錯覚を起こす人間の脳は「バカじゃない」 “意地悪な立体”を作り続ける錯視研究者・杉原教授が語る「目に見える物の不確かさ」(3/4 ページ)

» 2018年02月10日 12時00分 公開
[杉本吏ねとらぼ]
※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

 1つは、「直角に見えるけれど直角ではない角度」を使って作った立体ですね。脳って直角が大好きなんですよ。

 ある方向から見たときに、直角が組み合わさってできたように見える立体。でもそう見える角度というのは無限にあるので、実際には直角じゃないものを作ると、脳は簡単にだまされます。

――それはなぜなんでしょう? 例えば自然界には水平に地面があって垂直に木が生えているから……とか?

 なぜかは、実はよく分かっていません。心理学の先生に言わせると、現代社会は工業製品に囲まれていて直角が多いから、そういうところで暮らしているとそうなってしまうのかもしれない、とか。でも「かもしれない」に過ぎません。

 同じように、氷は水平に張るとか、物は垂直に落下するとか、自然界にも直角は存在しているから、もっと原始的な生活をしていても錯覚は起こるんだ、という人もいるし。

――理屈は分からないけれど、人間の脳が持つ特徴なんですね。

 あとは、やはり「対称性の高いもの」を認識しようとしますね。線対称だったり、回転対称だったり、鏡面対象だったり。僕の「透身立体」という作品の1つで、鏡に映すと一部が消えるというものがあるんですが。


鏡に映すと一部が消えてしまう「透身立体」

――えっ……なんですかこれ……?

 これ、正六角柱を横向きに立てた形に見えますけど、鏡に映すとこんな風になって、上半分が消えちゃう。……ように見えるんですけど、これを正六角柱だと思うこと自体が、対称性の好きな脳がそれを選んでしまう、ということで。

 これ実際にはどうなっているかというと、下半分は正六角形の下半分とそのまま同じ構造をしていて、でも上半分は平らな絵なんですよ。

――……? そう言われてもすぐには……?

 ではこの、立体を360度回転させた動画を見てみてください。

――あーっ! 分かりました! 上の部分が立体ではなく、単なる絵になっていると!

 そうなんです。で、その絵の部分はですね、反対側から見下ろすと、下と同じ形に見えちゃうんですよ。だから、上だった部分が下に見えて、本当の下の部分はその裏に隠れる。

 二次元の絵なのに立体に見えてしまうというのは、「直角が大好き」とか「対称性が大好き」とか、脳がそっちを優先するからですね。


手前の立体を時計回りに回転させていくと……

180度回転させたところで、「下に隠れていた部分」が出てきて「上」になる

さらにもう180度回転させると……

「上だった部分」が「下」に隠れて、消えてしまう


――これはもう……手品ですね。ちなみに、こういう錯視に「慣れ」というものはあるんですか?

 難しいんじゃないかなと。

――つまり、慣れられない?

 慣れるというのは、錯視が起こらないというか、脳がもともとの見え方を修正してしまうということですが、そんなことになったら普通に物を見たときに困るんじゃないかと。

――……確かに。こんなに意地悪な立体というのは、世の中にそんなにないですものね(笑)。

 そうですね。「錯視に引っかからなくなる」というのは、先ほど言われた、可能性の少ないものを早めにそぎ落として、“枝刈り”をするという機能が「なくなる」ということですから。

――むしろ「慣れてはいけない」ということですね。

 たとえ訓練しても錯覚は起き続けます。でも、「これはもしかして錯視なんじゃないか?」という、ある種の“錯視感”というようなものは、後から身に着けることができるかもしれません。

 というのも、奥行きに関する手掛かりっていろんなものがあるんですよ。特に照明が当たってるときの“陰影”なんかはウソをつきませんから。

 だからそういう部分が矛盾していると、敏感な人は気付きますね。石膏(せっこう)デッサンなんかをたくさんやっている美術系の学生さんだと、ある種のものを見せたときに「ここが変」とか気付きやすいと思います。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2412/01/news003.jpg パパに抱っこされている娘→11年後…… 同じ場所&ポーズで撮影した“現在の姿”が「泣ける」「すてき」と反響
  2. /nl/articles/2412/01/news031.jpg 「何があった」 絵師が“大学4年間の成長過程”公開→たどり着いた“まさかの境地”に「ぶっ飛ばしてて草」
  3. /nl/articles/2412/03/news082.jpg 「ほ、本人……?」 日本に“寒い国”から飛行機到着→降りてきた“超人気者”に「そんなことあるw?」「衝撃の移動手段」の声
  4. /nl/articles/2412/03/news111.jpg 才賀紀左衛門、娘とのディズニーシー訪問に“見知らぬ女性の影” 同伴シーンに「家族を大切にしてくれない人とは仲良くできない」
  5. /nl/articles/2412/02/news009.jpg 【今日の難読漢字】「誰何」←何と読む?
  6. /nl/articles/2412/05/news006.jpg 「今やらないと春に大後悔します」 凶悪な雑草“チガヤ”の大繁殖を阻止する、知らないと困る対策法に注目が集まる
  7. /nl/articles/2412/03/news148.jpg 武豊騎手が2024年に「武豊駅に来た」→実は35年前「歴史に残る」“意外な繋がり”が…… 街を訪問し懐古
  8. /nl/articles/2412/03/news092.jpg 大谷翔平、“有名日本人シェフ”とのショット 上目遣いの愛犬デコピンも…… 「びっくりした!!」「嬉しすぎる」
  9. /nl/articles/2412/03/news055.jpg ハローマックのガチャに挑戦! →“とんでもない偏り”に同情の声 「かわいそう」「人の心とかないんか」
  10. /nl/articles/2412/03/news179.jpg 「口座や住居が……」 坂口杏里、SNSで“重要個人情報を垂れ流し” 「かなりまずい状態」「大丈夫じゃなさそう」心配の声
先週の総合アクセスTOP10
  1. パパに抱っこされている娘→11年後…… 同じ場所&ポーズで撮影した“現在の姿”が「泣ける」「すてき」と反響
  2. 「何があった」 絵師が“大学4年間の成長過程”公開→たどり着いた“まさかの境地”に「ぶっ飛ばしてて草」
  3. 「中学生で妊娠」した“14歳の母”、「相手は逃げ腰」妊娠発覚からの経緯を赤裸々告白 母親の“意外な反応”も明かす
  4. 勇者一行が壊滅、1人残った僧侶の選択は……? 「ドラクエでのピンチ」描くイラストに共感「生還できると脳汁」
  5. 「笑い止まらん」 海外産アプリで表示された“まさかの日本語”に不意打ち受ける人続出 「何があったんだw」
  6. パパが好きすぎる元保護子猫、畑仕事中もくっついて離れない姿が「可愛すぎる」と反響 2年以上がたった現在は……飼い主に話を聞いた
  7. アグネス・チャン、米国の自宅が“度を超えた面積”すぎた……ゴルフ場内に立地&門から徒歩5分の豪邸にスタッフ困惑「入っていいのかな」
  8. 「理解できない」 大谷翔平と真美子さんの“スキンシップ”に海外驚き 「文化は100%違う」「伝説だわ」
  9. 「車が憎い」 “科捜研”出演俳優、交通事故で死去 兄が悲痛のコメント「忘れないでください」
  10. PCで「Windowsキー+左右矢印キー」を押すと? アッと驚く隠れた便利機能に「スゲー便利」「知らなかった」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  2. 「絶句」 ユニクロ新作バッグに“色移り”の報告続出…… 運営が謝罪、即販売停止に 「とてもショック」
  3. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  4. アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
  5. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  6. 「やはり……」 MVP受賞の大谷翔平、会見中の“仕草”に心配の声も 「真美子さんの視線」「動かしてない」
  7. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  8. 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
  9. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  10. 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」