eスポーツ界を揺るがした「ソウルの歓喜」とは 「リーグ・オブ・レジェンド」世界大会で何が起こったのか真剣に解説する:ゲーマー日日新聞(出張版)
突如トレンド入りした「#DFMWIN」とは何だったのか。
ゲームブログ「ゲーマー日日新聞」の管理人、J1N1(@j1n1_r)さんによる不定期コラム。今回は10月1日より開催中の、「リーグ・オブ・レジェンド」世界大会で起きた“ある快挙”について語ってもらいました。
突如トレンドに現れたハッシュタグ「#DFMWIN」とは何だったのか、なぜ日本チーム「DetonatioN ForcusMe」の勝利がそこまでプレイヤーを沸かせたのか。そこには日本がずっと成し遂げられなかった悲願のドラマがありました。
突如トレンドに浮上した「#DFMWIN」
2018年10月3日、突如Twitter上のトレンドに浮上した「#DFMWIN」というハッシュタグ。これを見た人の大半はこう思うだろう。「DFMって何だ?」「WIN? 一体誰が誰に勝利したんだ?」――。
この時、韓国ソウル市ではオンラインゲーム「リーグ・オブ・レジェンド」(以下「LoL」)の世界大会「World Championship 2018(通称:Worlds 2018)」が開催されていた。そこに日本代表チームとして出場した「DetonatioN ForcusMe(DFM)」が、日本の「LoL」史上初の1回戦突破を成し遂げたのである。そして彼らを応援し、勝利を喜ぶハッシュタグこそ「#DFMWIN」だった。
「おいちょっと待て、1回戦突破? たったそれだけで大騒ぎって、一体『LoL』を遊んでる人たちは随分チョロいんだな」
ゲームやeスポーツに興味のない方なら、あるいは「LoL」をプレイしている人であっても、こう思うかもしれない。正直に言えば、これは世界全体で見れば小さな一歩であることは事実だ。
だが、筆者は今回の快挙が「LoL」の歴史どころか、日本におけるeスポーツの歴史をも変えたという確信がある。
なぜならこの結果は、単なる勝利としてだけでなく、観戦するファンやコミュニティを巻き込み、本当にたくさんの人が彼らの勝利を祝う、一種の熱狂を生み出したからだ。例えるなら、FIFAワールドカップで日本代表が勝利を決めた1997年の「ジョホールバルの歓喜」ならぬ「ソウルの歓喜」なのである。
それにはまず、日本代表が戦った相手チームがどれだけ強かったか、という点から説明せねばなるまい。
100万 vs 8万の戦い
そもそも、「LoL」というタイトルはご存じだろうか。日本においてはそんなに人気のないゲームだが、国際的に見ればかなり有名な作品である、というかむしろ、世界で最も遊ばれているeスポーツタイトルだと考えられている。
そのプレイヤー数、全世界で8100万人。登録ユーザー数などではなく、月に一度遊ぶプレイヤーが8100万人である。しかもこれは、運営先が違うために中国などでのユーザー数は含まれていない。
一方、日本の「LoL」のユーザー人口は約8万人と推定されている。8000万人のうちの8万人。その割合、なんと0.1%。一体、「LoL」を遊ぶ日本人は、どれだけ希少生物なのだろうか。
この時点で、他のeスポーツタイトルと比べても、圧倒的に「世界の壁」が厚いことが理解していただけるだろう。
では今回、日本と対戦した他のチームは、どれだけ強いのだろうか。今回の「1回戦」では、1グループに3つのチームが投入され、その中で総当たり形式で勝負する(※)。この時、日本が抽選で選ばれた「グループC」の中には、「KaBuM! e-Sports」というブラジル代表チームと、「Cloud 9」という北米代表チーム(3位)が選ばれ、日本の敵として立ちはだかった。
※編注:うち上位2チームが次のラウンドに進める
「KaBuM! e-Sports」はブラジル代表のチームだ。ブラジルは比較的最近になって「LoL」が流行した国だが、近年突如として大きく人口を伸ばし、そのプレイヤー数はなんと約100万人以上。日本の12倍以上の規模である。そして「KaBuM!」は、そんな過密地域においても1年間ずっと勝利し続けてきた、ブラジルの覇者だ。
一方、北米代表の「Cloud 9」は「LoL」プレイヤーなら知らない者はいないほどの名門チームだ。「LoL」を生んだ北米を代表するチームの1つであり、2012年の結成以来、「Cloud 9」はずっと北米地域の上位チームとして認められてきた。そして北米自体も120万人以上がプレイする地域である。
この時点で、彼ら2チームに健闘し1回戦を突破したことがどれだけの番狂わせだったか、ゲームをプレイしていない方にもご理解いただけるのではないだろうか。
特に重要な点が、何度も比較してきたプレイヤーの人口だ。基本的にどんな競技でも、プレイヤーの人口はその強さに直結する。なぜなら、母数となるプレイヤーが多ければ多いほど、優秀なプレイヤーが発掘されやすく、さらにスポンサーやコミュニティーの支援も期待できるなど、あまたのメリットがあるからだ。
逆に言えば、サーバ人口8万人という日本は、この時点であまり期待されていなかった。これまで1回戦すら突破できず、ファンは落胆する一方で「そういうもの」と流されてきた。
だが、驚くことにDFMはこうした逆境の中で善戦し、名門Cloud 9にさえ拮抗したのだ。「どうやって?」この疑問には、彼らの4年間の努力から答えよう。
何がDFMをここまで強くしたか
日本における「LoL」のプロリーグ、通称「LJL」が初めて開催されたのは2014年2月。実は既にこの時から、DFMというチームは存在しており、今回大きな活躍を見せたYutaponやCerosといった選手も在籍していた。
だがそれから現在に至るまでの道のりは遠かった。当初こそDFMは強力な選手を抱え、2014年、2015年と国内では文句なしの最強チームとして君臨した。しかし、2016年の夏の決勝戦、ライバルであったRampage(現PENTAGRAM)に敗北してから2年間ずっと、DFMは2位の地位に甘んじてきた。王者と呼ばれ、常にあと一歩のところまで届きながらも、決勝戦で負け続けた。彼らの悔しさは想像に余りあるものがある。
だがその2年間が彼らを強くしたに違いない。それぞれの選手の技量、メンタル、戦略、幾度となく繰り返される戦いと敗北の中で、彼らは自分たちが何をすべきかをつかみ取った。そして2018年の夏。彼らは再び王者として返り咲いたのだ。
このように、幾度の敗北の中で何度も立ち上がり、ついに日本王者の地位を手にしたその直後、世界大会においてもこれほど大きな功績を残した。彼らを応援するファンにとってもまた、今回の勝利は感慨深かったことだろう。
中でもその逆転劇の象徴的人物が、今大会でも斬新な戦略を立案し続けたコーチ、かずーた氏である。
彼は2015年、DFMのプレイヤーとして世界大会に出場したものの、世界という大きな大会を前にした緊張か、いくつかのミスが散見され十分な結果を残すことが叶わず、それを見たファンにより誹謗(ひぼう)中傷にも等しい批判を受けた。
だが、まともな人間ならもう一度挑戦しようという意欲さえ失いかねない過剰なバッシングの中でも、彼は再び立ち上がり、SCARZ、V3 Esportsといった他のチームでの経験を積んだ後、再びDFMにコーチとして参加し、その次のシーズンにはこの大舞台で結果を残すことに成功した。
何というハングリー精神だろうか。今回の結果にファンがこれほど沸いたのは、こうした彼らの不撓(ふとう)不屈の精神が勝利に裏付けされているからに他ならない。単に才能に恵まれた者がたやすく勝利をつかんだのではなく、才能の上での努力、葛藤、逆境、そして何よりゲームへの情熱が彼らを育て、この勝利に結び付けたのだ。その在り方は、まさしくアスリートそのものなのである。
単なる勝利から「ソウルの歓喜」へ
だが今回ゲームファンを揺さぶった「ソウルの歓喜」とも言うべき現象の立役者は、実は選手のみならずファンによるものでもあったのではないか、そう筆者は考えている。
今回の世界大会で大きな活躍を残したプレイヤー、Evi選手は、自身がプロゲーマーになることに反対する祖父に対し、このように説得したという。
「(例え野球やサッカーでも)見る人がいなければ、遊んでいるだけで、ただのゲームだと思うんです。だけど見る人がいて、そこにお金を払ってくれる人がいるなら、それはPCのゲームでもしっかりとした仕事になるんじゃないか……って伝えたら、祖父も納得してくれました」
そう、まさしく今回の「歓喜」は選手のみならず、彼らの活躍を喜ぶファンとコミュニティーによってもたらされたものだった。
先ほど述べたように、LJLが始まって4年間、世界大会という場で日本はいつも苦境に立たされ、敗北を重ねてきた。そうした中で、日本代表を応援するコミュニティーの間にも「陰り」があったことは否めない。
もはや日本が負けるのは必定であり、今回もまた何もできずに帰ってくるのだという、一種の諦めムードのようなものが立ち込めていた。そして敗北したチームには、一部慰めるファンもいたものの、やはり厳しい言葉が投げかけられた。「また負けてきたのか」「旅行は楽しかったか?」と。
だが今回、DFMが勝利したときには、「よくやった」「ありがとう」と、SNSのタイムラインや配信サイトのコメントには称賛の声があふれかえっていた。いつも冷ややかな視線投げかけていたファンの中にも、彼らの功績を認める者は多くいたと思う。
これを「掌返し」と嘲笑するのは簡単だ。だが私はそう思わない。普段、厳しいコメントを投げかけ、いわゆる「アンチ」や「名人様」のような姿勢を取っていた層、彼らこそ他ならぬ、本当の意味で日本のプロゲーマーたちを支えてきた人間だったのだと思う。
無論、度の過ぎた誹謗中傷は許されない。だが4年間、努力はしたものの結果の出せない日本代表チームを応援し続け、彼らの勇姿を見届け、そこに価値を見いだしたのは他ならぬファンだ。Evi選手が言ったように、ファンこそが「ただゲームがうまい人」を「プロゲーマー」へ昇華させる唯一の証人なのである。
また、この「歓喜」に共鳴したのはファンだけではない。「LoL」をプレイしているがプロリーグに関心のない人や、既に「LoL」を引退してしまった人、そして他のゲームのプレイヤー、YouTuber、ストリーマー、あるいは日本以外の視聴者にまで、この喜びは波及した。
本来、ゲームを遊ぶ人たちのコミュニティーは思いのほか分断されている。もともとビデオゲームといえば一人で遊ぶもので、仮に友人と一緒に遊ぶ時であっても2人から10人といった規模だと思う。
だがあの瞬間、配信サイトTwitchでは日本語放送だけで約5万人近い視聴者が集まり、彼らの試合を応援し、彼らの勝利を喜んだ。
同時視聴5万人というのは、LJLにおける配信はもとより、日本におけるあらゆるeスポーツ観戦の中でも、なかなか見られる人数ではない。そしてTwitter上では日本を応援する「#DFMWIN」というタグがトレンドにまで入った。
5万人による、ゲームファンの歓喜の共有。彼らの勝利が、勝利への喜びが、「LoL」を取り巻くあらゆる人たちを巻き込み、一つにしたのだ。この瞬間こそが、いまテレビなどでも取り沙汰される「eスポーツ」の、真の価値なのではないかと筆者は感じた次第である。
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