佐藤優が明かす ロシアスパイの教育とプロの掟

機密情報を入試していたのは、旧KGBの流れをくむロシア対外情報庁(SVR)の一員とみられる。

» 2020年02月11日 17時00分 公開
[ニッポン放送(1242.com)]
ニッポン放送

ニッポン放送「ザ・フォーカス」(2月6日放送)に元外務省主任分析官・作家の佐藤優が出演。ソフトバンクの元社員が会社の機密情報を渡したとされるロシア通商代表部の外交官が、ロシア・対外情報庁(SVR)に所属する男であるというニュースについて解説した。

フォト 佐藤優

ロシアの対外情報庁(SVR)とはどのような組織なのか

在日ロシア通商代表部の幹部職員の求めに応じ、ソフトバンクの元社員・荒木豊容疑者が自社の機密情報を持ち出した事件。問題の職員は在日ロシア通商代表部の代表に次ぐナンバー2の幹部だったことが、関係者への取材で明らかになった。

森田耕次解説委員)関係者によりますと、荒木容疑者に接触していたのは在日ロシア通商代表部のアントン・カリニン幹部52歳。旧KGBの流れをくむロシア対外情報庁(SVR)の一員と見られています。ヨーロッパやアメリカにもその名を知られる大物だということなのですが、そもそもどのような組織でしょうか。

佐藤)ロシアのSVRというのは旧ソ連国家保安委員会(KGB)の第一総局の流れをひいています。第一総局は海外担当、第二総局が国内担当です。ソ連崩壊後、第一総局がSVR。それに対して国内をやっていたのは、最初は連邦防諜庁。要するに、スパイ対策庁と言っていたのですが、そのうち名前を変えて連邦保安庁(FSB)と言うようになりました。SVRはアメリカのCIA、イスラエルのモサド、イギリスのSIS、要するにMI6に相当する組織です。

森田)本当に諜報機関なのですね。

フォト ニッポン放送 NEWS ONLINE

長い時間をかけてスパイのための技術を身につける

佐藤)非常にレベルの高い機関で、このカリニンさんという人を私は知りませんが、SVRは教育に時間をかけるのです。だいたいSVRの出身者は、日本で言うと東京大学に相当するような国際関係大学というところに17歳から入ります。それは普通の大学で、5年間が終わって22歳になると、国内のFSBになるための学校が2年間なのです。そこで教育を受け、その後対外諜報の専門家になる訓練を3年間受けます。これは変装術、経歴を全部変えてしまう技術、素手で人を殺す技術のようなことを全部やります。暗号、秘密インクの使い方。これは、切手の裏などに貼って通信をするインクです。それとか、コンピュータのなかで普通の写真を送っているようにして、そのなかに暗号情報を隠す技術などを覚えます。そして、それだけで終わりではないのです。あの人たちは、それ以外に必ずもう1つ完璧にできる職業を身につけるのです。通商代表部は商社ですよね。ソ連時代は商社で、戦後は日本でジェトロのような貿易振興のところをやっているのですが、商社員としてのプロの訓練も受けているはずです。例えば、ジャーナリストの訓練を受ける人はタス通信社やノーボスチ通信社という会社があるのですが、そこで何年くらい訓練を受けると思いますか?

森田)3年くらい?

佐藤)5年です。それで、記事を書けるようにするのです。記事を書けるようにするから、本物の記者でもあるのです。なぜ記者に偽装するかというと、記者だったら総理大臣でも官房長官でも学者でも街の普通の人でも、誰と会ってもおかしくないですよね。ただし、記者だと不利なこともあります。取材しているのに、全然記事を書かない記者だったらどう思いますか? だから、ときどき記事を書くのです。

森田)怪しまれないために記事を書かなくてはいけない。

佐藤)では、取材をしていても、記事を書かなくても怪しまれない職業は何だと思いますか? 学者です。

森田)いまは研究中です、みたいなことを言えるのですね。

佐藤)そういう人たちはだいたい博士号まで取っているから、研究機関に5年くらいいて、学者としても独り立ちできるようになっているのです。あるいは、画家なんてものもいます。なぜだと思いますか?

森田)観察する?

フォト イタルタス通信 - Wikipediaより

表に出るための連絡係が存在する

佐藤)そうです。同じ場所にいて観察していても、そこで絵を描いているということだったら怪しまれないじゃないですか。これは、人を監視する、特に誰か殺す人間がいて、殺す人間を狙うときには画家を装って動静をチェックするというのはSVRの人たちがよくやるやり方です。同時に、「私はSVRの職員です」ということを日本政府とアメリカ政府にちゃんと伝えるのです。そういう人が必ず1人います。これを業界用語ではリエゾンと言うのです。この人たちは連絡係で、絶対嘘をつきません。本当はどうなっているか聞いたときに、言えないときは言えないのですが、裏の話をして、トラブルが起きたときには後ろで全部処理をするトラブル処理係なのです。

森田)そういう係がいるわけなのですね。

佐藤)実は、東京にもいます。今回のカリニンさんはリエゾンではなく、裏仕事をしている人ですね。日本政府はいま表仕事の人と連絡を取って、どうやって処理しようかと話し合っているでしょう。

森田)「どうしてくれるのだ」みたいなことを言いつつ。

フォト 「数日後に情報手渡し」 送検のため警視庁本部を出る荒木豊容疑者を乗せた車両=2020年1月27日午前9時20分 写真提供:共同通信社

カリニン氏は退去せざるを得ない〜スパイとしては落第

佐藤)出て行ってくれなければ困るのですよ。通常、こういったことが摘発されれば出て行くのですけれどね。

森田)カリニンさんはまだいますね。

佐藤)まだいるというのは、この世界の常識からするとおかしいのです。これは、スパイ事件としてはあまり程度が高くないのですよ。だんだん物を渡してお金を受け取ることに慣れさせて、秘密接触をしている訓練だから、もし泥棒をしようとしているならコンビニでチョコレートを万引きしたか、どこかの下着泥棒のようなレベルです。これはすごく恥ずかしいことだから、この世界にはいられないのです。日本の警察は優秀だから、カリニンさんの周りで“おしくらまんじゅう”状態ですよ。いまの報道では「関係者によると」ということですが、関係者が外事警察であることは間違いありません。「出て行ってくれ」というメッセージを出しているのです。もう数日以内には出て行くと思います。ただ、ここで面倒なのは、出て行かせ方を間違えてはいけないんです。ソフトバンクの社外秘のものを取っていたということなので国の秘密ではないことですが、例えばモスクワの日本大使館員でロシア人の記者と接触して、記者のメモを貰っている人がいるわけです。これは社外秘ですよね。社外秘の秘密を取っていることくらい、やっている大使館員はたくさんいます。出て行かせ方を間違えると、これを「出て行って」と相互主義でやられる可能性があるのですよ。ですから、できるだけ穏便に済ませたいわけです。国際法上はペルソナ・ノン・グラータというものがあります。

森田)好ましくない人物というのがウィーン条約で定められているようですね。

佐藤)外交官でいるときはペルソナ・ノン・グラータでないこと。それから、ペルソナ・ノン・グラータに指定されたら、指定された時間内に国外に出ないと外交特権を失って逮捕されるのです。私も1回かかりそうになって、「もしかかるようなことになれば、ただちにモスクワから出ろ」と言われたことがありました。こういうようなやり取りがあるのです。

森田)日本としては、好ましくない人物だから出て行って欲しいと。

佐藤)それを言ってしまうと、外交官が1人モスクワから好ましくない人物だと指定されてしまうのですよ。そういうことにならないようにして、うまく帰ってもらうと。それから、ロシアに言わせれば「国の秘密を取ったわけじゃない」ということですが、名前を明かさずに3年間も人に会ってお金を渡して、変な訓練をしているのはよくないでしょう。出て行くのがプロの掟なのですけれどね。

森田)教育課程がすごいですね。プロのスパイとしてなりすますという世界なのですね。

佐藤)そこに失敗したので、この人にこの世界での道はないのです。そのときは、訓練を受けた別の職業に就くのです。ですから、商社員になるでしょう。

Copyright Nippon Broadcasting System, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2404/12/news182.jpg 安達祐実、成人した娘とのレアな2ショット披露 「ママには見えない!」「とても似ててびっくり」と驚きの声
  2. /nl/articles/2404/13/news017.jpg 1歳妹、大好きな18歳兄の登校を泣きながら引きとめて…… やさしい兄の対応と爆笑のオチが430万再生「こりゃ離れられない」「早く帰ってこなきゃ」
  3. /nl/articles/2404/13/news010.jpg 「このシステムすごくいい」 東横INNの「フードロス対策」に称賛の声 「全てのホテルに拡大してほしい」
  4. /nl/articles/2404/13/news012.jpg 「このヒートテック、いつ買ったっけ?」→一発でわかる“タグの見方”が600万再生 手放しどきをユニクロに聞いてみた
  5. /nl/articles/2404/12/news172.jpg いなば食品、「由比のボロ家報道について」とするコメント発表 「誠意をもって改修に全力」
  6. /nl/articles/2404/13/news014.jpg 車検に出した軽トラの荷台に乗っていた生後3日の子猫、保護して育てた3年後…… 驚きの現在に大反響「天使が女神に」「目眩が」
  7. /nl/articles/2404/12/news132.jpg 2歳女の子、空港で祖父母を見つけた瞬間! 2200万再生の喜びダッシュに「トトロに出てくるメイちゃんに見えた笑」【豪】
  8. /nl/articles/2404/13/news006.jpg 1歳妹、6歳姉のお迎えは大興奮→ママのお迎えは……? 270万再生のリアクションに「差が歴然ですねw」「可愛いすぎる姉妹ですね」
  9. /nl/articles/2404/13/news008.jpg デート中の妻に「野球しよう」と誘ったら……エッッ!? まさかの腕前にしびれちゃう「かっこよー!」「いったい何者……?」
  10. /nl/articles/2404/13/news024.jpg 2歳息子がイモムシから育て、羽化したアゲハ蝶との別れの日…… 胸を打つ奇跡の光景に「こんな事あるんですね!」「感動をありがとう」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 「歩行も困難…言動もままならず」黒沢年雄、妻・街田リーヌの病状明かす 介護施設入所も「急激に壊れていく…」
  2. 500円玉が1つ入る「桜のケース」が200万件表示越え! 折り紙1枚で作れる簡単さに「オトナも絶対うれしい」「美しい〜!」
  3. 赤ちゃんがママと思ってくっつき爆睡するのはまさかの…… “身代わりの術”にはまる姿に「可愛いが渋滞」「何回見てもいやされる!」
  4. 「虎に翼」、新キャラの俳優に注目が集まる 「綺麗な人だね」「まさか日本のドラマでお目にかかれるとは!」
  5. 日本地図で「東京まで1本で行ける都道府県」に着色 → まさかの2県だけ白いまま!? 「知らなかった」の声
  6. 中森明菜、“3か月ぶりのセルフカバー動画”登場でネット沸騰 笑顔でキメポーズの歌姫復活に「相変わらずオシャレで素敵」「素敵な年齢の重ね方」
  7. 「葬送のフリーレン」ユーベルのコスプレがまるで実写版 「ジト目が完璧」と27万いいねの好評
  8. もう別人じゃん! 「コロチキ」西野、約8カ月のビフォーアフターが「これはすごい」と驚きの声集まる
  9. 娘がクッションを抱きしめていると思ったら…… 秋田犬を心ゆくまで堪能する姿が440万再生「5分だけ代わっていただけますか?」「尊いなぁ…」
  10. 業務スーパーの“高コスパ”人気冷凍商品に「基準値超え添加物」 約1万5000個販売……自主回収を実施
先月の総合アクセスTOP10
  1. フワちゃん、弟の結婚式で卑劣な行為に「席次見て名前覚えたからな」 めでたい場でのひんしゅく行為に「プライベート守ろうよ!」の声
  2. 親が「絶対たぬき」「賭けてもいい」と言い張る動物を、保護して育ててみた結果…… 驚愕の正体が230万表示「こんなん噴くわ!」
  3. 水道検針員から直筆の手紙、驚き確認すると…… メーターボックスで起きた珍事が300万再生「これはびっくり」「生命の逞しさ」
  4. フワちゃん、収録中に見えてはいけない“部位”が映る まさかの露出に「拡大しちゃったじゃん」「またか」の声
  5. スーパーで売れ残っていた半額のカニを水槽に入れてみたら…… 220万再生された涙の結末に「切なくなった」「凄く感動」
  6. 桐朋高等学校、78期卒業生の答辞に賛辞やまず 「只者ではない」「感動のあまり泣いて10回読み直した」
  7. 「これは悲劇」 ヤマザキ“春のパンまつり”シールを集めていたはずなのに…… 途中で気づいたまさかの現実
  8. 「ふざけんな」 宿泊施設に「キャンセル料金を払わなくする方法」が物議 宿泊施設「大目に見てきたが厳格化する」
  9. がん闘病中の見栄晴、20回以上の放射線治療を受け変化が…… 「痛がゆくなって来ました」
  10. 食べ終わったパイナップルの葉を土に植えたら…… 3年半後、目を疑う結果に「もう、ただただ感動です」「ちょっと泣きそう」