PS4スパイダーマンはなぜ神ゲーとなったのか、重症オタクが語る「ダン・スロット」という文脈(1/4 ページ)
意外と語られていないPS4「スパイダーマン」のシナリオについて、スパイダーマンのマニアに「どこがすごいんですか?」と聞いてみました。
9月7日に発売されて以来、大評判となっているPS4向けビッグタイトル「Marvel's Spider-Man」。10月23日には追加DLC第1弾「黒猫の獲物」もリリースされ、相変わらずマンハッタンの摩天楼をウェブスイングで飛び回っている人も多いことだろう。
このゲーム、実はシナリオから細部に至るまで、スパイダーマンマニアの強烈なこだわりと情報量が込められた作品なのだが、皆が口をそろえて絶賛する「移動(ウェブスイング)の楽しさ」に比べると、「シナリオ」面から評価しているレビューはあまり見かけない。内容がマニアックすぎて、原書をしっかり読み込んでいないとイマイチ把握できないのだ。
というわけで、ここではTwitterで今回のゲームに関して独特の知見を放出していたコミックマニアのP.Pさん(@downclown99)に、「『Marvel's Spider-Man』ってどこがすごいんですか?」という点を伺った。その結果判明したのは、「プレイヤー自身が狂信的スパイダーマンオタクのクリエイターによって、知らないうちにスパイダーマン世界に組み込まれていた」という、驚きのスパイダーマン体験の全容だったのである。
なお、このインタビューは「ゲーム発売から1カ月以上経過しているし、そろそろいいでしょ……」ということで、ゲームおよびスパイダーマンの関連コミックに関してネタバレ全開となっている(あと、なぜか『メタルギアソリッド2』のネタバレも含まれている)。未プレイの人は注意してほしい。
※以下、書影およびパッケージ画像はAmazon.co.jpまたはAmazon.comから
インタビューした人:しげる(@gerusea)
岐阜県生まれのライター。プラモデル、アメリカや日本や中国のオモチャ、制作費がたくさんかかっている映画、忍者や殺し屋や兵隊やスパイが出てくる小説、鉄砲を撃つテレビゲームなどを愛好。アメコミは「アメリカのオモチャを買って遊ぶための元ネタとして読む」という不純な動機で嗜んでいるので、知識が薄い上に頭の中の情報が90年代くらいの時点で止まっている。
インタビューされた人:P.P(@downclown99)
映画「スパイダーマン」シリーズからスパイダーマンに触れ、その後他の翻訳などにも手を出すように。もともとは『アルティメット スパイダーマン』など平行世界の作品ばかり追っていたが、2013年に本筋のスパイダーマンが殺されたため、本筋も併せて追うように。誤算だったのは、スパイダーマンを殺したライターが度を越したスパイダーマンオタクだったため、彼に打ち勝つためには生半可なスパイダーマン知識では立ち向かうことが許されなかったこと。かくして、彼のスパイダーマンを読み下すべく、読めるスパイダーマンは片っ端から読んでいったが、まだまだ知らない世界が広がっていたため、ダン・スロットに追い付けそうにない。
異なる世界線の作品が並行する、複雑怪奇なスパイダーマンの世界
―― そもそもP.Pさんがスパイダーマンにはまったきっかけって何だったんですか?
P.P:もともとはサム・ライミの映画「スパイダーマン2」が入り口でした。そこからコミックの『アルティメット スパイダーマン』をずっと読んで、その後本誌の『アメイジング スパイダーマン』に行って、そこからずっと読んでますね。
―― 『アルティメット』? 『アメイジング』……? このあたりの違いからまず説明いただけますか。
P.P:今、『スパイダーマン』関連の雑誌って、1冊22ページのものが毎月3〜4冊発売されているんです。一応本筋のストーリーラインが『アメイジング スパイダーマン』で、その他に派生作品が数本、別の雑誌として刊行されています(※1)。 日本のコンテンツで例えると、同じ「Fate」シリーズでも「Fate/stay night」とか「Fate/Apocrypha」とかが並立している感じというか、『進撃の巨人』と『進撃! 巨人中学校』が同時に発行されている感じというか。
※1:アメコミでは出版社がキャラクターの権利を持っているのが一般的で、このため同じ『スパイダーマン』でも、さまざまな作家からさまざまな作品・シリーズが刊行されている
現在刊行されているのは、本筋の『アメイジング スパイダーマン』、 ピーターの日常を描く『ピーター・パーカー:ザ・スペクタキュラー・スパイダーマン』、MJと結婚して子どもをもうけた平行世界の『アメイジング スパイダーマン:リニュー・ユア・バウズ』、そして今年の大型イベント『スパイダーゲドン』(※2)とその関連誌です。
※2:歴代スパイダーマンが一堂に会することで話題になった『スパイダーバース』の続編で、PS4版スパイダーマンも登場する
―― なるほど。別の世界線のスピンオフとかが本筋と並行して毎月刊行されているんですね。日本でリアルタイムのコミックに追い付こうとした場合、どうやって読んだらいいんでしょう。
P.P:一番手っ取り早いのは電子書籍ですね。全部英語ですけど、配信のタイミングはアメリカと変わらないので。あとは洋書を扱っている書店に行くくらいしか方法はないです。
―― 今回のゲームのスパイダーマン、映画とかに出てきたのとはかなり設定が違っていてびっくりしました(※3)。なんか白衣着て研究者みたいなことやってるし。
※3:今作のピーターは、スパイダーマン活動を初めて8年目という設定。普段はオクタヴィアス・インダストリーズでオクタヴィアス博士の研究助手を務めている
P.P:スパイダーマンは作品ごとに設定が異なることがあります。映画とかアニメでは学生でカメラマンのアルバイトをして生計を立てているって設定が多いので、今回のは驚かれた方もいるかもしれませんね。
―― そういういろんなスパイダーマンって、同じ世界に同時に存在しているんですか? それともパラレルワールドのような……。
P.P:平行世界の数だけ、いってしまえば作品・歴史の数だけ、スパイダーマンはいます。関係としては、ちょっと前までの仮面ライダーの世界観が一番近い気がします。
昭和ライダーみたいにずっと続き物となっていることもあれば、平成ライダーみたいに平行世界になっているものもある。平成ライダーでも、劇場版になると設定が調整された平行世界ものになったり、続き物として本編に反映されることもある。そのため、今回のゲームも特にコミック『アメイジング スパイダーマン』誌にはつながっていませんが、スパイダーマンであるのには変わりがありません。
―― 漫画の劇場版が作られると部分的に設定が変わる、みたいなことがアメコミでは頻繁に起こっているんですね。ちなみに今、本筋のコミックのピーターはどんな感じなんでしょう?
P.P:ピーターはしばらく前まで、Dr.オクトパスに体を乗っ取られて死んでいたんですけど……。
―― えっ、ちょっ、どういうことですかそれ。
P.P:体をDr.オクトパスに乗っ取られていて、外見はピーターなんだけど中身がDr.オクトパスだったんです。それでオクトパスがしばらくスパイダーマンとして活動していた。
―― は!?
P.P:で、乗っ取っている間にオクトパスは大学で博士号を取ったり、パーカーインダストリーズっていう会社を立ち上げたりしてやりたい放題やっていたんですけど、いろいろあって体をピーターに明け渡して元に戻ったんです。その後オクトパスも復活して自分の会社を取り返そうとするんだけど、それをピーターが会社ごと破壊して阻止しました。
―― は〜、大変なことになっていたんですね。ピーターっててっきりカメラマンをやってるものだと思っていました。
P.P:ピーターは過去、雇い主だったデイリー・ビューグルのJ・ジョナ・ジェイムソンのために記事を捏造(ねつぞう)したことがあって、それがバレて仕事を干された上にブラックリストに載せられちゃったんですよ。その後シンクタンクのホライゾンで研究員として働いてたんですけど、先述の体を乗っ取られているうちにいつの間にか社長に。でも、その会社も自分で破壊してしまったので、今度は同じビューグルのジョー・ロバートソンっていう上司からビューグルのサイエンスエディターの仕事をもらうんですけど、その仕事も「ピーターの中身がオクトパスだった時に取った学位によってもらえたもの」だったので……。
―― あ、ということは……。
P.P:その後生き返ったオクトパスに「あいつの学位は俺が取ったやつ」ってバラされて、サイエンスエディターの仕事も結局クビになりました。それで一時期無職だったんですけど、今は大学に戻ってリザードっていう、見た目がトカゲだけど中身は科学者っていう元ヴィランのところでティーチングアシスタントやってます。
―― いろいろ苦労してるんですね、ピーター……。
世界で最もガチなスパイダーマンオタク、ダン・スロットとは
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