日本一貧乏な観光列車「ながまれ海峡号」の1回しか出ないメシで満腹になってやったぜ:月刊乗り鉄話題(2019年10月版)(3/5 ページ)
これのどこが「日本一貧乏」なの?
茂辺地駅のいさりび焼きの頃には陽が落ちて、車窓には夜の海。夜景を楽しむために車内の照明を暗くしてくれます。この日、路線名にもなった「漁り火」は残念ながら見えませんでした。それでも昼間の明るい海、夜の幻想的な車窓を眺められて大満足。乗り鉄としては、貨物列車と何度もすれ違う場面も楽しめました。
道南いさりび鉄道の他の車両との出会いも楽しいです。道南いさりび鉄道は9両のディーゼルカー「キハ40形」を保有しています。このうち、「ながまれ号」塗装が2両。ほかの5両は全て異なる色です。
こんなにも楽しく、おなかいっぱいの観光列車が、どうして「日本一貧乏」といえましょうか。もっとも「日本一貧乏」は正式なキャッチフレーズではありません。道南いさりび鉄道の公式サイトや、主催会社の日本旅行は「日本一貧乏」を使っていません。「日本一貧乏」はこの列車の成功を記録した本のタイトル『日本一貧乏な観光列車ができるまで 「ながまれ海峡号」の奇跡』が由来です。
本書によると「ながまれ海峡号」は異例の低予算で作られた列車です。そもそも、運行する道南いさりび鉄道にはおカネがありません。道南いさりび鉄道はもともとJR北海道の江差線でした。しかし、北海道新幹線の開業と同時に「並行在来線」としてJR北海道から切り離されます。貨物列車は運行を継続しますが、旅客列車は廃止。でも、それでは地域の人々が困るので、北海道、JR貨物、沿線自治体が出資して「道南いさりび鉄道」が発足しました。
新幹線の並行在来線に共通の悩みは「赤字必至」です。地方路線のほとんどはJR時代から赤字。その上、新幹線の開業によって特急列車が廃止され、利用者も売り上げも激減します。道南いさりび鉄道も同じ問題を抱えていました。
そこで観光列車に活路を見いだそうとしたわけです。もっとも、赤字前提の会社ですから観光列車の新型車両を作る予算はありません。JR北海道から譲り受けた中古車両に、最低限の改造をして仕立てたのでした。
おカネはかけなくても手間ひまかける
ながまれ海峡号をよくみると、目立つ改造は脱着式のテーブルだけ。飾り付けは迫力がありますけれど、取り外し可能。手間はかかるけれど、あんまりお金はかかっていません。上磯駅の立ち売りも、茂辺地駅のバーベキューも、地元の有志が協力し、がんばっています。お金をかければ車内にオープンキッチンなんてのも作れるでしょう。電子レンジくらいは置けるでしょう。でも、それでは「おいしくない」。
なんとか限られた施設と予算で、圧倒的においしいものを提供したい。工夫と手間をかけて乗り切ろう。これが「ながまれ海峡号」のコンセプトです。
そんな努力の結果として、他の観光列車にはない「おもてなし」が実現しました。有名シェフのイタリアン、豪快なエキナカバーベキュー。これらが実現した理由が「貧乏」だというならば「貧乏ってステキ」じゃありませんか。
運行開始から2019年で早3年。ながまれ海峡号は現在も大人気です。運行日が少ないこともあり、なかなか予約が取れません。そんなに人気があるというのに、正直、もうかってもいないらしいです。でもウハウハにもうかっちゃったらおカネで解決、貧乏ならではの「手間暇かけたおもてなし」という潔さがなくなってしまうか……。
これからも「日本一貧乏」でがんばってほしい観光列車です。
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