「実家が全焼しちゃったので撮ってきました!」 実家の焼け跡の資料写真、漫画家が販売 「たくましい」と絶賛
販売した漫画家・津吹賢さんに詳細を取材しました。
「先日実家が全焼しちゃったのですが、せっかくなので資料写真を撮ってきました!」
そう言って実家の焼け跡の資料写真をネットで販売し始めた漫画家が、Twitterで「たくましい」「転んでもタダでは起きないとは、まさにこのことw」と称賛を浴びています。ピンチにおける機転も素晴らしいけど、精神がとにかくタフすぎる。
販売開始したのは、漫画誌『近代麻雀』(竹書房)で『乙牌』を不定期掲載中の津吹賢さん(@tsubuki_ken)。5月中旬、津吹さんの実家は両親が仕事で外出中に火災が発生してしまいます。事件性はなく負傷者はゼロ。家もへき地に建っていたため近隣被害もほとんどありませんでしたが、築20年ほどの一軒家が全焼してしまいました。
母親と妹は思い入れのあった衣類や貴金属、写真等が焼けてしまったため、当初はかなりショックを受けていたそうです。一方、津吹さんはというと全焼を知ったのは10日近くたってからで、母親から電話で「ウチ全焼しちゃったんだわ」と“やっちゃった感”で告げられてしまったため爆笑してしまったとのこと。父親も別の場所に事務所を構えていたので、さっさと割り切ったようで通常運転でした。
しかし津吹さんも間をおいてから、「あの家には記憶と写真の中でしかもう戻れないんだな」とさすがに少し感傷的に。自分の記憶に残る実家が一体どんな姿になってしまったのかこの目で確認したい、自分を納得させたいという思いから、資料用の写真を実家に撮りに行くことにします。
実際に焼け跡を撮影をしてみると、「これは貴重な資料だから自分だけに留めておくのはもったいないな……」という気持ちに。実家の中ではエアコン、ブレーカー、洗濯機のドアなど、あらゆるプラスチックの部分が焼けただれた状態で固まっています。冷蔵庫、洗面台、お風呂場、ピアノの鍵盤など燃えにくいものは形状はそのままですが、ススがこびりついて不思議な表情に。悲惨で怖いけれども、見たこともない光景で興味深い……!
津吹さんは「せっかく実家燃えちゃったんだし、どうせならデータとして売ってしまおう、ほしがってるクリエイターさんはきっといるはず……!」と販売を決意。火事の資料写真は漫画・イラスト業界でも珍しく、焼け跡を室内から撮影した写真もおそらく編集者や会社などを通して消防署や警察署に取材を申し込まない限りなかなかお目にかかれないものだろうと考えました。
いやでも、実家をダシにしてお金を稼いでいいのか。少し葛藤はありましたが、実家の方々は「え? あんなのお金になるの!?」「別にいいんじゃない? 今そこに住んでないし」と笑って応じてくれたそうです。器がでかすぎるぞこの家系。
こうして内観写真をpixivのショップ作成サービス「BOOTH」でダウンロード販売し始めました。お値段は150枚セットで300円。安い。
Twitterで「先日実家が全焼しちゃったのですが、せっかくなので資料写真を撮ってきました!」と販売を告知したところ、2万件近くリツイートされるなど話題に。「しゅごいタフ……」「たくましい奴だな。おい!」「ポジティブ」「これが炎上商法か……」とその倒るる所に土をつかむスタイルに驚きの声が相次ぎます。
写真のおすすめの箇所を尋ねたところ、「全てと言いたいところですが、やはり中から撮影した写真ですね」と津吹さん。「熱によってドロドロに溶けたエアコンのカバー、グニャグニャにゆがんだドアの金属、焼け落ちた窓からのぞく鮮やかな外の風景とのコントラスト、ススに汚れた全体的に漂う廃墟感など、普段見ることのできないリアルな情報がたくさん詰まっています」
Twitterでの反響については「とにかく驚きと感謝でいっぱいです」と、次のように話します。
「初動も鈍かったので『やっぱり実家が火事とかって気を遣われてリツイートとかイイネはしにくいよね』とか思っていたのですが、ある瞬間からまさに火事のごとくまたたく間に広がって『あ…やべ、実家の場所特定されちゃうかな……(汗)』と一瞬脳裏をよぎったほど、予想外の反響でした」
「当初の目的は多くの人にこの貴重な写真を見てもらいたく、そして小銭稼ぎ程度に写真を買ってもらいたかっただけでした。それなのに、いつの間にか自分の周りも含め、励ましや心配をしてくださる方や、この行動を評価してくださる方、更には定価を超える金額で写真を購入してくださる方がいたりと、SNSを通じて人の優しさ、情に触れました。本当に感謝いたします」
写真提供:津吹賢さん(@tsubuki_ken)
(黒木貴啓)
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