同人誌2冊目で商業デビュー。ボーイズラブ界に“ときめきの嵐”を巻き起こした芸能BL漫画『25時、赤坂で』(1/4 ページ)
「ボーイズラブ界の新しい宝石」夏野寛子先生にインタビュー。1話出張掲載もお届け。
2018年冬、SNSでBL好きからの熱烈な支持を受けた漫画がありました。それが、『25時、赤坂で』。共演する俳優同士の恋愛を、リアリティーにあふれた芸能界描写とともに描いた作品です。
作者はまだデビュー2作目の新人・夏野寛子さん。「満足感がすごい!」「めっちゃハマってる!」の声が多数寄せられる彼女は、いったい何者なのでしょうか?
夏野さんを「ボーイズラブ界の新しい宝石」と絶賛する担当編集にも同席してもらい、じっくりインタビューしてみました。第1話の出張掲載とあわせてお楽しみください。
見た瞬間「原石だ!」と思った
――共演する俳優同士の恋愛を描いた『25時、赤坂で』。作品が生まれるまでの経緯を教えてください。
夏野: 最初、2作目の連載に向けて考えていた話は、もっと地味で暗い話でした。でも打ち合わせで担当編集の梶川さんが「夏野さん……芸能界、好きですよね? 芸能界を舞台にしたら楽しいよ!」とささやいてきて、全部吹っ飛んでしまいました(笑)。
梶川: 「芸能界で、あなたの好きな攻めと受けがくっつくの、見たくない?」と言ったら、「み、見たい……」となっていましたね。
――夏野さんご自身が芸能界好きなんですか?
夏野: 子どもの頃からテレビっ子で、毎日のようにドラマを見ていました。「木更津キャッツアイ」とか大好きでしたね。だからこそ自分でそこに立ち入るのは気後れしていました。まだ商業デビュー2作目なので、自分がそれを描いてもいいのだろうかという思いもありました。
――実は私は夏野さんを本作で知ったのですが、「これだけ緻密な絵と情感のあるストーリーを描ける新人さんがいたんだ……!」と本当に驚きました。これまでも同人誌などで漫画を発表されていたのでしょうか?
夏野: いえ、漫画をきちんと描くようになったのは本当に最近なんです。ずっと美大で勉強していて、そのまま大学院に進学したので研究を続けてはいたのですが、漫画家になりたいという夢が諦めきれず。最後のチャンスだと思って同人誌を出し始めたら、2冊目で今の担当編集である梶川さんが声をかけてくれました。
――2冊目って、早すぎる!
夏野: 自分でも「詐欺メールじゃないの?」なんて思ってました(笑)。
――梶川さんは、雑誌「onBLUE」を創刊し、雲田はるこさんの『新宿ラッキーホール』や、昨年テレビドラマ化された『中学聖日記』など、数々の個性的なBLと女性向け漫画を生み出してきた名物編集者でもあります。最初に夏野さんの作品を読んだときはどう思ったんでしょう?
梶川: 「原石だ!」ですね。頭身が今より低めだったし、まだ「漫画らしさ」をつかみきれていない部分もありましたが、コマの流れとテンポが非常に良くて、天性のセンスがあらわれていたんです。キャラクターの「目」も良かった。瞳の輝きが誰にもマネできない強さを持っていて、そこに心をつかまれました。
――美大では絵の専攻をしていたのですか?
夏野: 進学時は全く違う専攻を選びました。美大での経験は、漫画制作に直接役立っているかといえば特にないのですが、とても良いとされている作品や、すごくお金のかかっている作品を間近で見せてもらう機会が多くて、それは現在に生きている気がします。
梶川: 担当編集からすると、そういう「カロリーの高い作品づくり」に何年も触れてきた経験自体が、夏野さんの強みだと思います。
夏野: 自分より良いものを作っている人は、絶対に自分より大変な思いをしているし、苦労や努力を重ねているという実感を得られたのは、大事なことでした。
漫画に対して「線が細かい」と褒めていただくことが多いんですが、そこまで描きこまないと「まだラフでしょ?」なんて言われる世界だったんですよね。漫画の場合は、いい意味で「力を抜く」ところが大切だとわかってきて、そこは試行錯誤しています。
種村有菜作品の「手」に萌えて
――『25時、赤坂で』の1話は、人気俳優であり、大学の先輩でもある羽山麻水の看板写真を、新人俳優・白川由岐がじっと見つめるシーンから始まります。梶川さんも先ほど「目」を褒めていましたが、あの瞳のアップには、ぐっと引き込まれました。
夏野: 私の描く目って、むしろキラキラしすぎてうるさいんじゃないかと思っていたんです。自分では『モブサイコ100』のような、ちょっと目が死んでる系の作品が好きなんですよ。ミニマルにデザインされた造形に憧れるといいますか。だから梶川さんに「瞳がいいですね」と言ってもらえたのが新鮮でした。いろいろアドバイスいただけるおかげで、自分の客観的な良さを殺さずに漫画を描けるようになってきたかもしれません。
――全編のリアリティーも素晴らしかったのですが、取材はどうやって行いましたか?
夏野: 何度かドラマの現場にお邪魔したり、マネジャー経験のある方にお話を聞かせてもらったり。細かいディテールを似せるためというよりも、「空気感」をつかむことを目的にした取材でしたね。カメラが回っていないときの役者さんってどんな顔してるのかなとか、タイムスケジュールはどうなっているのかなとか……。現場の人たちがどう動いているのかをしているのかを感じて、作品に落とし込んでいきました。
――読者からの反響は目にしていますか?
夏野: SNSでいただくものもお手紙も、全部うれしく読んでいます。特にありがたいのは「何度も読んでます」というもの。生活の中で「また読みたい」と思ってもらえるものを目指したので。あと、「仕事の疲れが癒える」という感想も心に残っています。
――私は、4話冒頭で麻水がタバコを吸うシーンが好きすぎて、ずっと読み返してます!
夏野: こんなにせりふが何もないページを作ってもいいのかな……と思いながら描きました(笑)。
――他にもたくさん「かっこよすぎる!」というシーンが思い浮かぶのですが、夏野さんご自身は以前のインタビューで「かっこつけてるのを描くのが苦手」と話していて、驚きました。
夏野: そうなんです……。でも、自分が好きな作家さんが「かっこつけるの恥ずかしいんですよ」と言っていたら、いち読者としての私は「そんなことないですよ!!!」って返すはず。だから最近はさらに周って「恥ずかしい」って言ってることすら恥ずかしい、ダサいと思っている状態です。なので極力言わないように頑張っています……(笑)。まだまだ恥じらいはありますが、かっこいいものを描けるのは楽しいです。
――夏野さんが特に気に入っているシーンはありますか?
夏野: 物語というよりは、技術的な「地味にうまくデッサンとれたな」というシーンばかり思い浮かびます(笑)。表情でうまく描けたなと感じるのは、5話の麻水の顔でしょうか。あの角度の顔をかっこよく描くのが苦手だったので。
――前髪の感じがたまらないですね。人体のパーツで言うと、何を描くのが楽しいですか?
夏野: “人間のフォルム萌え”があるのでどの部位も楽しいんですけれど、今のところは「手」です。こっそり、「自分は今イケてる手のグラビアを描いているんだ!」という意識で描いています。
――「手」萌えのルーツは覚えていますか?
夏野: 原点は種村有菜先生ですね。種村先生の“中指と薬指はくっついていて、人差し指はピンと伸びているという表現”がすごく好きで、めちゃくちゃマネして描いていました。指と指が離れて動く感じにときめきを感じます。コップに手を添えているときに小指だけ離れている……とか。
――そこに注目して読み返してみます!
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