ネットに広まる「魔女っ子は放送禁止用語」説 調査して分かった「放送で扱いにくい理由」と「一般人が納得できない理由」

芸人さんのツイートが話題に。まとめサイトなどで記事化され、情報が拡散しています。

» 2019年03月27日 11時00分 公開
[ねとらぼ]

 えっ、何で「魔女っ子」がテレビやラジオでは使えない「放送禁止用語」になっているの?―― こんな疑問を呈したツイートに「基準が分からない」「美魔女もダメなのか?」と驚きの声が続出しています。

 近年、放送禁止用語という言葉と並んで、よく話題になるのが「メディアの過剰自粛」「言葉狩り」といったフレーズ。ただ、今回のケースに関しては「どうして『魔女っ子』が放送上不適切なのか、さっぱり分からない」と戸惑ってしまう人の方が多いのではないでしょうか。

 果たして「魔女っ子」という言葉を聞いて、不快な気持ちになる人がどれくらいいるのか……という問題はさておいて、筆者が調査を行ったところ、確かに“放送上不適切と指摘されてもおかしくない合理的な理由”に突き当たりました。



15年以上前からある「魔女っ子は放送禁止用語」説

 芸人・原田おさむ(@OsamuThe)さんは3月15日ごろ、放送禁止用語がリストになった資料の画像をTwitter上に投稿。そこには「浮浪者」「ヒモ」といった言葉とともに魔女っ子が掲載されており、「魔女っ子も? えっ? なんで?」と原田さん。このツイートは執筆時点で6000回以上リツイートされているほか、複数のまとめサイトなどでも取り上げられています。

 原田さんに話を伺ったところ、この画像は「知り合いの俳優さん」から受け取ったもので、詳細は把握しておらず、該当の資料の出元に関しても「放送関係のどこか?」とよく分からない様子。ですが、ネット上には同様のうわさが少なくとも15年以上前から存在し、「西洋では「魔女」に否定的なイメージがあり、『魔女っ子』という語には『悪魔のような子ども』というニュアンスがある」などと書かれています。




OKWAVE」に投稿された2002年の質問「魔女っ子は放送禁止用語?」。「何ゆえに指定されたのか理解できなかった」と、反応は現在とあまり変わらないもよう


放送禁止用語などについてまとめられたWebサイト。この表は、ネット上で収集した情報を集めたもので、「魔女っ子」が不適切とされる理由は「原典不明」


ピクシブ百科事典では「魔女っ子」だけ規制される理由について「西洋文化圏では『魔女』はかなりマイナスイメージ」「児童虐待的な問題意識なので『魔女』という単語自体は別段問題ない」と記載。しかし、言葉に対するイメージは文化間で異なるにもかかわらず、日本でも「魔女っ子」と児童虐待が結び付く理由は説明されていません。また、Google Scholarなどで「魔女っ子」を調べても、このような情報は確認できませんでした

 この説で気になる点の1つは「直接的に問題のある表現が『魔女っ子』ではなく、『魔女』」になっていること。論点すり替えのようにも見えますし、この語を冠した各局の番組は少し調べただけでも「魔女の条件」(1999年/TBS系列)、「魔女裁判」(2009年/フジテレビ系列)、「オリガミの魔女と博士の四角い時間」(放送中/NHK)などいくつも出てきます。



 また、近年、男女平等などの観点から性別を強調した表現を避ける流れがあり、例えば、「保母さん」は「保育士」、「婦警」は「女性警官」と呼ばれるようになりましたが、だからといって「実在しない職業(?)である魔女も『魔法使い』と言い換えられるようになったのかもしれない」と考えるのは難しそうです。

 繰り返しになりますが、実際にテレビ番組の顔であるタイトルに「魔女」は使われており、それがセーフなら「っ子」を付け足して「魔女っ子」にした途端、規制対象になる理由が説明できないのでは?

実は東映アニメーションの登録商標になっている「魔女っ子」

 「魔女」でも「魔法使い」でも「魔法少女」でも「魔道士」でも「魔術師」でもなく、「魔女っ子」が放送禁止用語になる“合理的な理由”があるとしたら、おそらく考えられる理由はただ1つ。

 この語は、アニメ「ひみつのアッコちゃん」「魔女っ子メグちゃん」をはじめとした「東映魔女っ子シリーズ」を手掛けた東映アニメーションの登録商標になっているのです。

 実際、メディア芸術データベースで2016年までに発表されたアニメ作品を調べてみたところ、「魔女っ子」がタイトルに採用されているのは、「魔女っ子メグちゃん」「魔女っ子チックル」の2つだけ。どちらも東映魔女っ子シリーズに数えられる作品だといいます。


「魔女っ子」が放送では使えない理由があるとしたら、これ?(特許情報プラットフォームより)


「魔女っ子メグちゃん」のストーリー(東映アニメーションより)


「魔女っ子チックル」は東映アニメーション(旧東映動画)ではない組織が関わっていたことから東映魔女っ子シリーズに加えられない場合もあるとかないとか(東映ビデオより)

 「NHK放送ガイドライン2015」によれば、登録商標は「(特定の企業などの)商品やサービスを示す」固有名称であることが多く、一般名(普通名称)と誤認して放送するのは「事実として不正確なだけでなく、結果として、その商品やサービスの宣伝につながるおそれがある」とのこと。

 つまり、「魔女っ子」は不謹慎や差別的といった物騒な理由ではなく、「東映アニメーションの作品に関連した固有名詞だから、うかつに使えない」という可能性が考えられます。

 放送禁止用語はテレビ局などが自主的に規制を行っているものであるため、実態を捉えるのは困難。ですが、もしも以上のような問題認識から規制している局があったとしても、「過剰自粛」「言葉狩り」の類とは言い難いのではないでしょうか。

 ちなみに、「NHK放送ガイドライン2015」には「『登録商標』に含まれている名称であっても、一般名にすぎないこともある」という補足があり、商標でも一般名詞として扱われる場合は、そこまで懸念はないもよう。


よく読むと問題視されているのは「一般名詞と誤認して、特定の商品、サービスの固有名称を使ってしまうこと」(「NHK放送ガイドライン2015」より)

 「魔女っ子」は固有名詞なのか、一般名詞なのか―― 難しい問題ではありますが、取りあえず言えそうなのは「現実問題として、わりと普通に使われている言葉」だということ。というのも、東映アニメーションの商標になった数年後に「魔女っ子モモカ」(花とゆめ/白泉社)というマンガが連載されていたり、発音が変わらない「魔女っこ」「魔女っ娘」表記のゲーム、アニメ作品が存在したり、現在でもWebメディアの記事などでは「魔女っ子」が漠然と「魔法使いの女の子」のような意味で使われていたり……。

 このような状況で「でも、放送禁止用語らしいよ」と聞いたら、「えっ、よく目にする言葉なのに?」とビックリしてしまう方が普通なのではないでしょうか。


東映アニメーションの登録商標になったに登場したマンガ「魔女っ子モモカ」(メディア芸術データベースより)


「魔女っ子」ならぬ「魔女っ娘ア・ラ・モード 唱えて、恋の魔法!」Webサイト。もとは18禁ゲームで、こちらはPS2移植版。ちなみに、iOS移植版も制作されています


「魔女っ子」ならぬ「魔女っこ姉妹のヨヨとネネ」Webサイト。2013年に公開されたアニメ映画で、原作はマンガ「のろい屋しまい」(作者:ひらりんさん/月刊COMICリュウ)。


Google検索して、ネットニュースなどを見ると「魔女っ子」を一般名詞のように使っている記事もチラホラ。

画像提供:原田おさむ(@OsamuThe)さん



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