【ファイナルファンタジーII】俺たちはなぜ、シドの死と最後の言葉にあんなにも心を動かされたのか:今日書きたいことはこれくらい
ハードのスペックが低く、「あっさり死ぬ」からこそ強烈な印象を残していたのではないか。
さて、ここに「ファイナルファンタジーII」というゲームがあります。
「ファイナルファンタジー」(以下FF)というシリーズには、同じ国民的RPGである「ドラゴンクエスト」シリーズとは異なり、「シリーズタイトルごとにゲームの中核的なシステムがめっちゃ変わる」という特徴があります。
例えば3にはジョブシステムと魔法使用回数があり、4ではいきなりジョブ固定、メンバー入れ替えありのMP制に戻りました。5でまたメンバー入れ替えほぼなしのジョブシステムが戻ってきたと思ったら、6ではジョブシステム自体が消滅し、ある程度自由にメンバー入れ替えができる上、魔石システムやら何やら山ほどの新機軸が入ってきました。
7ではマテリアとアビリティ、8ではジャンクション、9で一度SFC時代に戻してからの10でのスフィア盤やら、システムにせよ世界観にせよ、タイトルごとの変動がめちゃ大きいんですよ。このへん、根幹のシステムが一作ごとにはあまり大きく変動しない、いわば「足し算の続編」が多いドラクエのシリーズと対照的なところだと思います。
そんな流れを一つ決定付けたのが「II」だった、とは言っていいでしょう。「Wizardry」的な要素を多く取り入れ、RPGとしては比較的スタンダードに仕上げてきたように見える「I」に対し、「II」の様々な新機軸の質量は、当時のファミっ子たちの度肝を抜くほどのものでした。
レベル制の完全撤廃。戦闘での行動によって上がったり下がったりするステータス。熟練度システム。顔グラフィックがあるキャラクターたちに、しっかりと会話とドラマがあるストーリー。用語を記憶して他人に尋ねるシステム。
パーティアタックでHPを上げまくれば楽勝かと思いきや実はそれは完全にワナで、盾熟練度をしっかり上げて回避率を高めておかないと後半のダンジョンで詰みかねなかったり。
魔法のレベルもきちんと上げておかないといつまでも弱いままだったり。
フィールド上のどこでもセーブができる上に徒歩で行ける範囲がすごく広く、やろうと思えば最序盤から中盤以降の街に行くことができたり。
キャプテンを倒してアイテムを稼ぐためにミンウをひたすら酷使したり。
ヒルダに誘惑されて「……ゴクッ……」となったと思ったらラミアクィーンだったり。
ミンウが命を賭して手に入れた究極魔法の威力が非常に微妙だったり。(リメイク版でちょっと救済されたが、それでも手間に手間を積み重ねないと結局最後まで微妙だった)
まあ早い話、「めっちゃ新機軸が多くて、当時はすげー物珍しかったし面白かった」という話なんです。正味な話、「II」ってFFシリーズ全体で見ても一、二を争うくらいとがったシステムなんじゃないでしょうか? 成長システムなんてFFっていうよりは後のサガシリーズっぽいですし、アドベンチャーっぽい会話システムもありますし。シリーズの2作目でいきなりああも変化球をブチ込んでくるの、正直結構すごいと思うんですよ。
「I」が普通に面白い出来だっただけに、あそこまで根本的に変えてくるというのは相当冒険だったんじゃないかと思うのですが、根本的な変化を恐れないのが当時のスクウェアであり、FFというシリーズだった、ということでもあるのでしょう。あと、フィン城とかで流れる「古城」ってBGMがめっちゃいい。
取り急ぎ「パーティアタックでHPを上げまくる」という技をウル技としてでかでかと発表した徳間ファミマガの罪は重い、という点については恨み節として強調させていただきます。あれ使って序盤サクサク進めると大体ジェイドかパンデモニウムで詰むやんけ。
とてつもなく重かった「シドの死」
さて。
ちょっと話は変わるのですが、RPGにおける「キャラクターの死」というものについて考えてみます。
ゲームでも漫画でも小説でも、味方であれ敵であれ、「キャラクターの死」というのは非常に大きな出来事です。キャラクターの死は、登場キャラクターにも読者にも大きな衝撃をもたらして、時には悲しみを、時には憤りを、時には感動を受け手に提供します。物騒な話ではありますが、キャラクターの死というものをどう扱うか、というのは、創作者の一つの腕の見せ所でもあります。
で、さすがにもう「FFII」のネタバレをそこまで気にする必要もなかろうと思うので言ってしまいますと、「II」って本当に重要なキャラクターがめっちゃ死ぬんですよ。スコットも、ヨーゼフも、フィン王もミンウも、リチャードも本当に死んじゃうし、死んだらもう一切ゲーム中に再登場しないんです。
なにせまだまだハードスペックも低ければ容量も足りない時代ですから、各キャラがこの世を去るときのシーン自体は、現在のゲームとはくらべものにならないくらいあっさり味です。大抵のキャラは、ちょっと演出があった後、セリフでいうとほんの一言、二言のメッセージの後にあっさり退場。キャラクターのグラフィックがぱっと消えるか、あっさりと場面転換する。本当にそれだけ。
けれど、重かった。
その「死」というものは、シンプルであっさりしていただけに、むしろとてつもなく重かったんです。
「FFII」には、一人、後のFFシリーズの代表的なキャラとなる人物が初めて登場します。
その人物の名前は、「シド」。そう、後々歴代FFに重要キャラとして登場し続けることになる、ある意味FFシリーズの顔であるシドの、初登場作品がこのゲームだったんです。飛空船を使って輸送屋のような商売をしているシドは、この作品では白髪のシブいおじさんという風体でして、中盤まで主人公のフリオニール一行は、彼と、彼が人生を賭けて開発した飛空船に何度も助けられることになります。
しかし、彼も、物語中のあるタイミングで皇帝が作り上げた「たつまき」に巻き込まれ、落命することになります。この時彼が最後に残したセリフが、重い。本当に重い。
「おれは こんなざまだが ひくうせんはむきずだ! おれが うごけるようになるまで おまえたちにかしてやる。いいか かすだけだぞ!! だいじにつかえ……」
「貸すだけ」。「やる」でもなく「託す」でもなく、「貸す」だけ、というのをわざわざ強調してるんです。
彼、このセリフの時点で既に虫の息で、この直後に息を引き取るわけなんですよ。つまり、貸してもらった飛空船を返すことなんて永遠にできないんです。プレイヤーたちは、文字通りシドの人生全てが詰まった飛空船を「貸し与えられて」皇帝との決戦に挑むわけなんです。
もうね、たつまき後の重苦しい雰囲気でこんなセリフ読まされて、泣くしかありませんでしたよ当時。
ほんの一言のメッセージ。そしてこの後、フリオニールの「しっかりしろ!」という言葉を受けながら、ただただ画面上から消えるだけ。
こんなにもあっさりとした死なのに、プレイヤーの肩には、たった一言だけでシドのこれまでの人生全てが圧し掛かってくるんです。重すぎる。こんなもんもう、何がなんでも皇帝倒さないわけにいかないやんけ。
私の中では、このほんの一言が、「FFII」というゲームの「最大の存在感があるセリフ」なんです。
このゲーム、単に街の通行人のセリフでも「みんなしんじゃったー」とか言われますからね。なんだそのあっさり感、そしてあっさり感の裏のとてつもない重さは。
「FFII」って、FFシリーズでも数少ない「ガチの国家間戦争」がメインテーマになっているタイトルなんですよね。演出的には単なるスペック不足によるものかもしれないんですが、人一人が本当にあっさりと死んで、けれどその裏にはちゃんとその人の人生があって、戦争の中ではあっさりと通り過ぎるだけの死であっても、それは決して軽く扱えるものじゃないんだ、と。
結果的には、「FFII」における「キャラクターの死」って、そういうことをプレイヤーに伝えるための演出として、完璧に動作していたんじゃないかなーと思うんですよ。
ハードのスペックが低かったからこその「死の重さ」
私、「レイズやザオリクがある世界で、キャラクターの死に説得力を出すためにはどうするのか」っていう方法論が幾つかあると思っていまして。
つまり、「キャラクターの死」についてうっかりした描写をしてしまうと、「そこで何でベホマやザオリク使わないの……?」とプレイヤーに思われてしまって、せっかくの「キャラクターの死」という荘厳で重要なシーンの衝撃が薄れてしまう。そこをどうフォローするべきなのか、という話ですよね。
これ、方法論としては多分幾つかパターンがあると思っていまして、キャラクターの死亡って即ネタバレになるんであんまり細かいこと書きにくいんですが、
【設定で対処する方法】
「復活魔法は単に戦闘不能状態を治すだけ」とか、「老衰や、重すぎる負傷による死は復活魔法では助けられない」みたいな設定を、暗黙に、あるいは明文的に仕込んでおいて、プレイヤーに納得させるパターンですね。ネタバレ防止の為に細かいことは避けますが、FF5なんかこのパターンだったと思います。
【演出で対処する方法】
例えばそもそも崖から転落してしまったために復活魔法を使いようがなかったとか、すぐに(物語上)死体が消失してしまったとか。そういう、「そもそも使いようがない」という形でプレイヤーを納得させるパターンです。たまたま回復魔法を使えるキャラがその場にいなかった、主人公たちがいない場面で死んでしまった、みたいなパターンもありました。
【勢いで流す方法】
多少の突っ込みの余地は甘受して、例えばキャラクターの死があってから長い演出があったり熱いセリフ展開があったりして、「あれここで回復魔法使わないのん……?」みたいな疑問を無理やり感動で押し流して上書きするパターン。正直割と多いような気がしています。
とまあこの辺が代表的なパターンだと思うんです。
ただ、考えてみるとこういう方法論の必要性って、「ハードのスペックが上がって、キャラクターがリアルに動くなるように従って必要になってきた」対処法であるような気がしているんですよね。なまじ見た目がリアルで生き生きとしているだけに、どうしても細かい点が気になる部分も出てきてしまう。だからつじつま合わせの必要が発生する。ゲームの進化に伴って、必然的に必要になってきてしまったつじつま合わせなんです。
そういう意味では、「FFII」における「キャラクターの死」の強烈な説得力は、ハードのスペックが低く、キャラクターの死があっさり味で、問答無用で場面から退場してしまうからこそ発生していた、ある意味奇跡的な説得力なんじゃないか、と。
この「あっさり感による説得力」は、ある点では「Wizardry」におけるキャラクターの消失(ロスト)とも通じています。2回の復活失敗に伴い表示される、「〇〇はまいそうされます」という、ほんの一行。ただの一行。それだけで、自分が数十時間、数百時間をつぎ込んできたキャラクターが永遠にゲームからいなくなる。
すばらしい演出、十分な情報量でしっかりとした物語を描けるようになった。けれど、それができるようになるまでは、あっさりとした描写をするほかなくって、逆にそのために生まれた説得力もあった。
別に「あの環境に戻りたい」なんてことはこれっぽっちも考えていないんですが、そういうことを時には振り返ってみるのも何かしら意味があるんじゃないかなー、と。
そんな風に考えているわけなんです。
長くなりましたので、最後に本エントリーで言いたいことを簡単にまとめておきます。
- 「FFII」めちゃ面白いですよね
- タイトルごとのシステム変動の振れ幅はFFシリーズの重要な特徴
- 「FFII」におけるキャラクターの死はあっさりしているだけに大変に重かった
- ただ、リチャードはちょっとあまりにも死亡フラグを立てすぎだったような気もします
- なんでリチャードは決戦前に「きみの おとうさんに なっていいかな?」とかいう死亡フラグを建てるのか
- ヒルダさんはミンウの死に一言くらい言及してあげてください
- ヨーゼフの娘のネリーさんはけなげでかわいい
- 描写がリアルになるごとに「死」を矛盾なく描くことが難しくなっていった、みたいな側面もあるのかもしれない
- シドの最後のセリフ超重いし熱すぎますよね
- パーティアタックを大々的にちびっこたちに教え込んだファミマガの罪を私は忘れない
大体こんな感じです。よろしくお願いします。
今日書きたいことはこれくらいです。
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