昭和すごかった “やり過ぎ”上等「スーパーカー自転車」はいかに少年の心をつかんだのか(3/4 ページ)
スーパーカー自転車は「つや消し黒」でなければ売れなかった
スーパーカー自転車は前述した通り、毎年モデルチェンジしていました。当然、新たな部品が生まれ、モデルの数だけ設計変更も必要です。そもそもどのように設計していたのか。当時、設計課で各種部品の設計と開発を担当し、多くの“メカ”を形にしたもう1人のレジェンド北山隆弘さんはこう振り返ります。
「電装系部品は“スーパーカー自転車”たる多くの要素を占める重要な部品です。ライトを軸にして、まず26インチ用を設計します。そして、その他のサイズを車輪やフレームの寸法に合わせてキャリアの寸法などを調整していくといった手法で行っていました」(北山さん)
「ちなみに、自転車店向けの商談会には営業担当者だけでなく技術者も参加していました。相手の自転車店さんは長年携わっているプロ。私らの方も自転車について圧倒的に詳しく、開発の意図や効果、そして情熱が伝わらなければ、じゃ他社でいいやとなってしまう時代です。販売施策についても業界全体が熱かったですね」(森田さん)。
新しい機構やデザインを採用すれば、販売店から質問攻めに合い、それに対して120%の答えを打ち返せなければ注文してもらえない。販売店も売れる商品を本気で探している。決してごまかしが効かなかい状況だったからこそ、本気のすごい商品が次々に登場したのでしょう。
そういえばスーパーカー自転車はそのほとんどが「つや消し黒」であることを思い出しました。これは“お約束”だったのです。
「もちろんユーザーニーズの多様化をカバーするために、他の色も用意していました。でも……ブームが終わるまで人気色は圧倒的に黒でした。カタログ写真や店頭で飾るには赤やオレンジ色も目立ち、映えるのですが、最終的に売れるのは黒。9割が黒でした」(北山さん)
「高すぎる」「買えない子のことも考えてくれ」ブーム終息へ──しかし、生き続ける魂も
1970年代半ば頃まで続いたスーパーカー自転車ブームは、その後急速に冷え込み、ブームの終わりを迎えます。
その原因は、「第一次オイルショック(1973〜1974年)で消費行動全体が冷え込んだこと、同時にスーパーカーブームが落ち着いたこと、(ブリヂストンが手ごろな価格で本格的なロードバイク“ロードマン”を発売したことをきっかけに)より高い年齢向けとするドロップハンドルのスポーツ車へ人気が移ったことが重なったためかな」と、レジェンド2人は振り返ります。
消費者のサイフのヒモが堅くなり始めた時期と併せて、スーパーカー自転車は装備が年々過激になった結果、最上位モデルのフル装備だと10万円に届くくらいにまで高額になってしまっていました。「高すぎる」「教育に悪い」「買えない子や家庭のことも考えてくれ」──。こうPTAなどで問題視されるようにもなってしまいました。現代のゲーム機や玩具などの子ども向け商品の状況と少し似ている気がしますが、これも時代でした。
こうして過剰な装備競争は各社歩調を合わせるように自主規制が掛かるようになります。もちろん装備やラインアップが簡素化されつつも生産はしばらく続きましたが、メーカーとしても利益の出るほかのカテゴリーの比率が増え、販売数は下降の一途をたどります。そして、1980年代後半の起こった「マウンテンバイクブーム」の隅で、スーパーカー自転車の歴史は静かに幕を閉じたのでした。
2018年現在、後継者問題や大手チェーン店に押されて廃業する街の自転車店が増えていますが、そんな自転車店の倉庫からスーパーカー自転車の新品在庫が見つかることもあるそうです。そんなレア車両も含め、当時の車両はクラシックカーと同じようなファン市場があり、今も大切に乗っている人がたくさんいます。現代になって海外旅行者まで虜にした、テレビ東京「YOUは何しに日本へ?」の「#ダブルフロントライト」などの好例もあります。
「スーパーカーの特長を取り入れた自転車、それは時代の波に押され、世の中から消えてしまうのも早かったかもしれません。しかし、あの時代を象徴するものでした。私も含めて、ある年代の方には心地よい体験、そして記憶として残っていると思います。今も思い出してもらったり、さらには愛用していただいている方までいらっしゃるのですね。本当にうれしく、誇りに思います。当時の少年が抱いていた夢と希望の一片を感じてもらいつつ、今後も大事にしていただきたいです」(北山さん)
少年の期待に応え続け、全力で奮闘してブームを支え、伝説になるほどの楽しい乗りものを生み出してくれたレジェンドに感謝。スーパーカー自転車の思い出は今でも僕らの胸の中にあります。
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