「NOSTALGIC TRAIN」でバーチャルな乗り鉄を楽しもう これ、涙が出るほど懐かしい……:月刊乗り鉄話題(2018年7月版)(2/3 ページ)
この心地よい世界観をどのように形に? 作者「畳部屋」さんに聞いてみた
NOSTALGIC TRAINの作者「畳部屋」さんはCGアーティストです。開発費を集めるために利用したクラウドファウンディングの紹介ページによると、本業はゲームクリエイターとして、大作ゲームの背景モデリングを担当しているそうです。私たちはすでに、彼が作ったゲームで遊んでいたのかも……などと思いつつ、今回は畳部屋さんとして本作品について伺います。海外在住とのことで、メールでインタビューしました。
―― 鉄道ファンとして、まずは気動車が気になります。窓の配置とエンジン音が1基ぶんというところから、国鉄の「キハ20形」だと思います。合っていますか?
畳部屋 はい。原型はキハ20形です。ただ、キハ20が好きというわけではなくて、誰にとっても懐かしく思えるような、象徴的で、癖がなく、最大公約数的な世界に合う車両として選びました。海外在住のため、ネットで高精細な画像や三面図を参考にしています。詳しい方が見れば、細かい部分で違う車両を参考にしたと分かるかもしれません。
―― キハ20をベースにした象徴的な気動車の姿なのですね。そういえばトイレがない(笑)。でも、ボックスシート、窓枠、車体や内装の塗装の傷み具合までリアルです。
畳部屋 ペイントなど表面の質感にこだわりました。どこかにうっすらと浮かんでいるサビ、すすけている様子などを再現すると、CGとはいえ長く実際に使われた感じになってきます。重量感や素材感、あわよくば海辺の潮風にさらされている感じなど、説得力が出てくると思います。
―― 雰囲気で大事な部分に「音」もありますね。遠くから聞こえる踏切の音、目の前を通過する気動車のエンジン音。その音からディーゼルのすすの臭いまで漂ってきそうな臨場感です。これは実物の音声ですか。
畳部屋 エンジン音も含めて、本作品の音は全て商用利用可能というライセンスになっているインターネット上の素材を使用しています。プログラム側で音程を変えたり、オン/オフを切り替えたりしています。
―― 「夏霧駅」のモデルはありますか。とても懐かしい雰囲気ですね。例えば屋根。いったん駅舎が完成してから、あとで庇を足したような作り。これは「当初の予想より利用者が増えて、待合室がいっぱいになった時期がある」という背景を想起させます。そして時がたち「でもいまは無人駅」という、寂れた感じも。そんな駅の歴史が建物に現れています。ホームの別棟の便所なんて、夏の湿度、草の臭いに混じって、独特のあの臭いまで脳内再生されてしまいました。
畳部屋 駅も特定のモデルはありません。参考にした駅舎は小和田(飯田線)、上臼杵(日豊本線)、揖斐(養老鉄道)、神戸(ごうど/わたらせ渓谷鉄道)などです。その他にさまざまな木造駅舎の写真資料を集めて、特定の駅ではなく、それぞれの要素を組み合わせて、あえて抽象的なデザインになるよう再構成しました。
この時代のこういう建築ならば壁や窓枠の構造はこうで、柱と梁はこのように組み合わさるはずだ、というようなことも考えながら、架空のものとはいえリアリティーが出るように気を付けて制作しました。
―― 他の建物もそうですが、柱とか壁の板とか、同じ模様が一つもないです。一つ一つ手間をかけて作り込まれたようです。これは大変な作業かと。
畳部屋 建物や列車の質感は「Multilayer Texturing」という最新のゲーム制作技術を使っています。簡単に説明すると、例えば柱なら白くペイントされた質感、それが剥がれて木材がむき出しになった質感などを別々のレイヤー(層)情報として持っておき、剥がれたところ、ペイントが残っているところなどをランダムに変えるという技術です。そのおかげで繰り返しが目立たず、リアルな質感のものが実現できます。
―― なるほど、プロの技を使いこなしているんですね。こうしたパーツを組み合わせて、全体的な土地をまとめていくと。この場所は、どこか想定した風景はありますか。
畳部屋 特定のモデルはなく、日本の懐かしい景観を表すようなさまざまな要素を、なるべくたくさん、コンパクトな世界へ高密度に、けれど自然な形で詰め込もうと意識して作った架空の世界です。駅舎、木造校舎、大正時代のような、少し洋風な建物、神社や六地蔵など。特定の資料からそのまま使うのではなく、複数の景色を混ぜながら「誰が見てもどこかで見たことあるような」風景に。
ただ、幼い頃に、祖父母の家の近くを通っていた列車を眺めていた記憶、姫新線、山陰本線、一畑電車あたりは、鉄道の原風景として心の奥底に刻まれているかもしれませんね。父が10代の頃に少しだけHOゲージの鉄道模型をやっていたらしく、家には雑誌『鉄道模型趣味』の古い号などがありました。子どもの私は、それをワクワクしながら眺めて、いつかこんな模型を自分でも作りたいと思っていました。まさかCGで作ることになるとは思ってもみませんでした。
―― なるほど、なんとなく鉄道模型の基本レイアウトっぽいな、とも思いました。そうすると、お父様の少年の頃の時代の風景を再現したという感じですか。
畳部屋 私は1981年(昭和56年)生まれです。昭和時代や国鉄を記憶している最後の世代になるでしょうか。作品の時代はもう少し前を想定しています。昔の時代への美化された憧れのようなものもあるかもしれません。私が小さい頃、両親の地元には昔ながらの、作品内に出てくるような景色があったんです。それが物心ついたころから、昭和から平成になり徐々に消えていった。そういうところ考えると、自分にとっても幼い頃の懐かしい景色を再現しようとしたともいえるかもしれません。
―― はじめは景色に心が奪われましたけれど、ストーリーモードも幻想的な物語でした。小説としてテキストだけ読み返したくもなりました。
畳部屋 物語を作るのは仕事ではなく完全に趣味です。これまでもすき間時間にやっていたのですが本格的ではなく。ただ、景色を見て、その場所にはまる物語性を描いて作品にできないかなと、ぼんやりと考えていました。本作品で日本のさまざまな原風景を高密度に詰めこんだように、物語もそれに対応して、一見バラバラの要素が有機的につながり、夏霧という土地の小宇宙を描くような、そんな話にしたいと思っていました。
NOSTALGIC TRAINで例えると、灯篭流しの看板があって、そこの前に立つことでそのいわれが語られるとか、湾を見渡せる滝があって、それはかつてこの土地を開いた人たちがそこにたどり着いてこの場所に住もうと決めた場所だったとか。
―― それはフリーモードのコンセプトに通じますね。
畳部屋 バランスドアクアリウムといって、水槽の中に循環する魚と水草、バクテリアの生態系を作って、酸素の供給や水の浄化まで自然のままに近づけるという手法があります。そういう完結した「小世界」にしたかったのです。
―― 作り上げてばかりのところで恐縮ですが、ファンとしては次回作にも期待します。
畳部屋 なるべくコンスタントに作品を出していきたいと思っています。幾つかアイデアはあります。その中のどれを次回作にするか決定できてはいないのですが、次回作も景色と物語が響き合うなものになれば良いなと思っています。
―― もう1つ、この作品のVR化にも期待したいです。実際にこの世界の中に入ってみたくなりました。
畳部屋 私もできれば良いなと考えています。ただし、実際に快適にプレイするためには、3D酔い対策やパフォーマンスの問題などもあるそうで、両目分の映像を描画するので処理が重くなるらしいとかですね。そうした課題を上手くクリアする方法について、現状はいろいろと検証中です。
―― ゲームクリエイティブのお仕事もありますからお忙しいこととは思いますが、今後の展開に期待しています!!
「NOSTALGIC TRAIN」をやってみましょう! 「鉄道PCゲーム」始めましょう
鉄道に関するゲームと言えば、電車を運転するゲーム「電車でGO!!」(タイトー)がよく知られています。しかしゲームの分野で鉄道を扱う作品は意外と少なく、日本では鉄道会社を経営して町づくりをするゲーム「A列車で行こう」(アートディンク)や、アメリカ大陸横断鉄道を建設する「レイルウェイ エンパイア」(ユービーアイソフト)、「鉄道模型シミュレーター」(I.MAGIC)などがあります。ゲームやPCに詳しい人向けという印象です。
今回紹介した「NOSTALGIC TRAIN」は、物語を楽しみ、鉄道模型レイアウトのような世界を歩き回るだけ。つまり、ゲームプレイ自体は難易度ゼロです。価格も2000円と手頃なので、これまでゲームでは遊んでいなかった乗り鉄さんにもオススメです。Windows PC向けのダウンロード販売専用で、店頭パッケージの販売はありません。ゲームのダウンロード販売サイト「Steam」で購入できます。
注意点としては、詳細なグラフィックを扱うためにそこそこ性能の良いPCが必要です。CPUはCore 2 Quad Q8400/2.6GHzまたはAthlon II X4 620/2.6GHz以上、OSは64ビット版Windows 7以降、グラフィックス機能としてGeForce GTX 650またはRadeon HD7750以上、メモリは4GB以上が最低条件になります。筆者はゲーム用PCを使って遊んでいますが、原稿執筆に使っているノートPCの、CPU内蔵グラフィック機能では滑らかに動きませんでした。GPUを搭載したPCで遊びましょう。
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中身はちゃんとしたアミューズメントセンターですよ。
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