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» 2019年03月30日 13時00分 公開

自由な服装、自由なメイクで就職活動を―― 伊勢半の「顔採用、はじめます。」が生まれた理由

「スーツ」や「黒髪」がマナーとなった既存の就職活動に対するアンチテーゼ。

[ねとらぼ]

 化粧品会社・伊勢半の採用活動が注目を集めています。従来の就職活動は、スーツ姿に落ち着いたメイクで行われるのが普通ですが、伊勢半は「メイクを通じて自分を表現してもらう」「自由な服装で来てもらう」と宣言。そのキャッチコピーは「顔採用、はじめます。」という強いメッセージ性を感じさせるものでした。


顔採用 顔採用、はじめます。

 「顔採用」という言葉は、外見だけを重視し個人の能力を軽視する採用方法であるとして好意的なイメージを持たれづらいものですが、伊勢半はこの“顔採用”について「容姿が美しい人を採用するのではなく、自分らしい見せ方で自分を語っていただきたいから行った」と説明しています。「スーツ」や「黒髪」がマナーとなった既存の就職活動に対するアンチテーゼともとれるこの取り組みは、ネット上でも多くの反響を集めました。

 対象となるのは商品企画部門とデジタル広報宣伝部の新卒採用。エントリー時には「私らしさ」を表現する写真(動画もOK)3枚以内を添え、面接時は「自分を表現できる装い」であればメイクも服装も自由。エントリーはインスタグラムでもOKで、それが「私らしさ」を表すものであるなら通常のスーツ姿でも問題ないそうです。

 ネット上で評判を呼んだ「顔採用」にはどのような思いが込められているのか、伊勢半に行って聞いてきました。


自由な発想ができる人材を求めて

――服装も自由、メイクも自由というのはかなり斬新な採用方法だと思います。今回の「顔採用」はどうやってはじまったのでしょうか。

広報担当:開発本部の中の商品企画職と広報宣伝職、デジタルマーケティング職に限られているというのが重要ですね。どんな新しい商品を出すか、広告の企画をどうするのかを考えるときに型にはまらずに発想できる人材を獲得したい、そういう人たちに応募してほしい、つまりクリエイティブな職種だからこそ、自由な発想ができる人材が欲しいわけです。特に今の時代はそういう能力が必要になってきていると感じます。


顔採用

 それと、型にはまらず、新しい発想ができる人を求めても、皆さんが同じ髪形、同じ服装、同じメイクでいらっしゃると優れた能力を持つ人を見極めるのってとても難しいんです。でも、こういう採用方式で最初の段階で自分らしさを表現してもらえれば、こちらとしても「新しい発想をできる人材かどうか」を判断する材料にはなるかなと。

――確かに、学生の個性を見極めるという意味ではむしろ効率的かもしれませんね。

広報担当:まぁ、われわれも「学生さん側はどう思ってらっしゃるのかな?」と感じてしまうことがあるんです。

――従来の就職活動は、むしろ「自分の個性を殺す能力」の方が重要になってしまっている感じがしますが、それとは逆ですね。

広報担当:今回「顔採用」を始めるにあたって、皆さんがポジティブに感じてくれるかどうかも分からなかったので外部の調査を行ってみたのですが、学生の約50%は就職活動で「自分の個性を発揮できず、不自由と感じている」というデータが出たんです。そのことも今回の後押しにもなりましたね。


顔採用

――「顔採用」という言葉を使うことに関して、社内で反対意見はなかったのでしょうか。

広報担当:皆さんが言うように「すごく強い言葉だね」という意見は出ました。でも、皆さんに強くお伝えするために強い言葉を使うのは効果的ですし、「『顔採用、はじめます。』という言葉は、『私らしさを愛せる人へ』というKISSMEのブランドメッセージを伝えるのに適している」と会社を説得したんです。

 伊勢半は190年以上の長い歴史がありますが、昭和の時代に「キッスしても落ちない」というコピーを使って議論を呼んだり、前例のないことをやってきている企業なんです。その精神を継続するためにも……というのを説得材料にしたわけですね。最終的には役員にも納得してもらって、やることになったと。

――顔採用で本当に個性の強い人材が集まれば、既存の社員もそういう方向に引っ張られる可能性はありそうですね。

広報担当:われわれも本当にそう思ってます。化粧品業界だけではなく、今の世の中ってメーカーが気付かなかったような魅力を一人のユーザーが気付き、SNSに投稿して、それによって商品に反響が集まるというケースが本当に多いですよね。われわれもついていけないSNSとかありますし(笑)、そういう新しい感性を取り入れるのは必要だと感じます。


顔採用 「顔採用」では、Instagramの写真でもエントリーを受け付けていた

就活時のスタイルを自分の意思で決められるようになれば

――伊勢半さんもこれまでは普通の採用方法だったわけですよね。みんなスーツで、黒髪で、いわゆる「就活メイク」で……。

広報担当:そうです。それは、こちらから何を言うわけでもないのに皆さんそうされるんですよ。やっぱり学生さんも「そこで個性を出していいのか」と思ってる人ってすごく多いんでしょうね。

 われわれが「顔採用」を発信した後は色んなところから反響をもらいました。ウチの採用方法についてコメントされてるのを拝見してもポジティブな反応がほとんどだったので、やってよかったなと思います。

――ネットの反響を見ていると、「顔採用」を打ち出したことで企業イメージまで向上しているような気がしますね。

広報担当:ありがとうございます、そうであればいいなと思っています。

――学生にとっては「入社してからも自由な振る舞いができるのかどうか」も気になるところかと思います。社内でのメイクやファッションに制限はあったりするんでしょうか。

広報担当:お取引先のある業態ですので、TPOはわきまえてということになりますが、基本的にはないです。自分たちがメイクもファッションも楽しんでいないとなかなかいい商品を届けられないので。

――社内にはどんな人がいるんでしょうか?

広報担当:いや、結構個性豊かだと思いますよ。伊勢半が特長的なのは、上下関係があまりないんですよ。すごく上位職の人がいる会議でも、他のスタッフが正直な意見を言える環境はありますし、上の人にも気軽に意見できて、みんながフラットにかなり意見を言い合ってます。社長まで含めてコミュニケーションを取る機会は多いですし、そういう会社は珍しいかなと思います。

――就活時の服装はスーツが基本ですし、就活メイクも当たり前のものになっています。こういった流れについてどう思いますか?

広報担当:今の世の中の流れだと、そうした流れから逸脱するのは難しい環境です。ただ、そのスタイルで就職活動したいというのであれば、それでも全然良いと思うんですけど、それを世間の流れではなく、自分の意思で決めれるようになればと思います。もちろん、顔採用だからスーツで来ちゃいけないというわけでもないですから。

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