周囲は理解しがたい“うつ状態のどん底”「幽体離脱」「音だけが反響する世界」 マンガ『うつを甘くみてました』インタビュー(1/2 ページ)

知識だけでは向き合えない心の病気の難しさ

» 2020年04月16日 20時00分 公開
[ねとらぼ]

 うつ状態と躁状態を繰り返す「双極性障害」。エッセイマンガ『うつを甘くみてました』『家族もうつを甘くみてました』(ぶんか社)は、10年超にわたる心の闘病体験を当事者/家族の2つの視点で描いたシリーズ作品。作者・ブリ猫。さんにうつと向き合うことの大変さ、周囲がサポートすることの難しさをインタビューしました。『うつ甘』『家族もうつ甘』本編も合わせて掲載します。



マンガ『うつを甘くみてました』『家族もうつを甘くみてました』とは

 「当時 私は美容の世界で華やかにピカピカした日々を 過ごしていました」「ところがある日…それは突然やってきました」(『うつを甘くみてました』冒頭より)

 ブリ猫。さんは夫の浮気発覚後、心療内科でうつ病と診断(その後、双極性障害II型に変わる)。2017年から、その壮絶な闘病の日々をPixiv上にマンガとして投稿するようになり、2018年、それを書籍化した『うつを甘くみてました』が刊行。

 続編となる『家族もうつを甘くみてました』(2020年刊行)は両親へのインタビューを行い、1作目『うつ甘』の出来事を“見守ってきた側の視点”で振り返った作品。双極性障害という1つの体験を2つのマンガ、2つの角度で捉え、「当事者/その周囲の人が感じる、心の病気に向き合う難しさ」を描いています。

作者:ブリ猫。(Twitter:@bnyan42

 東京都出身。元・美容関係店舗経営者。34歳の時に、夫の浮気がきっかけでうつ病を発症。その後、『双極性障害II型』と診断される。現在も闘病中。二児の母であり、3匹の猫飼いでもある。

『うつ甘』 #患者の家族も病気と向き合う



















『うつ甘』 #こんな世界に見えているのを絵にしました

















分からない相手の気持ちに、なるべく近づこうとする“優しさ”

―― 『うつ甘』には、うつ状態に陥ったときの感覚を描いたエピソードが。「絶望感」「幽体離脱の話でよく聞く(ような状態)」「外からの音は三倍速」といった説明は、確かに経験のない人には理解しがたいかもしれません

ブリ猫。さん(以下、ブリ猫。):さらに、自分の“内面”がこんな風でも、周りから見える“外面”はこうで……というズレもありますからね。

 もしも人間同士をケーブルでつなげて心を同期できるなら、相手のことを100%理解することが可能かもしれません。でも、実際にはそうではないので、推し量るしかなくて。だから、「相手の気持ちが分かっている」と思っていても、正確には「分かっている(はずなのである)」になってしまうというか。

―― そのような難しさがあるなかで、相手を理解するのに必要なことはなんだと思いますか?

ブリ猫。:そうですね……。分からないことを前提に、それでも、「こんな風に思っているのかな」「あんな風に思っているのかな」と相手の気持ちに近づけるように想像していく。そういう優しさを持つことだと思います。

うつは、知識だけでは解けない問題

ブリ猫。:例えば、私の両親は、うつに関する情報を集めるためにたくさん行動してくれました。でも、知識を得ただけで理解、解決できるような問題であれば、私たちはこんなに苦労しなかったはずなんですよね。

―― 2作目『家族もうつ甘』内のコラムで、ブリ猫。さんの父親自身が書いていますが、「双極性障害の症状を頭で知識として」理解してもなかなか受け入れられず、当てこすりのように「無言で部屋のドアを強く締め」てしまうことがあったそうですね

ブリ猫。:「バーン」「ドーン」「ウギャウギャウギャ」「いいかげんにしろー!」というのは日常茶飯事でしたよ(笑)。

 「やろうと思っていてもそれができない病気なんだよね。だから、温かく見守らないといけないんだよね」と頭で分かっていても、実際にやらない人を見たら「何でやらないんだ」と思ってしまうものです。

 私もそういう周囲の人の難しさを理解して、ふーっと一呼吸置いて「そうだよな」と受け止められるようになるのに時間がかかりました。

―― “理解しがたさに対する理解”も必要だったんですね

ブリ猫。:両親の話を聞いて「これだけ考えてくれてるんだ」「自分も努力しないといけないな」と思い、気持ちを切り替えるルーティンを作るようになりました。

 以前は頭がグルグルしたら外に行って深呼吸していたんですが、部屋に戻ると元の状態に戻ってしまうようになって。だから、今は“落ち着くきっかけ”をドンドン変えていくようにしています。

 うわーっと言われてウギーッとなっちゃったら、キーボードのEnterキーを思い浮かべて「はい、エンター。おしまい!」とか。

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