少女は1人、ゲーセンに彼が来るのをいつまでも待ち続けていた 「ハイスコアガール」9話(1/2 ページ)
世の中って時々シビアで残酷だ。
ゲーセンで燃やした青春があった。ゲーセンで育った恋があった。格ゲーが盛り上がっていた90年代を舞台に、少年少女の成長を描くジュブナイル「ハイスコアガール」(原作/アニメ)は、当時を経験していた人も、そうではないゲーム好きも、そしてかつて子どもだった全ての大人が、共感できる悩みをたくさん練り込んだ作品です。
中学3年生も終わり間近。高校受験に向けて、ハルオは覚悟を決める。あの子のために……。
今回のあらすじ
中学時代、思いがすれ違って苦しんでいた、矢口春雄と大野晶。修学旅行の時に激しく殴り合いのケンカをしたことで、自分たちの、お互いの気持ちが少し分かるようになり、わだかまりが消えたところからスタート。
ゲームセンターで「バーチャファイター」の対戦をしたり、一緒にゲーム雑誌を読んだり、チューペットを半分こしたりしながら、中学校最後の夏休みはすぎていきます。小学校時代に遊んでいた時のように……いやそれよりはるかに、仲良く遊んでいました。
夏休みの間は、忙しそうな大野が息抜きをする際のお目付け役的に立ち回っていたハルオ。しかし彼は分かりはじめています。自分は大野のためにいるんじゃない、自分が大野と一緒にいたいんだ。
彼は一念発起。大野と同じ、レベルの高い学校に通うため、猛勉強をはじめます。今まで何一つ勉強せず、オール1だった彼の無謀すぎる戦い。自宅のゲームは片付け、ゲーセンには行かず、歯を食いしばって勉強漬け。
しかし現実は残酷。ハルオは受験に失敗してしまう。努力は、実らなかった。
94年から95年の、格ゲーの進化はすごかった……!
ハルオが我慢したゲームの誘惑は、想像以上に巨大なもの。革命的な出来事を見送った、と言ってもいいくらい。
この時期ゲームファンを驚愕させたのが、「バーチャファイター2」でした。初代「バーチャファイター」も、世界初のポリゴン格ゲーとして話題になったのですが、ポリゴンが荒くてカクカク、見た目ロボット感があったのは否めません、未来を見抜いた通が好むゲームでした(ハルオと大野はその見る目あるゲーマーに含まれるはず)。
「バーチャ2」は、初代と比較にならないほどのビジュアルの変化を遂げました。身体が丸みを帯び、テクスチャが貼られ、キャラクターが生身の人間のようになった。3D格ゲーは今後絶対流行る、と多くの人に確信させるだけのインパクトを与えました。実際、94年の「バーチャ2」、年末の「鉄拳」、PS版「闘神伝2」あたりから、本格的に3D格ゲーに光が当たります。これが、ちょうどハルオが受験勉強真っ只中だった頃です。
2D格ゲーで多くの人に衝撃を与えたのは、94年のカプコン製「ヴァンパイア」と「X-MEN-Children of The Atom-」。今までの格ゲーと明らかに異なる、ド派手すぎる演出、背中がゾクゾクするような滑らかなカートゥーン調のアニメーション、覚えないと直感では扱えないクセの強い技の数々。ガードキャンセルやチェーンコンボなど、今だと当たり前のシステムが生まれたのは、このあたりからです。ガシガシつながるコンボのスピード感には、脳汁出た人も多かったのでは。ハルオが熱狂した「ヴァンパイア」シリーズはこの後、物語中で重要な役割を果たすゲームになっていきます。
ちなみに大野はビクトルという人造人間キャラを使っていますが、これがダイヤグラムドンケツなキャラクター。一回転投げはあるけどザンギエフほど便利じゃない。中大攻撃押しっぱなしの電撃攻撃は便利だけれど、出は早くなくタイミングが難しい。特に亡霊武者のビシャモンやゾンビのザベル相手だと、恐ろしいほどの苦戦をしいられる。勝つためには鍛錬と工夫が必要なキャラクターです。大野はそういうキャラを愛でるのがほんと好きですね。
SNKは「キングオブファイターズ'94」を稼働。一対一が当たり前だった格ゲーに3on3の概念を持ち込みました。主人公の草薙京のような、日本人イケメンがメインビジュアルになりはじめるのも、このあたりから。
また必殺技を使うには気力ゲージが必要、というストイックな格ゲー「龍虎の拳」も2が出ました。まさか初代でとらわれていたユリ・サカザキが、じゃじゃ馬娘として登場し、今も愛される大人気キャラになろうとは。
ほかにも色物格ゲーの「豪血寺一族」や「ワールドヒーローズ2JET」「大江戸ファイト」、男臭い「ファイターズヒストリーダイナマイト」、武器破壊技が搭載された「真SAMURAI SPRITS 覇王丸地獄変」、ラスボスのジェネラルが鬼畜すぎると伝説の「カイザーナックル」など、今も語り継がれるゲームが怒涛(どとう)のように出ました。ストIIの出た92年が格ゲーのカンブリア紀だとしたら、94・95年は恐竜クラスが増え始めた中生代のジュラ紀みたいな感じ。
そんなもん見たら手につかなくなる。だから見ない。ハルオの欲望との戦いは、修行のようなもの。それでも乗り切れたのは、学校で小春に「どーって事ねーぜ」といえたのは、彼が自分の気持ちに対しての答えを見いだして、もう目を背けなくなったからです。
一緒にこの時代の変化を見たいんだ
小学校時代、ゲーセンという自分の安住の地に、大野が入ってきたことをハルオは嫌がっていました。しかし今は違います。このゲームの時代の変化を、大野と一緒に見たい。そして大野と一緒にいたい。今回は自分に素直なので、心のガイルさんは出てきません。
1人じゃなく2人で見ていきたいと分かっているから、彼はゲーセンの魅力を耐えきれた。ゲームをしない試練が過酷なのは間違いないけれど、1人で行っても物足りなくなるのも分かっていたんでしょう。
じゃあ大野はどうなの?
夏休みは2人で一緒に行動していましたが、その後ハルオが決意して勉強を始めたため、ゲーセンに行かなくなりました。けれど大野、9月10月11月……とずっと1人でゲーセンに通ってるんだもの。ハルオに会うために。
ゲームを心の拠り所にしているのは、大野も同じ。ゲーセンで遊ぶこと自体は楽しい。でも1人で行っても物足りなくなってしまった。
じいや「お嬢様は 時々かけ橋の場に出向いては あなたが来るのをずっと待っていたのですぞ!!! お嬢様にとってお坊ちゃんは心の拠り所でございます……日々 鍛錬のつらさを癒やす支えなのです」
絶対口を開いてしゃべらない大野の気持ちを、間接的ながらも言葉でハルオがはっきり聞くことができた、初めての瞬間でした。
見ていて本当にもどかしいシーン。じゃあハルオは勉強せずずっと大野と一緒にいればよかったのか、というとそれは多分違う。今は満たされても、高校時代2人は、何も満たされなくなるのは、分かりきっています。ハルオは自分の決意を後悔していない。
ハルオ「ゲーム業界はどんどん前進して 大野も前へ進んでるのに オレだけとどまるなんてカッコつかねーだろ? 無謀だと思ったけど 大野と同じ上蘭高校を受けるんだ」
大野はハルオがゲーセンに来てくれなくて、本当につらかったはず。けれども彼の決意と本音を聞いた時、静かに彼の手を握ります。今まで絶対しなかった行為。そんな告白されたら、今まで待ち続けた寂しさなんて、吹き飛ぶよ。
……だからこそ、彼が入試で落ちたのは見ていて悲しくて仕方ない。まあ、リアルですよ。だって今まで勉強してなくて、受かるはずがない無謀な挑戦をしたのだもの。そうそう都合よくはいかない。
でも決してマイナスではない。彼が頑張ったことは、大野にも、友人にも伝わっています。以降彼を待ち受けている思春期の悩みは、この時の努力から生まれた信頼のおかげで、周囲の人に真剣な目で見守られるようになります。
特にお母さん! 頑張ったのを一番側で見てるからね!
自分のために頑張ってくれたハルオ。ほれるでしょ。ねえ大野さん。それが失敗したかどうかなんて、問題じゃないよ。ほんとハルオは、人をほれさせる要素が多すぎる男だよ。
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