『娘の友達』萩原あさ美インタビュー 「自分の反省の気持ちと、『わからない相手を知りたい』という欲求が合わさった作品」(1/2 ページ)
自己を抑圧する現代人へ贈る、“ミドルエイジ・ミーツ・ガール”ストーリー。
君に出会わなければ、正しくて、つまらない人生だった──。
家庭では家庭の、会社では会社のしがらみに縛られ、いつしか“理想的な自分”を演じるように生きている主人公・晃介。だが彼の人生は娘の友達である少女・古都との出会いにより180度変化することとなっていく。社会の中で自己を抑圧する現代人へ贈る、“ミドルエイジ・ミーツ・ガール”ストーリー。
コミスペ! は様々な場所で話題が広がりつつある『娘の友達』の単行本2巻発売のタイミングに合わせて、作者の萩原あさ美先生へインタビューを実施。危うい雰囲気を醸し出す本作の魅力について伺って来ました。
この子はこの子の行動原理で生きている
──本日はお忙しい中インタビューを受けてくださりありがとうございます! また、『娘の友達』単行本2巻が11月13日に発売ということで、そちらもおめでとうございます!
萩原:ありがとうございます。
──今日は色々とお話を聞かせて頂ければと思っております。早速ですが『娘の友達』を連載することになった経緯を聞かせて頂けますか?
萩原:前々作『B級シネマ少女組inグラインドハウス』も前作『バイバイ人類』も原作の方がいらっしゃったので、一度自分で1から作品を描いてみたいなぁと思ったのがきっかけですね。描いてみたら私の趣向が出て、前2作とは全然違うのになっちゃいました。
担当編集:萩原先生との出会いは2年前に共通の知り合いに紹介してもらったのが始まりで、その時は『娘の友達』とは中身は違うけど、プロトタイプみたいなネームを読ませて頂きました。それはアパートかマンションの前かで女の子を拾うみたいなお話で……。
萩原:あぁ〜あれはまた全然別のやつです(笑)。『バイバイ人類』連載中に描いたんですけどお蔵になってた作品なんですが、折角描いたので読んでもらえる機会だと思って持っていったんですよね。
担当編集:全然別だったんですか(笑)。あれがプロトタイプなのかと思ってました。
──前作のお話が出ましたが、確かに全然雰囲気が違いますね。『バイバイ人類』はパニックホラー要素が強い作品でしたし。私自身『バイバイ人類』も『娘の友達』も両方読ませて頂いていたのですが、途中まで同じ萩原先生の作品だと気づかないで読んでいたくらいです。
萩原:え、本当ですか? でも確かに、ベタの入れ方や線の入れ方が『バイバイ人類』は少年誌向けで、『娘の友達』は青年誌向けという意識で少し変えているので、そのせいかもしれないですね。『バイバイ人類』は少年誌テイストが強かったんですけど、私自身は実は少年誌よりも青年誌が好みで。
──『娘の友達』の物語が生まれることになった経緯も聞かせて頂けますか?
萩原:自分自身の話になっちゃうのですが、実は私……去年から一昨年頃に離婚をしていまして……。
──えっ!
萩原:離婚した前の旦那さんはいわゆる普通の会社員で、私は普通とは違う職業なので価値観が全然違って、結婚生活の終盤は「なんでこんなにお互いが言ってることが違うんだろう」という状況になっていたんです。
そういう状況になってしまったことへの反省の気持ちと、私が元々持っていた「わからない相手を知りたい」という欲求が合わさってこの作品ができました。
──確かに『娘の友達』を読んでいるとわからない人物が多数出てきますね。その代表格は晃介目線から見た古都ちゃんですが。
萩原:古都の考え方や感情は、私自身の中にある感覚のもと組み立てています。それにプラスして「どうやこの女の子は可愛いやろ?」っていう気持ちも加えていますけど(笑)。
担当編集:出会った時から萩原先生は「他人には行動原理がよく分からないけど、この子はこの子の正義で生きている」ということが伝わってくる、ミステリアスな魅力を持つ女の子を描く作家さんでしたね。
僕がプロトタイプだと思っていた作品を初めて読ませて頂いた時も、「なんでこの女の子は拾われて、拾った男の家に住みつくんだ?」と思いましたし。でもそんなよくわからない女の子なのに、不思議と芯は通っていたんです。
萩原:打ち合わせをしだした最初のころは私のネームが本当にへたくそで、「このキャラクターの行動原理が理解できない」「このキャラクターは頭がおかしい」ってたくさんダメ出しを受けました(笑)。最近はそれも減ってだいぶ上手くネームが描けるようになってきた気がします。
──その「頭のおかしさ」っていうのは、公開されているエピソードにも多少残っていたりするんですか?
担当編集:残っている部分もありますね。普段から打ち合わせをしている担当の僕でも、いまだに古都ちゃんの行動原理はわからない部分が多いんですけど、それはそれで萩原先生の中で筋が通っているのなら良いかなと思って進めています。
萩原:大丈夫です。古都の行動原理は私の中にはしっかりとありますから!
──古都ちゃんは萩原先生の中に確固たる形があるんですね。そうした上で敢えて主人公を晃介にしたのは何故なのですか?
萩原:主人公を女性の古都じゃなくて男性で会社員の晃介にしたのは、読者が男性になることが予想されたのでそれに合わせたというのがありますね。
一方で、私自身は会社員をやったことがないので、彼を描くのはなかなか難しいです。毎回どういう考え方をしてどういう人なのかと悩んで、周りの人に教えてもらいながら描いてます。
──きっと作中の晃介の娘の美也ちゃんも、そういう風に晃介のことを見ているんでしょうね。美也ちゃんと言えば2巻に収録されるエピソードで彼女に接触する三崎君というキャラクターが登場しますが、あの二人はどのように生まれたのでしょうか?
萩原:あの二人は特にモデル等は無く、自然に生まれました。あの二人のエピソードは考えてはいますが、どこまで描くかは匙加減次第なのでこれからどうなっていくかは未定ですね。
──美也ちゃん関連でいうと、作中で晃介の奥さんの姿も描かれていますが、今後その辺りの話が掘り返されることはあるのですか?
萩原:どうだろう……『娘の友達』は、“夫婦”よりも“親と子”を意識してるところがあるんです。奥さんが生きてたら晃介と古都の関係は不倫に近いものになると思うのですが、不倫って夫婦という対等な関係の中で片方が裏切るという物じゃないですか。
でも、晃介と美也は”親と子”なので対等じゃ無い。奥さんの話よりも、その辺の関係を描けたらなと思っています。
──不倫という言葉で古都のお母さんや美也ちゃんが、携帯や財布を調べたりするシーンを思い出しましたが、男としてはああいうシーンに恐怖を感じてしまうところがあります。別に探られてまずいことがあるわけではありませんが!!
萩原:あのシーンは私も「本当はこんなことしないんじゃないかな?」って思いながら描いてたんですけど、ちょうど昨日アシスタントさんと話していたら「女は意外とこういうことする」っていう結論に至りました。
──世の男性は気を付けなくてはいけませんね。探られてまずいことがあるわけではありませんが。
萩原:女性は、男性とは別の所で怖い一面もありますからね(笑)。
(C)萩原あさ美/講談社
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