競泳の自由形で「ほとんどの選手が平泳ぎ」だった時代があった
クロールが一番速そうなのに、なぜ他の泳ぎ方が生まれたのか。
みなさんは水泳は得意ですか?
筆者は中学生活が終わっても、平泳ぎの「あおり足」が直らずじまいでした。背泳ぎは普通ですが、バタフライはやろうとしたこともない……。「一番速いクロールで泳いでいればよいものを」と何度思ったことやら。
そもそも、どうして競泳の泳ぎ方は、今の4種目が主流になっているのでしょうか?
クロールと平泳ぎ
世界で最も古い泳ぎ方は、クロールだといわれています。「クロール」とは英語で「這う」という意味ですが、赤ちゃんが自然と「はいはい」をするように、人間が水中を泳ごうとしたときの動作としては自然なものですね。
ところが、競泳が盛んになった当初はクロールはまだ発展途上で、19世紀の大会の自由形の主流は平泳ぎのようなスタイルだったようです。
平泳ぎも、古代・中世の頃から漁などに用いられてきました。カエルのような動きがまねしやすく、ゆっくりでも長い距離を泳ぐのに適していたのです。当初の競泳で平泳ぎが主流だったのには、こうした背景があります。
ところが、そこから数十年で、クロールのストロークに改良が次々と重ねられ、平泳ぎと競り、やがて追い抜いて、クロールは現在のような「最速の泳法」になっていきました。
オリンピックのはじまりと背泳ぎ
1896年の第1回アテネ五輪では自由形のみが行われました。「泳げればなんでもよい」というルールで、当時はまだほとんどの選手が平泳ぎでした。
次第にクロールに改良が施されて普及が進むと、自由形でクロールを使用する人が増えました。自由形が事実上クロールによる競泳になったのを受け、1908年のロンドン五輪で、初めて「平泳ぎ」が自由形から分離して設けられます。
ところで、オリンピックで「背泳ぎ」が始まったのは、実は平泳ぎよりも前の1900年のパリ五輪でした。
ただし、このころの背泳ぎはまだ、現在の背泳ぎとは全然違います。背泳ぎはもともと水難救助などの際に人を抱えて泳ぐための方法で、あおむけになって平泳ぎのカエル足の動きをするものでした。何しろクロールがまだ普及していないのに、それをあおむけにする発想はありませんから、当初の背泳ぎはバタ足ではないのです。
20世紀に入ってクロールが広まるなか、米国のハリー・ヘブナーという人物が、クロールの仰向き版で泳いでみると、意外と速いことに気付きます。彼は1912年のストックホルム五輪の100m背泳ぎでこれを試し、見事優勝。もはや背泳ぎの大会は方法バトルです。
以降、背泳ぎは現在のようなスタイルに染まっていきました。
バタフライの誕生
4種目のなかでまだ歴史をご紹介していないバタフライは、最も新しい泳法です。
1930年代ごろから、平泳ぎのリカバリー(後ろにかいた手を前に戻す)動作を、より抵抗を減らすために水の上に出すようにする「バタフライ平泳ぎ」が行われるようになりました。これは現在の「バタフライ」とは違い、キックはまだカエル足しか認められていませんでした。
カエル足だったため、この「バタフライ平泳ぎ」は通常の平泳ぎを淘汰するような成果を出していません。
しかし、それ以降、日本の長沢二郎選手など多くの人の改良を経て、水上に手を出す動きに合わせた「ドルフィンキック」が考案・改良されていきます。
1956年のメルボルン五輪でついに平泳ぎから分離され、初めて「バタフライ」が独立した種目となりました。
おわりに
以上のような流れを経て、現在の4種目が主流となりました。早く泳げる方法が広まるたびに、遅い泳法を別種目として残した、という具合でしょうか。
図解すると、おおよそ以下のようになります。
ちなみに、五輪でメドレーリレーが初めて行われたのは1960年のローマ五輪、個人メドレーは1964年の東京五輪です。それまでも米国の一部の大会で3種類のみのメドレーが行われたことはあったようですが、日本選手権や主要な国際大会でメドレーが始まったのは五輪よりも後のことでした。
参考文献
高木英樹『人はどこまで速く泳げるのか』岩波書店、2002
吉村豊・小菅達男『泳ぐことの科学』日本放送出版協会、2008
日本水泳連盟『背泳ぎに関する調査研究報告書』日本財団図書館、1996
日本水泳連盟『バタフライに関する調査研究報告書』日本財団図書館、1998
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