「誰もが知っているこわい話」の共通点とは? “こわい話”を解剖する(1/2 ページ)
こわい話を解剖すると、もっとこわいものが出てくるかも。
――10年ほど前、あるブログが炎上した事件を覚えているだろうか。
障害者や生活保護受給者といった人々に対する差別的な記述が繰り返されており、SNSやネット掲示板上でさらされ、非難とともに拡散された。
掲載されていた画像のひとつに、ブログ主と思われる女性の顔が窓に反射する形で写りこんでいたことから、それがいわゆる地下アイドル活動をしている東京の女子大生だと、身元が特定されるまでそう時間はかからなかった。本名や住所、メールアドレスがリークされ、やがて最悪の事態につながった。ブログ主とされた女子大生が、自宅のそばで待ち伏せていた男に硫酸をかけられたのだ。顔の半分を焼かれ、失明する大火傷だった。
ネットでブログのことを知り、義憤に駆られての犯行だったと逮捕された男は語った。
しかし、事態はここから思わぬ方向に進む。
実は炎上したブログは、真っ赤な偽物だった。女子大生が運営していた本物のブログから画像を転載し、多くの人に非難されそうな内容の文章をでっち上げたものだったのだ。
犯人はすぐに逮捕された。アイドルだった被害者のファンで、ストーカー化してイベントを出入り禁止になっていた男だった。
「彼女がみんなから嫌われれば良いと思った」犯人は動機について、そう話したという。
結局、裁判では犯人が傷害事件を予期できたとまで認定することはできず、名誉毀損以外の罪に問うことはできなかった。事件の顛末はメディアではほとんど取り上げられず、それは「犯人が在京キー局幹部の息子だったため」というまことしやかなウワサも流れた。
ネット上には、怒りや悲しみに彩られた「物語」があふれている。正義感からその拡散に手を貸そうとしているあなた、その「拡散希望」は本物ですか?――
……というこわい話は、私がでっち上げた大ウソです。身に覚えのないネットリンチでひどい目に遭った地下アイドルは居ないので安心してください。ここからは、この“こわい話”を解剖していきます。
白樺香澄
ライター・編集者。在学中は推理小説研究会「ワセダミステリ・クラブ」に所属。クラブのことを恋人から「殺人集団」と呼ばれているが特に否定はしていない。怖がりだけど怖い話は好き。Twitter:@kasumishirakaba
こわい話が「拡散」される条件=「アピール」「実話っぽさ」「メッセージ性」
誰もが知っているこわい話、というのがあります。
例えば「口裂け女」や「トイレの花子さん」のような、世代や地域(時には国境すら)を超えて、多くの人に語られ、怖がられ続ける怪談。
ジャン・ハロルド・ブルンヴァンはアメリカのあらゆる都市伝説を収集・分析した名著『消えるヒッチハイカー』の中で、ある「物語」が「伝説」として長く語り継がれるものになるための条件として、以下の3要素を挙げています。洋の東西を問わない黄金律でしょう。
例えば「口裂け女」で言えば、「口が耳まで裂けた女性」という鮮烈なビジュアルイメージが(1)であり、「友達の友達が見たらしい」「〇〇町の交差点に出たらしい」といった、ウワサが伝ぱする中で付加される具体的な目撃者・目撃場所の情報が(2)といえるでしょう。
そして(3)は、「口裂け女」遭遇譚の多くが夕方以降、特に「夜、塾の帰り道」というシチュエーションを選んでいることから想像できます。
ひとつは、「子供が夜一人で出歩かない方が良い」というシンプルな教訓。
そしてもうひとつは、「子供の塾通い」自体へのネガティブメッセージです。
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