PS4スパイダーマンはなぜ神ゲーとなったのか、重症オタクが語る「ダン・スロット」という文脈(3/4 ページ)
「Marvel's Spider-Man」は、プレイヤーを強制的にスーペリア・スパイダーマンにする
―― ちょっと詳しく説明してもらっていいですか。
P.P:そうですね……唐突ですけど、スパイダーマンというキャラクターに「ベンおじさんの死」って必要だと思いますか?
―― ピーターがスパイダーマンとして目覚める重要なシーンですよね。「大いなる力には大いなる責任が伴う」っていう……え、必要じゃないんですか!?
P.P:今回のゲームだと、ベンおじさんの死は描かれていないんですよね。ピーターは最初からスパイダーマンだし。もっと言うのであれば、このゲームからスパイダーマンに触れた人は、恐らく最後まで例のセリフを聞かないままクリアすると思うんです。でも、そこまでやったらもう立派なスパイダーマンじゃないですか?
―― 言われてみれば確かに……。
P.P:これは『スーペリア・スパイダーマン』にもいえることなんです。スーペリア・スパイダーマンの意識はDr.オクトパスで、彼はピーターとしての記憶も持っているけど、ピーターを継ぐわけではなく、自分流のスパイダーマンを作り上げようとする。で、Dr.オクトパスはベンおじさんの死をそこまで重要視していない。むしろ、彼流のスパイダーマンこそがのちに平行世界でスパイダーマンをやっているベンおじさん(※10)を元気づけたりする。
※10『スパイダーバース』の終盤、核戦争で滅びた世界のスパイダーマンとして登場
ダン・スロットが描くスパイダーマンでは「誰でもヒーローになりうる、誰でもヴィランになりうる」というテーマが掲げられているんです。例えば今回、ラストバトルでいきなり、Dr.オクトパスが「大いなる力には大いなる責任が伴う」に近いことを言うんですよね。あれはピーターの自戒であり、最近だとベンおじさんの教えです。これを敵であるDr.オクトパスが言うのは本当はおかしいんですよ。ただ、先ほどの『スーペリア・スパイダーマン』の文脈も併せて考えると、今作のDr.オクトパスはスパイダーマンとして描写されているんです。
―― 確かにあのセリフを口にしていたのはDr.オクトパスでした。
P.P:そして彼自身、コミックでは実際にスパイダーマンとして振る舞っていた。つまり環境さえ整えば、たとえ元ヴィランだろうと誰だろうとスパイダーマンとして行動してしまうんじゃないかという発想が、ダン・スロットの作品にはあるんです。
―― なるほど……!
P.P:で、話をゲームに戻すと、今回ゲームでスパイダーマンに入り込んで動かしているのは、コントローラーを持っているプレイヤーなわけですよね。さっきも言いましたが、今回のゲームではベンおじさんの死は描かれていない。でもプレイヤーはスパイダーマンとして自然に行動している。つまりプレイヤーはごく自然に、『スーペリア・スパイダーマン』におけるDr.オクトパスの位置に強制的に放り込まれる体験を味わっているわけです。
―― そういうゲームだったんですかこれ! 状況さえ整えてやれば誰でもスパイダーマンとして振る舞えるって、なんか『メタルギアソリッド2』の「『シャドーモセス島に近い状況を与えてやれば、雷電でもいきなりスネーク並みの戦いができること』を証明する実験」みたいな話ですね。
P.P:『スーペリア・スパイダーマン』では、Dr.オクトパスがスパイダーマンの来歴や装備に文句を言ったり、監視ボットをあちこちに放ったりと過激な行動をします。ただ、今作ではプレイヤーも全く同じような行動をとるんですよ。バックパックを集めてピーターの来歴に触れて感情を想起させたり、元のままのスパイダーマンだと弱いので装備などをアップデートしたり、今作ではハッキングとか普通に犯罪行為も行いますしね。
今までだとあれは元ヴィランのDr.オクトパスだから過激な行動をした、でしたが、本作があるとピーター/プレイヤー/一般人でも同じ状況になれば同じようなことをすると読めるわけです。だから確かに設定面では『ブランニュー・デイ』からの引用が多いけど、根っこの部分では非常に『スーペリア・スパイダーマン』的な作品ですよね、このゲーム。
ダン・スロットさんありがとう、こんな面白いゲームを作ってくれて……
―― なんか次回作を作る気満々な終わり方でしたけど、次はどうなると思いますか?
P.P:今回、リザードとか、クローンを作れるジャッカルとか、そういう“賢い系”のヴィランが全然出てきていないんですよね。そもそもハリーの病気がどうとかも、そういうヴィランが出てくれば解決した話な気がするし、次回ではそのあたりを掘り下げてきそうだなと思っています。あと、シンビオート(※11)は絶対出てくると思いますね。
※11:宇宙から飛来した寄生生物。スパイダーマンの宿敵ヴェノムは、シンビオートが元新聞記者エディ・ブロックに寄生した状態
―― 最後に一瞬それっぽいのが出ていましたね。
P.P:そもそもデビルズ・ブレスの設定自体がちょっと『アルティメット』でのシンビオートっぽいんですよ。『アルティメット』のシンビオートは元の宇宙生物っていう設定じゃなくて、治療用ボディースーツなんです。それを実際に使ってみたら失敗作だった……っていう話なんですけど、これは設定的には『ブランニュー・デイ』のデビルズ・ブレスよりもゲーム中のデビルズ・ブレスに近いです(※12)。そのあたりもキーになるんじゃないかと。
※12:今作のデビルズ・ブレスはもともと、ある遺伝性疾患の治療薬として開発されていたという設定
―― ということは、次回なんらかの形でシンビオートやヴェノムが出てくる場合、従来の宇宙生物という設定ではない可能性がある?
P.P:ありえると思います。なんらかの実験でできたとか……。
―― あ〜、なんかそういう着地の仕方はしそうですね……。今回のゲーム、P.Pさん的に評価はどういう感じでしょうか?
P.P:操作性などの評価は他の方に譲りますが、オタクとしては最高のゲームでしたね。現状、もっともあらゆるファンにとって、スパイダーマンの入り口としてふさわしい作品ではないでしょうか。この作品を経た後だと、スパイダーマンへの視点が一つ踏み込んだものになると思います。
例えばこのゲームを遊んでから「スパイダーマン:ホームカミング」に戻った場合。トム・ホランドのスパイダーマンは、建物を持ち上げる時に自分を奮い立たせていますが、今作のスパイダーマンはベテランだから、同じシーンでも特にドラマもなく持ち上げてしまう。それだけトム・ホランドの将来が楽しみになります。さらに元ネタのコミックに当ってみると、また違った感慨があると思います。
また、元ネタの引用の仕方が非常にていねいなので、今作で引っ掛かった箇所はコミックを読めば大体解決しますし、そのアレンジの意味まで考えはじめるともはや沼です。コツはキャラの見た目に騙されないことです。逆に言えば、肝心なところは引用元やその引用の仕方のルールに依存しているため、元ネタを探せないと言動に一貫性が感じられなかったり、拍子抜けな展開だと思うこともあるでしょう。
―― 最後に、ダン・スロットに言いたいことはありますか。
P.P:自称ダン・スロットの宿敵として一言言わせてください。「とんでもないゲームを作ってくれてありがとう」。
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