「知り合いからしか仕事が来ない慣習を変えたい」 ガキ使・激レアさん担当作家が「日本放送作家名鑑」を作ったワケ(1/4 ページ)
今取材したい人は「秋元康さん」だそうです。秋元さん、どうかなにとぞよろしくお願いします……!
「放送作家」はなぜテレビに必要なのか――。テレビとWeb番組の違いは――。日本テレビ系「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!」やテレビ朝日系「激レアさんを連れてきた。」、テレビ東京系「青春高校3年C組」などで活躍し、6月15日には作家の得意分野や経歴を紹介するサイト「日本放送作家名鑑」をオープンさせた深田憲作さんを取材しました。
松本人志さん考案のオーディションを経て放送作家デビュー
「めちゃ×2イケてるッ!」(フジテレビ系)、 「シルシルミシル」(テレビ朝日系)、「得する人損する人」(日本テレビ系)など誰もが知るテレビ番組から、過激な企画でネット上の話題を集めるAmazonプライム・ビデオ番組「今田×東野のカリギュラ」まで、幅広く活躍する深田憲作さんは、キャリア11年目の35歳。大阪体育大学を卒業後、ラジオ番組でのオーディションに合格して放送作家デビューを果たしたという異色の経歴の持ち主です。
今回は深田さんが放送作家を志したきっかけから、気になる放送作家のギャラ事情。深田さんが立ち上げた「日本放送作家名鑑」とは一体どんなサイトなのかなどを伺いました。
――まず放送作家とは、どんなお仕事でなぜ必要なのでしょうか。
深田:一般の方からすると謎の職業ですよね、放送作家って(笑)。テレビ業界以外の方からよく聞かれるので、「企画を考える人」「(番組の)構成を考える人」「台本を書く人」「ドラマでいう脚本家にあたる仕事が放送作家で、監督にあたるのがディレクター(総合演出)」と、いろいろな説明をしますが、すごく説明が難しくて、うまく答えられたことないんですよね……(笑)。業界内では「テレビが始まったころに、青島幸男さんなどが生み出したのではないか」という説や、「本当はいらないんだけれども、テレビ業界にお金があった時代に“アイデアを生み出すスペシャリスト”として放送作家という職業が生まれた」という説を先輩の放送作家から聞いたこともあります。
――本当はいらない、というのはどういうことなんでしょう。
深田:放送作家って業界内でも「なくてもいい職業」と揶揄(やゆ)されることがよくあります。というのも「台本を書く」「企画を考える」というのは、基本的にディレクターの仕事の範ちゅうにも含まれていますから。でも一応、今のところなくなってはいないので、必要とされている職業なのかなとは思ってます。
――深田さんは、ダウンタウンの松本人志さんと、松本さんの幼馴染で放送作家の高須光聖さんがトークするラジオ番組「放送室」(TOKYO FM)をきっかけに放送作家デビューされたんですよね。
深田:そうです。番組内で高須さんの弟子というか、「ブレーンを募集する」という企画があって、それに応募したことがきっかけです。印象深かったのはオーディション1発目に出された、「赤丸・黒丸を羅列せよ」という問題でした。高須さんが番組内で「応募してくるやつが面白いかどうかを判定する方法ってあります?」と聞いたら、松本さんが「俺はある」とこの問題を提案して。それが実際に審査のお題になったんですよ。
――それってどういう答えが正解だったんですか。
深田:「赤赤黒黒」みたいに並べ方に意味があると思って応募してきた人が多かったらしいのですが、後にこの問題の意図は「与えられたルールの中でいかに裏切るか?どれだけ目立つか?」ということで、松本さんは「俺だったら赤丸を、1個を書くかな」「ただ、ここで星を書いてきたりするのはルール違反」というようなことをおっしゃっていました。つまり、エンタメの世界は“与えられたルールの中でいかに目立つか”なので、松本さんや高須さんはこの問題を見ればその人間のセンスが分かる、と言っていたということなんです。
僕はなんとなく松本さん、高須さんの意図を理解して、紙の角に赤丸を書いて、はみ出た部分は対角の角から出ているというような工夫をしたと思います。
――松本さんっぽい、というと失礼かもしれませんが、天才が考える問題だなという感じがしますね。このオーディションに受かったのは深田さんをはじめ何人ぐらいだったのでしょうか。
深田:確か、高須さんから「700人ぐらいが応募してきた」と聞いた記憶がありますが、合格者は僕を含めて3人でした。2次試験では50人ぐらいが面接にやってきて、そこから10数人に絞られて、そのあと3〜4回ぐらい「企画を出してくれ」「直してくれ」というやりとりがありました。オーディションが始まったのが5月ぐらいだったのですが、9月ぐらいに高須さんから「事務所に来てくれ」と呼ばれて行ったらほかの2人が居て。いきなり「君たち来月から制作会社でAD(アシスタントディレクター)やってきて」と言われたんですが、これが合格だったというわけです。だから僕、半年ぐらいはAD経験があります(笑)。
――意外ですね。AD時代はどんな番組を担当されたんですか。
深田:ジーヤマという制作会社に預けられて、くりぃむしちゅーの有田哲平さんがやられていたTBS系の「むちゃぶり!」という番組を担当しました。
――修行の半年が終わったら、高須さんから「帰ってきていいよ」という連絡が入るという感じだったのでしょうか。
深田:いえいえ。期間は告げられておらず、毎日すごく大変だったので内心は「これいつまでやるんだ??」とヒヤヒヤでした(笑)。ADをはじめて3〜4カ月たった頃に、「『くりぃむナントカ』(テレビ朝日系)がゴールデンに行くから、高須さんのところにいる若手作家を入れてあげても良いよ」という話をテレビ朝日の藤井智久さん(「マツコ&有吉の怒り新党」で総裁として知られている)からいただきまして。僕ら3人はADをやりながら、番組の構成会議には出ずに企画案を週に1回出すことになりました。その結果「深田君は入れてあげてもいいですよ」ということになったらしく、高須さんから「番組に入れることになったから、AD卒業してえぇで」と言われたのが修行から半年後のことです。あとの2人は結局AD修行を1年ぐらいやってから放送作家になりましたね。
――高須さんから学ばれたことはどんなことでしたか。
深田:高須さんは僕らに手取り足取り教えるというよりは、テレビの世界に放り投げてくださった感じで「最初のきっかけは与えてあげるけど、後は自分で頑張って仕事広げていけよ」って。どちらかというと放任タイプでしたね。だから高須さんと一緒に番組をやらせてもらったというのはほとんどなくて、かばん持ちみたいなこともなかったので、他の放送作家さんのお弟子さんと比べたら全然大変な思いもしませんでした。
僕は中学の頃に松本さんの『遺書』を読んで、なんなら人格形成にまですごく影響を受けた部分があるので、松本さんのブレーンである高須さんも「結局、面白いこと考えられるかどうかは才能だ」みたいなことをおっしゃるのかなと思っていたのですが、アドバイスしていただいたのは「人が嫌がる仕事を率先してやって、みんなから愛されるようになれ」「礼儀を大事にしなさい」と人としてのすごく基本的な部分で、企画案やネタについても「本当に頑張って考えたら良いものが浮かぶ」「20代で真剣にずーっと考えまくっていたら30代で一気に開花するときが来るから、とにかく考えて考えて考えろ」という言葉をいただいていました。僕としては「意外と泥臭いことをおっしゃるんだな」と感じたのを覚えています(笑)。
生きる目標を無くした青年を救ったドラマ「伝説の教師」
――放送作家を志したのはこのラジオがきっかけですか。
深田:いえ、なりたいと思ったのはもっと早い段階で、「放送作家セミナー」に行ってみたり、学生時代からいろいろと模索はしていました。放送作家になりたくて、就活もせずに大学を卒業して上京したはいいものの1年ぐらいは放送作家になれなくて、「どうしようかな……」と思い悩んでいた23歳のときに、偶然ラジオでオーディションの旨を聞いたので、今思えば「運命だな」という感じはあります。
――放送作家を志したのはなぜですか。
深田:僕は高校まで野球をやっていたのですが、プロを目指したり、大学より上で続けようと思うほどの才能はなくて、進学した大阪体育大学ではスポーツトレーナーを目指しました。でも勉強している途中で「これは違う」と感じて……。その後は「やっぱり現役選手がいいな」と思ってプロボクサーを目指してみたんですが、1回目のスパーリングでボコボコに殴られて。顔面を殴られたのに、翌朝起きたら後頭部が痛い、とか熱が出てる、とかで怖くなってしまって、「これはメンタルの弱い自分には向いてないな」と思って辞めたんです。そのときに、「野球」「トレーナー」「プロボクサー」と全ての目標も失ってしまったので「人生の目標がなくなった」とすごく落ち込んで。2週間ぐらい家に引きこもって「もう死んでやろうかな」ぐらいの心境になったんですよ。
――激動の人生ですね。
深田:こうやって話すと確かにいろいろありましたね(笑)。ひきこもり期はあまりにもやることがないので、レンタルビデオ店で借りてきた日本テレビ系の「伝説の教師」という松本さんと中居正広さんがW主演したドラマを2週間ぐらいずーっと流しっぱなしにしてたんです。そうしたら女性生徒が自殺を考える回(第8話「少女の命燃えつきて…教師漫才最後の贈物」)があって。物語の終盤に「何のために人は生きているのか」という問いに対して松本さん演じる教師・南波次郎が「笑うためや」「人間に許された唯一の特権は笑う事や。笑いながら生きるというんは人間としての証なんや」と答えたんですね。これを見て救われたという人はテレビ業界にも多いのですが、僕もそれを聞いたときに「この人かっこいいなぁ。自分の笑いの才能をいかして、自信を持って生きているなんてすごいかっこいいなぁ」と思いました(※)。
それで「僕もそういう世界に入れないかなぁ」と考え始めた頃に、ちょうど放送作家という仕事があることも知って。結局就活を一切せずに東京へ出てきたんですよね。
(※)松本人志さん原案のドラマ「伝説の教師」。お笑い芸人の若井おさむさんが第8話を見て自殺を踏みとどまったという逸話も有名。
――その後、見事に放送作家になることができた深田さんですが、放送作家のお給料事情ってどうなっているのでしょうか。
深田:放送作家のギャラは「1オンエアでいくら」という形式なので、レギュラーが決まると半年間は1月4本分のギャラが入ってくることになります。例えば1本ギャラが5万円なら月に20万円入ってくるという事ですね。若手だと、その1本あたりの単価が安く、大御所だと高くという感じです。
――単価の幅はどれぐらいあるものなのでしょうか。
深田:深夜番組なのか、ゴールデン番組なのかにもよりますが、ド深夜の番組だと若手は1本5000円という場合もあるかと思います。
――やっぱりゴールデンだと夢があるんでしょうか。例えば深夜番組からゴールデン昇格、という場合もありますよね。
深田:確かにゴールデンに昇格すると放送作家のギャラも上がりますが、ゴールデンはゴールデンなりの難しさがあるんですよね。
――そうなんですか。ゴールデンの作家さんはウハウハなのかなと思っていました。
深田:放送作家としては「レギュラー番組が長く続くこと」が一番うれしいことなのですが、ゴールデンに行くとやっぱり視聴率が重視されますし、実はゴールデンの方が休止が多いんですよ。例えば自分が20時台のレギュラー番組をやっているとして、19時台の番組がスペシャルをやるときや単発の特番が放送されるときは休止になりますし、野球やサッカーなどのスポーツ中継で休止になることもあります。だから意外と23時以降の番組の方が安定して毎週放送されるので、定期的な収入という点で考えると深夜番組の方が安定しているかもしれませんね。
――その視点は思いもつかなかったので驚きました。オンエアされないとギャラが入らないということで言うと本当にその通りですよね。
深田:もちろんゴールデンでの人気長寿番組はあります。例えば「ザ!鉄腕!DASH!!」「世界の果てまでイッテQ!」(ともに日本テレビ系)といった番組は業界の最高峰ですから、憧れる人も多いと思います。
――1クールにどれぐらい担当していたら売れっ子といわれるんでしょうか。
深田:10本以上やっていたら売れっ子でしょうね。僕からすると10本はまだしも、15本以上やっている人はどんな生活をしているんだろうって思いますが、ご本人に聞いたりすると「睡眠時間は3〜4時間」という人もいますし、レギュラーに加えて企画書も年間何百本とやっている人もいるので、世の中にはバイタリティーがある人がいるんだなぁと驚かされます。
放送作家はどの番組に注目している?
――プロの放送作家から見て「この番組はすごいな」「面白いな」と思う番組は何ですか。
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