アウェーすぎるおしゃれ女子空間で、オタクよ耐えろ!「推しが武道館いってくれたら死ぬ」2話 アイドルとファンの距離ってどのくらいだろう(1/2 ページ)
推しアイドルまで何マイル?
大好きなアイドルがいる。彼女は生きているだけでファンサ。だから人生を賭けて推します! 「推しが武道館いってくれたら死ぬ」(原作/アニメ)は地下アイドルChamJamの市井舞菜と、彼女を命がけで推すドルオタえりぴよを描いた、情熱的でコミカルな物語。
2話は、アウェー経験のあるオタクには見ていて背筋が凍るようなシーンの連続。同時に救われた瞬間の多幸感に「あるある」を感じてつい目元が潤んでしまいかねない。アイドルとファン、どういう距離が適切なのかにも踏み込み始める回です。
ホームとアウェー
えりぴよらが推しているアイドルグループ「ChamJam」が、岡山ガールズフェスタにゲスト出演決定! 狭い界隈(かいわい)で頑張っている彼女たちがついに大舞台に。
「岡山の女子が全員観客席に集うという!?」とえりぴよが言うのは大げさ。要は「女子」という言葉がイメージする枠=今どきの女子力高い子、キラキラおしゃれ世界の住人、といった(オタク側視点だと腰が引けるような)ニュアンス。雑誌モデルが集まるため、自分の衣装を売っぱらってジャージでアイドル追っかけているえりぴよとは真逆の存在が集結する空間になることは間違いなし。
とはいえ普段見ている層と別の層にアプローチするのはとても大事。だからChamJam的には大チャンス。喜ぶべきこと。のはず。
ファンはそれを分かっているものの、やっぱり幾多の不安に襲われるってものです。
まず選抜メンバー=人気順になってしまうこと。ユニットになるとこればっかりはどうやってもぶつかる問題。数値化された順番に沿う以外の方法がほぼないのは、誰もが理解しているはず。でも納得と心は別。「推しが人気の問題で出ない」というのは、やはりやりきれないものがあります。ChamJamで人気なのは、センターのれお、左の空音(そらね)、右の眞妃(まき)。改めて見ると、3人はそれぞれの個性をどうだすか熟知している様子。人気が高い理由が分かる映え方しています。
えりぴよの推しの舞菜は、握手会を見た感じおそらく人気はドンケツ。出る雰囲気は感じられない。
じゃあ行かない? いいえ。1%でも舞菜が出るなら、それを見届けなかったら後悔してしまう。モヤモヤしつつも当然のようにチケットは買います。
ふたつめの悩みは、アウェーでの戦いになること。ChamJamが新たな世界に旅立つ瞬間ゆえの試練。オタクは自分たちと違う文化圏の人間の中で縮こまらねばならない。オタク三人衆のうち基(もとい)は妹がいたため勝ち組入場。えりぴよとくまさは、最前列で針のむしろの上に座るかのような時間と戦うことに。
「ドルオタは推しが出ていない場面でも盛り上がるべし」は名言だと思います。あらゆるアイドルが心地よくステージを楽しみ、イベントそのものを成功させるには、ファンもまた空間の作り手たるべし。一方的な享受に甘えるなかれ。このへんが「いいオタク」くまさ氏の魅力あふれる生き方です。1話の反応を見ると、くまさへの「かっこいい」の声がちらほら見られました。とても紳士的かつ情熱的な愛すべきキャラクターです。
ただし、自分たちの頑張りが場のルールにそぐうかは別問題。えりぴよ、くまさ、生き地獄。
オタクには余りにもつらい異文化世界。それでもアイドルたちはもっと不安にかられているはず。アウェーの地で見てくれる人がいるか分からない恐怖との戦いの中舞台に出ることを考えたら、ファン側は弱音なんてはいていられない。
新しい世界に羽ばたくことは、本人もファンも痛みを伴います。
アイドルとファンの目が合う時
不安さを隠せぬままランウェイを歩いていた、ChamJamセンターの五十嵐れお。彼女が自分の大ファンであるくまさを観客の中に見つけた時、はっとした笑顔と共に送ったのが、固定レス(特定のファンを見つけた時にするポーズ)でした。くま耳ポーズは認知されているくまささんへの特別なお返し。
くまさ「僕れおのこと好きでよかったです」ファンがいることがアイドルの支えになり、アイドルがまたファンに感謝を返してくれる。アイドル側が心から喜んでいるのが伝わる、名シーンです。
歴戦のセンターれおですら緊張したステージの中、ほぼシークレット枠のような登場をした舞菜。彼女のアウェーでの不安たるや想像に難くない。舞台後、れおに「わたしのことなんて誰も待ってないと思ってたから」「わたしは仕方なく選ばれただけだし…」とこぼしてしまいましたが、それでも彼女は……。
えりぴよがいたことで、やり遂げました。一人心の中で感謝の言葉をこぼします。「わたしを選んでくれて ありがとうえりぴよさん」
アイドルとファンの関係は一概に言える距離感ではないと思います。れおはトップオタであるくまさがその場にいることで心奮い立たされ、頑張る力をもらいました。愛を受け取り、感謝を返すループに寄ってエネルギーが生まれます。
一方で舞菜とえりぴよの関係は特殊中の特殊。舞菜ファンが極端に少ない(単推しはえりぴよだけ)ため、ともすれば一対一になることも多々です。どうやってもお互いを強く意識している状態の中、目の前にいてくれることの心強さは、双方絶大なものがあるはずです。なのに舞菜がえりぴよ一人に対して意識しすぎて言葉を出せないため、えりぴよへの感謝が届かずループしない。今は舞菜に洪水のようなえりぴよの一方的な愛が注がれているだけの状態。えりぴよは無私の愛の人だし、舞菜もうれしくはあるので、この二人の間のみで成立している、ちょっとゆがんだ関係です。少なくとも舞菜はこれが最善とは思っていない様子。
舞菜はれおのようにスマートに思いを返せる状態では、今はないです。もしえりぴよにちゃんと舞菜の気持ちが通じてしまったら、どうなっちゃうんだろう。
ファンとの手紙
アイドルとファンの間で一番何が欲しいかっていったら、手紙という人は多いのではないか。プレゼントもいいけれど、やはり特別な言葉はうれしい。れおからのガールズフェスタでの特別な感謝の言葉を見ていると、絶対推し変なんてできなくなりそう。
彼女はプロのアイドルとしての距離感をしっかり分かっています。個人への大切な気持ちの後に、誰にでもしていそうなマイブームの話題にずらして締めることで「アイドルとファン」の一線を守っています。一人のファンを好きになると、ファン全体の人たちを裏切ることになるから絶対にしない、というのがれおの信念。
一方、意外にもえりぴよから手紙をもらったことがない舞菜。「どうせ返信こないし…接触で会えるしさあ…」というのがえりぴよの考え方だったようですが、やっぱりファンから手紙は欲しい。ここで「ファンの方から」と言いつつも「えりぴよさんから手紙が欲しい」と願ってしまうのが舞菜の本心。では実際の振る舞いと距離感は、というと……そこは多分次回。
短冊という形で解禁されたことで、いざ送るとなると重すぎるえりぴよの思い。そして届かないオチ。果たして届かなかったのが良かったのかどうなのかは…深く考えない方がこの作品をより楽しめる気がします(そもそもあれで手紙届かないの大問題だしね!)。れおとくまさの関係が今回とてもバランスがいいだけに、どうしても舞菜えりぴよのしょんぼり感が引き立ちます。ただしお互いそういう抜けたところがあるからこそ、引かれ合うのかも。
今回から舞菜以外のChamJamメンバーの視点も少しずつ描かれはじめます。ChamJamの群像劇としても魅力のある作品なので、今後どう描かれるのか期待!
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