「デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆」レビュー 完結編にふさわしい「ぼくらのウォーゲーム!」以来の傑作
冒険の続きと、物語の終わり。
シリーズ完結作 「デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆」(以下、「LAST EVOLUTION」に対して、高い期待を抱くのは難しかった。直近の「tri.」シリーズが深い失望を残したばかりであったし、直撃世代を狙ったように繰り返されるアニメのリブートにもうんざりしていた。
ところが「LAST EVOLUTION」では、予想し得る中で最も完璧な幕引きが用意されていた。同作について詳しく触れる前に、これまでの「デジモン」について少し話をさせてほしい。
完結していた初代テレビシリーズ
「デジモンアドベンチャー」は、既に完結している。だからこれ以上最終回はいらない、と思っていた。
1999年3月6日に封切られた劇場版第1作「デジモンアドベンチャー」、そしてその翌日に放送開始した同名タイトルの、いわゆる初代(無印)シリーズ。八神太一たち“選ばれし子どもたち”を主人公とした物語は、彼ら8人それぞれの葛藤、失敗、家族との衝突、苦楽を共にしてきたパートナーとの別れ……、デジタルワールドという異世界での経験と学びを得、成長を持ち帰る。その全てを全54話でもって書き切ってしまっていると。
その後の細田守監督による劇場版「デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!」が傑作であることに異論はない。同作は40分間という上映時間の中で、デジタルワールドの新しい表現方法や、インフラとしてインターネットが機能している世界での危機という題材が共に高い評価を受け、細田の名を高めることになった。ただそれは同時に、デジモンたちとの別れを経た太一たちに、再び彼らとの時間を与えてしまったことも意味した。
テレビシリーズにおけるデジモンたちは、選ばれし子どもたちが向かい合うべき弱さ、克服すべき対象の象徴として機能することが少なくなかった。必然的に、テレビシリーズが終わった時点で、彼らからは子どもたちを成長させるという物語上の機能の大半は失われた。
いわば『ドラえもん』でいうところの「さようならドラえもん」における“成長したのび太”を描いてしまった後に、「帰ってきたドラえもん」をさらりと行ってしまったのだ。その後、再び彼らの間で「別れ」による成長が描かれることはなかった。続編となるテレビシリーズ「デジモンアドベンチャー02」(2000年〜2001年)でも、人間とデジモンが共生する新しい社会の広がりを示唆する展開とすることで、その問題からたくみに目を逸していた。
前作「デジモンアドベンチャーtri.」
そして長きの時を経て、2015年にはキャラクターデザインを一新した劇場6部作「デジモンアドベンチャーtri.」が始動する。
世界の危機に立ち向かう彼らに再び会えたことに関しては素直にうれしかったし、幼少期の思い出に浸れる楽曲たちや当時そのままのデジモンたちをスクリーンで見られたことも喜びだった。だが、そこにはもはや「いつもの危機に対応する、いつもの仲間たち」というイメージしか残されていなかった。
見慣れた彼らに活劇をさせるためだけに起こる危機と、それを実現する舞台装置としての悪役にはがっかりさせられ、章を追うごとに明確に落ちていくストーリーと作画の質も、いたたまれないものがあった。加えて4月からは、2020年を舞台に「八神太一」を再び主人公とする初代シリーズの再アニメ化も予定されている。
いくらなんでももう付き合い切れない。正直なところ、「LAST EVOLUTION」は死に水を取るつもりで見に行った。八神太一を「デジモン」から解放してあげてほしかったのだ。
「LAST EVOLUTION」が描く太一の物語の終わり
そのような姿勢は「LAST EVOLUTION」を見始めて数分で正されることになる。虹色のオーロラ、ボレロに併せ点滅する街灯、パロットモンの襲撃、赤を基調とするデジタルワールド表現。劇場1作目、そして「ぼくらのウォーゲーム!」を明確に意識した物語の導入は、否が応でも期待を煽る。
時間軸的には「02」「tri.」の流れを踏襲しつつも、あえて癖が強い初代劇場版を参照するのは、一般向けの映画を作るのであればまずあり得ない選択肢だ。だからこそ、長年のシリーズファンとしてはとても喜ばしく思った。
本作ではパロットモンの襲撃を退け、アグモンたちと「これまで通りに」過ごしている太一たちの前に、デジモン研究者・メノアが現れる。彼女は世界中で子どもたちが突然意識を失う事件が多発しており、それにデジタルワールドが関係していることを伝える。そして世界を何度も救った選ばれし子どもたちである太一らを集結させ、危機に立ち向かうためのチームを結成する……というのが物語中盤までのパートである。
しかしただ事件を解決するのであれば、それは「tri.」で行ったことと変わらない。強い敵を新しい力で倒し続けるだけのバトルは、彼らの精神的成長にはつながらないからだ。ところがその戦いの終盤で、物語は思いも寄らない方向に転がっていく。
本作のヴィランであるエオスモンはオーロラを基調としたデジモンで、“結晶”をモチーフとしている。“停止した時間の象徴”として使われることの多い結晶をまとうそれは、残酷でやさしい時間の檻をもって太一たちの前に立ちふさがる。
「デジモンアドベンチャー」というシリーズが持っていた精神は、パートナーとの関わりを通じて子どもたちが成長し続ける、という点にある。そして本作では、これまでデジモンアドベンチャーにとらわれ続けてきた八神太一ら選ばれし子どもたち、そしてわれわれ観客に対し、あるすさまじい問題提起を行う。
これまでそのテーマに挑んだアニメーション作品は決して少なくない。ありがちだ、既視感がある、といわれることもあるかもしれない。実は「デジモン」シリーズでも、劇場版「デジモンアドベンチャー02 前編・デジモンハリケーン上陸!!/後編・超絶進化!!黄金のデジメンタル」が似たテーマを主軸としており、最終戦のステージも本作とよく似ていた。
ただ本作では、初代デジモン直撃世代として、少年時代から長く親しんできていればいるほど――はっきりと感情移入できる存在が新たに加えられている。たったそれだけで、このプロットの威力がここまで上がるのかと、その哀しい目的に思わず息を飲んでしまった。時間を止めてその瞳を隠し続ける存在に対し、アグモン、ガブモンがどの様な姿で立ち向かうのか。ただ、再び会えなくなることだけが悲しい別れであり、永遠に一緒にいることが正解なのか。
本作の脚本を手掛けたのは多くの「デジモン」シリーズで脚本を手掛けてきた大和屋暁。過去作品の細かなポイントにしっかり目配せを忍ばせつつ、年月を経た彼らの生活環境などで笑わせるギャグは「銀魂」「人造昆虫カブトボーグ V×V」などで知られるベテランだけあってお手のものだ。
そして何より、大和屋は「おジャ魔女どれみ」シリーズ屈指の名作で、細田版「時をかける少女」のプロトタイプとしても知られる「どれみと魔女をやめた魔女」の脚本を手掛けた人物でもある。「どれみと魔女をやめた魔女」では“ガラス”が時間を象徴するモチーフとして登場したが、本作と見比べることでまた違った楽しみ方ができるかもしれない。
太一のゴーグル、ヤマトのハーモニカ、子供たちの持つデジヴァイス。それは彼らを過去の冒険の日々の輝きに戻すものだ。そして観客もまた、それを良しとしてきた。しかし決戦の最後に登場する“あれ”は、いつだって彼らを前へ、先へと進めるためのものだった。
人生という冒険は続く。だからこそ、物語に終わりは必要なのだ。
(将来の終わり)
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