岡田麿里が描く“学校”ではないファンタジー、時間という残酷な現実 アニメ映画「さよならの朝に約束の花をかざろう」

岡田麿里×P.A.WORKSの帰還。

» 2018年02月24日 20時30分 公開
[将来の終わりねとらぼ]

 「あの日見た花の名前を僕たちはまだ知らない。」「心が叫びたがってるんだ。」の脚本で知られる岡田麿里の初監督作「さよならの朝に約束の花をかざろう」が公開された。

さよ朝 ポスター

 少年・少女たちの青春のすがすがしさ、そして苦しみを描いた2作がそれぞれドラマ化・映画化と多方面のメディア展開がされたことは記憶に新しい。またそれを機としてか「暗黒女子」「先生!、、、好きになってもいいですか?」といった実写映画の脚本も手掛けるようになった岡田氏が「どうしても作りたい作品がある」と監督を志願した本作は、レナトと呼ばれる巨大な竜が空を舞い、外見は若いまま数百年の時を生きる種族・通称「別れの民」イオルフが辺境の地に暮らす……という真っ向勝負の直球ファンタジーだった。

(略)私が挑戦したかったのが“年数経過”でした。『月日がたつことの残酷さ』は別作品でも扱ったことがあり、常に興味がある題材なのですが、別の形でもう一歩踏み込めないかなと。”

 先日の完成披露試写にて本作と並べられ、副監督・篠原俊哉が監督を、キャラクターデザイン・石井百合子が同じくキャラクターデザインを担当しているアニメ「凪のあすから」の設定資料集にて、シリーズ構成を担った岡田はこう述べている。「凪」の第2部、時間の流れに1人取り残された主人公・先島光が置かれた環境は彼にとって悲痛なものだった。それは「あの花」の主人公・じんたん、ゆきあつといったキャラクターにも共通する。過去にとらわれて動き出すことができず、自分だけの世界に閉じこもる。それでも時間は残酷に過ぎていき、自分だけが置いていかれてしまう。それをより明確にしたのが、過去のトラウマに身動きがとれなくなった人々が集う共同体を襲う恐怖を書いた「迷家-マヨイガ-」であり、さらにいえば2017年発表されたエッセイ『学校へ行けなかった私が「あの花」「ここさけ」を書くまで』に書かれた彼女の体験に基づく、誰の中にもあるであろう普遍的な苦しみだ。

 青春はそれを書くだけで物語になる。学生時代や恋愛は観客の大多数が通過するイベントであり、見る側にとって最も身近に感じられるものだ。スクールカーストや劣等感、過去への後悔と無縁の人間は少なく、さらに「あの花」では「secret base 〜君がくれたもの〜 (10 years after Ver.)」を使った演出などで観客をノスタルジーの海に引き込み、じんたん、めんま、ぽっぽといた超平和バスターズと観客を同化させることに成功していた。


さよ朝 主人公のマキア

 しかし「さよ朝」はファンタジーである。「学校」という一言で説明がついてしまったそれらと違い、おとぎ話を成立させるための舞台を観客に納得させる工夫がどうしても必要になってしまう。しかしこの点においても、 本作は美術監督・東地和生の手による巧みな美術が(彼も「凪」の主要スタッフである) 、スクリーンを暴れ回る竜、 中世の人波あふれる町並・雑踏などをしっかりと描き、結果必要最小限のセリフにて世界を説明することに成功している。その結果、育児や愛、苦しみやそれに伴う死を通した生というものの尊さといった普遍的な物語が一層浮き上がり、違和感なく流れ込んでくる。またファンタジー世界であることにより、現代劇や実写では残酷に過ぎる行為も一歩引いた立場から見ることができ、過剰な痛みを観客に与えてしまうことを避ける効果もある。このあたりの「どこまでをリアルにするか」という線引き、いわばバランス感覚は「true tears」「花咲くいろは」といった岡田氏脚本作品だけではなく、「サクラクエスト」「SHIROBAKO」といったアニメでありながら現実と比較的地続きな作品を手掛けてきたP.A.Worksだけあり、非常に見事だ。


さよ朝さよ朝 成長していくエリアル

 前半と後半で物語のジャンルががらりと変わってくるのも本作の特徴だ。赤子・エリアルが拾われて以降、成長に伴う内面の変化が順を追って描かれていき、それに同化するように物語はダイナミックに変化を続けていく。それは人間である彼の時間がせわしなく動き続けていることの象徴であり、その長命を決められた日々の繰り返しで過ごすことに定められていた主人公・マキアを、そして観客を驚かせ続けてくれる。そしてもう1人、その対として描かれるキャラクターがいる。 氏の脚本作品にほぼ必ず存在する、時間が停止してしまった存在だ。その妬みと空回り、苦しみもまた生のなかに必ず存在する。

  氏は本作について、“100パーセント自分の観たいもの”に近づけたと語っている。 単純な愛や感動の押し付け、またはネガティブな感情の発露だけではなく、その両方が書かれていることは彼女がこれまで手掛けてきた作品群の大きな魅力の1つだ。 静と動のそれぞれが時間に翻弄される中、その中間で揺れる二人のキャラクターが最後に選びとるのは何だったか。何が残り、何が滅びたか。ただ通り過ぎてしまうとされていた者たちに対する、彼女が向ける最後のさよならのまなざしに、あなたは何を見るだろう。


さよ朝

『さよならの朝に約束の花をかざろう』

2018年2月24日(土)ロードショー

(C)PROJECT MAQUIA

【配給】ショウゲート


将来の終わり

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