オランダ賭博当局がルートボックスの一部を賭博法違反と認定 提供アイテムの市場価値を認める

対象タイトルが6月20日までにルートボックスの仕様を修正しなかった場合、罰金もしくはオランダ国内での販売停止処分が下される可能性がある。

» 2018年04月21日 14時20分 公開
[Ryuki IshiiAUTOMATON]
AUTOMATON


ルートボックス

 ゲーム内でルートボックスを販売している世界的人気タイトル4つの販売元に対し、オランダの賭博当局(Netherlands Gaming Authority)が是正命令を出していることが分かった。当国にてライセンスが必要とされている商用賭博に該当することが理由であると、オランダの国営報道機関NOSが報じている。またNOSによると、対象タイトルが6月20日までにルートボックスの仕様を修正しなかった場合、罰金もしくはオランダ国内での販売停止処分が下される可能性がある。

 NOSは賭博当局の報告書に記載されている賭博該当性の条件を元に(英語版報告書のPDFファイルリンク)、「PLAYERUNKNOWN’S BATTLEGROUNDS」(以下、PUBG)「Rocket League」「Dota2」「FIFA 18」の4タイトルが賭博行為に該当するのではないかと報じている。ただし、これらが実際に是正命令の対象となった作品かどうかは分からない(例えば「PUBG」はPEGI16のゲームだが、報告書12〜13ページに記載されている匿名の調査リストにPEGI16のゲームは含まれていない)。ゲームの販売元が是正命令に応じなかった場合には、賭博法違反と判断された作品の名前が公表されるとのことだ。


ルートボックス Netherlands Gaming Authorityの調査報告書より。調査対象となったタイトルの一部は、ルートボックスから排出されるアイテムを外部サイトで売却できる。またライセンスが発行されていない外部賭博サイトにて、ゲーム内アイテムが賭け金がわりに使われていることも指摘されている

現金化できればアウト

 ルートボックスとは、日本で言うところのランダム型アイテム提供方法、通称ガチャに似た課金形態を指す。オランダの賭博当局が調査に当たったのは、ルートボックスを販売しており、かつ人気の高い10タイトル。そのうち賭博法違反と見なされた4タイトルと、残りの6タイトルとの明確な違いは「財産上の利益の得喪」が認められるか否かである。

 賭博の定義に該当するかどうかの判断を下す際には、1)偶然性 2)財産上の利益の得喪という二つの要素が議論の対象となってくる。今回賭博法違反と見なされた4つのタイトルで販売されているルートボックスは、1)提供内容がプレイヤーの技能ではなく完全なる偶然性により決まる 2)提供アイテムをゲーム外で取引できる。この2点が認められることから、当国でライセンスが必要な賭博行為(具体的には偶然性で勝敗を決める「Game of Chance」)に該当すると判断された。そうしたルートボックスの提供は、ライセンスの発行が認められた賭博行為の種類に含まれていないため、現行法上オランダでは禁止されている。


ルートボックス 外部サイトでのスキンギャンブルが盛んな「Counter-Strike: Global Offensive」

 賭博の定義のうちルートボックスの偶然性については、既に各国の賭博当局からも認められている。賭博の定義に該当するかどうかの議論で争われているのは、ルートボックスから排出されるアイテムに市場価値が認められるか否かである(ルートボックス騒動まとめ記事)。例えば英国の賭博委員会は、アイテムの用途がゲーム内で完結し、換金手段が設けられていないのであれば賭博行為とは認めにくい、という結論を出している。

 今回のオランダ当局の報告が新しいのは、外部サイトであろうと換金手段が存在するのであれば市場価値が認められるという点である。調査報告書でも「ルートボックスから排出されるゲーム内アイテムが譲渡可能であれば法律違反」、そうでなければ法律違反にはならないと強調されている(報告書ページ14)。


ルートボックス スキン限定のルートボックスを販売している「オーバーウォッチ」。ルートボックスの中身がスキン限定か、ゲーム内キャラクターの性能に影響するアイテムを含むかどうかは今回の調査では議論の対象とはなっていない

 北欧のレーティング団体ESRB(Entertainment Software Rating Board)は、プレイヤーは必ず何かしらの対価を得られることから、ルートボックスには「利益の得喪」の「喪」が起こり得ないためギャンブルには値しないと説明してきた(Kotaku)。オランダ賭博当局は、こうした主張は妥当ではないと報告書にて答えている。アイテムの種類はそれぞれ異なり、それぞれ異なる市場価値が算出できるからだ。市場価値の高いアイテムを引いたプレイヤーが真の勝者であることに疑いの余地はないとまで記されている。

 ルートボックスの賭博該当性を否定するもう一つの意見として、業界団体ESA(エンターテインメントソフトウェア協会)が、ルートボックスはあくまでも任意機能であり、購入を決断するのはプレイヤー自身であると過去にコメントしている(Polygon)。この主張に対しても、オランダ当局は「ルートボックスはゲームの一部であるが、独立したゲームとして遊ぶこともできる」と指摘している。外部サイトでの取引を想定したルートボックスの利用は、確かに独立した遊び方に当てはまるだろう。

なぜ賭博の定義に当てはめたいのか

 以上はルートボックスを現行法に当てはめる際のロジックの話である。実際にはこうした賭博の定義の話に入る前に、そもそもルートボックスを規制するに足る理由があるのかどうかの調査が行われている。そして未成年者含めギャンブル中毒の危険に晒されやすい人々を保護するという、当局および賭博法の理念に反するという結論に至ったからこそ、賭博判定および是正命令に移ったのである。

 まず調査に当たっては、ギャンブル中毒の危険性を査定する独自ツールが使用されており、大当たりの有無、結果表示までの間隔、継続性、勝率、利用可能性といった項目からギャンブル中毒の潜在リスクを数量化。調査対象となった10タイトルの多くは、潜在リスク中〜高程度の危険性があるという結果が出た。中毒性を高めるための仕組みや演出はスロットマシーンのそれと類似しており、リスクの程度としてはブラックジャックやルーレットに近いという。


ルートボックス 調査報告書ページ13より

 ルートボックスの多くで多用されているサウンド/ビジュアルエフェクトは、「もう少しで勝てるかもしれない」という錯覚を与えるもの。繰り返し開封させるための演出だ。そうした射幸心を煽る仕組みや演出にさらされた青少年は、将来的にギャンブル依存の症状が顕在化する可能性が通常よりも高いという別の調査結果も引用されている。

 調査対象となった10タイトル中、是正命令が下されたのは4タイトル。残りの6タイトルは賭博に該当しないと見なされたものの、ギャンブルを目的としたゲーム機と仕組みや演出が類似していることから、プレイヤーをギャンブル中毒へと誘う可能性があるとして懸念を示している。もともと同国では競技性による「Game of Skill」と偶然性による「Game of Chance」が同じ敷地内で行われることを90年代に禁止しており、同じく「Game of Skill」と「Game of Chance」が併存するビデオゲームを問題視するのは自然な流れだろう。

欧米各国でも議論が進む


ルートボックス 2017年12月にはAppleがApp Storeの審査ガイドラインを改定し、ルートボックスの提供割合表示が義務付けられた

 ルートボックスが賭博の定義に当てはまり得るのか、そしてなぜルートボックスを規制したいのか。今回の事例は、この2点を整理する上で有益な事例といえる。そして現行法に当てはめる形でルートボックスを取り締まることにより、新法案を通す過程を踏むことなく、迅速に行動を起こすことができた。賭博法違反と認定されたのはオランダ国内だけの話ではあるが、NOSが報じるところによると、スカンジナヴィア諸国、ドイツ、英国などでも議論が進められているという。事実、2017年には英国やベルギーが、2018年にはスウェーデンが調査を開始している(vg247)。

 一方、米国ではハワイ州やワシントン州がルートボックス関連の法案を提出(gameindustry.biz)。英国やオランダといった欧州国と同じく未成年の保護を目的とした動きが見られる。もちろん、ゲーム業界内での自主規制で歯止めが効くのであればそれがベストだろう。2018年2月には、米国の上院議員Maggie Hassan氏が北米のレーティング団体ESRBに対して、ルートボックスを念頭に置いたレーティングプロセスの見直しを求めた(Glixel)。その後ESRBはゲームのパッケージに表示するコンテンツラベルに「In-Game Purchase(ゲーム内課金)」の項目を追加することを発表(関連記事)。ゲーム内課金にはルートボックス以外の有料アイテム・DLC全てが含まれているため、ルートボックスの中毒性を危惧する観点からは、それほど大きな効果は得られないだろう。それでも、ルートボックスに対する懸念を意識した貴重な一歩には違いない。

ルートボックスの有無がニュースになる時代


ルートボックス 発売前から少額課金の有無が注目された「フォークライ5」。ゲームの事前情報としてゲームの内容だけでなく、課金システムについても説明が求められる時代になった

 マネタイズ目的のルートボックスはゲーム業界内外から厳しい視線を送られている。2017年のルートボックス騒動の発端となった「Star Wars バトルフロントII」は4月にゲーム内課金を再開したものの、有償ゲーム内通貨を使用したルートボックスは廃止(関連記事)。またElectronic Artsのチーフ・デザイン・オフィサーPatrick Söderlund氏は「Battlefield」シリーズの新作や「Anthem」といった今後発売される作品について「同じ過ちを繰り返すことはないだろう」と答えている。

 「レインボーシックス シージ」「ディビジョン」「ゴーストリコン ワイルドランズ」などで次々とルートボックスを導入しているUbisoftも、最新作「ファークライ5」では少額課金をアイテムの直接購入だけにとどめている。注目されているのは大手パブリッシャーだけではない。2017年10月に「Warhammer: Vermintide 2」がルートボックスの導入を否定したように(関連記事)、今やルートボックスの実装有無がニュースになる時代に突入している。

 そんな中、調査会社Juniper Researchはルートボックスおよびスキン賭博の市場規模が2022年までに500億ドルにまで膨れ上がると予想している(現在は300億ドル未満)。これはあくまでも規制が入らなかった場合の話である。これまでルートボックスを積極的に活用してきた大手パブリッシャーが消極的な姿勢を見せ、さらにベルギーやスウェーデンといった欧米国がオランダの例に倣い始めれば、市場動向はまた異なるものとなるだろう。

関連記事

Copyright (C) AUTOMATON. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2504/16/news024.jpg 飲み終えた“コーヒーかす”→捨てずに石と混ぜると、1カ月後…… 「感動」目からウロコの裏ワザに「やってみよう」
  2. /nl/articles/2504/16/news023.jpg 「成長したらそのうち襲ってくる」と言われたワニ、16年後……→ 280万回再生を突破した驚きの姿に「初めて見た」の声
  3. /nl/articles/2504/16/news016.jpg たった1輪の“小さな小さなバラ”の刺しゅう→1年後…… 「うわー!」驚きの仕上がりに「根気に脱帽」「尊敬します」
  4. /nl/articles/2504/17/news044.jpg 「盛大に邪魔してきた」 撮影中のカメラマン、偶然とらえた“奇跡の一瞬”が310万表示 「決定的瞬間」「狙っても撮れないって!」
  5. /nl/articles/2504/17/news166.jpg 俳優の板垣瑞生さん死去 「東京都内にて遺体で発見」と家族が報告
  6. /nl/articles/2504/16/news113.jpg マクドナルド、次回ハッピーセットコラボに「争奪戦すごそう」 品切れや転売の懸念も「1個でいいから欲しい」「たくさん作って」
  7. /nl/articles/2504/16/news035.jpg 「ウソだ…」「言葉が出ない」 幼少期から絵を描き続けた少年→15年後…… 大人になって描いた絵が100万再生【海外】
  8. /nl/articles/2504/17/news023.jpg ダイソーのレース糸をまぁるく編んでいくと…… “ぷっくり”かわいい完成品に「挑戦してみます」「アフガン編みステキ」
  9. /nl/articles/2504/11/news157.jpg 47歳で一戸建てを建てた1人暮らし女性、“最高のズボラご飯”をのぞくと…… 「私もこう言う暮らししたいな〜」「憧れます」と340万再生
  10. /nl/articles/2504/17/news033.jpg 1児のママに突如違和感「足の裏が痛い」→敷物をめくったら…… “まさかの原因”に「怖っ」「なぜそこにw」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 小学生時代「こんなプラモ誰が買うんだよw」→40年後…… “大人になった”を実感するエピソードに「分かる」「特大ブーメランw」
  2. パパに、保育園へ行く娘のヘアアレンジを任せたら…… ママがひっくり返った“仕上がり”が400万表示「重力どこ?」「頑張った感がいい!」
  3. 「神パンツきた」 ユニクロ新作“3990円パンツ”が品切れラッシュの大人気 「過去イチかも」「本当にこれは買い」
  4. なんとなく捨てにくい紙袋→2カ所切り込みを入れるだけで…… 目からウロコの“活用術”に「これすごくいい!」【海外】
  5. 「見習うことばかり」 80代おばあちゃんの春服&収納術がステキ! 上品かつオシャレで「憧れです」「尊敬します」
  6. ファスナーに直接毛糸を編み付けていくと…… 完成した“便利でかわいいアイテム”が100万再生「天才だ」「これ大好き」【海外】
  7. 「尊厳を踏みにじる行為」 八代亜紀さんの“物議のCD”は「流通会社がすでに流通を中止」 タワレコが回答
  8. 古くなったジーンズは捨てないで! 目からウロコの“アイデア”に大反響「なにこれかわいい!」「こんなの作れるんだ」【海外】
  9. 指先サイズの小さな器に木を植えて、育てたら…… 「芸術だ」「半端ない」鳥肌モノの“神盆栽”に反響
  10. 義母「ランドセル代を振り込みました」→銀行口座を見ると…… 2児ママ絶叫の“神対応”が1520万表示「凄すぎる!」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 【べらぼう】“問題のシーン”、「子供に見せられない」 身体張った27歳俳優へ「演技やばくない?」
  2. 「恩師ビックリするやろなぁ」 中学3年で付き合い始めた“同級生カップル”が10年後…… まさかの現在に反響
  3. 「本当に迷惑」 宅急便の「不在連絡票」と酷似のチラシが物議…… ヤマト運輸「配布中止申し入れ」
  4. 「うそでしょ!?」 東京ディズニーランド、“老舗”レストランの閉店を発表 「とうとう来てしまったか」「いやだああああ」と悲しみの声
  5. 雑草ボーボーの運動場に“180羽のニワトリ”を放ったら…… 次の日、まさかの光景に「感動しました」「すごい食欲」
  6. 40歳・女性YouTuber「18年間、脇毛を処理していない」→“処理しない理由”語る 「脇のみならず……」
  7. コメダ珈琲店で朝、ミックスサンドとコーヒーを頼んだら…… “とんでもない事態”に爆笑「恐るべし」「コントみたい」
  8. 息子の小学校卒業で腕を組んだ34歳母→中学校で反抗期を迎えて…… 6年後の姿に反響 「本当に素敵!」「お母さん、変わってない!?」
  9. Koki,、豪邸すぎる“木村家の一室”がウソみたいな広さ! 共演者も間違えてしまうほどの空間にスタジオビックリ「コレ自宅!?」「ちょっと見せて」
  10. 使わない靴下をザクザク切って組み合わせると…… 目からウロコの再利用法が2500万再生「とてもクリエイティブ」【海外】