PS4スパイダーマンはなぜ神ゲーとなったのか、重症オタクが語る「ダン・スロット」という文脈(3/4 ページ)

» 2018年10月25日 09時30分 公開
[しげるねとらぼ]

「Marvel's Spider-Man」は、プレイヤーを強制的にスーペリア・スパイダーマンにする

―― ちょっと詳しく説明してもらっていいですか。

P.P:そうですね……唐突ですけど、スパイダーマンというキャラクターに「ベンおじさんの死」って必要だと思いますか?

―― ピーターがスパイダーマンとして目覚める重要なシーンですよね。「大いなる力には大いなる責任が伴う」っていう……え、必要じゃないんですか!?

P.P:今回のゲームだと、ベンおじさんの死は描かれていないんですよね。ピーターは最初からスパイダーマンだし。もっと言うのであれば、このゲームからスパイダーマンに触れた人は、恐らく最後まで例のセリフを聞かないままクリアすると思うんです。でも、そこまでやったらもう立派なスパイダーマンじゃないですか?

―― 言われてみれば確かに……。

P.P:これは『スーペリア・スパイダーマン』にもいえることなんです。スーペリア・スパイダーマンの意識はDr.オクトパスで、彼はピーターとしての記憶も持っているけど、ピーターを継ぐわけではなく、自分流のスパイダーマンを作り上げようとする。で、Dr.オクトパスはベンおじさんの死をそこまで重要視していない。むしろ、彼流のスパイダーマンこそがのちに平行世界でスパイダーマンをやっているベンおじさん(※10)を元気づけたりする。

※10『スパイダーバース』の終盤、核戦争で滅びた世界のスパイダーマンとして登場

 ダン・スロットが描くスパイダーマンでは「誰でもヒーローになりうる、誰でもヴィランになりうる」というテーマが掲げられているんです。例えば今回、ラストバトルでいきなり、Dr.オクトパスが「大いなる力には大いなる責任が伴う」に近いことを言うんですよね。あれはピーターの自戒であり、最近だとベンおじさんの教えです。これを敵であるDr.オクトパスが言うのは本当はおかしいんですよ。ただ、先ほどの『スーペリア・スパイダーマン』の文脈も併せて考えると、今作のDr.オクトパスはスパイダーマンとして描写されているんです。


スパイダーマン 優れた人間には、他者のために才能を使う責任があると語るオクトパス

―― 確かにあのセリフを口にしていたのはDr.オクトパスでした。

P.P:そして彼自身、コミックでは実際にスパイダーマンとして振る舞っていた。つまり環境さえ整えば、たとえ元ヴィランだろうと誰だろうとスパイダーマンとして行動してしまうんじゃないかという発想が、ダン・スロットの作品にはあるんです。

―― なるほど……!

P.P:で、話をゲームに戻すと、今回ゲームでスパイダーマンに入り込んで動かしているのは、コントローラーを持っているプレイヤーなわけですよね。さっきも言いましたが、今回のゲームではベンおじさんの死は描かれていない。でもプレイヤーはスパイダーマンとして自然に行動している。つまりプレイヤーはごく自然に、『スーペリア・スパイダーマン』におけるDr.オクトパスの位置に強制的に放り込まれる体験を味わっているわけです。

―― そういうゲームだったんですかこれ! 状況さえ整えてやれば誰でもスパイダーマンとして振る舞えるって、なんか『メタルギアソリッド2』の「『シャドーモセス島に近い状況を与えてやれば、雷電でもいきなりスネーク並みの戦いができること』を証明する実験」みたいな話ですね。

P.P:『スーペリア・スパイダーマン』では、Dr.オクトパスがスパイダーマンの来歴や装備に文句を言ったり、監視ボットをあちこちに放ったりと過激な行動をします。ただ、今作ではプレイヤーも全く同じような行動をとるんですよ。バックパックを集めてピーターの来歴に触れて感情を想起させたり、元のままのスパイダーマンだと弱いので装備などをアップデートしたり、今作ではハッキングとか普通に犯罪行為も行いますしね。

 今までだとあれは元ヴィランのDr.オクトパスだから過激な行動をした、でしたが、本作があるとピーター/プレイヤー/一般人でも同じ状況になれば同じようなことをすると読めるわけです。だから確かに設定面では『ブランニュー・デイ』からの引用が多いけど、根っこの部分では非常に『スーペリア・スパイダーマン』的な作品ですよね、このゲーム。


ダン・スロットさんありがとう、こんな面白いゲームを作ってくれて……

―― なんか次回作を作る気満々な終わり方でしたけど、次はどうなると思いますか?

P.P:今回、リザードとか、クローンを作れるジャッカルとか、そういう“賢い系”のヴィランが全然出てきていないんですよね。そもそもハリーの病気がどうとかも、そういうヴィランが出てくれば解決した話な気がするし、次回ではそのあたりを掘り下げてきそうだなと思っています。あと、シンビオート(※11)は絶対出てくると思いますね。

※11:宇宙から飛来した寄生生物。スパイダーマンの宿敵ヴェノムは、シンビオートが元新聞記者エディ・ブロックに寄生した状態

―― 最後に一瞬それっぽいのが出ていましたね。


スパイダーマン 最後にチラッと出てくる「シンビオートっぽい何か」

P.P:そもそもデビルズ・ブレスの設定自体がちょっと『アルティメット』でのシンビオートっぽいんですよ。『アルティメット』のシンビオートは元の宇宙生物っていう設定じゃなくて、治療用ボディースーツなんです。それを実際に使ってみたら失敗作だった……っていう話なんですけど、これは設定的には『ブランニュー・デイ』のデビルズ・ブレスよりもゲーム中のデビルズ・ブレスに近いです(※12)。そのあたりもキーになるんじゃないかと。

※12:今作のデビルズ・ブレスはもともと、ある遺伝性疾患の治療薬として開発されていたという設定

―― ということは、次回なんらかの形でシンビオートやヴェノムが出てくる場合、従来の宇宙生物という設定ではない可能性がある?

P.P:ありえると思います。なんらかの実験でできたとか……。

―― あ〜、なんかそういう着地の仕方はしそうですね……。今回のゲーム、P.Pさん的に評価はどういう感じでしょうか?

P.P:操作性などの評価は他の方に譲りますが、オタクとしては最高のゲームでしたね。現状、もっともあらゆるファンにとって、スパイダーマンの入り口としてふさわしい作品ではないでしょうか。この作品を経た後だと、スパイダーマンへの視点が一つ踏み込んだものになると思います。

 例えばこのゲームを遊んでから「スパイダーマン:ホームカミング」に戻った場合。トム・ホランドのスパイダーマンは、建物を持ち上げる時に自分を奮い立たせていますが、今作のスパイダーマンはベテランだから、同じシーンでも特にドラマもなく持ち上げてしまう。それだけトム・ホランドの将来が楽しみになります。さらに元ネタのコミックに当ってみると、また違った感慨があると思います。

 また、元ネタの引用の仕方が非常にていねいなので、今作で引っ掛かった箇所はコミックを読めば大体解決しますし、そのアレンジの意味まで考えはじめるともはや沼です。コツはキャラの見た目に騙されないことです。逆に言えば、肝心なところは引用元やその引用の仕方のルールに依存しているため、元ネタを探せないと言動に一貫性が感じられなかったり、拍子抜けな展開だと思うこともあるでしょう。

―― 最後に、ダン・スロットに言いたいことはありますか。

P.P:自称ダン・スロットの宿敵として一言言わせてください。「とんでもないゲームを作ってくれてありがとう」


スパイダーマン 『スーペリア・スパイダーマン』を読んでいると、最期のDr.オクトパスとの決戦もまた違った色合いを帯びてくる

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2411/13/news176.jpg 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  2. /nl/articles/2411/14/news014.jpg ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  3. /nl/articles/2411/14/news042.jpg 夫「250円のシャインマスカット買った!」 → 妻が気づいた“まさかの真実”に顔面蒼白 「あるあるすぎる」「マジ分かる」
  4. /nl/articles/2411/14/news090.jpg ユニクロが教える“これからの季節に持っておきたい”1枚に「これ、3枚色違いで買いました!」「今年も色違い買い足します!」と反響
  5. /nl/articles/2411/14/news167.jpg 妻が“13歳下&身長137センチ”で「警察から職質」 年齢差&身長差がすごい夫婦、苦悩を明かす
  6. /nl/articles/2411/14/news187.jpg 人生初の彼女は58歳で「両親より年上」 “33歳差カップル”が強烈なインパクトで話題 “古風を極めた”新居も公開
  7. /nl/articles/2208/06/news075.jpg 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. /nl/articles/2411/13/news162.jpg 「情報操作されてる」「ぜーんぶ嘘!!」 175R・SHOGO、元妻・今井絵理子ら巡る週刊誌報道を一蹴 “子ども捨てた”の指摘に「皆さん騙されてます」
  9. /nl/articles/2411/14/news035.jpg 160万円のレンズ購入→一瞬で元取れた! グラビアアイドル兼カメラマンの芸術的な写真に反響「高いレンズってすごいんだな……」「いい買い物」
  10. /nl/articles/2411/12/news194.jpg 「予約しました」 サッポロ一番の袋に見せかけた“笑っちゃいそうなグッズ”が話題 「サッポロ一番味噌ラーメン好きがバレちゃう」
先週の総合アクセスTOP10
  1. アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
  2. 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
  3. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  4. 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」
  5. イモト、突然「今日まさかの納車です」と“圧倒的人気車”を購入 こだわりのオプションも披露し光岡自動車からの乗り換えを明かす
  6. 「この動画お蔵かも」 親子デートの辻希美、“食事中のマナー”に集中砲火で猛省……16歳長女が説教「自分がやられたらどう思うか」
  7. 老けて見える25歳男性を評判の理容師がカットしたら…… 別人級の変身と若返りが3700万再生「ベストオブベストの変貌」「めちゃハンサム」【米】
  8. 「ガチでレア品」 祖父が所持するSuica、ペンギンの向きをよく見ると……? 懐かしくて貴重な1枚に「すげえええ」「鉄道好きなら超欲しい」と興奮の声
  9. 「デコピンの写真ください」→ドジャースが無言の“神対応” 「真美子さんに抱っこされてる」「かわいすぎ」
  10. 「天才」 グレーとホワイトの毛糸をひたすら編んでいくと…… でっかいあのキャラクター完成に「すごい」「編み図をシェアして」【海外】
先月の総合アクセスTOP10
  1. 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
  2. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  3. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  4. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
  7. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  8. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  9. 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
  10. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた