PS4スパイダーマンはなぜ神ゲーとなったのか、重症オタクが語る「ダン・スロット」という文脈(1/4 ページ)

意外と語られていないPS4「スパイダーマン」のシナリオについて、スパイダーマンのマニアに「どこがすごいんですか?」と聞いてみました。

» 2018年10月25日 09時30分 公開
[しげるねとらぼ]

 9月7日に発売されて以来、大評判となっているPS4向けビッグタイトルMarvel's Spider-Man。10月23日には追加DLC第1弾「黒猫の獲物」もリリースされ、相変わらずマンハッタンの摩天楼をウェブスイングで飛び回っている人も多いことだろう。



 このゲーム、実はシナリオから細部に至るまで、スパイダーマンマニアの強烈なこだわりと情報量が込められた作品なのだが、皆が口をそろえて絶賛する「移動(ウェブスイング)の楽しさ」に比べると、「シナリオ」面から評価しているレビューはあまり見かけない。内容がマニアックすぎて、原書をしっかり読み込んでいないとイマイチ把握できないのだ。

 というわけで、ここではTwitterで今回のゲームに関して独特の知見を放出していたコミックマニアのP.Pさん@downclown99)に、「『Marvel's Spider-Man』ってどこがすごいんですか?」という点を伺った。その結果判明したのは、「プレイヤー自身が狂信的スパイダーマンオタクのクリエイターによって、知らないうちにスパイダーマン世界に組み込まれていた」という、驚きのスパイダーマン体験の全容だったのである。


スパイダーマン 「Marvel's Spider-Man」パッケージ(Amazon.co.jpより)

 なお、このインタビューは「ゲーム発売から1カ月以上経過しているし、そろそろいいでしょ……」ということで、ゲームおよびスパイダーマンの関連コミックに関してネタバレ全開となっている(あと、なぜか『メタルギアソリッド2』のネタバレも含まれている)。未プレイの人は注意してほしい。

※以下、書影およびパッケージ画像はAmazon.co.jpまたはAmazon.comから



インタビューした人:しげる(@gerusea)

しげる プロフィール

岐阜県生まれのライター。プラモデル、アメリカや日本や中国のオモチャ、制作費がたくさんかかっている映画、忍者や殺し屋や兵隊やスパイが出てくる小説、鉄砲を撃つテレビゲームなどを愛好。アメコミは「アメリカのオモチャを買って遊ぶための元ネタとして読む」という不純な動機で嗜んでいるので、知識が薄い上に頭の中の情報が90年代くらいの時点で止まっている。



インタビューされた人:P.P(@downclown99)

P.P プロフィール

映画「スパイダーマン」シリーズからスパイダーマンに触れ、その後他の翻訳などにも手を出すように。もともとは『アルティメット スパイダーマン』など平行世界の作品ばかり追っていたが、2013年に本筋のスパイダーマンが殺されたため、本筋も併せて追うように。誤算だったのは、スパイダーマンを殺したライターが度を越したスパイダーマンオタクだったため、彼に打ち勝つためには生半可なスパイダーマン知識では立ち向かうことが許されなかったこと。かくして、彼のスパイダーマンを読み下すべく、読めるスパイダーマンは片っ端から読んでいったが、まだまだ知らない世界が広がっていたため、ダン・スロットに追い付けそうにない。



異なる世界線の作品が並行する、複雑怪奇なスパイダーマンの世界

―― そもそもP.Pさんがスパイダーマンにはまったきっかけって何だったんですか?

P.P:もともとはサム・ライミの映画「スパイダーマン2」が入り口でした。そこからコミックの『アルティメット スパイダーマン』をずっと読んで、その後本誌の『アメイジング スパイダーマン』に行って、そこからずっと読んでますね。


スパイダーマンスパイダーマン 『アルティメット・スパイダーマン』(左)と『アメイジング スパイダーマン』(右)

スパイダーマン 今回、参考資料としてP.Pさんが持参してくれた原作コミック(のほんの一部)

―― 『アルティメット』? 『アメイジング』……? このあたりの違いからまず説明いただけますか。

P.P:今、『スパイダーマン』関連の雑誌って、1冊22ページのものが毎月3〜4冊発売されているんです。一応本筋のストーリーラインが『アメイジング スパイダーマン』で、その他に派生作品が数本、別の雑誌として刊行されています(※1)。 日本のコンテンツで例えると、同じ「Fate」シリーズでも「Fate/stay night」とか「Fate/Apocrypha」とかが並立している感じというか、『進撃の巨人』と『進撃! 巨人中学校』が同時に発行されている感じというか。

※1:アメコミでは出版社がキャラクターの権利を持っているのが一般的で、このため同じ『スパイダーマン』でも、さまざまな作家からさまざまな作品・シリーズが刊行されている

 現在刊行されているのは、本筋の『アメイジング スパイダーマン』、 ピーターの日常を描く『ピーター・パーカー:ザ・スペクタキュラー・スパイダーマン』、MJと結婚して子どもをもうけた平行世界の『アメイジング スパイダーマン:リニュー・ユア・バウズ』、そして今年の大型イベント『スパイダーゲドン』(※2)とその関連誌です。

※2:歴代スパイダーマンが一堂に会することで話題になった『スパイダーバース』の続編で、PS4版スパイダーマンも登場する


スパイダーマン 『スパイダーバース』に続き、再びさまざまな世界のスパイダーマンたちが集結する『スパイダーゲドン』

―― なるほど。別の世界線のスピンオフとかが本筋と並行して毎月刊行されているんですね。日本でリアルタイムのコミックに追い付こうとした場合、どうやって読んだらいいんでしょう。

P.P:一番手っ取り早いのは電子書籍ですね。全部英語ですけど、配信のタイミングはアメリカと変わらないので。あとは洋書を扱っている書店に行くくらいしか方法はないです。

―― 今回のゲームのスパイダーマン、映画とかに出てきたのとはかなり設定が違っていてびっくりしました(※3)。なんか白衣着て研究者みたいなことやってるし。

※3:今作のピーターは、スパイダーマン活動を初めて8年目という設定。普段はオクタヴィアス・インダストリーズでオクタヴィアス博士の研究助手を務めている


スパイダーマン オクタヴィアス・インダストリーズで働くピーター

P.P:スパイダーマンは作品ごとに設定が異なることがあります。映画とかアニメでは学生でカメラマンのアルバイトをして生計を立てているって設定が多いので、今回のは驚かれた方もいるかもしれませんね。

―― そういういろんなスパイダーマンって、同じ世界に同時に存在しているんですか? それともパラレルワールドのような……。

P.P:平行世界の数だけ、いってしまえば作品・歴史の数だけ、スパイダーマンはいます。関係としては、ちょっと前までの仮面ライダーの世界観が一番近い気がします。

 昭和ライダーみたいにずっと続き物となっていることもあれば、平成ライダーみたいに平行世界になっているものもある。平成ライダーでも、劇場版になると設定が調整された平行世界ものになったり、続き物として本編に反映されることもある。そのため、今回のゲームも特にコミック『アメイジング スパイダーマン』誌にはつながっていませんが、スパイダーマンであるのには変わりがありません。

―― 漫画の劇場版が作られると部分的に設定が変わる、みたいなことがアメコミでは頻繁に起こっているんですね。ちなみに今、本筋のコミックのピーターはどんな感じなんでしょう?

P.P:ピーターはしばらく前まで、Dr.オクトパスに体を乗っ取られて死んでいたんですけど……。


スパイダーマン Dr.オクトパスとの入れ替わりが描かれた「アメイジング スパイダーマン #698」

―― えっ、ちょっ、どういうことですかそれ。

P.P:体をDr.オクトパスに乗っ取られていて、外見はピーターなんだけど中身がDr.オクトパスだったんです。それでオクトパスがしばらくスパイダーマンとして活動していた

―― は!?

P.P:で、乗っ取っている間にオクトパスは大学で博士号を取ったり、パーカーインダストリーズっていう会社を立ち上げたりしてやりたい放題やっていたんですけど、いろいろあって体をピーターに明け渡して元に戻ったんです。その後オクトパスも復活して自分の会社を取り返そうとするんだけど、それをピーターが会社ごと破壊して阻止しました。


スパイダーマン ピーターの体を乗っ取ったDr.オクトパスを主人公に、新たなシリーズとしてスタートした『スーペリア・スパイダーマン』

―― は〜、大変なことになっていたんですね。ピーターっててっきりカメラマンをやってるものだと思っていました。

P.P:ピーターは過去、雇い主だったデイリー・ビューグルのJ・ジョナ・ジェイムソンのために記事を捏造(ねつぞう)したことがあって、それがバレて仕事を干された上にブラックリストに載せられちゃったんですよ。その後シンクタンクのホライゾンで研究員として働いてたんですけど、先述の体を乗っ取られているうちにいつの間にか社長に。でも、その会社も自分で破壊してしまったので、今度は同じビューグルのジョー・ロバートソンっていう上司からビューグルのサイエンスエディターの仕事をもらうんですけど、その仕事も「ピーターの中身がオクトパスだった時に取った学位によってもらえたもの」だったので……。

―― あ、ということは……。

P.P:その後生き返ったオクトパスに「あいつの学位は俺が取ったやつ」ってバラされて、サイエンスエディターの仕事も結局クビになりました。それで一時期無職だったんですけど、今は大学に戻ってリザードっていう、見た目がトカゲだけど中身は科学者っていう元ヴィランのところでティーチングアシスタントやってます。

―― いろいろ苦労してるんですね、ピーター……。


世界で最もガチなスパイダーマンオタク、ダン・スロットとは


       1|2|3|4 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2404/18/news134.jpg 21歳の無名アイドル、ビジュアル拡散で「あの頃の橋本環奈すぎる」とSNS騒然 「実物の方が可愛い」「見つかっちゃったなー」の声も
  2. /nl/articles/2404/18/news025.jpg 生後5日の赤ちゃん、7歳のお姉ちゃんから初めてミルクをもらうと…… 姉も驚きの反応がかわいい
  3. /nl/articles/2404/18/news057.jpg 9カ月の赤ちゃん、バスで外国人の女の子赤ちゃんと隣り合い…… 人生初のガールズトークに「これは通じあってますね!」「ベビ同士の会話、とろけます」
  4. /nl/articles/2404/17/news037.jpg 【今日の計算】「8+9÷3−5」を計算せよ
  5. /nl/articles/2404/17/news034.jpg 「妹が入学式に着るワンピース作ってみた!」 こだわり満載のクラシカルな一着に「すごすぎて意味わからない」「涙が出ました」
  6. /nl/articles/2404/18/news155.jpg 大谷翔平選手、ハワイに約26億円の別荘を購入 真美子夫人とデコピンとで過ごすかもしれないオフシーズンの拠点に「もうすぐ我が家となる場所」
  7. /nl/articles/2404/17/news179.jpg 「ケンタッキー」新アプリに不満殺到 「酷すぎる」「改悪」の声…… 運営元「大変ご迷惑をおかけした」と謝罪
  8. /nl/articles/2404/16/news192.jpg 「ゆるキャン△」のイメージビジュアルそのまま? 工事の看板イラストが登場キャラにしか見えない 工事担当者「狙いました」
  9. /nl/articles/2404/17/news129.jpg 「ハーゲンダッツ硬すぎ!」と力を入れたら……! “目を疑う事態”になった1枚がパワー過ぎて約8万いいね
  10. /nl/articles/2404/16/news175.jpg 「そうはならんやろ」をそのまま再現!? 「ガンダムSEED FREEDOM」のズゴックを完全再現したガンプラがすごすぎる
先週の総合アクセスTOP10
  1. 生後2カ月の赤ちゃんにママが話しかけると、次の瞬間かわいすぎる反応が! 「天使」「なんか泣けてきた」と癒やされた人続出
  2. 車検に出した軽トラの荷台に乗っていた生後3日の子猫、保護して育てた3年後…… 驚きの現在に大反響「天使が女神に」「目眩が」
  3. 安達祐実、成人した娘とのレアな2ショット披露 「ママには見えない!」「とても似ててびっくり」と驚きの声
  4. 兄が10歳下の妹に無償の愛を注ぎ続けて2年後…… ママも驚きの光景に「尊すぎてコメントが浮かばねぇ」「最高のにいに」
  5. “これが普通だと思っていた柴犬のお風呂の入れ方が特殊すぎた” 予想外の体勢に「今まで観てきた入浴法で1番かわいい」
  6. 「虎に翼」、新キャラの俳優に注目が集まる 「綺麗な人だね」「まさか日本のドラマでお目にかかれるとは!」
  7. 「葬送のフリーレン」ユーベルのコスプレがまるで実写版 「ジト目が完璧」と27万いいねの好評
  8. お花見でも大活躍する「2杯のドリンクを片手で持つ方法」 目からウロコの裏技に「えぇーーすごーーい」「やってみます!」
  9. 弟から出産祝いをもらったら…… 爆笑の悲劇に「めっちゃおもろ可愛いんだけどw」「笑いこらえるの無理でした」
  10. 3カ月の赤ちゃん、パパに“しーっ”とされた反応が「可愛いぁぁぁぁ」と200万再生 無邪気なお返事としぐさから幸せがあふれ出す
先月の総合アクセスTOP10
  1. フワちゃん、弟の結婚式で卑劣な行為に「席次見て名前覚えたからな」 めでたい場でのひんしゅく行為に「プライベート守ろうよ!」の声
  2. 親が「絶対たぬき」「賭けてもいい」と言い張る動物を、保護して育ててみた結果…… 驚愕の正体が230万表示「こんなん噴くわ!」
  3. 水道検針員から直筆の手紙、驚き確認すると…… メーターボックスで起きた珍事が300万再生「これはびっくり」「生命の逞しさ」
  4. フワちゃん、収録中に見えてはいけない“部位”が映る まさかの露出に「拡大しちゃったじゃん」「またか」の声
  5. スーパーで売れ残っていた半額のカニを水槽に入れてみたら…… 220万再生された涙の結末に「切なくなった」「凄く感動」
  6. 桐朋高等学校、78期卒業生の答辞に賛辞やまず 「只者ではない」「感動のあまり泣いて10回読み直した」
  7. 「これは悲劇」 ヤマザキ“春のパンまつり”シールを集めていたはずなのに…… 途中で気づいたまさかの現実
  8. 「ふざけんな」 宿泊施設に「キャンセル料金を払わなくする方法」が物議 宿泊施設「大目に見てきたが厳格化する」
  9. がん闘病中の見栄晴、20回以上の放射線治療を受け変化が…… 「痛がゆくなって来ました」
  10. 食べ終わったパイナップルの葉を土に植えたら…… 3年半後、目を疑う結果に「もう、ただただ感動です」「ちょっと泣きそう」