昭和すごかった “やり過ぎ”上等「スーパーカー自転車」はいかに少年の心をつかんだのか(1/4 ページ)

昭和少年を熱狂させたゴテゴテフル装備とダブルフロントライト。スーパーカー自転車ブームを支えた「レジェンド開発者」に聞きました。(画像80枚)

» 2018年03月27日 10時30分 公開
[タカミネンねとらぼ]

 昭和の時代、少年の心を踊らせ、離さなかった「すごい乗りもの」がありました。

スーパーカー自転車 ナショナル 昭和 スーパーカーブーム 昭和少年の心を踊らせた「スーパーカー自転車」

 ときは1970年から1980年代(昭和45年頃から昭和50年台)。セミドロップハンドル、艶消し黒のダイヤモンドフレーム、トップチューブ(自転車フレームの上部にある水平部分のパイプ)上に備えた多段ギアシフト、フラッシャー(ウインカー機能や、光が左右に移動する光りモノギミックがある装備)などを備えた少年用自転車「ジュニアスポーツ車」が流行しました。

 このジュニアスポーツ車は登場間もなく昭和少年の心をグッとつかみ、熱狂的なブームになります。そして、少年用自転車としては「やり過ぎ!」なほどまでに装備がどんどん過激になっていきます。「少年の期待に応えたい」──。当時の自転車メーカーはこぞってこのジュニアスポーツ車に力を入れました。

 この、少年をウキウキさせた数々の装備を備えたジュニアスポーツ車は、後に「スーパーカー自転車」などと呼ばれます。フェラーリ512BB、ランボルギーニ カウンタック、ポルシェ ターボ……。当時はスーパーカーブームも真っ盛り。スーパーカー自転車は、これらのスーパーカーに憧れる少年の心とがっちり結び付き、「憧れを、ちょっとだけでも」「これならば、買える」「自分でも、乗れる、運転できる」を実現できるアイテムだったからです。当時の少年は欲しくてたまらなかったがゆえ、カタログをまくら元に置いて寝ていたという話も聞きます。

 スーパーカー自転車とはそもそも何か。どのようにして生まれ、開発され、ブームとなり、そして消えたのか。スーパーカー自転車ブームを支えた1社「ナショナル自転車」で、当時実際にスーパーカー自転車の開発を担っていた「レジェンド」、森田茂さんと北山隆弘さんに話を聞きました。

スーパーカー自転車 ナショナル 昭和 スーパーカーブーム 当時のポスター。これを見るだけでも当時の少年の憧れであったかが伝わってくる
スーパーカー自転車 ナショナル 昭和 スーパーカーブーム 豪華なメーター類もスーパーカー自転車の特長。末期モデルにはカラー風液晶搭載メーター「スピード・ギヤポジションモニター」まで組み込まれた
スーパーカー自転車 ナショナル 昭和 スーパーカーブーム 「コンソールボックス」と呼ばれたオートマセレクター風のごつい多段変速シフターはジュニアスポーツ車になくてはならない定番部品(中には、H型シフターなどのさらに凝ったものもあった)

「当時は戦争のようでした」──レジェンドが振り返るスーパーカー自転車ブーム

スーパーカー自転車 ナショナル 昭和 スーパーカーブーム 当時ナショナル自転車 商品企画課長として数多くのスーパーカー自転車を送り出した“レジェンド”森田茂さん

 「1971年(昭和46年)からナショナル自転車の商品企画とデザイン、一部は開発や設計に関わってきました。当時は競争の連続。戦争のようでした。毎年のようにデザインや仕様を変更して、他社に勝つべくあらゆるアイデアを練り、ひり出し、盛り込んでいました」(森田さん)

 当時、家電メーカー大手の松下電器産業(現パナソニック)が「ナショナル自転車」ブランドでスーパーカー自転車を製造販売していました。もちろん2018年現在もパナソニック サイクルテックがパナソニックブランドの電動アシスト自転車やスポーツ車を中心に広く展開しています(関連記事)

 ちなみにパナソニックが自転車製品を手掛けるのは、創業者の松下幸之助氏が自転車店に丁稚奉公したことが仕事の始まりで、最初の商品が自転車用のライトだったことから「初心忘れるべからず」の精神があるからなのだそうです。なお、パナソニックのロードバイクは昔も今も、ロードバイク乗りにとって憧れのブランドの1つでもあります。

 パナソニックOBの森田さんは工業高校とデザイン学校で機械とデザインを学び、松下電器産業に入社。長きに渡ってナショナル自転車の企画開発を担当し、そして、数々のスーパーカー自転車を生み出したレジェンドの1人です。

 「自転車は、規格化された部品を仕入れて、フレームに組み付けて完成させる製品です。既製品、外注品で組んでも形になります。しかしそれだけで他社に勝てるわけはありません。自社でアイデアを出し、それを実現する独自パーツを開発して装備していく必要もあったのです。数え切れないほど開発しましたよ。例えば、手元ボタンのワンプッシュでチェーンにオイルを注せる“チェーンオイルボックスシステム”とか。今思うと“そんなのいらんわ(笑)”となりそうな装備ですが、当時はこういうのも本気。何より少年の期待に応えたい。またオトナの事情としては2万台、3万台単位の台数を売って、金型代を償却しないと利益を生み出せません。だから毎回真剣勝負でした」(森田さん)

 当時は自転車が商業用や大人だけのぜいたく品だった時代から、「子どもに買い与えるもの」としての新たな認識が広がり始めたころ。この特需を巡り、各メーカーがこぞってジュニアスポーツ車を発売しました。業界はさながら百花繚乱だったと森田さんは当時を振り返ります。ゴールドラッシュのように我先にとユーザー獲得競争が過熱していく中で、自社の商品を選んでもらうには……。こうして「各社が、毎年、主要商品をフルモデルチェンジする」勢いで、装備やデザインを追求する開発競争が過激になっていったのです。

スーパーカー自転車 ナショナル 昭和 スーパーカーブームスーパーカー自転車 ナショナル 昭和 スーパーカーブーム 1976年のナショナル自転車総合カタログでは、三浦友和さんをイメージキャラクターにジュニアスポーツ車が巻頭を飾った

 しかし、新たな装備やデザインを盛り込むといっても、パーツの金型を新たに作るだけでも数百万円単位の開発コストが新たに掛かります。現在のクルマや自転車、PCやスマートフォンなどの工業製品と同じように、数年単位のフルモデルチェンジと年単位のマイナーチェンジを繰り返す方法で、毎年の変更はカラーリングで見た目の印象を変えたり、機能の一部を変更するのみ、といっただけでもよかったのではという声も上がりそうです。

 「いや、スーパーカー自転車についてはそれでは全くダメだったんですよ。完全にモデルチェンジしないと明らかに売れませんでした。貧相なデザインや仕上げではライバルに負けてしまいます。本当に手は抜けなかったのですね」(森田さん)

       1|2|3|4 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2501/21/news021.jpg 【ヤフオク】“3万円”で購入した100枚の着物帯 →現役着付師が開封すると…… “まさかの中身”に驚き
  2. /nl/articles/2501/22/news010.jpg 子なし夫妻が“人間の子ども”のように育てた柴犬を、実家の家族に会わせたら……  幸せあふれる展開に「とっても嬉しそう」
  3. /nl/articles/2501/22/news035.jpg 友達に「あれ、お前んちパーティ中?」と言われた“実家”が100万再生 衝撃の全貌に「ビビってます」「ウチの中にない物ばかりwww」
  4. /nl/articles/2501/22/news088.jpg 道で“お宝”拾ったと大興奮→磨いたら…… 3430万再生された驚きの職人技に「まさに芸術作品!」「信じられない」【海外】
  5. /nl/articles/2501/21/news098.jpg 「キティちゃんのお面だと思ったら……」 ひっくり返した“まさかの正体”が830万表示 投稿者に話を聞いた
  6. /nl/articles/2501/22/news029.jpg 0歳赤ちゃん、朝起きてママに気付いた瞬間…… 涙が出そうになる表情が600万再生「こーれーはーやばい!」「あかん一生みてまう」
  7. /nl/articles/2501/22/news108.jpg 東京ディズニーリゾート、“あのブランド”とコラボした紅茶に反響 「遂に来たぁあああ!!」「買うしか!」
  8. /nl/articles/2501/22/news076.jpg 実物大ν(ニュー)ガンダムが公開から数年たち…… 現在の姿を捉えた写真に反響 「イラストかと思った」「かぁぁっこえぇ……」
  9. /nl/articles/2501/21/news023.jpg 100円で売ってた謎のジャンクDSソフト、その中身は…… “とんでもないデータ”が入った掘り出し物「これもう運命の出会いでしょ」
  10. /nl/articles/2501/20/news030.jpg 大人なら“5秒”で解きたい!「3−6×2+5」の答えは?【計算クイズ】
先週の総合アクセスTOP10
  1. ドブで捕獲したザリガニを“清らかな天然水”で2週間育てたら…… 「こりゃすごい」興味深い結末が195万再生「初めて見た」
  2. 「配慮が足りない」 映画の入場特典で「おみくじ」配布→“大凶”も…… 指摘受け配給元謝罪「深くお詫び」
  3. 市役所で手続き中、急に笑い出した職員→何かと思って横を見たら…… 衝撃の光景が340万表示 飼い主にその後を聞いた
  4. 鮮魚店で売れ残っていたタコを連れ帰り、水槽に入れたら…… ヤバすぎる光景に「こんなに可愛いなんて!」「笑ってしまった」
  5. 母「昔は何十人もの男性の誘いを断った」→娘は疑っていたが…… 当時の“モテ必至の姿”が1170万再生「なんてこった!」【海外】
  6. 「まじで終わってる」 マクドナルド「エヴァ」コラボ品“高額転売”に嘆く声…… 「結局欲しい人が買えない」
  7. 母に「髪染めやピアスはダメ」と言われ続けた25歳東大女子、大変身を決意したら…… まさかの事態に「さすがにおもろい」「涙出てきた」
  8. 賞味期限「2年前」のゼリーを販売か…… 人気スーパーが謝罪「深くお詫び」 回収に協力呼びかけ
  9. 風呂上がりに偶然「牛乳を注ぐ女」になった人に反響 「ほぼそのままw」「盛大にふきだした」 投稿者に話を聞いた
  10. タンクトップ姿のパパ「昔はモテた」→娘は信じていなかったが…… かつての姿に衝撃走る「『トップガン』に出ていても納得」【海外】
先月の総合アクセスTOP10
  1. ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
  2. パパに抱っこされている娘→11年後…… 同じ場所&ポーズで撮影した“現在の姿”が「泣ける」「すてき」と反響
  3. 東京美容外科、“不適切投稿”した院長の「解任」を発表 「組織体制の強化に努めてまいる所存」
  4. ズカズカ家に入ってきたぼっちの子猫→妙になれなれしいので、風呂に入れてみると…… 思わず腰を抜かす事態に「たまらんw」「この子は賢い」
  5. 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
  6. イモトアヤコ、購入した“圧倒的人気車”が思わぬ勘違いを招く スーパーで「後ろから警備員さんが」
  7. 「何があった」 絵師が“大学4年間の成長過程”公開→たどり着いた“まさかの境地”に「ぶっ飛ばしてて草」
  8. フォークに“毛糸”を巻き付けていくと…… 冬にピッタリなアイテムが完成 「とってもかわいい!」と200万再生【海外】
  9. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  10. 鮮魚スーパーで特価品になっていたイセエビを連れ帰り、水槽に入れたら…… 想定外の結果と2日後の光景に「泣けます」「おもしろすぎ」