芸能人の逮捕・起訴相次ぐ~違法薬物は「他者危害」

自己責任では終わらない。

» 2019年12月13日 14時31分 公開
[ニッポン放送(1242.com)]
ニッポン放送

ニッポン放送「ザ・フォーカス」(12月12日放送)に元外務省主任分析官・作家の佐藤優が出演。違法薬物の蔓延について解説した。

フォト

若者が簡単に違法薬物を入手できてしまう現状

2019年は違法薬物の所持、使用で多くの芸能人が逮捕・起訴され話題を呼んだ。近年ではSNSでの薬物取引も問題視されており、若者が簡単に違法薬物を入手できてしまう現状がある。そのことについて、佐藤優が規制という切り口から意見を述べた。

advertisement

森田耕次解説委員)2019年は違法薬物で逮捕・起訴される芸能人が相次ぎました。3月にはミュージシャンで俳優のピエール瀧、5月に元KAT-TUNの田口淳之介と女優の小嶺麗奈、11月には女優の沢尻エリカ、元タレントの田代まさしといった各被告が違法薬物で逮捕・起訴されました。記憶に新しいのが沢尻エリカ被告です。合成麻薬MDMAを所持していたということで、麻薬取締法違反容疑で逮捕されました。沢尻被告は逮捕後、警視庁の調べに対し「10年以上前からMDMAやLSD、大麻、コカインを使用していた」という趣旨の供述をしています。違法薬物使用はもちろん、所持だけでも犯罪になるということですよね。

フォト 保釈され、土下座して挨拶する田口淳之介被告 =東京・青海 撮影日:2019年06月07日 写真提供:産経新聞社

違法薬物は「他者危害」~自己責任では終わらない

佐藤)これは最近大学生と話してみて、「率直な意見を言ってごらん。違法薬物ってどうしていけないのだと思う?」と聞いたら、「とりあえず法律で決まっているからだけれども、別に自分がひどい目に遭うわけだから、自己責任だからいいんじゃないか」という議論をする学生がときどきいます。それは違うのです。確かに近代における自由というのは何をやってもいい、人から見て愚かだと思うようなことでもやっても構わないのだというものです。例えば私は猫が好きなので野良猫を保護することがありますが、人によっては一生面倒を見るとなるとエネルギーもかかるし、お金だってかかります。それだったら寄付で慈善事業に使えばいいじゃないか、と言われても、それは愚かなことをする権利だと。憲法では、「愚行権」というと聞こえが悪いから「幸福追求権」つまり国家の幸福や社会の幸福ではなく各人の「幸福追求権」なのですよ。ただし、「愚行権」が認められない唯一の場合があって、それは他者危害なのです。ですから、自分は拳銃を撃つのが趣味だからといって、人を撃つのはだめでしょう。それは犯罪ですし、なぜそれが犯罪かというと危害を加えるからです。覚せい剤の場合は、そこのところから妄想が出てきて人を攻撃することが証明されています。それは他者危害なので、自分の身がボロボロになるだけでは済まない話ですよね。大麻やMDMAについてはいろいろな議論がありますが、いままでの研究の結果によってはより強い刺激を求めて覚せい剤に流れていくことが非常に多いわけです。そこの入り口で止めておくということには合理性があって、人に危害を加えないということだと思うのですよ。そして、売る方に対する取り締まりを本当に厳しくしないといけないのですよね。薬物で捕まっている人は、依存症になっているのですよ。本人の意思ではやめられなくて、ドーパミンが出て気持ちがよくなってしまっているから、どうしても手を出してしまう。依存対策のプログラムもきちんと組まなければいけません。

森田)学校などでの教育も重要になってきます。

フォト 関東信越厚生局麻薬取締部が入る九段第三合同庁舎から出てくるピエール瀧容疑者(※当時)=3月13日午前、東京都千代田区 写真提供:産経新聞社

「危害」に至らない「迷惑」への対応の議論が必要

佐藤)それから、他者に危害を加えるということはいけないのですが、迷惑についてはどうなのかということです。例えば、電車のなかで子どもが泣いていることに舌打ちをする人が増えていますよね。確かに子どもの泣き声は迷惑かもしれません。しかし、それを認めなければ社会が窮屈になってしまいます。例えば、お酒を飲んで人に吐きかけるのはだめです。

advertisement

森田)それは危害を加えていますものね。

佐藤)しかし、酒臭い息の人が電車のなかにいた場合、これを電車からつまみ出してもいいのかということです。

森田)ちょっと嫌ですけれどね。

佐藤)ちょっと嫌だけれど、自分が飲むときのことを考えるのか。たばこに関しても、受動喫煙の問題が深刻になっていますが、完全に分煙されている場所も含めて一切認めないことにした方がいいのか、その辺のところはいろいろな議論をしていかなければいけないと思います。

森田)危害ではなく、迷惑という部分をどうしたらいいのかということですね。

advertisement
フォト 湾岸署に入る沢尻エリカ容疑者(※当時)を乗せたとみられる車=2019年11月16日 東京湾岸警察署 写真提供:産経新聞社

自粛や規制を広げ過ぎて、社会が窮屈になる恐れも

佐藤)逆に、行き過ぎてしまうと、例えばナチスはものすごく厳しく禁煙を行いました。ナチスは健康の管理も国がやらなければいけないということでやったわけですよね。あるいは、無着色バターや胚芽パンを食べることを奨励したのはナチスなのですよ。どうしてかというと、身体はヒトラー総統のものなのだから、いつでも戦えるようにしておけと。それだから健康に留意しろと。がん検診もそうです。国民全体を健康で完全に管理するということになると、今度はユダヤ人ががん細胞と同じだということにしてしまいます。それから、喫煙者をわけるような線と、ゲットーという形でユダヤ人の居住区をわけるようなことが似てくると危ないです。これは『健康帝国ナチス』(ロバート・N. プロクター/草思社)という本のなかに書いてあります。よかれと思って他者危害のところを広く取り過ぎてしまうと大変です。健康管理のために甘い物を制限することや、飛行機に乗るときに体重計に乗って、標準体重をオーバーした人に関しては追加金を取るということになりかねません。どこのところでバランスを取るのかを、よく議論しなければいけません。沢尻さんやピエールさんはいままでいろいろな映画に出てDVDにもなっているし、動画配信もしています。これをストップするのかしないのか。

森田)作品の扱いですよね。

佐藤)やった犯罪によると思うのです。作品はつくった人の手を離れてしまうわけです。こういった事件を起こしたときに、その作品を完全に封印してしまうのも違うと思うのです。ただ、どんな犯罪にも関わらずOKというわけにはいきません。あるいは、すべて撮り終えて公開されていない作品についてはどうするのか。この辺は私自身もよくわかりません。むしろ、皆さんの意見を率直に聞かせて欲しい。でもどちらかというと、既に撮り終えているものに関しては、キャプションをつければその作品は独立していますから、それはそれで放映してもいい気がします。

森田)そこも犯罪の種類によってくるのでしょうね。

佐藤)残虐な犯罪だと、その人とその犯罪は結びついているわけですからね。ただ、薬物だってそうなるわけなので、社会でどこに線を引くのかも議論しながらで、一般論では決められないと思います。一方で、薬物が怖いというのは重要なのですが、逆にすべてのことに対して自粛や規制を広げ過ぎて、社会が窮屈になり過ぎるのも怖いです。

フォト 【沢尻エリカ離婚】高城剛氏と離婚したことについて報道陣の質問に答える女優の沢尻エリカ=東京都港区 撮影日:2013年12月28日 写真提供:産経新聞社

芸能人は氷山の一角 社会全体で危機意識を

森田)沢尻被告のMDMAなんていうのは、若者がかなり蝕まれているということですから、教育もより重要になりますよね。

佐藤)いまの教育は「やってはいけません」だけでしょう。やったらどうなるのか、もしやってしまった場合にはどういう対応をすれば社会でやり直せるのかという回路も含めて教えないと、やったら隠しますよ。それでのっぴきならないところまでいって、初めて発覚するのです。

森田)スノーボードの元日本代表の国母被告は大麻を販売目的で密輸した罪にも問われていまして、海外から持って来たというようなことも起きています。その辺は食い止めなければいけませんね。

佐藤)グローバル化のなかですから、入ってきますからね。食い止める方策も考えていかなければいけないと思います。本当に薬物は怖いです。

森田)大麻はSNSでも蔓延していて、未成年の摘発が5年で7倍以上になっているということです。図書館で検索して、2時間半後には入手できてしまう現状になっているそうです。

佐藤)社会全体で危機意識を持たなければいけないと思います。

森田)芸能人ばかりが今年はクローズアップされましたが、未成年にも広がっているのですね。

佐藤)芸能人は氷山の上の方ですから、その下には氷の塊があるわけですからね。薬物の広がりは本当に危険だと思います。

ザ・フォーカス

FM93AM1242ニッポン放送 月-木 18:00-20:20

Copyright Nippon Broadcasting System, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2502/01/news049.jpg 一般家庭で暮らすワニ、“ご飯だよ”の合図を聞いた瞬間 400万再生の予想外すぎる顔に「温室育ちの純粋な目をしてて草」
  2. /nl/articles/2502/03/news057.jpg 「押すなよ、絶対に押すなよ」なポーズの猫ちゃん→次の瞬間…… 笑っちゃうほどの展開が200万再生「爆笑しました」
  3. /nl/articles/2502/02/news028.jpg 生後2カ月で迎えた保護たぬき、犬に囲まれて育ち5カ月後…… 見事な“オラオラ俺様モード”に「愛嬌の塊みたい」「可愛すぎて虜」
  4. /nl/articles/2502/03/news152.jpg 母「昔は男性からモテまくりだった」→娘は信じられなかったが…… 当時の“説得力ある姿”が260万再生「なんてこった!」【海外】
  5. /nl/articles/2501/31/news050.jpg 「許されると思ってんの?」 スマホのアラームを設定→翌朝…… “絶望の通知内容”が430万表示 「ほんとこれ」
  6. /nl/articles/2502/03/news157.jpg 「目を疑った」 “8割引”も……恵方巻の「大幅値引き」目撃相次ぐ 「予約購入は少数派」消費者との温度差も
  7. /nl/articles/2502/01/news047.jpg 【編み物】彼氏のために、緑と黄緑の毛糸を正方形に編んでつなげると…… 圧巻のおしゃれな大作完成に「息をのむほどすばらしいよ」
  8. /nl/articles/2502/03/news009.jpg 27歳女性がひとりで営む“おにぎり屋台”が話題沸騰中 必死にリヤカー引く姿に「なんだか泣けました」「見かけたら必ず買う!」400万再生
  9. /nl/articles/2502/03/news025.jpg 真冬なのに“様子がおかしい木”を発見→近付きよく見てみると…… まさかの正体が200万表示「初めてみた」「マジで存在するんだ」
  10. /nl/articles/2501/31/news164.jpg 妻「おはぎ教室行ってくる!」→持って帰ってきたものは…… 妻が作った“衝撃のおはぎ”が400万表示 「知ってるおはぎと違う」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 風呂に入ろうとしたら…… 子どもから“超高難易度ミッション”が課されていた父に笑いと同情 「父さんはどのようにしてこのお風呂に入るのか」
  2. DIYで室温が約10℃変わった「トイレの寒さ対策」が310万再生 コスパ最強のアイデアへ「天才!」「これすごくいい」
  3. 岡田紗佳、生配信での発言を謝罪 「とても不快」「暴言だと思う」「残念すぎ」と物議
  4. スーパーで買った半玉キャベツの芯を植え、5カ月育てたら…… 農家も驚く想像以上の結末が1300万再生「凄い」「感動した」
  5. 東京藝大卒業生が油性マジックでサンタを描いたら? 10分で完成したとんでもない力作に「脱帽です」「本当にすごい人」
  6. 定年退職の日、妻に感謝のライン → 返ってきた“言葉”が約200万表示 大反響から7カ月たった“現在の生活”を聞いた
  7. 【ヤフオク】“3万円”で購入した100枚の着物帯 →現役着付師が開封すると…… “まさかの中身”に驚き
  8. 「立体的に円柱を描きなさい」→中1の“斜め上の解答”に反響「この発想は天才」「先生の優しさも感じます」 投稿者に話を聞いた
  9. 「すんごい笑った」 “干支を覚えにくい原因”を視覚化したイラストが勢いありすぎで1700万表示の人気 「確かにリズム全然違う!」
  10. 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
先月の総合アクセスTOP10
  1. ドブで捕獲したザリガニを“清らかな天然水”で2週間育てたら…… 「こりゃすごい」興味深い結末が195万再生「初めて見た」
  2. 「配慮が足りない」 映画の入場特典で「おみくじ」配布→“大凶”も…… 指摘受け配給元謝罪「深くお詫び」
  3. 母「昔は何十人もの男性の誘いを断った」→娘は疑っていたが…… 当時の“モテ必至の姿”が1170万再生「なんてこった!」【海外】
  4. 風呂に入ろうとしたら…… 子どもから“超高難易度ミッション”が課されていた父に笑いと同情 「父さんはどのようにしてこのお風呂に入るのか」
  5. 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
  6. 市役所で手続き中、急に笑い出した職員→何かと思って横を見たら…… 衝撃の光景が340万表示 飼い主にその後を聞いた
  7. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. DIYで室温が約10℃変わった「トイレの寒さ対策」が310万再生 コスパ最強のアイデアへ「天才!」「これすごくいい」
  9. 「こんなおばあちゃん憧れ」 80代女性が1週間分の晩ご飯を作り置き “まねしたくなるレシピ”に感嘆「同じものを繰り返していたので助かる」
  10. 岡田紗佳、生配信での発言を謝罪 「とても不快」「暴言だと思う」「残念すぎ」と物議