスカイの犠牲によって竜巻は凍りつき、ニューヨークには平和が戻る。最後に倒したサメの中にエイプリルの左腕を見つけたフィンは指輪を抜き取り、改めてエイプリルにプロポーズ。燃え盛るサメが花火を載せたトラックに引火し、エンパイアステートビルに立つ二人を色とりどりの花火が祝福。勝利モードを満点に映画は終わる。
1作目の期待をゆうに超えてきた全編サメまみれの本作は「1」のファンにも熱狂的に受け入れられ、SyFyのオリジナル映画史上最高の視聴率を記録。視聴者数は前作比189%、ツイートへのインプレッションは10億を突破したとも言われている。
また本作では第3作、第4作で顕著になるB級映画ファンには嬉しい小ネタがそこかしこに散りばめられている。妹夫婦の名前は「ジョーズ」から引用したマーティン・ブロディとエレン・ブロディ、「幸運のキス」は第3作、第4作につながっていくスターウォーズ展開への暗示、なにより冒頭のシーン、飛行機の尾翼に映る怪しい影といえば名作ドラマ・トワイライトゾーン「2万フィートの戦慄」(1983年版の監督は「マッドマックス」のジョージ・ミラーだ)の引用だ。徹頭徹尾勢いだけの映画かと思いきや失われた左腕の伏線もしっかり拾ってくるあたり、ただのバカ映画ではないことの証明だろう。
ここまでガッツリネタバレを入れて書いてきたが、まだ映画を見ていないのに読んでしまった方も安心してほしい。世の中にはネタが割れていても面白い映画というものがいくらでもあり、シャークネードはそちらの部類だ。少しでも興味が湧いたら是非見ていただきたい。
また本作の舞台裏については、ドキュメンタリーDVD「Feeding Frenzy」(直訳すれば「むさぼり食い」)に詳しい。海外版DVDでも入手できるが、日本ではsteamで配信されているものを買うことができる。字幕はついていないが、放送当時のスタッフの困惑、キャスティングの苦労、サメ専属のモーションアクター(!)のインタビューなどを聞くことができる。
さらに劇中に登場した書籍「HOW TO SURVIVE A SHARKNADO」も存在する。フィンの序文を除けばシャークネードについての記述は6ページ程度と少ないが、ファンならマストのアイテムだ。また各種海外版DVDも日本版には収録されていない特典映像――詳細は次回に譲るが、コメンタリー、NGテイク、劇中のテレビショーの完全版、そして収録されなかった別エンディング――などが満載だ。こちらも日本語字幕、英語字幕ともに付いていないのでご注意。
次回は引き続き「シャークネード エクストリームミッション」(Sharknado 3: Oh Hell No!)、「シャークネード 4(フォース)」(Sharknado: The 4th Awakens)をお送りする。なお、1〜4作目はHulu、NetFlixで全作配信中だ。
(将来の終わり)
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