インタビュー
» 2018年10月11日 10時00分 公開

「地方の若者には“選択肢の格差”がある」 住居費無料で食費も出る非大卒向け「ヤンキーインターン」が生まれた真剣な理由

ヤンキーがインターンしたっていいじゃない!!

[umino,ねとらぼ]

 「ヤンキーインターン」をご存じでしょうか。地方出身で非大卒の18歳から24歳の若者を対象に教育プログラムを提供するというもの。サービスの名前もなかなかですが、特徴的な点はそこだけではありません。インターンの参加費はタダ、インターン中の住居は無償、さらに提供食費も一部支給されるのです。


ハッシャダイ 「ヤンキーインターン」、とな?

 今回はそんな「え、マジで言ってるの?」と思ってしまうようなサービスを行っている会社ハッシャダイ(東京・原宿)に取材へ。実際に「ヤンキーインターン」に参加している2人のインターン生がインタビューに答えてくれました。

実際、ヤンキーがインターンをしているのか?

 「ヤンキー」と名前にあるように、どんなヤンキーが来るのかと内心ビビっていましたが、現れたのは好青年2人。めちゃくちゃ安心しました。

  「ヤンキーインターン」には2つのコースがあり、1つは営業や企画について半年間かけて学ぶ「Yankee.Businessコース」。もう1つは、ゼロからプログラミングやデータ活用について学ぶ「Yankee.Hackerコース」。それぞれのコースから1人ずつお話を聞きました。

 1人はビジネスコース5カ月目、栃木県出身の佐藤樹(さとうたつき)さん、18歳。もう1人はハッカーコース3カ月目の東京生まれ、10歳から18歳までは沖縄で過ごした神谷暉士(かみやぐんじ)さん。年齢は佐藤さん同じく18歳です。


ハッシャダイ 佐藤樹さん


ハッシャダイ 神谷暉士さん

――「ヤンキーインターン」という名前ですが、お2人とも全然ヤンキー感はないですね。もしかして地元にいた頃はヤンキーだったんですか?

佐藤: うーん、ヤンキーというほどではないですね。ケンカして怒られたりとかはありましたけど(笑)。

神谷: 東京に比べると沖縄はヤンキーっぽい人は多いですが、僕は全然ですね。

――実際にヤンキーインターンではどのような活動を日々行っているのでしょうか?

佐藤: ビジネスコースは大体こんな感じですね。

7:00 起床

9:00 出勤

9:00~10:00 リーダー会議

10:00~10:30 朝礼

10:30~12:00 ビジネススキル・講演会等の座学

12:00~14:00 座学を受けての振り返りやお昼休憩

14:00~15:00 チーム会議やビジネスロープレ・練習

16:00~20:00 フィールドセールス

22:00 帰宅、就寝

――ガッツリ外に出ている……。「営業は足で稼ぐ」なんて言葉がありますけど、やっぱり靴の裏はボロボロになるんですか?

佐藤: そうですね、東京出てくるときに買ったので使い始めて約5カ月ですけど、毎日歩きまわっているのでもうボロッボロです(笑)。


ハッシャダイ 半年間の努力が靴の裏に表れていますね

――ハッカーコースはどのようなスケジュールなのでしょうか?

神谷: ハッカーコースはビジネスコースほどきっちりとは決まってないですね。起きる時間は基本的には自由で、10〜18時までが作業時間としてざっくりと決まっているだけです。ハッカーコースでは、各自のレベルに合わせて、1週間かけて取り組む課題が出るので、それを時間内にやっています。

 どうやって時間を過ごすかは個人の自由ですが、適当に時間を使っているわけではなくて「どの時間に何をするのか」という1週間のスケジュールをそれぞれがあらかじめ決めておきます。「とりあえずやる」を避けるためです。「自分の付加価値を上げる」という目的があるので、直接的にプログラミングと関係のないものの時間をとってもいいことになっています。例えば読書とか。社員から決められるのではなくて、「自分で自分のスケジュールを決める」ということが大事なんです。

――いきなりプログラミングについて学ぶとなると苦労も多そうです。

神谷: そうですね。僕は中学生高校生の頃に独学である程度はやっていたのでそこまで苦労はしませんでしたが、未経験者の人はかなり苦戦してましたね。中にはPCに触ったことがないという人もいました。

――インターン中は、シェアハウスという形で住居が提供されているんですよね。共同生活の難しさや面白さみたいなものはありますか?

佐藤: 面白いなって思ったのは方言ですね。インターン生は関西や九州の人が多くて、「今なんて言ったの!?」となることもしばしばです(笑)。栃木にいたままではそういう経験もなかっただろうし、地元にいたままでは触れることのなかった価値観にたくさん触れました。

神谷: 一緒に生活している人々が、みんないろいろな思いや過去を持って、ここにやってきていて、それが本当に勉強になりましたね。

――特に、不便だなと思うことはない?

佐藤: 特にないですね。逆に、ここでの生活を不便だと思っている人はここを学校かなにかと勘違いしているんじゃないですかね。自分が嫌だと感じるものがあれば、それは自分で変えていけばいいので。むしろ、共同生活の中でのコミュニケーションスキルだったり責任感みたいな人間的な部分での成長が大きかったです。

神谷: 不便とは少し違いますけど、シェアハウスということで周りと協調しながら生活しないといけないので、そこは大変です。掃除も洗濯もなにもかも自分でしないといけないので。これまでは親がやってくれていたので、そういう部分で「嫌だった」というよりは「自分でいろいろやんないといけないよな」という気付きがありました。

――実家暮らしの私としてはとても耳が痛い話です……(笑)。

神谷: いやいやいや! 僕もできるなら実家暮らしがいいので!

佐藤: 洗濯めんどくさいもんなあ……(笑)。

どうしてここに?

――お2人はどうしてヤンキーインターンへの参加を決めたのでしょうか?

佐藤: 僕はあまり大人から褒められる中高生ではなかったですね。中学の時なんて、修学旅行には保護者同伴じゃなきゃ参加できない、と言われたりするくらい(笑)。そんなんだったんで周りからも、「高校なんか進学できないだろ」と言われていました。それに腹が立って、逆に「高校行って卒業してやる!」と奮起したんですけど、県立も私立も全部落ちて、結局夜間学校に行くことになって。しかも、その夜間学校も1年くらいで退学することになって、そこからは通信制の高校に転校しました。

 ここに来たのは「もっと自分の可能性を広げたかった」からですね。僕の周りの人は中学を卒業したら、土木とかの外仕事や工場にみんな就職するんですよ。僕も高校に通いながら土木関係の仕事はしていました。工場に就職する友達に「なんで工場に就職するの?」とか聞くと、「安定してるから」みたいな返答ばっかり。

 僕は波乱万丈な人生に憧れがあったし、“収まっていく”のがすごく嫌でした。もっと自分の可能性を広めたいと思っていたんですけど、知識もなかったので、どうすればいいのかも分からなかった。考えることすらできないんですよ。それで「とりあえず東京に行けばなんか変わるんじゃねえか」とずっと思ってました。そしたら、ちょうど母親がハッシャダイを見つけてきて、「これはいいな」と。「食費出る!? 住むとこもタダ!? 行くわ!!」って感じで(笑)ここに来ました。

神谷: 僕は沖縄県の糸満というところで暮らしていて、中学は地元にあった学校に行っていました。ほとんどの人がそのまま隣にある高校に進学するんですけど、当時それに乗っかるのが「面白くないな」と思ってしまって(笑)、隣町の知っている人がほとんどいないような高校に進学しました。「今までのままなんて嫌だ」「みんなと一緒なんて嫌だ」って感じの中高生でした。

 ヤンキーインターンに参加した動機は、あまり大学に魅力が見いだせなかったのと、担任の先生が勧めてくれたから。大学に行くならコンピュータや工学系について学びたいと思っていたんですけど、その手の分野はある程度なら独学で勉強できるし、別にいかなくてもいいか、と(笑)。僕は5人兄弟の一番上ということもあったのであまり両親に負担をかけたくないという理由もありました。両親は「気にするな」と言ってくれていたのですが……当時、特進コースにいたので進学しない人は珍しかったですね。

――失礼な質問だったらすみません。地方で過ごす中で、将来への展望の無さのようなものは感じていましたか?

神谷: 沖縄は特にすごいと思いますね。沖縄で一生を終えるんだ、という風に考えている人がすごく多い。「外に出たい」という意識すらないですね。世界はすごく広くて、日本でさえ狭いのに、さらにその日本の中でも1つの県に過ぎない沖縄からも出ていかない、ということを当たり前だと考えている人がすごく多いんですよね。みんな、「なにもできない」って思っている。

佐藤: 僕は栃木出身ですが、ほとんど選択肢は無かったですね。土木とか工場ぐらいしか選択肢がなかったです。しかも、周りは周りで「それしかない」と思っているんですよ。さっきいったように「自分の可能性を広げたい」と思っても知識もないし、考え方も分からない。

――お2人ともあと少しでヤンキーインターンを卒業ですが、何か「変わったな」と思うことはありますか?

佐藤: 一言では難しいですが、自分でも分かるくらいいろいろなものがここに来て成長したと思います。行動力とか主体性とかビジネススキル、コミュニケーションスキル……、ほんとにいろいろですね(笑)。

神谷: 「自分が自分らしくあることの大切さ」ですね。今までとか既存の枠組みとか時代の本流とは別のところにある「自分らしさ」。自分の意見を前よりも言えるようになったと思います。学校では、「先生とその他生徒たち」だったものが、ここでは全員が一対一の関係になっていて、他の人と違うことが「当たり前だよね」という雰囲気がある。だから、自分の意見をどんどん言うことができる。自分の意見が通ったときはすごくうれしいですね。


ハッシャダイ 神谷さんはハッシャダイに残りプロコースに進み、佐藤さんは別の会社に就職するとのこと

地方の中卒高卒の子には“選択肢の数の格差”がある

 続いてお話を伺ったのは、ハッシャダイCOOの橋本茂人(はしもとしげと)さん。住居と食費を持つのはさすがに大変なのでは……と余計なお世話ですが思ってしまうようなサービスを手掛ける理由をお聞きしました。


ハッシャダイ COOの橋本茂人さん

――ズバリ、採算は取れているのでしょうか?

橋本: ああ、利益は出てないですね! 以上です!(笑) ヤンキーインターンに関して言うと、人材紹介料と、ビジネスコースだと営業の研修として実際に商品を扱って営業するので、そこからお金は入ってきています。そして、それらのお金は彼ら彼女らの住居費や給料(ビジネスコースの場合支給)となっている、という流れですね。

 あと、ハッシャダイの理念に共感してくれている企業にとても助けられています。インターン生のための教材などは格安だったり無料だったりで提供していただいているので、教育費がほとんどかからない。シェアハウスも同じように安くなっています。

――検索エンジンで「ヤンキーインターン」と検索するとサジェストで「怪しい」と出てきますが……。

橋本: いや〜分かります、どう考えても怪しいと思います(笑)。でも怪しいことも悪いことも何一つしていません。一度来ていただけたら分かってもらえるんじゃないかなと。

――どうしてヤンキーインターンを始めようと思ったのでしょうか?

橋本: 地方の中卒高卒の子が情報や機会に恵まれていないことと、それに伴う選択肢の数の格差というのが一番大きいです。やっぱり、地方で「低学歴(非大卒)」となると、まず情報がなかったりして、とれる選択肢の数が限られてくる。

 「一人一社制度」(9月半ばに設定される「解禁日」から一定期間、学生は1人1社しか応募できない制度)というものがあったりして、とにかく中卒高卒の子は大卒に比べて取れる選択肢が少ない。自分で自分の道を決定できない現状にある。

 大学生だったら、たくさんマイナビとか就職支援の企業があるじゃないですか。でも、中卒高卒のためにそれをやっている企業というのはほとんどないです。学歴のない子たちの就職を後押しする会社が必要だな……というのがあって、ハッシャダイができたという感じです。

――ヤンキーインターン以外にも、非大卒の若者の支援サービスをしているんでしょうか?

橋本: はい! 交通費宿泊費無料で行っているリゾートインターン「ハッシャダイリゾート」や、非大卒の子が進路を相談できるカフェ「HASSYADAI CAFE」などを展開しています。

 ハッシャダイリゾートは、ヤンキーインターンではサポートできていなかった層にアプローチしたい、という点があります。ヤンキーインターンに来る人たちは、非大卒の若者の中でもある程度「意識の高い」人たち。そもそも「地方から東京に出てくる」ということが高いハードルになっていて、それなりに意識のある人でなければ参加に踏み出せない。だから「地方から東京」ではなくて、「地方から地方」のサービスが必要だなと考えました。例えば、鹿児島から東京出てくるとなったらけっこうなハードルですけど、福岡から鹿児島に行くのだったらそこまで大きなハードルにはならないじゃないですか。

 僕たちは若者が変わるきっかけとして「移動」がかなり大事だなと思っています。「移動」=「教育」だと考えているんですよ。地元から出てくることで、価値観とか考えが変わって、その人が変化できる。だから、まずはちょっとした移動をしてもらいたいということで、ハッシャダイリゾートをやってます。ハッシャダイリゾートを終えたあとで、「やっぱり東京行きたいな」ってことで「ヤンキーインターン」に参加してもいいですし。

――一方、カフェの方は原宿にあるんですね。大都会だ。

橋本: 「リアルの進路相談室」を作りたかったんです。非大卒の子が進路を相談できる場所って本当にないんですよ。その中でオンライン上ではハッシャダイは唯一無二の進路相談室として存在できているんですけど、リアルでの、顔を合わせて相談できる場所っていうのはやっぱりまだない。ネットでもできることはできるけど、顔が見える安心というのはやっぱりあると思うので。

 そういう場所は若者がそもそも若者が存在する場所になきゃいけない。東京の子はもちろん、地方の子も東京に来たらほぼほぼ100%原宿に来るじゃないですか(笑)。だからもともとは別の場所にあったオフィスも原宿に移しました。


ハッシャダイ 内装はこんな感じ


ハッシャダイ ドリンクももらえます

高卒の子たちの“第3の選択肢”になりたい

――こうした若者の支援サービスを続けていくことで、今後実現したいことなどはありますか?

橋本: 実は、僕らが必要じゃない社会が一番いいと思っています。もっと言えば僕らが「概念化」してしまえばいいとも考えています。

――「概念化」と言うと?

橋本: 「高卒の子たちの“第3の選択肢”になりたい」が僕らのテーマなんです。高校を卒業したときの選択肢って、まず第1は「進学」だと思うんですよね。その次の第2が「就職」。今は基本的にこの2つしかない。で、僕らは18歳の時点でこの2つのどっちかを選択しなくちゃいけないということはけっこう「重い」と思うんですよ。

――そうですね、18歳の時点では社会についての知識だったり考えがほとんどない人が多いと思います。

橋本: そうそう。でも、選択はしなくちゃいけないから親の意見を聞いて、親に決められたルートに行ってしまうということがよくあると思うんですよ。だから、「進学」か「就職」かを選択する前段階に、自分で考えられるモラトリアムみたいな時間が、大学とは別の形であればいいなと思っていて。

 僕らが今、それを作るためにやっているのが「ヤンキーインターン」だったり、「ハッシャダイリゾート」。そこで、進学でも就職でもない時間を3カ月ないし半年過ごして、自分と向き合って、「自分は○○したいんだ」を見つけて、選択してもらいたい。「進学」「就職」の2つの選択肢に行きつくための「時間」を第3の選択肢として、僕らが提供できればいいなと思っています。

 今、第3の選択肢を作ろうとしているのが僕らだけなんですよ。僕らだけじゃなく、いろんな企業がそこに参画してくればそこが1つの市場が出来上がるじゃないですか。そうなったときに、僕らしかやっていなかったその事業が、1つの「選択肢」という「概念」になる。「概念化」っていうのはそういうことですね。10年後には、学校の先生が普通に「ヤンキーインターン行ってくれば?」「ハッシャダイリゾートに行ってくれば?」と生徒に勧めるような未来になっていたらいいなと思います。

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