銭湯を流行らせるには「ウニ推しおじさん」になれ―― 銭湯神ヨッピーが語る、ネットで「水風呂推しおじさん」が増える理由:【特集】ネットと銭湯サウナ(2/3 ページ)
最大の長所にしてボトルネックになるのが水風呂
僕は晴の日も雨の日も「銭湯! 銭湯銭湯!」と騒ぎまくっているので、友人にももちろん銭湯を勧める日々を送っている。
その日もいつものように、なんとなくダルそうにしている友人に「疲れてるんやったら銭湯行った方がええで? めっちゃ疲れ取れるし」と伝えたところ、「ヨッピーさん、銭湯ばっかり行ってますけど、家に風呂無いんですか?」と言われた。あるわ。家に風呂はあるわ。でも「銭湯の風呂」と「家の風呂」って、どこかにも書いたけどウンコとウユニ塩湖くらい違いますからね。
まず単純に浴槽のサイズが違う。ゆったり手足を伸ばして入るっていう体験が家の風呂ではまず出来ないじゃないですか。そして何より、大事な大事な水風呂が家のお風呂にはないわけですよ。僕は水風呂に入るために銭湯に行くのである。
銭湯派にしろサウナ派にしろ、昨今のブーム的なものにすっかりハマった人達の多くは、「銭湯にハマった」「サウナにハマった」というよりは「水風呂にハマった」と表現するのが恐らくは正しいのである。サウナーの人が水風呂のことを「ごちそう」と言うのと同じく、銭湯における「あつ湯」や「サウナ」は「メインである水風呂に入るための助走」という側面が間違いなくあるのだ。
しかしそれを理解できるのは水風呂の経験者だけである。つまり、僕が「銭湯に行く」と伝えた時に「ヨッピーは水風呂に入りに行くんだな」ではなく、「ヨッピーはお風呂に入りに行くんだな」と捉えている水風呂未経験者がまだまだ世の中には多いんじゃなかろうか。そんな中で仮に、水風呂未経験の人が「銭湯が流行ってるらしいから行ってみよう」と思い立って銭湯に行ったとしても、その銭湯に水風呂が無かったり、もしくはその人が水風呂をスルーしたりしていたとすれば「どっぷりハマる」という所まで到達出来ないんじゃないかな、と思っている。
もちろん水風呂抜きにしても大きな浴槽は気持ちがいいし、リフレッシュにもなるし疲れも取れるだろう。でもそこを通り越して「中毒」と呼べるような、僕を含めた銭湯ジャンキーの境地にたどり着くには水風呂抜きではなかなか達成出来ない気がする。結局、その「むしろ水風呂がメイン」という概念がまだまだ浸透してないからこそ流行り切らないのであって、僕らは今後、「銭湯に行く」「サウナに行く」と言わずに「水風呂に入りに行く」という表現を使った方が未経験の人達には正しく伝わるのかもしれない。
しかしながらここにひとつの落とし穴がある。「水風呂の良さ」をどう伝えるか、だ。
「銭湯の布教は、嫌われ者にしか出来ない」。これは僕が渋谷改良湯の炭酸風呂に浸かりながらひらめいた言葉なのだけど、少なくとも僕にとっては「銭湯の良さを広めること」はすなわち「水風呂の良さを広めること」と同義である。もちろん建物の趣を愛でたり、裸の付き合い、みたいな文化的な側面を愛する人もたくさん居るけど、僕がどっぷりハマったのは大きな理由はやっぱり「水風呂」なのである。
僕にとって銭湯のメインは水風呂。ここまでは前段で書いた通りだ。しかしここで問題になるのが「水風呂」は多くの場合、未経験の人にとっては「冷たくて、イヤなもの」であることだ。そう、大多数の人達から水風呂はネガティブなイメージで見られている。サウナあがりの、茹でダコみたいになったおっさんが「アー!」とか「ワー!」とか言いながら入るのが水風呂のイメージであって、「なんだあれ?」みたいな目でみんな見ている。「せっかく温まったのに、なんでまた体を冷やすの?」「なんで冷たいのを我慢してまで水風呂に入るの?」「アホなの?」。こういったイメージを払拭するのがけっこう難しい。
そして思ったんですけど、「ウニが嫌い」と言ってる人に「ここのウニは、ウニが苦手な人でも食べられるから食べてみて」と言って食べさせようとするおっさん、居るじゃないですか。でもってそういうおっさん、だいたい嫌われてるじゃないですか。「うっとおしい」「うんちく語りが長い」「しつこい」とか。水風呂を人に勧めるのもまさに同じだな、と思うわけです。ウニが嫌いな人にウニを食べさせるのと同じく、水風呂が嫌いな人に水風呂を体験させるには「長いうんちく」「ゴリ推し」「しつこさ」みたいなものを兼ね備えてないと出来ないのである。だから水風呂の布教は嫌われ者にしか出来ないのだ。
「冷たいのは最初だけだから」「10秒だけ入ってみて」「どんどん気持ちよくなるから」我々は水風呂を他人に勧める時に、ウニ推しのおっさんと全く同じ行動パターンを取っている。
もちろん無理は禁物だし、急激な脈拍、血圧の変化によって身体に負担だってかかる。普通の人なら「まあ、気が向いたら水風呂にも入ってみるといいよ。慣れると気持ちいいから」くらいに勧めるくらいしか出来ないだろう。しかし、それだと水風呂に対するネガティブイメージを乗り越えて体験させる所まで持っていけないのだ。
つまり、そこを乗り越えてゴリゴリいくのは基本的には空気の読めない、嫌われ者の役割である。しかしながらその「嫌われ者」によってチャクラが開かれ、すっかり銭湯ジャンキーになった友人も周囲にたくさん居る事は、嫌われ者のひとりとして伝えておきたいし、行った先の銭湯で「水風呂いけますって。めっちゃ気持ちいいいですから」「無理無理! 冷たいじゃん!」「10秒! 10秒でいいんで我慢してください!」「えー! 無理無理!」「ほら! 肩まで!」みたいなやりとりをしていた一団が、1時間後には率先して水風呂に入るようになっている事を見かける事もたくさんある。
もちろんこういうゴリ推しを推奨するわけではないけれども、銭湯の布教の一部をこういった嫌われ者達が担っている事は念頭に置いておくといいだろう。賛否両論はあるかもしれないけど、「ウニ推しおじさん」によって本当にウニが好きになる人だって居るように。
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