遊ぶにつれて感情を失い、やがて冷酷な資本家となる―― なぜ「ダーケストダンジョン」は“ブラック企業RPG”と呼ばれるのか:ゲーマー日日新聞(出張版)
次々発狂し、心が壊れていく仲間をどう扱うか。
角川ゲームスは8月9日、ダークファンタジーRPG「Darkest Dungeon(ダーケストダンジョン)」を、PS4、PS Vita、Switchの3機種で発売しました。
同作はもともと2016年に海外で発売され、そのあまりにもブラックすぎるゲームシステムから、一部では“ブラック企業RPG”とも呼ばれていた作品。一見硬派なファンタジーRPGに見える同作ですが、これの一体どこが“ブラック企業”なのか? ゲームブログ「ゲーマー日日新聞」管理人で、Steamで800本遊んだゲーマーでもあるJ1N1(@j1n1_r)さんに紹介してもらいました。
部下を苦境に追いやり、心が壊れたら切り捨てる
「Darkest Dungeon(ダーケストダンジョン)」は、仲間を集め、装備を整え、ダンジョンを探索してアイテムを集める、一見するとごくありふれたいわゆる「ダンジョンクロール」タイプのRPGだ。
ところが、いざ蓋を開けてみると、敵はクトゥルフ神話から飛び出たようなえたいの知れない異形だし、それと戦う仲間たちは正気を失って発狂するし、心が壊れた仲間は使い捨てにできてしまうという、とんでもなくブラックな作品だった。
特にこの、率先して苦境な状況に部下を追いやり、それで心が壊れてしまった者は容赦なく解雇して切り捨てる、という非情極まるゲーム性から「ブラック企業RPG」とちまたで評価されている。
仲間の「ストレス」をいかに管理するか
「主人公は「ダーケストダンジョン」という領地を相続したオッサンで、調査によると、実はここにはクトゥルーの親戚っぽい神様が眠っているらしく、なら傭兵を雇って探索してみようというのが本作のあらすじ。
ゲームの流れは大変シンプルで、まず領地で仲間を雇ったり装備を購入し、次にダンジョンに突入して異形たちと戦いながら、財宝眠る最奥まで到達し、また新たなダンジョンに潜るというもの。
それだけならありふれたローグライクだが、本作ならではのパラメータとして「ストレス」という値がそれぞれ仲間に設定されている。
敵に攻撃される、トラップに引っ掛かる、この世のものと思えないものを見てしまう、そういうショックな出来事があると彼らのストレスが増大し、ストレスが一定値を超えると恐怖で動けなくなったり、絶望したりといった、「精神崩壊」に陥ってしまい、プレイヤーの指示を拒絶するようになる。
さらに厄介なことに、発狂した味方を連れて冒険を続けると、そいつが他の味方と口論してストレスを与え、さながら伝染病のように皆の精神がやられていくのだ。
とはいえ、犠牲を省みないのなら、1人ぐらい発狂しても何とかなるのがこのゲーム。ダンジョンの最奥に到達すると、仲間の精神的健康と引き換えに、報酬や財宝を持ち帰ることができる。
しかし拠点に戻っても安心はできない。拠点に帰還すると、傷ついた肉体はたやすく回復するが、仲間に蓄積したストレスはそのまま残り、また戦いが熾烈(しれつ)なものであればPTSD(心的外傷後ストレス障害)としてその仲間に刻み込まれてしまう。
そんな彼らを再びダンジョン探索に駆り出すには、それ以上の快楽か救済を与えるしかない。幸い、拠点には「教会」や「酒場」があり、信仰やアルコールの力でつらい記憶を一時的に和らげる事ができるし、PTSDに関しては「サナトリウム」で怪しげな薬物を投与すれば治療することもできる。
まぁ、こうした治療にはかなりの費用がかかるのだが、こうした福利厚生を充実させてこその探索業。プレイヤーの慈悲に、仲間たちは涙を流して喜んでいることだろう。多少後遺症が残るかもしれないが。
最も安上がりなのは「限界まで追い詰めて解雇する」こと
ところが、そう簡単に誰でもロバート・オーウェンのような心優しい実業家になれるわけではないのがこのゲーム。本作は、何かにつけて出費させる割に、収入はとんと安定しないのである。おかげで常に、経営は火の車だ。
一応、クエストの報酬や財宝の売買で多少は通貨は稼げるのだが、それでも消耗品の補給、仲間の装備代、そして何より彼らの治療代により、懐は常に寂しい状態。まともに負傷した仲間を手当すると、明らかに採算が合わない。
ではどうすれば良いのか。
実はこのゲームで、唯一「無料」で入手できるもの、それは一獲千金のチャンスがあるとのうわさを聞いてのんきに集まってきた新卒の仲間だ。このゲームで唯一タダなのは、彼らの命だけなのだ。
そこで、考えられる「経営戦略」は1つ。
新卒の仲間をギリギリ突破できるか否かのダンジョンに突入させ、満身創痍になるまで酷使して確保した財宝は売却、そしてPTSDで苦しむ彼らを即座に解雇して新たな兵隊を補充する、というもの。これなら元手がタダなので、確実に収支は「黒」になる。
こういう話を聞くと、特に普段からゲームを遊んでいる人なら、「そうかなるほど、では早速新兵をかき集めて突撃させよう」と軍の督戦隊のように割り切れるかもしれないが今度はそう簡単に冷酷になれないのが「ダーケストダンジョン」のスゴイところ。
例えばダンジョンを歩いていると、前線を支えてくれる高名な騎士が「正直もう帰りてえ」と弱音を吐いたり、逆にいつも弱腰だった追い剥ぎが突然「みんな頑張ろうぜ!」と仲間を鼓舞してストレスを解消してくれたりと、本作では仲間たちがよく喋るし、それが極めてありふれた人間であることを伺わせてくれる。
確かに、純粋にゲームを攻略することだけ考えれば、仲間は道具でしかない。限界まで追い詰めて解雇するのが最適解だ。だが、彼らとともにダンジョンをくぐり抜ければ自ずと愛着が湧き、そのような効率プレイをためらってしまうのだ。
だからこそ、プレイヤーには常に葛藤が生まれる。仲間を攻略のため切り捨てるのか、ゲームの進行を遅らせてでも守るのかを。とてもビターな味わいだが、普通のゲームではなかなか知ることのない体験だ。
遊べば遊ぶほど失われていく「感情」
最後に、このゲームの感想やレビューを読んでいると、少なからず「序盤は楽しいが、中盤から作業的になってしまう」という欠点が指摘されている。
正直この批判は否定しきれず、実際本作はある程度遊んでいると少し中だるみしてしまう点は事実だ。しかしながら、実はこれこそが「ダーケストダンジョン」の狙いなのではないか? と、レビューを読んでいて自分は感じた。
このゲームを遊んでいると、序盤はダンジョンをじっくりと進め、安全を最優先で部下のケアも怠らず、仲間を1人発狂させる度に罪悪感を感じる。
だが、中盤から上述した効率的な遊び方に気付いてしまうと、仲間たちが後遺症に苦しむ姿を見ても何も感じなくなり、機械的に仲間を死地に追いやっていく、冷酷な資本家となる。つまりプレイヤーは、序盤に持っていた大切な感情を失っているのである。
思うに、この状態のプレイヤーもまた、ゲーム内の仲間と同じく、一種の心的な「トラウマ」が刻まれてしまったのではないだろうか。クトゥルフ神話をベースとした名状しがたきダンジョンを探索する度に、大事に育てた仲間を喪失した悲しみは、たとえゲームでも少なからずショックなものだ。
実際、筆者自身も遊んでいるうちに仲間に申し訳なくなって途中で中断してしまったこともある(しかし、今度こそうまくやれるんじゃないか的なもくろみと共に1時間後に再開し、手塩にかけて育てた騎士を1人失った)。
「ダーケストダンジョン」というゲームは、恐らく万人にオススメできるゲームではない。
基本的にやたら難しく、運要素が多くて理不尽に感じやすく、クトゥルフ神話に影響された世界観はひたすら鬱屈しており、ストレスというシステムはキャラクターどころか、プレイヤーすら心理的に追い込むだろう。
しかし、だからこそ他のゲームにない体験が待っている。絶え間なくストレスが降りかかり、苦渋に満ちたゲームプレイは、同時に高いリアリティーがあり、さながら敗戦の将軍や納期に追い詰められる上司になったような逼迫(ひっぱく)感を味わえる。
さらに今なら、満を持してPS4とPS Vita、Nintendo Switchで日本語版が発売された。これでガールフレンドと夕食を摂る時や、休日に自分のかわいらしい子供と遊ぶ時にも、このゲームで胃をキリキリさせながら苦しむ仲間にむち打って愉悦を得ることができるのである。これはもう買うしかないのではないだろうか?
今回紹介したゲーム
タイトル:Darkest Dungeon(ダーケストダンジョン)
ハード:PS4、PS Vita、Nintendo Switch、Steam(Windows、Mac)
公式サイト:http://darkestdungeon.jp/
開発元:Red Hook Studios
パブリッシャー:角川ゲームス/11 bit studios
価格(家庭用):パッケージ版4800円(税別)、ダウンロード版4500円(税別)
価格(Steam):2480円(税込)
日本語サポート:あり
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