「被災地に千羽鶴はやめるべき」議論が西日本豪雨で再燃 熊本地震で現場はどうだったか、熊本市に聞く
「平成30年7月豪雨」の被災地へ支援の動きが高まる中、「千羽鶴を贈るのだけはやめて」という呼び掛けが話題に。熊本地震の際、現場で千羽鶴に困るようなことはあったのか、熊本市の復興総室に取材しました。
西日本を中心に大きな被害をもたらした「平成30年7月豪雨」。被災地への義援金を自治体や企業が募集するなど支援の動きが高まる中、「被災地へ折り鶴を贈るのは自己満足でしかないからやめるべき」という呼び掛けが、Twitterで議論の的となっています。熊本地震の際は、こうした千羽鶴や色紙といった励ましの贈り物はどれほど届き、処置に困るようなことはあったのか――熊本市の復興総室に取材しました。
折り鶴は「完全に作る側の自己満足でしかありません」
議論を呼び起こしたのは、東日本大震災の経験者によるツイート。折り鶴は食べられないしお金にもできない、場所を取るし、捨てづらいとし、「作る側の自己満足」として折り鶴を作る費用を募金してほしいと語っていました。
千羽鶴といえば広島平和記念公園内にささげられるなど平和のシンボルとして知られており、大きな災害があったときにも被災地へ贈られることもあります。しかし近年、このツイートにあるような「必需品でないのに場所をとる、その上捨てづらい」などの理由から、厄介な品にしかならないので被災地へは贈るべきではないという意見が見られるように。東日本大震災や熊本地震など、震災のたびにネットで物議を醸してきました。
呼び掛けは8万回以上リツイートされ、リプライ欄ではさまざまな意見あがっていますが、賛同の声が多く見られます。「災害があってどうしようというときに千羽鶴が送られてきても何にもならない」「東北でボランティアしたときに千羽鶴の置き場所に困った」「善意の押し付け」など、「被災者を思いやるのなら、折り鶴よりもお金を送るのが一番」という声が圧倒的です。
しかし一部では「いくらなんでも言い過ぎでは」「折り手の優しい気持ちも少しは考えて」と反感を覚える人もいます。こうした意見に「気持ちを届けたいのなら、迷惑な形ではなく助けになる形で送りましょうという話」と諭す声や、「なぜそこで相手の助けになる行動を考えられないの」と反論する声も続出。「行為を見直そう」という主張と「善意を否定された」という感情がぶつかり合いやすく、本件の議論の難しさを浮き彫りにしています。
熊本地震のケースは
大きな災害のたびに取り沙汰されるようになった「被災地に千羽鶴は迷惑」論ですが、現場ではどのように捉えられているのでしょうか。2016年4月14日に起こった熊本地震の際の状況について、熊本市復興総室の室長に取材しました。
――熊本地震の際は、被災地にどれほど千羽鶴が贈られて来たのでしょうか。
室長: 量としてどれほど来たのかは、市で一元的に総括していないので具体的にはわかりません。知り合いのつてで仮設住宅所へ贈るなど、避難所、各自治体、学校などそれぞれ被災者のいる場所へ直接送るケースが多いですから。
室長: ただ正直言うと、発災直後に千羽鶴や色紙はそれほど送られてこなかったと思います。個人からの支援物資としては、やはり水や衣類といった「生きていくために必要なもの」が優先的に届きました。千羽鶴や色紙は、震災からしばらくたって現場が落ち着いてからでしたね。届いた千羽鶴の廃棄に困っているという話は聞いたことがなく、報告書としてもあがってきたこともありません。
――市役所に届いたものはどのようにしていましたか?
室長: 「熊本の子どもたちへ」とあったら教育委員会へ各学校に送ってもらう、「避難所の方へ」とあったら避難所へなど、状況に応じて届けるようにしていました。市役所のカウンターに飾ってあるのもあります。
――支援物資で処置に困ったことは何かありましたか。
室長: 処置に困ったのは折り鶴や色紙よりも、避難者が少なくなった後でも日本全国から個人の支援物資が大量に届いてしまったことです。被災地のニーズは時間がたつにつれ変わってしまいます。発災直後は水、はがき、生理用品などいろんなものが必要で、それは数があるだけ助かるもの。しかし落ち着いてきてそれらが必要十分あるにもかかわらず、水、毛布、簡易型のダンボール型ベッド、乾電池、化粧品、子ども用のミルク、おしめなどが多く送られてきました。ニーズにマッチしない上に数もすごいので、持て余してしまいました。
――現段階で西日本の大雨の被災地へ支援するとすれば、どのような形が喜ばれるのでしょうか。
室長: まず話にあるような千羽鶴や色紙を現時点で送るのは、先方が困られるので控えた方がいいと思います。というよりも、個人からの支援物資を送ること自体をやめた方がいいでしょう。
室長: 現地ではまだ人命救助も終わっていないところもある上に、各避難所へ水や服、おにぎりといった必需品をいかに早く的確に送り届けるか、各自治体は対応に追われているところだと思います。現場のマンパワーも不足している中、そこに個人が物資を送ってしまうとさばききれず、混乱を招きかねません。
室長: 今にでも送りたい気持ちはわかりますが、被災地でボランティアや物資を受け入れる環境が整ってからの方がいいです。支援物資の申し出ようと電話も掛ける人も多くいますが、現在は他の対応で立て込んでいる状況なので、それも控えるべきかと。自治体などに、義援金を送っていただくのが最もよいかもしれません。
(黒木貴啓)
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