インタビュー
» 2019年04月19日 16時20分 公開

その映像は、どこで止めても美しい――小林雅仁監督に聞く「リラックマとカオルさん」の実在性と普遍性

こま撮りアニメで4Kという挑戦しかない作品ながら、肩の力を抜いて見るのが大正解です。

[西尾泰三,ねとらぼ]

 Netflixのオリジナルアニメシリーズ「リラックマとカオルさん」が4月19日から配信されました。

 2003年のシリーズ展開以後、「都内に住むOL・カオルさんの家に住みつく、背中にチャックのついたクマ」というシュールな設定と、どんなときでもマイペースな生き方が女性を中心に長年にわたって親しまれ、サンエックスを代表する人気キャラクターとなったリラックマ。その歴史で初となるアニメシリーズは、原作では後ろ姿のみ登場する“カオルさん”が、リラックマたちと過ごす12カ月を11分×13話の構成で描き出す物語です。


 今作は、被写体をこま撮りし、動いているように見せる撮影技法「ストップモーションアニメ」で製作。NHKキャラクター「どーもくん」や「こまねこ」などでも知られるスタジオのドワーフが気の遠くなるような手間暇を掛けて生み出した今作は、ストップモーションアニメならではのアナログ感や味わい深さに満ちています。

 以下では、同作の監督である小林雅仁さんに話を聞きました。

Netflix リラックマとカオルさん ストップモーションアニメ こま撮り ドワーフ 小林雅仁 インタビュー リラックマと小林雅仁監督

―― ついに「リラックマとカオルさん」が公開ですね。

小林 まずは完成できたことが本当によかったです。2年ほど前にこの企画がスタートした時点では、先の見えない戦いが始まったなという感じでしたから、「終わりは必ずやってくるんだ」とホッとした気持ちが正直なところです。この作品に世界中の人がどういう反応をくれるのかが楽しみですし、すごくドキドキする部分でもあります。

Netflix リラックマとカオルさん ストップモーションアニメ こま撮り ドワーフ 小林雅仁 インタビュー

―― 先の見えない戦いとお感じになったのは、制作手法がストップモーションアニメだからですか? 経験やノウハウも豊かだと思いますが、それでもそう感じるのでしょうか。

小林 ざっくりと言うと、ほとんど初めてのことに挑んだからです。分かりやすいところでいうと、Netflixでは4K画質での配信ですが、こま撮りアニメで4K作品というのは、企画がスタートした当時はもちろん、今でも今作を除けば恐らく世界のどこにもありません。

 製作に当たっては、撮ったフィルムのデータ変換のやり方をはじめ、色をきちんと再現するためのライティングの最適な絞り値など、どこにも答えがないところで歩みを進めていた気分でした。

Netflix リラックマとカオルさん ストップモーションアニメ こま撮り ドワーフ 小林雅仁 インタビューNetflix リラックマとカオルさん ストップモーションアニメ こま撮り ドワーフ 小林雅仁 インタビュー カオルさんとリラックマが住む部屋は、架空の町・荻ヶ谷にある年季の入ったサクラコーポ302号室

―― ストップモーションアニメは1日に数秒しか進まないことも珍しくない気の遠くなるような作業だと聞きます。照明や光の反射による映像への影響を避けるため、撮影スタッフは黒い服を着るのが基本で、振動を防ぐために移動は静かに行うなど、忍者かと思うような撮影になるそうですね。撮影は12人のアニメーターを含む50人規模の10班体制で臨んだと聞きました。

小林 はい。10班体制というのはこれまでやったことがない規模でしたので、撮影に入る前には、チーフアニメーターの峰岸裕和がキャラクターそれぞれの動き方や食べ方といった特徴的な動きのレファレンスとなるアニメーションをつくり、他のアニメーターはその動きを同じように身につけてから撮影に臨みました。

 それでも、全体の整合性をどうコントロールするかは苦労しましたね。マニュアルがあるものではないので、試行錯誤の連続でした。優秀なスタッフたちが前向きに取り組んでくれてなし得たと思います。


―― ストップモーションアニメと感じさせないくらい会話や動きの流れに違和感がないのが特に驚きでしたし、ストップモーションアニメに自然光の美しさがもたらされていて、実写撮影の豊富な経験も今作の絵作りに一役買っているのだなと感じました。小林さんが考えるストップモーションアニメの魅力は?

小林 うち(ドワーフ)でそういう話をするときによく出てくるのは、ストップモーションアニメは昔からある古典的な手法ですが、それ故に、何年たっても古びれない普遍性のある映像となる点です。技術発展がめざましいCGだと、数年前の作品でも古さを感じてしまいがちです。今作についていえば、何年たっても古びない映像で見てほしいとの思いがサンエックス、Netflix、ドワーフの三者に共通していたと思います。

 僕は、ストップモーションアニメというのは、全て表現しきれないところに見る人の感情や想像の入り込む余地があると感じています。今作でも、基本は2コマ打ちの1秒12コマですが、表現しすぎず人に優しくない分、没入できるところが見る人の想像力を膨らませる表現方法だと思います。

Netflix リラックマとカオルさん ストップモーションアニメ こま撮り ドワーフ 小林雅仁 インタビュー

―― 過去にはトヨタのCMでCG合成のリラックマが登場したこともあります。CGと比較した場合のストップモーションアニメにはどんな考えをお持ちですか。

小林 CGという技術がストップモーションアニメの表現を変えたところがあるようには思います。現代では、CGがすごい質感を出せるようになり、同時に、ストップモーションだけどCGと思ってしまうほどのモデルも存在しています。そしてものの質感を出すために、CGでも実際に“ブツ”を作って取り込んだりし出したときに、もともとブツを作っていたコマ撮りに、ぐるっと回って戻ってきたような感覚もあります。ストップモーションアニメがまた注目されるようになったのはそういう背景もあるかもしれませんね。

Netflix リラックマとカオルさん ストップモーションアニメ こま撮り ドワーフ 小林雅仁 インタビュー

―― 作品としては、リラックマたちの日常を描きつつも、一緒に暮らすカオルさんを主人公に据え、ごく普通に暮らす30代女性の身に起こるようなことが描かれていますよね。これは脚本を手掛けられた「かもめ食堂」「彼らが本気で編むときは、」などでも知られる荻上直子さんらしい感じもしました。

小林 そうですね。カオルさんとリラックマたちが東京のどこかの街で暮らしているように思ってもらえるものを作りたいと考えていました。一番気を配ったのは“実在性”で、架空の生き物がいるのではなく実在するものとして描けているかどうか。リラックマがいて、アラサーOLが対面したらどういう生活、立ち振る舞いになるのかには気を遣いましたね。だから、カオルさんがどこに勤めていて、どんな生活をしているのかなど細かな設定を決めた上で造形を決めていきました。

Netflix リラックマとカオルさん ストップモーションアニメ こま撮り ドワーフ 小林雅仁 インタビュー

―― 実在性というキーワードは分かる気がします。リラックマたちが人間の生活に溶け込んで、普通に暮らしている空気感がありますし。ところで、ファンとしてはカオルさんが初めてビジュアル化されたことに驚きもあります。原作では後ろ姿だけ登場し、ファンの分身的存在ともいえるカオルさんのルックはどのように決まっていったのでしょうか。

小林 (実写の)人間がやった方がいいという極端なアプローチがあるとして、そこから一歩引いて、今作のカオルさんのようなルックがあってもいいわけで、つまりは、どこが一番ストップモーションの魅力を引き出しつつ実在感が出るか、そのグラデーションの中で決まっていきました。あらゆる質感の人形を並べて見比べたりしましたね。

Netflix リラックマとカオルさん ストップモーションアニメ こま撮り ドワーフ 小林雅仁 インタビュー

―― カオルさんには機械仕掛けのメカニカルヘッドが採用されていて、笑ったりしゃべったりする動きを細かく調整可能だそうですね。これもチャレンジでしたか?

小林 そうですね。ものすごく。英国の工房で作成したメカニカルヘッドを使っているのですが、恐らく日本では初めてではないかと思います。作品の性格上、言葉の応酬で感情を表現するものではないので、表情がとても大事になると感じていて、メカニカルヘッドは表情や感情の機微をよく表現してくれ、実存性を出すことに寄与したと思います。

―― 「リラックマ」の生みの親であるコンドウアキさんはクリエイティブアドバイザーとしてクレジットされていますが、アドバイスや要望で印象的だったものはありますか?

小林 リラックマがつまみ食いしようとするコリラックマをいさめるシーンがありますが、当初は少し強めにいさめるイメージだったんです。コンドウさんはリラックマはのんびりしているので、そうした強い感情を持たないキャラクター設定だとおっしゃられていて、そういう対話を僕、荻上さん、コンドウさん、サンエックスのチームで繰り返すことで作り手の中でもキャラクターが固まっていきました。

Netflix リラックマとカオルさん ストップモーションアニメ こま撮り ドワーフ 小林雅仁 インタビュー

―― 作品としては11分の尺で13話構成となっています。1話が月ごとのエピソードで、日本の四季が織り込まれているのも印象的ですね。

小林 ストーリーの主軸はカオルさんとリラックマたちの日常ですから、季節感はスパイスの一つですが、日本の四季を意識した光を細かく作りました。ルックから日本の四季を感じてもらえるとうれしいですし、日本にはお花見や夏祭りといった季節のイベントが身近にあることを発信したいなと。肩の力を抜いてお団子食べながらみてもらいたいです。

Netflix リラックマとカオルさん ストップモーションアニメ こま撮り ドワーフ 小林雅仁 インタビュー

(C) 2019 San-X Co., Ltd. All Rights Reserved.



Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

先週の総合アクセスTOP10

  1. この写真の中に“ドラえもん”が紛れています 難易度の高さに「ギブです」「ドラえもんは僕の心の中に」と諦める人続出
  2. 坂口杏里さん、「離婚は成立」と投稿 金銭貸し借り巡るDMさらし「これで終わり」「家族対1ってあまりに酷すぎる」とぶちまけ
  3. がん闘病の秋野暢子、手足の浮腫みで“見たこともない体重”に 抗がん剤の副作用を「しっかり受け止めます」
  4. HIKAKINさん、イベント中に不審者に絡まれマイク奪われる 視聴者から「ガチの放送事故」「無事でよかった」の声
  5. 愛犬に「僕の子猫がいないんです」と呼ばれた飼い主 必死に探すワンコの姿に優しさと愛情があふれている
  6. マックのハンバーガーを食べる娘に「今日のお昼ごはん何?」と聞かれ…… 青ざめる父の1コマに「うちも言う」と反響続々
  7. ダレノガレ明美、韓国でお気に入りのホクロを“ゴミ”だと除去されてしまう 「ドS Dr. ありがとう!」
  8. 笑福亭鶴瓶、背中いっぱいの「昇り鯉刺青」にファン仰天 “悪瓶さん”の貫禄あふれる後ろ姿が「迫力ハンパない」
  9. 娘が路上で子猫を発見→近づくと、突然倒れてしまい…… 保護子猫とのかわいすぎる出会いに「感動した」の声
  10. がん闘病の秋野暢子、激しい副作用とポジティブに格闘 治療で真っ赤な首筋に心配の声も「痛々しい」「見ていて辛い」

先月の総合アクセスTOP10

  1. 安倍元首相、銃で撃たれて意識不明か 事件時のものとみられる映像投稿される
  2. 野口五郎、20歳迎えた娘と誕生日デート 家族同然の西城秀樹さん長女も加わり「楽しい時間でした!」
  3. 「大阪王将」店舗にナメクジやゴキブリが発生? 元従業員の“告発”が衝撃与える 大阪王将「事実関係を調査中」
  4. この画像の中に「さかな」が隠れています 猫に見つからないように必死! 分かるとスッキリする隠し絵クイズに挑戦しよう 【お昼寝編】
  5. ダルビッシュ有&聖子、ドレスアップした夫婦ショットに反響 「ハリウッド俳優やん」「輝いてます」
  6. 「auの信頼度爆上がり」通信障害でも社長の“有能さ”に驚く声多数 一方で「まだ圏外だぞ…」など報告続く
  7. スシロー、“ビール半額”で今度は「ジョッキが小さい」との報告? 運営元「内容量に差異はない」と否定
  8. スシロー「何杯飲んでもビール半額」開始前にPOP掲示 → 注文したら全額請求 投稿者「態度に納得いかなかった」 運営元が謝罪
  9. TKO木下、海外旅行先で総額270万円のスリ被害に エルメスの財布奪われた“瞬間映像”も公開「くっそ〜……」
  10. パパが好きすぎて、畑仕事中も離れない元保護子猫 お外にドキドキしながら背中に乗って応援する姿があいらしい